みちのくの山野草

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『宮澤賢治』(森荘已池著、杜陵書院、昭和19年1月)

2021-05-08 12:00:00 | 賢治の「稲作と石灰」
【東北砕石工場技師時代の賢治(1930年頃 撮影は稗貫農学校の教え子高橋忠治)】
<『図説宮澤賢治』(天沢退二郎等編、ちくま学芸文庫)190pより>
 では今回は『宮澤賢治』(森荘已池著、杜陵書院、昭和19年1月20日)からである。さて、この中では東北砕石工場技師時代の賢治や石灰に関してどんなことが言及されているのだろうか。
 まずは
【奥付】

           〈『宮澤賢治』(森荘已池著、杜陵書院)〉
を見てみた。すると、昭和19年1月20日発行だから、やはり戦時中の敗色濃厚になっていた頃の出版だ。次に、同書の
【はしがき】

           〈同〉
を見てみると、
 この本は、童話でも小説でもありません。
 ですから、少しもかざつたり、つくつたりしないで、ほんたうのことをかいたのであります。
という記述があった。そこで私は、「あれっ、このフレーズどっかで見たことがあるぞ」とすかさずごちた。そして、取り出したのが『宮澤賢治』(森荘已池著、小学館、昭和18年1月)だ。すると案の定、同書のやはり
【はしがき】

           〈『宮澤賢治』(森荘已池著、小学館)〉
の中に、同じ文言があるではないか。しかも、小学館版ではあったその前の部分
 宮澤先生は、まつたくさふいふ人でした。祖国日本のために、自分の命までもなげ出して、一心にはたらき、まつすぐにすすんだのでした。……①
などの部分が、杜陵書院版では綺麗さっぱりとなくなっている。何か違和感を感ずる。
 それから、小学館版の
【目次】

はこのようなものだが、杜陵書院版の
【目次】

はこのようなものだから、この二書はどうやら同じ内容のもののようだ。だから、両方とも本のタイトルは『宮澤賢治』と同じだったのか。
 ということは、小学館から昭和18年に出版された『宮澤賢治』を、ほぼ同じ内容でその翌19年に出版社を変えて再版したということか。そしてその際に、先の〝①〟の部分は消されたということになりそうだ。ならば、他にも消された部分がありそうだ、と思ってそれぞれを読み比べてみた。すると、例えば、
【小学館版】

ではこうであったのに、
【杜陵書院版】

ではこうなっていた。したがって、前者ではあった
 何百年としてしひたげられて來た、大東亞共榮圏の中の、よはひ、たくさんの民族を、病気の子どもや、つかれた母と見ることは、少しもさしつかへないのであります。……②
の部分がやはり後者ではすっぽりと消え去っていたことが判った。そして私は、ここでも先ほどと同じような違和感を感じた。
 そしてそれは、
   〝①〟も〝②〟も賢治を戦意昂揚に利用したと言われても仕方がない箇所だ。
ということから、私はその違和感の正体が少しだけ判った気がした。著者は、昭和18年の小学館版に於いて賢治を戦意昂揚のために使ったといわれても仕方がない箇所〝①〟や〝②〟を、翌19年の杜陵書院版では抹消したに違いないのだと。つまり前者では、賢治を利用したと責められるかもしれないから、その箇所を消したのだ、と見ることもできるぞということを知ったのである。そこで私はいくばくか安堵した。

 ところがその安堵は、すぐにまたぞろ違和感に変わった。それは、次の
【杜陵書院版の192p~193p】

一九三頁を見た時だった。そこには、
    宮澤先生が死んでから、もう今年(昭和廿一年)で十四年になります。
とあったからだ。なんと、「昭和廿一年」となっていたからだ。となれば、この本の出版は昭和19年1月20日と印刷されてはいるものの、それは実際にはあり得ないということに気付く。昭和20年以前の発行ではあり得ず、少なくとも昭和廿一年以降、即ち戦後(敗戦記念日は昭和20年8月15日だから)に書かれたものとなるはずだからだ。

 さて、ここまでは判ったものの、杜陵書院版の発行日がなぜ「昭和19年1月20日」となっているのかということについては、まだまだきな臭さが残る。が、それは今後の課題としておこう。

 なおこれで、『宮澤賢治』(森荘已池著、杜陵書院、昭和19年1月)は基本的には『宮澤賢治』(森荘已池著、小学館、昭和18年1月)の再販だったということが解ったから、先に『宮澤賢治』(森荘已池著、小学館、昭和18年1月)における東北砕石工場技師時代の賢治や石灰に関して言及については既に調べているので、今回は調べることはもうしない。

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