みちのくの山野草

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名プロデューサーはこうして嘘をつく

2019-01-16 12:00:00 | 賢治関連
《『ベートーヴェン捏造-名プロデューサーは嘘をつく-』(かげはら史帆著、柏書房)》

 こんなことも書かれていた
 まさかの高揚感だ。顔が赤らんできた。やりすぎたらまずい。ボロを出す危険性が危険性が高まってしまう。わかっているのに止められない。
             〈『ベートーヴェン捏造-名プロデューサーは嘘をつく-』189p〉 
とか、
 ニセの美しい思い出を創造する。その犯行は、目もくらむほどの甘美をもたらした。夢見るような時間が過ぎていった。ノートに余白を見つけると、すぐさまセリフを書き込んでいく。書き込むごとに、ベートーヴェンは現実を超えて、神々しい輝きを増していく。
             〈同190p〉
とだ。
 だから私は確信した、シンドラーのこのような心理が彼にもあってあのような捏造をしたのだと。あの人に「神々しい輝きを増」すために創造し、そしてその輝きを一層引き立てるために逆にあの女性を何の根拠もないままに〈悪女〉にでっち上げてしまったのだ、と。実名を用いていないから許されるだろうという言い訳をしながら、彼は捏造したに違いないのだ、と。

 さて、そんな名プロデューサーの捏造の心理を知ったとしても、それは勿論私には許せない行為なのだが、やはりそれ以上に問題なのは、その捏造を捏造とも思わずに無批判にコピペ、はては拡大再生産をしている一部の研究家がいるということだと、くどいが改めて声を大にした言いたい。そう、
 ある伝記作家が書いたものを、自分では良く調べもせずに(つまり裏付けを取るわけでもなく、検証するわけでもなく、一次情報に立ち戻ることなどもせずに)、唯々諾々と引用し、孫引きし、コピペするだけでは、それは物書きとして為すべきことを為していないばかりでなく、ゆくゆくは天に唾を吐く行為になっていたということを思い知らされるはめになる、ということが危惧される。
ということをである。

 そしてこれで、私はもうこの『ベートーヴェン捏造-名プロデューサーは嘘をつく-』についてこれ以上論ずることは止めにした。お陰様で、ここまでのことで見る目が今までよりは少し拡がったかなと、まさに、こうして「名プロデューサーは嘘をつく」のだと、変に自分に納得できたからだ。そう、聖人君子宮澤賢治も「名プロデューサー」によって創られたとまさに言える。洋の東西を問わずこのようなことが起こっているのだ。そういえば、賢治もベートーヴェンが大好きだったということだから、賢治も捏造されたベートーヴェンを信じ、それ故に実は騙されていたかもしれない。そして、彼にわれわれもだ。

 なお末筆ながら、伝記作家はとかく捏造したくなるものだということと、より大きな問題がそこにではなく、それを安易に引用しているところにあるのだということを再確認する機会を与えて下さった、この本を恵与してくださった方に感謝しながら、このシリーズを終えたい。

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 賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』

             〈平成30年6月28日付『岩手日報』一面〉
を先頃出版いたしましたのでご案内申し上げます。
 その約一ヶ月後に、著者の実名「鈴木守」が使われている、個人攻撃ともとれそうな内容の「賢治学会代表理事名の文書」が全学会員に送付されました
 そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
 現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
 あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813

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