みちのくの山野草

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星川清躬がもう一人の農本主義者

2020-10-10 12:00:00 | 甚次郎と賢治
〈『近代山形の民衆と文学』(大滝十二郎著、未来社)〉

 さて、大滝は、
 一九三一(昭6)年夏、鶴岡の農村自治大学に参加した松田は、それもひとつの刺激となって、翌年八月「最上共働村塾」創設。その開塾の趣意は、こう書き出されている。「社会人類の基本をなす我が農村は今や死に瀕し、絶望と悲嘆の声は至る処に……唯々真に人類と祖国を愛し、村を愛し……若人達と全生活、勤労を共にし……」。
 開塾に大きな影響を与えたのは、星川や岡本の実践、それに小野武夫の「農民教育と村塾問題」であった。個人的にも松田は、東京の小野の自宅を訪ね、指導を受けている。
            〈『近代山形の民衆と文学』(大滝十二郎著、未来社)139p〉
とも述べていた。そこで、私は大きな誤解をしていたのではなかろうか、ということに気づいた。というのは、この項のタイトルは「二人の農本主義者」であり、その一人は岡本利吉でありもう一人は松田と思い込んでいたが、それは松田ではなくて星川清躬のことではなかろか、ということにである。
 そこでもう一度、落ち着いて始めから読み直してみると、
 昭和恐慌下の小作争議の激発、農村の疲弊を目の前にした星川は、都市商業資本と農村、あるいは地主対小作という政治的階級対立を超えた、農を基本とする人類強調社会を目指す農本主義を選んだのである。一九三〇(昭5)年八月、その実践母体として庄内に協働村落研究会創立、翌年機関誌『協働村落』創刊。星川はこの誌上に、「農業の窒息」と題する連載(筆名柳雅夫)をはじめ…投稿者略…。そして農本主義の実現こそ、全世界の民族を解放する道だ、と説き進んでいく。
             〈同136p~〉
とあるから、やはり私は誤解していたようだ。少なくとも、大滝は星川清躬も農本主義者と見ていたわけだし、もし松田甚次郎のそうだったとすれば、岡本と合わせて「三人の農本主義者」となる。よって、逆に、大滝の言うところの、
   「二人の農本主義者」
とは、岡本利吉と星川清躬のことであり、
   松田甚次郎も農本主義者であった。
とは、大滝は言っていなかったとなる。さすれば、
   地元山形では、松田甚次郎は典型的な農本主義者だと思われていたわけではなかった。
ということになりそうだ。ちょっと、安心した。

 というのは、安藤玉治は『「賢治精神」の実践』の中で、あの斎藤たきちが、
 松田さんの思想と行動の軌跡としてのこされたものに『土に叫ぶ』その他の著作がある。そこには農民のひとりとして、農に立ちむかい、土を育て、村を耕すために全生命を賭して行動した情念のまぎれもない証言と記録があり、四十余年も過ぎた今も、読む人の心をして興奮して止まない刺激があるのは、そこに命が脈打っているからである。…(投稿者略)…
             〈『「賢治精神」の実践』(安藤玉治著、農文協)170p~〉
と指摘して追悼しているということを紹介し、
 『土に叫ぶ』をはじめ、松田の著作を虚心に読めば、斎藤の指摘が正鵠を得ていることは明らかなのだが、「農本主義」というレッテルがそれを妨げている、というのが現実である。
             〈同171p〉
と安藤は悔やんでいたが、そもそも松田甚次郎に「農本主義」というレッテルを貼ることはアンフェアだと言えそうだ、ということを私は知ったからだ。端的に言えば、
   松田甚次郎は岡本や星川のような農本主義者ではなかった。
と言えるだろ。もちろん、
   代表的な当時の農本主義者である橘孝三郎や加藤完治に比べると、松田甚次郎はそれほどの農本主義ではなかった。
とほぼ断定できそうだ。             

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