みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

2945 賢治、家の光、犬田の相似性(#50) 

2012-10-11 09:00:00 | 賢治・卯・家の光の相似性
(3) 昭和2年2月1日付『岩手日報』の記事
 では下根子桜に移ってから10ヶ月後の賢治はどうだったのだろうか。そのことは同じく『岩手日報』(昭和2年2月1日付)の次のような報道から窺えるようだ。
 農村文化の創造に努む
         花巻の青年有志が 地人協會を組織し 自然生活に立返る
 花巻川口町の町會議員であり且つ同町の素封家の宮澤政次郎氏長男賢治氏は今度花巻在住の青年三十餘名と共に羅須地人協會を組織しあらたなる農村文化の創造に努力することになつた地人協會の趣旨は現代の悪弊と見るべき都會文化のに對抗し農民の一大復興運動を起こすのは主眼で、同志をして田園生活の愉快を一層味はしめ原始人の自然生活たち返らうといふのであるこれがため毎年収穫時には彼等同志が場所と日時を定め耕作に依って得た収穫物を互ひに持ち寄り有無相通する所謂物々交換の制度を取り更に農民劇農民音楽を創設して協会員は家族団らんの生活を続け行くにあるといふのである、目下農民劇第一回の試演として今秋『ポランの廣場』六幕物を上演すべく夫々準備を進めてゐるが、これと同時に協会員全部でオーケストラーを組織し、毎月二三回づゝ慰安デーを催す計画で羅須地人協会の創設は確かに我が農村文化の発達上大なる期待がかけられ、識者間の注目を惹いてゐる(写真。宮澤氏、氏は盛中を経て高農を卒業し昨年三月まで花巻農學校で教鞭を取つてゐた人)
<昭和2年2月1日付『岩手日報』より>
 というわけで、前年4月の見出し『新しい農村の建設に努力する…』と同様な『農村文化の創造に努む』という見出しの記事であるが、その中身に変化は起こっていたのだろうか。
(4) 昭和2年2月頃の賢治は何を考えていたか
 さてこの記事からは、賢治はあらたなる農村文化の創造に努力するために
 ⑥羅須地人協会を設立して悪弊となっている都会文化に対抗して農民の一大復興運動を起こす。
 ⑦田園生活の愉快を味わい、原始人の自然生活たち返ろう。
 ⑧収穫時には収穫物を互いに持ち寄って物々交換を行う。
 ⑨農民劇・農民音楽を創設して協会員は家族団らんの生活を続けて行く。
ということ等を考えていたということが窺える。ちなみに、当面
  ・農民劇第一回の試演として今秋『ポランの廣場』六幕物を上演すべく準備中。
  ・協会員全部でオーケストラー組織し、毎月二三回づゝ慰安デーを催す計画中。
である、という段階にあったことも知れる。
(5) 4月から翌年2月までの間の進捗
 一方で、賢治が下根子桜に居を移した当初の大正15年4月頃に考えていたことは
 ①農村は経済的にも種々行き詰まっている。
 ②一年の半分は東京とか仙台の大学で『農村経済』を研究したい。
 ③残り半分は花巻にて耕作に従事し、生活=藝術の生がいを静に送りたい。
 ④実践としては幻燈會(毎週)、レコードコンサート(月一回位)を行いたい。
 ⑤農作作物の物々交換をおこないたい。
などであったが、それから約10ヶ月経った昭和2年2月頃に考えていたことの間にはどれほどの変化や進捗があったのだろうか。
 これらの期間の間の大きな変化はもちろん「羅須地人協会」を設立したことではあろうが、その外には 
 ①→⑥:①は当時農村は疲弊した状況にあるという認識であり、⑥はその原因は専ら退廃した都会文化にあるという認識をそれぞれ述べている訳でこの二つの間における認識の程度の差はあまりなく、その変化もあまりなかったと思われる。
 ②   :何ら実行されていなかったはずである。
 ③→⑦:生活=芸術の域までは殆ど達していなかったであろうが、そう願っていたことは確かであろう。
 ⑤→⑧:収穫物の物々交換を行ったという記録や証言はないはずである。
 ④→⑨:当初は幻灯会・レコードコンサートを考えていたが、翌年2月頃になると農民劇・農民楽団の方に変化していた。
ということなどが言えるだろうか。
 ということは、先の2回の新聞報道から判断する限り、『農村文化の創造に努む』ための方法論としては〝④→⑨〟以外あまり変化も進捗もなかったということなのだろうか。

 続きの
 ”賢治、家の光、犬田の相似性(#51)”へ移る。
 前の
 ”賢治、家の光、犬田の相似性(#49)”に戻る。

 ”みちのくの山野草”のトップに戻る。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2944 早池峰のセリ科(ホタル... | トップ | 2946 早池峰山のセリ科(シラ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

賢治・卯・家の光の相似性」カテゴリの最新記事