みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

伊藤新吾 「想い出」

2020-10-30 12:00:00 | 甚次郎と賢治
〈『和光 追悼の詩』(松田むつ子編集発行、昭和55年11月)吉田矩彦氏所蔵〉

 では今回は、伊藤新吾が寄せた「想い出」からである。そこには、
 塾生活それは勿論松田先生を中心にしたものであったけれども宮沢先生を切り離しては考えられない。「宮沢精神」を精神とした塾の生活であった。朝の精神歌斉唱から始まり童話を読み詩を朗読し先生の作られた「イギリス海岸の歌」、「応援歌」、「ポランの広場」、「星めぐりの歌」を歌ったのである。理解し難い面もあったがそれなりに努力して理解につとめたのである。毎月の賢治の会には村の人々も集まり夜遅くまで劇をしたり音楽を聴いたり楽しく過ごしたのである。此の度四十年振りに花巻を訪ずれ「雨ニモマケズ」の碑に御参りすることができたのであるが、松田先生の御骨も納められておりほんとうに感慨無量のものがあった。
             〈『和光 追悼の詩』(松田むつ子編)94p〉
ということも述べられていた。

 そこでこの記述に従えば、「最上共働村塾」の塾長は宮澤賢治であると甚次郞自身が言っていたはず<*1>だが、たしかにそのとおりに同塾は運営されていた、と言える。
 しかも、「毎月の賢治の会には村の人々も集まり夜遅くまで劇をしたり音楽を聴いたり楽しく過ごした」ということであれば、「松田君は毎月出て来て研究会に協力してくれたが、賢治の作品はあまり勉強していると思えなかった。村塾の経営とその自給自足主義や農民劇は賢治の教えの実践とみられるが、しかし時流に乗り、国策におもね、そのことで虚名を流した。これは賢治には全く見られぬものであった」と、誰かが甚次郞のことを一方的にけなしていたが、はたして如何なものかと私は改めて訝ってしまう。
 なお、「「雨ニモマケズ」の碑に御参りすることができたのであるが、松田先生の御骨も納められており」という記述によって、あそこに甚次郞の分骨がなされたのだ、ということを改めて確信した。

 それから伊藤は、(「最上共働村)塾での生活の想い出となる数え切れないが共同作業場ことなどを思い出してみたい」、と前置きして次のようなことも述べていた。
 共同炊事、みそ、しょう油、甘酒のこうじ造りなど。共同炊事ではご飯たきがうまくいかず塾生の飯がなくなり夜になってたきなおしたり、余った時など各農家に再び配って歩いたり、忙しくもあり楽しくもあった。こうじ造りは、冬から春にかけて、ほとんど休みなしに室(むろ)を使ったように思う。大きな桶のせいろでふかした米を台の上にあけた時のふくいくとした御飯のにおいが今でも甦ってくるのである。こうじは室の半分ずつ入れ替え室の温度を常に下げないようにし六時間毎にこうじの切りかえに塾から通った。雨の日も吹雪の夜中にも通った。苦労も多かったが白い甘酒のこうじ、黄色くあがったみそやしょう油のこうじができあがると苦労も吹飛んでしまったのである。或る夜のその室に入ってみるとどうしたことかこうじが完全に冷え切っている。「しまった」と思い、あたふたと炭火をこんろに起こし始めた。ようやく炭火が起きた頃、立ちあった瞬間くらくらきたのだ。…投稿者略…
             〈同〉
 さて、ではなぜこの追悼の中のこの記述部分を私が引いたのかというと、甚次郞がこのような塾生活をさせていたことの何によって、甚次郎に「農本主義」のレッテルを貼り、彼独りだけを戦争協力者と決めつけることることができるのか、私には殆ど理解不能だということを主張したかったからである。

<*1:投稿者註> 例えば、吉田六太郎は、
     三、塾生松田甚次郎
 鳥越の塾を私がはじめて訪ねたときであつた。…(投稿者略)…床の間には花巻の詩碑拓本があたゝかくいたはるやうに掲げられ、賢治の写真、賢治の著書、そして、側には宮澤家からおくらてたといふ「賢治遺言」の赤表紙の法華経一冊が置かれてある。「此の塾では賢治先生に塾長をおねがひし松田も一人の塾生です」と言ふやうに、此部屋はまことにうるはしい師弟愛の部屋である。
             〈『宮沢賢治 ブックレット 第一集・第二集合併号』47p~〉
と述べている。

 続きへ
前へ 
 “「松田甚次郎の再評価」の目次”へ。
 ”みちのくの山野草”のトップに戻る。

《出版案内》
 この度、『宮沢賢治と高瀬露―露は〈聖女〉だった―』(「露草協会」、ツーワンライフ出版、価格(本体価格1,000円+税))

を出版しました。その目次は次の通りです。

 そして、後書きである「おわりに」は下掲の通りです。



 本書の購入を希望なさる方は、葉書か電話にて、入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金として当該金額分の切手を送って下さい(送料は無料)。
            〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
 なお、岩手県内の書店における店頭販売は10月10日頃から、アマゾンでの取り扱いは10月末頃からとなります。
            
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 高松観音山(10/27、黄葉) | トップ | 高松観音山(10/27、赤黄緑ミ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

甚次郎と賢治」カテゴリの最新記事