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********************************** なお、以下は今回投稿分のテキスト形式版である。**************************
八重樫賢師について
おみやげの信玄餅を三人で味わいながら、荒木夫妻の道中のみやげ話を聞き終えたところで、
「さて、ではこの前の続きを開始しよう」
と吉田が切り出したので、私がまず口火を切った。
「前回最後に八重樫賢師という人物が話題になったよな。実はこの上田仲雄の論文「岩手無産運動史」の中に、
五月以降I盛岡署長による無産運動への圧迫はげしくなり、旧労農党支部事務所の捜査、党員の金銭、物品、商品の貸借関係を欺偽、横領の罪名で取り調べられ、党員の盛岡市外の外出は浮浪罪をよび、七月党事務所は奪取せらる。一方盛岡署の私服は党員を訪問、脱退を勧告し、肯んじない場合は勾留、投獄、又は勤務先の訪問をもって脅かし、旧労農党はこの弾圧に数ヶ月にして殆ど破壊されるに至っている。三・一五事件に続いて無産運動に加えられた弾圧は、この年の十月県下で行われた陸軍大演習によって更に徹底せしめられる。演習二週間前に更迭したT盛岡警察署長により無産運動家の大検束が行われた。この大検束を期として、本県無産運動指導者の間に清算主義的傾向が生じた。 <『岩手史学研究 NO.50』>
ということが論じられていた。そして、この「大検束」を受けた人物の註釈があり、一日内外~一週間の検束処分を受けた者としてほら、
花巻署 川村尚二((ママ)) 八重樫賢志((ママ))
という名前があるだろ。おそらくそれぞれ川村尚三のことであり、八重樫賢師であることは間違いなかろう。
一方、八重樫賢師という青年は「羅須地人協会の童話会などに参加し、賢治から教えを受けた若者」でもあるということだったので私は気になって仕方がなかった。そこで、八重樫賢師のことを知っている人をあちこち探し廻ってみたところ、Aさんという方を紹介してもらった。そのAさんからは、賢師についての次のようなこと等を教えていただいた。
・賢師は、昭和3年の陸軍大演習を前にして行われた警察の取り締まりから逃れるために、その8月頃に函館へ参りました。
・函館の五稜郭の近くに親戚がおり、そこに身を寄せましたが、2年後の昭和5年8月、享年23歳で亡くなりました。
・農学校の傍で生徒みたいなこともしておったそうです。
・頭も良くて、人間的にも立派なお方だったと聞いております。
・賢治さんの使い走りのようなことをさせられていたようです。
・昭和3年当時賢師の家の周りを特務機関がウロウロしていたものですよ、ということを隣家の方から教わりました。
私はこれらのことを聞き知って、昭和3年の夏に花巻でも無産運動に対して徹底的な弾圧が行われていたことは紛れもない事実であったということを確信した。そしていいか、同年8月頃にだぞ、八重樫は警察から追われて函館に奔り、程なく客死していたのだ」
と報告したら、荒木は、
「こうして当時の社会情勢等を、とりわけ賢治と八重樫の関係まで知ってしまうと、そんなことは到底あり得ないといままで俺は思っていたが、たしかに賢治は警察からの事情聴取を避けられなかったかもしれないな。とりわけ、賢治が実家に帰った時期もまさしくその8月だからな…それにしても切ないな」
と頭を抱えてしまった。
******************************************************* 以上 *********************************************************
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《新刊案内》この度、拙著『このままでいいのですか 『校本宮澤賢治全集』の杜撰』
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を出版した。その最大の切っ掛けは、今から約半世紀以上も前に私の恩師でもあり、賢治の甥(妹シゲの長男)である岩田純蔵教授が目の前で、
賢治はあまりにも聖人・君子化され過ぎてしまって、実は私はいろいろなことを知っているのだが、そのようなことはおいそれとは喋れなくなってしまった。
と嘆いたことである。そして、私は定年後ここまでの16年間ほどそのことに関して追究してきた結果、それに対する私なりの答が出た。延いては、
小学校の国語教科書で、嘘かも知れない賢治終焉前日の面談をあたかも事実であるかの如くに教えている現実が今でもあるが、純真な子どもたちを騙している虞れのあるこのようなことをこのまま続けていていいのですか。もう止めていただきたい。
という課題があることを知ったので、 『校本宮澤賢治全集』には幾つかの杜撰な点があるから、とりわけ未来の子どもたちのために検証をし直し、どうかそれらの解消をしていただきたい。
と世に訴えたいという想いがふつふつと沸き起こってきたことが、今回の拙著出版の最大の理由である。しかしながら、数多おられる才気煥発・博覧強記の宮澤賢治研究者の方々の論考等を何度も目にしてきているので、非才な私にはなおさらにその追究は無謀なことだから諦めようかなという考えが何度か過った。……のだが、方法論としては次のようなことを心掛ければ非才な私でもなんとかなりそうだと直感した。
まず、周知のようにデカルトは『方法序説』の中で、
きわめてゆっくりと歩む人でも、つねにまっすぐな道をたどるなら、走りながらも道をそれてしまう人よりも、はるかに前進することができる。
と述べていることを私は思い出した。同時に、石井洋二郎氏が、 あらゆることを疑い、あらゆる情報の真偽を自分の目で確認してみること、必ず一次情報に立ち返って自分の頭と足で検証してみること
という、研究における方法論を教えてくれていることもである。すると、この基本を心掛けて取り組めばなんとかなるだろうという根拠のない自信が生まれ、歩き出すことにした。
そして歩いていると、ある著名な賢治研究者が私(鈴木守)の研究に関して、私の性格がおかしい(偏屈という意味?)から、その研究結果を受け容れがたいと言っているということを知った。まあ、人間的に至らない点が多々あるはずの私だからおかしいかも知れないが、研究内容やその結果と私の性格とは関係がないはずである。おかしいと仰るのであれば、そもそも、私の研究は基本的には「仮説検証型」研究ですから、たったこれだけで十分です。私の検証結果に対してこのような反例があると、たった一つの反例を突きつけていただけば、私は素直に引き下がります。間違っていましたと。
そうして粘り強く歩き続けていたならば、私にも自分なりの賢治研究が出来た。しかも、それらは従前の定説や通説に鑑みれば、荒唐無稽だと嗤われそうなものが多かったのだが、そのような私の研究結果について、入沢康夫氏や大内秀明氏そして森義真氏からの支持もあるので、私はその研究結果に対して自信を増している。ちなみに、私が検証出来た仮説に対して、現時点で反例を突きつけて下さった方はまだ誰一人いない。
そこで、私が今までに辿り着けた事柄を述べたのが、この拙著『このままでいいのですか 『校本宮澤賢治全集』の杜撰』(鈴木 守著、録繙堂出版、1,000円(税込み))であり、その目次は下掲のとおりである。
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