みちのくの山野草

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二 知らないのは私たちだけ?

2024-03-10 10:00:00 | 「賢治年譜」等に異議あり





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二 知らないのは私たちだけ?
 私自身は、この「稲は酸性に耐性がある」ということを教わった瞬間、ショックだった。それまではこんなことを夢にも思ったことなどなかったからだ。そして次に、先の表「3」を眺めながら改めてショックに襲われた。同表には、pH7より大きな値が最適土壌である作物など何一つ載っていないということにも驚いたが、それよりもなによりも、「稲は酸性に耐性がある」がやはり正しいのだということを思い知らされたからだ。というよりは、より精確には、
 稲の最適土壌は中性でも、ましてアルカリ性でもなく、稲の最適土壌は弱~微酸性(pH5.5~6.5)である。………①
が実は本当のことであったと知ったからである。
 そこで私は、先の投稿に対しての閲覧数が多い大きな理由は、この投稿内容に対して私と同様なショックや戸惑いを感じている方が少なからずいるからに違いないと推察した。ついては、この投稿をした責任上、この件に関しての論考を書かねばならないのだと決意した。

 さて、私はそれまでは、
 東北砕石工場技師時代の宮澤賢治は、貧しい農民に炭酸石灰(石灰岩抹)を安くしかも豊富に供給し、それを田圃に撒くことによって酸えたる土壌を中性にし、稲の収量を増してやった。
と認識していた。というのは、特に真壁仁の「酸えたる土にそそぐもの((一))」を読んで、私なりに解釈してこうだったのだと納得していたからだった。そしてこの認識については、知人等に聞いてみても、東北砕石工場技師時代や羅須地人協会時代の賢治はそうであったと同様な認識をしている人が殆どだった。

 しかし実は、前掲の〝①〟が正しいということだから、稲にとって石灰(石灰岩抹)はむやみやたらに撒けばよいというものではなかったのだ。すると思い出すことは、高橋光一が伝える羅須地人協会時代の次のエピソード、

 土地全體が酸性なので、中和のために一反歩に五、六十貫目石灰を入れた時には、これも氣に入らず、表土一面真っ白になった樣子に、さも呆れて「いまに磐になるんぞ。」とか、「あれやぁ、龜ヶ森の會社に買収されたんだべ。あったな事すてるのは……。」とかさまざまでした。けれども私は負けませんでした。先生のおっしゃる事を信じていたからです((二))。

である。ところが、この高橋のように石灰を撒きすぎると、石灰には中和作用があるから稲の最適pH領域(5.5~6.5)を超えてしまうことが起こり得る。しかも、「先生のおっしゃる事を信じていたからです」の「先生」とは賢治のことを指す。となると、賢治はこの「本当のこと〝①〟」を高橋にはたして教えていたのだろうかとか、はたまた、そもそもこの事実〝①〟を賢治は知っていたのだろうか、という疑問と不安を私は抱いてしまった。
 そこで私は、北上市にある『農業科学博物館』を訪ね(令和二年三月二七日)て館員の方に、
 多くの賢治研究家は、稲にとって最適土壌は中性だと思っているようです。ところが実は、それは弱酸性~微酸性、pHが5.5~6.5だと知ったのですが。
と問うたならば、
 かつては皆さんはそう思っていたようですが、最近は、(農業関係者ならば皆)弱酸性~微酸性だということは知っておりますよ。
と教えてくれた。そこで、「もしかすると、知らないのは私たちだけ?」と心の内で思わず声を上げてしまった。そのようなことを指摘していた賢治研究家を私は誰一人見つけられずにいたからだ。続けて私は、
 石灰は撒きすぎると田圃が固くなってよくない、とも聞くのですが。そして、実際にある篤農家に直接訊いてみたならば、「田圃に石灰を撒くことはかつても、今でもない」とも教わった((三))のですが。
と話したならば館員の方は、
 そのとおり固くなります。やり過ぎはよくありません。田圃に石灰を施与する人はあまりいないと思いますよ。畑は別ですが。
ということも教えてくれた。
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 この度、拙著『このままでいいのですか 『校本宮澤賢治全集』の杜撰』

を出版した。その最大の切っ掛けは、今から約半世紀以上も前に私の恩師でもあり、賢治の甥(妹シゲの長男)である岩田純蔵教授が目の前で、
 賢治はあまりにも聖人・君子化され過ぎてしまって、実は私はいろいろなことを知っているのだが、そのようなことはおいそれとは喋れなくなってしまった。
と嘆いたことである。そして、私は定年後ここまでの16年間ほどそのことに関して追究してきた結果、それに対する私なりの答が出た。
 延いては、
 小学校の国語教科書で、嘘かも知れない賢治終焉前日の面談をあたかも事実であるかの如くに教えている現実が今でもあるが、純真な子どもたちを騙している虞れのあるこのようなことをこのまま続けていていいのですか。もう止めていただきたい。
という課題があることを知ったので、
『校本宮澤賢治全集』には幾つかの杜撰な点があるから、とりわけ未来の子どもたちのために検証をし直し、どうかそれらの解消をしていただきたい。
と世に訴えたいという想いがふつふつと沸き起こってきたことが、今回の拙著出版の最大の理由である。

 しかしながら、数多おられる才気煥発・博覧強記の宮澤賢治研究者の方々の論考等を何度も目にしてきているので、非才な私にはなおさらにその追究は無謀なことだから諦めようかなという考えが何度か過った。……のだが、方法論としては次のようなことを心掛ければ非才な私でもなんとかなりそうだと直感した。
 まず、周知のようにデカルトは『方法序説』の中で、
 きわめてゆっくりと歩む人でも、つねにまっすぐな道をたどるなら、走りながらも道をそれてしまう人よりも、はるかに前進することができる。
と述べていることを私は思い出した。同時に、石井洋二郎氏が、
 あらゆることを疑い、あらゆる情報の真偽を自分の目で確認してみること、必ず一次情報に立ち返って自分の頭と足で検証してみること
という、研究における方法論を教えてくれていることもである。
 すると、この基本を心掛けて取り組めばなんとかなるだろうという根拠のない自信が生まれ、歩き出すことにした。

 そして歩いていると、ある著名な賢治研究者が私(鈴木守)の研究に関して、私の性格がおかしい(偏屈という意味?)から、その研究結果を受け容れがたいと言っているということを知った。まあ、人間的に至らない点が多々あるはずの私だからおかしいかも知れないが、研究内容やその結果と私の性格とは関係がないはずである。おかしいと仰るのであれば、そもそも、私の研究は基本的には「仮説検証型」研究ですから、たったこれだけで十分です。私の検証結果に対してこのような反例があると、たった一つの反例を突きつけていただけば、私は素直に引き下がります。間違っていましたと。

 そうして粘り強く歩き続けていたならば、私にも自分なりの賢治研究が出来た。しかも、それらは従前の定説や通説に鑑みれば、荒唐無稽だと嗤われそうなものが多かったのだが、そのような私の研究結果について、入沢康夫氏や大内秀明氏そして森義真氏からの支持もあるので、私はその研究結果に対して自信を増している。ちなみに、私が検証出来た仮説に対して、現時点で反例を突きつけて下さった方はまだ誰一人いない。

 そこで、私が今までに辿り着けた事柄を述べたのが、この拙著『このままでいいのですか 『校本宮澤賢治全集』の杜撰』(鈴木 守著、録繙堂出版、1,000円(税込み))であり、その目次は下掲のとおりである。

 現在、岩手県内の書店で販売されております。
 なお、岩手県外にお住まいの方も含め、本書の購入をご希望の場合は葉書か電話にて、入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金として1,000円分(送料無料)の切手を送って下さい。
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