みちのくの山野草

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『イーハトーヴォ第二号』(昭和14年12月)

2021-04-10 12:00:00 | 賢治の「稲作と石灰」
【東北砕石工場技師時代の賢治(1930年頃 撮影は稗貫農学校の教え子高橋忠治)】
<『図説宮澤賢治』(天沢退二郎等編、ちくま学芸文庫)190pより>

 さて、ではここからは『イーハトーヴォ』(宮澤賢治の会)からである。

 まずその創刊号についてだが、そこには東北砕石工場技師時代の賢治に関しても、石灰に関しても言及は一切見つからなかった。
 そこで、次の『第二号』を見てみたならば、その中に真壁仁の「酸えたる土にそそぐもの」という寄稿があり、
・年表に據れば、宮澤さんは昭和六年四月東北碎石工場の技師になられました。そして炭酸石灰の製法改良とその販賣斡旋のため奔走されて居ります。私はこの時代の事蹟を本當に詳しく知りたいと思ひます。この仕事は故人の生涯中最も立派な一つであります。酸えたる土を改めるためにそそぐものをつくる事を宮澤さんは久しきに亘つて思ひ續けられたことでせう。…投稿者略…イーハトーヴォの土がいかに永き酸化の儘に晒されてをるかを知つて以來。
・イーハトーヴォの土は酸えてをりました。…投稿者略…農村のために炭酸石灰を安く豐富に與へることが宮澤さんの熱望となりました。
・酸性土壌を中和するために、一般に用ひられてゐる消石灰より炭酸石灰がどれくらひ勝つてゐるか、まだ農民は本當に知らないでせう。
             〈『イーハトーヴォ第二号』(宮澤賢治の会、昭和14年12月)〉
というようなことなどが書いてあった。
 さてここまで年代順に調べてきたわけだが、これほど詳しく(あくまでも相対的にであるが)東北砕石工場技師時代の賢治や石灰に関して述べていた人物は真壁が初めてだということを知ることができた。松田甚次郎でさえも、『土に叫ぶ』(昭和13年)において、
 「百姓に石灰肥料を安く供給したい」と、石灰岩の地質の硏究に志し、愛のため眞理探究のため、二年間石灰岩の採掘に從事したこともあった。
と述べている程度だからだ。
 したがって、どのような方途で真壁がこれを知ったかはさておき、彼は「私はこの時代の事蹟を本當に詳しく知りたいと思ひます」と願っていたとおりに調べていたとたしかに言える。ただし気になるのは、まず「この仕事は故人の生涯中最も立派な一つ」とまで言えるかどうかということだ(真壁は他にどのような「最も立派な」ことを思い浮かべながらこう言ったのかを知りたいところだ)。
 次に気になったのが、真壁の賢治に対する想いである。それはこの寄稿を読んでみて明らかなように、真壁の口吻からして賢治をいたく崇敬していることが顕わであり、バイアスのかかった見方をしている虞があるということである。
 さらに、「酸性土壌を中和するために」という認識を真壁はしていたということもまた気になる。というのは、稲作のために「炭酸石灰を安く豐富に與へること」が必要だったとは言えないし、「酸性土壌を中和する」ことも必要だったとは言えないからだ。それはもちろん、稲にとって最適な土壌は中性でもなければ、ましてアルカリ性であることではなく、弱酸性~微酸性だからだ。もちろん、この事実を当時の真壁は知らなかったし、賢治もそうだったのかもしれない。まさに、花巻農学校勤務時代の同僚阿部繁が、
 科学とか技術とかいうものは、日進月歩で変わってきますし、宮沢さんも神様でもない人間ですから、時代と技術を超えることは出来ません。宮沢賢治の農業というのは、その肥料の設計でも、まちがいもあったし失敗もありました。人間のやることですから、完全でないのがほうんとうなのです。
             <『宮沢賢治の肖像』(森荘已池著、津軽書房)82p~より>
と言っていたとおりにだ。

 とまれ、東北砕石工場技師時代の賢治や石灰の施用に関してここまで詳しく最初に言及していたのは、真壁仁のこの寄稿であったとほぼ言えそうだということを私は知った。つまり、この頃(昭和14年12月頃)になると、まず真壁によってこれらのことが次第には重要視されていったということになりそうだ。

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