みちのくの山野草

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〈悪女・高瀬露〉は人権に関わる重大問題

2022-11-14 12:00:00 | 賢治渉猟
《三輪の白い片栗》(種山高原、令和3年4月27日撮影)
 白い片栗はまるで、賢治、露、そして岩田純蔵先生の三人に見えた。
 そして、「曲学阿世の徒にだけはなるな」と檄を飛ばされた気がした。

 ただし、〝㈦ 「聖女のさましてちかづけるもの」は露に非ず〟についてはどうかというと、私は従来は次のように考えていた。
 しかし、巷間流布している〈高瀬露悪女伝説〉がもし捏造されたものであったとするならば、この件だけは歴史の判断に委ねていていいとは言えまい。それは人権に関わる重大な問題であり、濡れ衣であり、冤罪と言えなくもないから先の㈠~㈥等とは根本的に違い、喫緊の課題だからだ。しかも、この〝㈦〟を敷衍して〈高瀬露悪女伝説〉を検証してみたところ、この伝説は捏造されたものであることを私は実証できた。懸念していたとおりであった。
 そこで私は、拙著『本統の賢治と本当の露』を平成30年4月1日に出版した。とりわけ、今の時代何よりも人権が優先されるわけで、濡れ衣〈悪女・高瀬露〉を晴らすことは人権上の喫緊の課題だからそれを世に訴えたい。
ということで『本統の賢治と本当の露』の〝第二章 本当の高瀬露〟でその検証結果を公にし、同書の「おわりに」において、
 だが一つだけ、決して俟っているだけではだめなものがある。それは、濡れ衣、あるいは冤罪とさえも言える〈悪女・高瀬露〉、いわゆる〈高瀬露悪女伝説〉の流布を長年に亘って放置してきたことを私たちはまず露に詫び、それを晴らすために今後最大限の努力をし、一刻も早く露の名誉を回復してやることを、である。もしそれが早急に果たされることもなく、今までの状態が今後も続くということになれば、それは「賢治伝記」に最大の瑕(か)疵(し)があり続けるということになるから、今の時代は特に避けねばならないはずだ。なぜなら、このことは他でもない、人権に関わる重大問題だからである。それ故、「賢治伝記」に関わるこの瑕疵を今までどおり看過し続けていたり、等閑視を続けていたりするならば、「賢治を愛し、あるいは崇敬している方々であるはずなのに、人権に対する認識があまりにも欠如しているのではないですか」と、私たち一般読者までもが世間から揶揄や指弾をされかねない。
 一方で露本人はといえば、
 彼女は生涯一言の弁解もしなかった。この問題について口が重く、事実でないことが語り継がれている、とはっきり言ったほか、多くを語らなかった。
           〈『図説宮沢賢治』(上田哲、関山房兵、大矢邦宣、池野正樹 共著、河出書房新社)93p~〉
というではないか。あまりにも見事でストイックな生き方だったと言うしかない。がしかし、私たちはこのことに甘え続けていてはいけない。それは、あるクリスチャンの方が、「敬虔なクリスチャンであればあるほど弁解をしないものなのです」ということを私に教えてくれたからだ。ならば尚のこと、理不尽にも着せられた露の濡れ衣を私は一刻も早く晴らしてやりたいし、そのことはもちろん多くの方々も願うところであろう。
 まして、天国にいる賢治がこの理不尽を知らないわけがない。少なくともある一定期間賢治とはオープンでとてもよい関係にあり、しかもいろいろと世話になった露が今までずっと濡れ衣を着せ続けられてきたことを、賢治はさぞかし忸怩たる想いで嘆き悲しんでいるに違いない。それは、結果的に賢治は「恩を仇で返した」ことになってしまったからなおさらにだ。だから、「いわれなき〈悪女〉という濡れ衣を露さんが着せられ、人格が貶められ、尊厳が傷つけられていることをこの私が喜んでいるとでも思うのか」と、賢治は私たちに厳しく問うているはずだ。そこで私は、露の名誉回復のためであることはもちろんだが、賢治のためにも、今後も焦らず慌てずしかし諦めずに露の濡れ衣をいくらかでも晴らすために地道に努力し続けてゆきたい。
              〈『本統の賢治と本当の露』(鈴木守著、ツーワンライフ出版140p~〉
と決意を述べ、ひとまず肩の荷を下ろすことが出来たと安堵していた。

 すると、この『本統の賢治と本当の露』の出版もあったりしたからであろうか、森義真氏が行った講演『賢治をめぐる女性たち―高瀬露について―』(令和2年3月20日、矢巾町国民保養センター)において、同氏から、
 そうしたところに、上田さんが発表した。しかし、世間・世の中ではやっぱり〈悪女〉説がすぐ覆るわけではなくて、今でもまだそういう〈悪女〉伝説を信じている人が多くいるんじゃないのかなと。しかしそこにまた石を投げて〈悪女〉ではないと波紋を広げようとしているのが鈴木守さんで、この『宮澤賢治と高瀬露』という冊子と、『本統の賢治と本当の露』という本を読んでいただければ、鈴木さんの主張もはっきりと〈悪女〉ではないということです。はっきり申し上げてそうです。
とか、
 時間がまいりましたので結論を言います。冒頭に申し上げましたように、「高瀬露=〈悪女〉」というこれは本当に濡れ衣だと私は言いたい。それについては上田哲さんがまず問題提起をし、それを踏まえて鈴木守さんが主張している。それに私は大いに賛同します、ということです。
             〈『宮沢賢治と高瀬露―露は〈聖女〉だった―』(露草協会編、ツーワンライフ出版)8p~〉
と仰っていただいた。そしてまた、この講演録も所収した『宮沢賢治と高瀬露―露は〈聖女〉だった―』(森 義真、上田哲、鈴木守共著、露草協会編、ツーワンライフ出版)を『露草協会』から出版してもらった。

 これでやっと、恩師岩田教授からのミッションに対してはほぼ果し終えることができたかなと、私は胸をなで下ろしたのだった。それは、ここまで為し終えることができたので、〈悪女・高瀬露〉は濡れ衣であったということは今後次第に世間から受け容れられてゆくだろうから、以前に取り上げた〝㈠~㈥〟等と同様に、今後は歴史に委ね、焦らずに俟っていればいいのだと自分自身に言い聞かせることができたからである。……私はある時点まではこのように考えていた。

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