みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

夢みて渡満した少年たちの現実

2021-01-19 20:00:00 | 甚次郎と賢治
〈『農本主義と天皇制』(綱澤 満昭著、イザラ書房)〉

 さて、内原訓練所で加藤の薫陶?を受け、加藤の訓辞で送り出された15歳~19歳の青少年は「第二の屯田兵」とか「昭和の白虎隊」と褒めそやされ、「片手に鍬、片手に銃」を合い言葉に満蒙で大地主になることを夢みて渡満したのだがその夢はあえなく破れ、彼の地で味わったのは言葉では言い表せないほどの辛酸であったようだ。
 それは、次の2葉の写真
【1 大地で持つ初めての鍬】

【2 雪の中の立哨】

     <『写真集満蒙開拓青少年義勇軍』(全国拓友協議会編、家の光協会)>
を見ただけで、容易に想像が付く。
 あるいは、当時のベストセラー菅野正男『土と戦ふ』

などを読めば、如何に多くの辛酸をなめさせられたのかということがよくわかる。たとえば、
 夏の短い北満は、播種、除草、管理など各作物を一度にしなければならないので、その忙しさは又格別だ。
 私達がトーピーズ造りや壁塗りで泥を相手に汗を流してゐる時、農耕班は、春蒔き野菜の管理から、トマト、茄子などの定植と、一度に押し寄せて来て、落ちつく暇もなく働いた。農耕は建築と違って適期を外してはならないので、この頃は未明から農場へ出て働いた。
 午前二時半、幾ら夜の短い時でも未だ薄暗い。小隊から六名宛三十名の農耕班は互いに起こし合って、渡満の時持つて来た鍬を肩に、班長引率で農場に向かふ。夏とは云へ大陸の夜明けは寒さが身に沁みた。仄かに明るみかけた空には、余燼のやうに凄い光を放つて明の星が瞬いてゐる。四辺は寂として物音一つない。寝不足でぼんやりしてゐた頭が次第に冴えてくる。靴底を通して感ずる土の冷たさが心地よい。農場に着く頃はそろそろ東空が白んでくる。日中に植えると植付きが悪いから、苗は夕方から夜にかけてと、未明とに植えるのだ
          <『土と戦ふ』(菅野正男著、満州移住協会)>
というようなことが記されているからだ。
 はたまた、『満蒙開拓青少年義勇軍』(上 笙一郎著、中公新書)によれば、
 ・敗戦直前の在満日本開拓民 約27万人
 ・    〃      引揚げ者 約19万人

 ・敗戦直前の在満日本人   約155万人
 ・    〃   引揚げ者   約137万人
であり、
    27/155≒17%
だから在満日本人の約17%が開拓民であったが、引き上げの際に亡くなった人数は、
 ・在満日本開拓民の場合 約78,500人
 ・在満日本人の場合   約176,000人
だという。すると、
    78,500/176,000≒45%
となるから、
 在満全日本人の17%に過ぎない開拓民が、その死亡率において約50%(約45%?)を占めている事実は、何を物語るのであろうか。それは、青少年義勇軍を含む満州開拓民が、敗戦前後の時期、いかに過酷な条件のもとに置かれたかということを示すものにほかならない。
と、上笙一郎は述べているからである。
 そこで、同書の中の「3 戦後の加藤完治」で上はおおよそ、
 加藤によって満蒙に送り出された計86,530名の青少年義勇軍の内の約24,200名(約28%)が満州の荒野や収容所で悲惨極まる最期をとげ、幸い後に帰国できた約62,300名も言語に絶する辛酸を嘗めていたときに、彼らを<鍬の戦士>の美名のもとに送り出した加藤完治は一体どうしていたのであろうか。多くの青少年をそのような運命に追いこんだことについてどれほど深く反省し、いかにその責任を取ろうとしたか。
という意味のことを問うていたが、上のその答は、「己の戦争責任に平然としていた」というものであった。

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