みちのくの山野草

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山形 花山昭雄

2020-09-20 12:00:00 | 甚次郎と賢治
〈『追悼 義農松田甚次郎先生』(吉田六太郎編)、吉田矩彦氏所蔵〉

 今回は、松田甚次郎の地元山形県西村山郡宮宿町の花山 昭雄からの「追悼」であり、彼が最上共働村塾に入ろうと思った矢先に甚次郎は亡くなったのだという。 
  山形 花山 昭雄
噫!! 松田先生 土に生き土に叫んだ農士
今は現世に亡し 歎きても歸らぬ先生
私は今春先生の著書「土に叫ぶ」前後篇「野に起て」を讀みて我が縣人の先覺者農師有るを知り先生のもとに駈参じて修行をしたく考へて時季を待つて居ました。
何ぞ計らん 手紙差上げましたら先生の永眠の後で有ました。
噫 先生の面影優しく懐く眼農民の明星遥か彼方のそらえ(ママ)消えたり 失したり 農村青年の兄貴
見えざる先生…兄貴、私は生前一度の面接もなかつた。實に残念です。残念でなりません。共働と共樂を實行された先生 農村劇の提唱者松田先生、我等農人は先生の教を学びそして實行あるのみ。我が郷土でも農村劇を行つて居ますが、先生の間接の御指導多大に受けて居ます。
我等は先生の死を悼みて涕涙にのみ囚るなかれ立つ上れそして食糧の確保に前進だ
農人我等共に手を取合つて祖国に盡す事こそ先生えよき供養となるでせう。
一度も仰ぎ見る事の出来なかつた私なれど先生と云はせて下さい。
             〈『追悼 義農松田甚次郎先生』(吉田六太郎編)より〉    

 ところで、「西村山郡宮宿町」とは現在の朝日町宮宿に当たるとのことであり、寒河江の近くだ。となれば、新庄から南へ約40㎞ほど下った所だ。そして甚次郎の実践報告書「土に叫ぶ」が出版されたのは昭和13年5月であり、たちまち大ベストセラーになったわけだが、花山が同書を読んだのは「今春」だから、昭和18年の春ということになり、出版後約5年後のこととなりそうだ。ということは、同書はロングセラーでもあって、新庄からじわじわと県下に知られて行ったのだろう。そしてこの「追悼」によれば、その実践報告書を読んだ花山はいたく感動・感銘し「續 土に叫ぶ」や「野に起て」も読破したに違いない。そこで、自分も最上共働村塾に入塾せんと時機を見計らっていたのだが、残念ながら叶わなかったということのようだ。
 また、「我が郷土でも農村劇を行つて居ますが、先生の間接の御指導多大に受けて居ます」ということだから、農村文化の向上のために昭和2年から取り組み始めた演劇活動は山形県下全体にじわじわと普及して行ったということを示唆してくれる。つい、今迄の多くの「追悼」から、甚次郎の影響は全国に波及していたということに目が行っていたが、この「追悼」により、地元の山形でも着実に浸透していたということも確認できたと言える。延いては、多くの人々から、とりわけ農村青年からの松田甚次郎の支持は高く、敬慕されていたことはもはや疑いようがない。
 となると、有名な同県人の二人の「文化人」が「時流に乗り、国策におもね、そのことによって虚名を流した」とか、「地元の村人は一向関心をもたず、迷惑にさえおもっているうちに、若年の道場主がどんどん名高くなって、恰も救世主のような面をして講演をして歩くようになる。ところが、かかる級の人物は世間に掃くほどおっても、農村におる者が特に目につく、鳥なき里の蝙蝠であるのと、本当に偉い農村人物を見出す目を世人が持っておらぬからである。国の宝となる農民は黙々として働き、村と国を治めてめったに声を大きくしない。三十そこそこの若年者が、生意気に農民道場主とはいったい何事ぞやと、罵りたいことが往々にしてある」と、言いたい放題にくさしているが、この二人の「文化人」はこの花山 昭雄のような農村青年に対して、はたして弁明できるのだろうか。そして逆に、このような同郷の農村青年たちからこの「文化人」はどのように評価されるのだろうか。

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