春の七草のうちで、いまも名前が変わらないのがセリとナズナでしたが、はこべらも、ほぼおなじハコベ:繁縷の名で残っています。はこべらの語源は“はびこる”からきているという説があるくらいハコベはよくはびこり、漢字の繁縷にもよく茂るという意味があります。
ハコベ:繁縷(ナデシコ科ハコベ属)は、世界の寒帯から熱帯と広く分布し、どこにでもふつうに見られる越年草です。
柔らかな草質で、七草ですから当然食用にされる草ですが、実際には別名のヒヨコグサ、トリクサ、ニワトリグサに見られるように、もっぱら鶏やウサギの餌として使われています。江戸時代にハコベの青汁と塩をあわびの貝殻に入れて焼いたものをハコベ塩といい、歯磨き粉の元祖となっていました。
ありふれすぎてあまり顧みられないハコベですが、調べると、いろいろ面白い性質を持っています。
①茎の先端に花をつけると茎の成長が止まる有限成長でありながら、ハコベは花をつけると花の下から両側に2本の分枝を出すことを繰り返しながら倍々に枝の数を増やしてゆく
②茎の片側に細毛が根元に向かって生えており、雨の少ない冬場に雨滴を根元に運ぶ
③やわらかい茎に強い筋を併せ持ち、踏みつけに対して強い抵抗力を持つ
④5枚の花弁の先が2つに割れて10弁に見せることで、送粉者の目を引きつける
⑥花は夕方に閉じるが、このとき雄蕊が中央に寄ってきて柱頭に花粉をつけ、また雨や曇りの日には閉じたまま、花の中で雄蕊が雌蕊に花粉を渡し、自家(同花)受粉する。
⑦開花時は目立つように上向きだが、花が終わると下向きになり、未熟な種子を守り、未受粉の花を引き立たせる。種子が熟すと、ふたたび茎を上向きに持ち上げて、できるだけ種子を遠くへ飛ばす。
⑧種子には多数の突起があり、これが土に食い込み、土と一緒に靴の裏などにくっついて遠くへ運ばれてゆく
いつ踏まれたり刈られたりされるか分からない道端の雑草としての、生き抜く知恵を身につけているハコベです。