神奈川宿の台町の坂道には茶店が建ち並び、その向こうには一里塚であろうか、
大きな木も描かれている。
塚に植えられた榎の木陰で休息をとる旅人の姿が目に浮かぶようだ。
そこからは青い神奈川の海を見下ろせる景勝の地であったようで、広重の「東海道
五十三次 神奈川台之景」にもそれがはっきりと描かれている。
かつてこの宿場には1300軒もの料亭が有ったと言われているが、現存するのは
広重の絵にも描かれた「さくらや」を今日に引き継いだ「田中屋」だけである。
『金川の台に来る。爰(ここ)は片側に茶店軒をならべ、いづれも座敷二階造、欄
干付きの廊下梯などわたして、浪うちぎわの景色いたってよし』
『お休みなさいやアせ。奥がひろふございやす』と店先で客を呼び込む娘を、喜多八
が茶化す。『おくがひろいはづだ。安房上総までつゝいている』
(日本古典文学全集49 「東海道中膝栗毛」 昭和50年12月 小学館)
十辺舎一九の「東海道中膝栗毛」でもこのようにえがかれている通り、この宿場
では海を見下ろす高台に茶店が建ち並び、休憩や宿泊を呼びかける娘らの声が飛
び交っていた。茶店の欄干からは、釣り糸を垂らし魚釣りに興じた客もいたそうだ。
そんな古の面影を何も残さない坂を上り切ると上台橋の陸橋で、下を見れば車が
激しく行き交う幹線道路が通っていて、南に目をやれば横浜駅西口の高層ビル群だ。
さしずめ今なら喧噪の海に車の大洪水、夜になれば多くのネオンや灯火が煌く海、
そんな街道の風景である。(続)
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