邦画ブラボー

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「犬神家の一族」

2005年07月14日 | ★恐怖!な映画

今更ですが。
大ヒットした由縁はなんだろう?

以下ネタバレふくみます***********
見ていない方は読まないでね。

冒頭の
おどろおどろしい
一族揃った臨終シーンは壮観だった。

佐清の秀逸なビジュアルと、
息を呑むマスク脱ぎシーン?

それとも
石坂金田一の醤油で煮〆たような
はかま姿がグッドだったのか。

あのはかまは日本中探し回って調達した、
とっておきのボロはかまだったそうです。
撮影の途中で何度も縫い直し、修復して
最後は「ずたずたのぼろぼろ布片」となったそうである。(石坂浩二談)

金田一耕助のスタイルはこの作品で
決定づけられたという。

あらためて見直してみると
芸術的なカット割や
そう来るか?!と思うようなカメラワーク、
目をみはるシーンのオンパレードだ。

だがなんといってもこの映画の白眉は!!
虫も殺さぬような
犬神松子・高峰三枝子の大胆豹変ぶりであろう!

だれがいったい往年の大女優、高峰三枝子が
真っ向から血しぶきを浴びるサマを想像したであろうかっ。

松子の、実母(原泉)に対する酷薄な態度も見ものだった。
(回想シーンで”お婆さんではない原泉”登場するのも必見・)

青沼静馬に正体を明かされ、
わなわなと震える演技もたいへんなものであった。

テレビ版で松子を演じた三田佳子
真紅の着物に「黒地に松」の帯を締めた
半狂乱の勇姿も記憶に新しいが。

お二人には
汚れ役上等!の大女優魂を感じる。

それにつけても高峰三枝子である。
しつこいようだが、あの大女優があんなことをして
あんなことまでするとは・・・
母性の哀しさと強さを体中から表現していた。

横溝ものは
古い因習に縛られた
複雑な人間関係の中で、
とんでもないことをやらかしてしまう人間の(特に女)
哀しみと業を描いて、
他の作家の追従を許さない。

金田一が宿泊する宿の主人役で
横溝正史自身が出演しているのも見逃せない。

旅館の娘役の坂口良子が大変愛くるしく

金田一との楽しい掛け合いにほっとさせてくれる。


1976年 市川崑 監督作品 
脚本 長田紀生 日高真也 市川崑 撮影 長谷川清

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恐怖!な映画はこちら


喜劇「駅前旅館」

2005年07月12日 | ★痛快!な映画
いつまでも「浮雲」とばかり言っていてもなんですので、
気分を変えて
駅前シリーズ!

変えすぎですか。

豊田四郎監督によるこの作品は
井伏鱒二の原作。

この後、駅前シリーズとして
監督を変え、シチュエーションを変えながら
24作も作られた。

社長シリーズとともに人気沸騰。
こちらは駅前・・という題名から
推測されるようにいたって庶民的。

上野の駅前にある、修学旅行、観光客向けの老舗旅館を舞台に
森繁の番頭さん、同じく番頭伴淳三郎、
フランキー堺の添乗員、など
華やかな面々が
繰り広げる人間模様を描く。

森繁さんの役柄はたたき上げのベテラン番頭。
流れるような客寄せと
そつのない気配りで毎日客をグイグイ呼び込む。

行きつけの飲み屋のおかみ(淡島千景)や
元恋人(淡路恵子)などとのロマンスもちらりと
のぞかせ、飽きさせない。

淡島千景とは息もぴったり。

キャピキャピの女子高校生役で
なんと、市原悦子が出ている!
甲高い発声法や現在のどっしりと肝が据わった芸風は
このころからすでに確立されていたことがわかった!

お年寄りのツアー客に乞われてロカビリーを歌うフランキー堺に
キャ~~~っと!ばかりに絡んでいる。
制服姿の市原悦子の貴重なお宝映像が見られます。

フランキー堺のロカビリーに爆笑。
あんな歌誰が作ったのか?

旅館の親父
森川信(初代おいちゃん)の、
「これがボードビリアン」という
計算されつくした至芸を見ることも出来る。

山茶花究もやくざ役で登場して
立て板に水の
見事なおどしをかましてます。

さらには左卜全までもが
登場し、大喜び!(私が)

全編、テンポのいいギャグの応酬に
笑い転げること必至。

時代の波に押されてやむなく身を引く
ベテラン番頭の意地・・・と、ちょっぴりほろりともさせて
だけど後味あくまでも爽やか。

豊田監督って喜劇もすごいんです。

他に草笛光子、淡路恵子、都家かつ江、多々良純、浪花千栄子など

1958年 豊田四郎監督作品 井伏鱒二原作 脚色 八住利雄
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「浮雲」雑感

2005年07月11日 | ★愛!の映画
「浮雲」後遺症に罹っています。

二日酔いの
ずきずきするような頭のような
それでいてまだ酩酊が残っているような
ようするに平常ではない脳の状態である。

血液の中に
なにかが注入され、体をかけめぐっているようでもある。

なぜこんなにあの映画に捕らわれてしまったのか。

どうどう巡りを繰り返しながら
頼りなく
矛盾に満ちて
どこまでも流れていく二人の物語に。

男と逢うといつも
過ぎた日の思い出を語り、
なじり、
甘えるゆき子の声が
エキゾチックなメロディとともに
頭をめぐる。

富岡の背中を丸めた姿、
ずるさやごまかしがあらわに
出た表情や目線も
フラッシュバックのようによみがえる。
薄情な言葉もまた。
そしてラストシーンの後ろ姿は網膜に焼きついて
離れない!!

あの二人の名優
森雅之・高峰秀子によって
林芙美子が書いたこの物語は
はるかな高みにまで引き上げられたのだと思う。

恐るべき、
「麻薬」のような映画である。

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「浮雲」

2005年07月08日 | ★愛!の映画
部屋の外は
雨が降り続いている。
いつ止むとも知れない
生暖かい雨である。

古い木造家屋の居間に私は座っている。

傍らには森雅之が
下を向いて酒を飲んでいる。
ふと顔を上げ、何かを探すようにかすかに目を動かした。

頼みますからこっちを見ないでください!

と、思った瞬間目が覚めた。

富岡兼吾(森雅之)が見つめた瞬間
女の運命は変わってしまう。

幸い私は見つめてもらえなかったが(!)、
出会ったばかりのゆき子(高峰秀子)や
初対面のおせい(岡田茉莉子)を見る目は・・・

魔王です。

西洋には
”男性の運命を変える女性―「ファム・ファタル」という言葉がある。
マノン・レスコーなどが代表的だが、
この作品の森雅之は
まさにその男版のようだ。

周りの人間を全部不幸にしてしまう背徳の男。

戦時下、仏印で出会った二人。
ひきあげてきたら
日本はガラリと変わり、人の心もまた変わっていた。


男の本性をよくわかっていながら
どうしても別れられない女。高峰秀子(ゆき子)。

絶世の美女であると同時にすごい演技力。

「どうせ明日はみんな右左に分かれるんだ。
ゴーイングマイウエイと行きましょう」

魂がどこかへ行ってしまったような男。森雅之(富岡)。
翳りのある魅力全開。

ベッドシーンなどひとつもないのに官能的。

音の使い方が変わっていると思った。
二人が出てくると決まって音楽が流れるのだ。
すこしエキゾチックなムードが漂う印象的なメロディ。

高峰秀子が甘え、なじり、森雅之が答える。
音楽が脚本の素晴らしさをひきたてている。

「あなたって言う人はずるくて
見栄っ張りで、気が小さくて・・ひどい人よ・」

だがそんな男を
愛することしか出来ない女。
いや、出来なくなった女と言ったほうがいいかもしれない。

ラストシーンを見た人は、この映画を
永久に忘れられなくなるだろう。

他に山形勲、金子信雄、加東大介、中北千枝子など

1955年 成瀬巳喜男監督作品 脚本 水木洋子 原作 林芙美子
      音楽 斎藤一郎 美術 中古智

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「社長行状記」

2005年07月07日 | ★痛快!な映画
30本以上も作られた
社長シリーズ。

なんでこんなに続いたか。

それは何度見ようが
楽しいから!

「梅雨時に見ると憂さが晴れ、
真夏に見ると気分は高まり
秋はさびしさも忘れ
正月見るとおめでたく
春には俄然ハッピーになる!
それが森繁の社長シリーズ!」

・・・・・と、私が勝手に考えました。

タイトルバックの漫画もコミカルでお洒落。

森繁久彌ふんする大手紳士服メーカーの社長と
部下の小林桂樹、三木のり平、加東大介が珍騒動、
絶妙な掛け合いギャグ連発。

フランス生まれの日本人という設定のフランキー堺
めちゃめちゃな日本語を喋り笑わせる。

「ファクシォン」=くしゃみフランセーゼ

不況の折、なんとかビジネスチャンスを
ものにすべく社長自ら悪戦苦闘。
やるときはやる!遊ぶときは遊ぶ!
社長の姿勢に共感!

司葉子(元秘書・小林桂樹の妻)、
久慈あさみ(社長夫人)、
新珠三千代(クラブの女)などの
きれいどころも絡む、
ジェットコースターコメディ。

フランス人を招いての接待宴会のシーンに登場する隠し芸、
「国籍不明バンド」の演奏は抱腹絶倒。
社員の接待気配りが日本式で笑う。

このシリーズ、ちょっとスノビッシュな
社長さんのおしゃれな暮らしぶりを見るのも
楽しみのひとつだ。

大人のための大人による喜劇映画、今こそこんな映画が必要なのでは?
と、僭越ながら思う次第であります!

1966年 松林宗恵監督作品 脚本 笠原良三

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