邦画ブラボー

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「日本の悲劇」

2006年11月27日 | ★人生色々な映画
木下恵介監督が
「これでもくらえ!」
とばかりに投げつけたような、
過激で涙も凍る激辛母物作品。

戦後間もない頃、
食うや食わずで苦労を重ね
やっとの思いで育てた子供に見捨てられて
母は哀れ湯河原のホームから身を投げるのであった!!

簡単に言ってしまうとこんなストーリーだが
ずっしりと重い何かが見たものに覆いかぶさってくる。
ニュース映像や当時の世相がドキュメンタリーのようにはさまれ、
時代の背景がくっきりと浮かび上がってくる。

主人公の母親(望月優子)は戦争未亡人である。
あまりの貧しさと冷たい世間の仕打ちで
ねじまがってしまった子供の心は元には戻らない。

子供たちをいじめる業突張りの面々
北林谷栄・幼い姉弟をまま子いじめする親戚のばあさん
高杉早苗・嫉妬で顔がゆがんでいる上原謙の鬼嫁

子供たちは現状から必死に浮上しようとするあまり、母を省みない。
「僕のことを思ってくれるんだったら
養子になるのを承知してくださいよ。」(田浦正巳)
すがる母をあっさりと捨てる。
娘(桂木洋子)は妻子あるしぶとい男(上原謙)と去ってしまう。

望月優子が珠玉である。
みじめで、未練がましく、哀れで、涙もろく、
悲しいくらいに子供を想う母である。
見ていて辛くなるほどある意味、典型的な日本の母なのである。

木下監督は冷酷に、
しかしとてつもなく愛おしげににそんな母を描く。

こんなシーンがあった。

旅館にやってくる顔なじみの流しの青年(佐田啓二)に、
望月が「あんたのお母さん元気なの?
お母さんに、お母さんに親孝行してやりなよ」と、
多めに金を渡して好きな歌、
「湯の町エレジー」を歌ってもらって泣く。
佐田は「なんだかおふくろに会いたくなったなあ。
この金でなんか買ってやろうかな」と、望月をまた泣かせるが、
実は帰りにその金で飲んでしまうのである!

なんたる皮肉!

「戦争によって庶民の生活はめちゃめちゃにされた」
そんな木下監督の怒りがこめられている。
豊かさに憧れるあまり、
人間味を無くしていくことへの警鐘としても捉えられ、身につまされる。

作品中に望月優子が
熱海の坂道を歩くシーンがあるが
これは「女」で、
小沢栄太郎が質屋で盗みをする場所(ロケ地)と同じだった!

ラストは
「湯の町エレジー」で締めくくる、すごいセンスにまたもや脱帽!

*この映画の教訓:親の心、子知ってか知らずか

1953年
監督: 木下恵介
脚本: 木下恵介
撮影: 楠田浩之
音楽: 木下忠司

*映画の中のイイおんな*
桂木洋子:はっとする程綺麗な「ドールフェイス」です。
不幸な境遇の中で段々と
心が凍り付いていく可愛そうな娘をたくみに演じています。
あきらめの悪い妻子持ちの上原謙に言い寄られ
悪妻に毒づかれて、気の毒ったらありゃしない。
実生活では、作曲家の黛敏郎と結婚されたそうです。

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