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「詩客」俳句時評

隔週で俳句の時評を掲載します。

俳句時評 第123回 句会のオンライン化と二つの格差 若林 哲哉

2020年06月07日 | 日記
 COVID-19の流行以降、外出自粛に伴い、句会のオンライン開催が増加している。緊急事態宣言が発令される直前の4月5日、公開型のイベントとしていち早く注目を集めたのは、「東京マッハ」(https://tokyomach10.wixsite.com/official)によるオンライン句会であった。当初、zoomミーティングの模様をyoutubeライヴで配信する形式を予定していたものの、機材トラブルによりzoomウェビナー一本での配信に切り替えたという。結果、ウェビナーの定員はすぐに埋まり、メンバーの一人である長嶋有氏がスマートフォンでzoomの画面を映し、自身のインスタライヴで同時中継するほどの盛況であった。

 「東京マッハ」のようなライヴ形式のものではなく、各結社や協会で行われているような所謂普通の句会では、そのオンライン化に様々な手法が見られる。
 まず、メール句会である。各参加者が投句期限までに特定のメールアドレスへ句を送り、運営者が句稿を取りまとめ、参加者全員に送り返す。続いて、各参加者がそれぞれ選と評を送信し、運営者が再びそれを取りまとめて全員へ送り返す。おおよそ、ここまでが一回の句会の流れである。ただし、運営者の仕事量が多い上に、句がメールで送られてくるため、運営者は作者が分かった状態で選をしなければならないというデメリットはある。ちなみに、投句や選の際にGoogleフォームを利用することで、運営者の仕事を減らしたり、選の前に作者を知ることを防いだりすることも出来る。

 次に、システム句会。俳句投稿システムサイト「俳句の壺」(https://haiku.upat.jp/)や、野良古氏が開発し、近年注目を集める「夏雲システム」(https://natsugumo.nolimbre.com/)を利用した句会である。いずれも投句から結果発表までシステム上で完結し、メール句会で掛かる手間をほぼ排除してくれる優れたシステムである。

 さらに、zoomやSkypeを利用してリアルタイムで合評を行うビデオ通話句会が挙げられる。COVID-19禍の下で新たに流行した句会の形式と言えば、このビデオ通話句会ということになるだろう。上記のメール句会やシステム句会の合評部分がビデオ通話に置き換わったイメージのもので、メールによる句稿の取りまとめや、システムによる句会運営と併用してzoomやskypeを用いることが多い。
 
 この他、無料の掲示板作成機能を利用した掲示板句会や、youtubeライヴを通じて主宰が講評を配信する形式のものも確認できた。例えばメール句会や掲示板句会は別段目新しいということもなく、普段からメールで句会を行っている結社や同人誌なども勿論あるだろうし、中には独自のホームページを持っていて専用の掲示板で句会をしているグループもあるだろう。また、「俳句の壺」や「夏雲システム」も、実際には外出自粛への対応として開発されたものではない。しかしながら、対面による句会の代替措置という意味では、それら全てが有効な選択肢として存在しており、それぞれの句会や参加者に応じて使いやすい形式が採用されるのだろう。

 さて、オンラインの波及は、地方在住の書き手にとって、東京をはじめとする都市圏で行われる句会やイベントへの参加を可能にしており、いわゆる地理的な格差の解消の一助になっている。上で触れたようなオンライン化は、COVID-19流行の前からも、やろうと思えば可能であったことだし、従来行われてきたメール句会などは、中心地と遠隔地を繋げることが目的の一つであっただろう。しかし、外出自粛により、都市在住の書き手も地方在住の書き手も等しく句会場にアクセス出来なくなってしまったため、実質的に地理上の格差が消失した。その上で、「句会に行けない」という問題が、住んでいる土地に依らず共有されて初めて、オンライン化へと舵が切られたのである。ビデオ通話を利用出来るとはいえ、実際に会って句会をすることと比較すると物足りないという声もあろうが、今まで参加出来なかった句会に参加出来るという意味では、地方在住の書き手にとって幸運であった。逆に、外出自粛が明けて都市で開催される対面句会が再開され、オンライン句会が行われなくなると、地方に住む書き手は再び歯痒い思いをすることになるだろう。

 地理的格差が埋まる一方で、オンライン化は句会の参加における世代間の格差を助長する。デジタルディバイドという言葉もあるが、一般に、年齢層が高くなればなるほど情報機器やインターネットを使いこなせない人が多いということは疑いようがなく、また、俳句人口における高齢者の割合が高いことを考えると、その影響は大きいだろう。オンライン句会が普及しつつある現在も、やはり機器の操作に対応できず、外出自粛が明けない限り、句会への参加を諦めざるを得ない高齢の書き手も居るようだ。

 外出自粛が明けたとき、当面は過渡期として、対面句会とオンライン句会が並行的に行われることが予想される。所属者の年齢層が広い結社などでは、従来の対面句会のスケジュールにオンライン句会を加えて、遠隔地の書き手とのコンタクトを保つ動きも見られるだろう。対面句会の席の一つにパソコンが置かれ、遠隔地の書き手が共に句座を囲んでいるかのように進めることも可能かも知れない。
 一方、ある程度長い期間で見たとき、若い書き手にとって求心力となる磁場が東京や大阪、松山といった特定の都市に集まっている(無論それ以外にも点在している)ことを考えると、オンライン化による擬似的なストロー現象が生じ、地方俳壇の過疎がますます進むだろうと思われる。オンライン化と地理的格差・世代間格差は、それぞれ相互に絡み合いながら、俳壇の勢力図を変えてゆくだろう。

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1 コメント

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Unknown (大江深夜)
2020-06-16 22:17:14
若林氏は現在のオンライン句会の現状や問題点、今後の展望なども十分示唆していると思います。
結社としてはオンライン句会の充実化によってブラジル市場の開拓ができそうな気がしています。
そこでオンライン句会について最近気になっている点を一つ。
「俳句の壺」は俳人大西朋氏のためにご主人さんが個人で開発したシステム。「夏雲システム」は野良古氏が趣味のためにやはり個人が開発したものです。
どちらも無料で使えますが最大の違いは「夏雲システム」が利益の生ずる句会には利用できない事にあります。
しかしながら個人の開発者の善意を踏みにじっているような句会もあるようで残念です。
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