「詩客」俳句時評

隔週で俳句の時評を掲載します。

俳句時評 第109回 そうだ本を読もう!文学館へいこう! わたなべじゅんこ

2019年05月05日 | 日記
それは去年のこと。大学の講義の一環で「ちょっと背伸びした読書をしてみよう!」と呼びかけて普段だったら読まなさそうな本を1冊取り上げてレポートという課題を出した。そのなかに「夢野久作『ドグラ・マグラ』」が登場して度肝を抜かれた。最近の学生にしてはやや背伸びしすぎでしょ・・・???(もっとも、一番の背伸び読書はD・H・ロレンスの『チャタレイ夫人の恋人』だった・・・背伸びしすぎでしょ・・・)

イマドキ夢野久作を読む学生なんて本当の文学数寄ものかよほどの文学酔狂では・・・。思わず「え、読んで大丈夫なん?!」「おかしくなる以前にさっぱりわかりませんでした(苦笑)」「それにしてもなぜ夢野久作?!」「あー、ブンアルに出ていたので・・・」。ああ、文アルね、と納得。





さて、この二人のキャラクター。誰と誰だかおわかりだろうか。
この画像はゲームアプリ『文豪とアルケミスト』に新規キャラクターとして登場する予告のためのもの。これを見てゲームプレーヤーたち(=ここではツイッター民たちでもある)は誰が降臨するのかとざわつくことになったようだが、その様子をツイッターで眺めながら正直、素直に「すごいなあ」と思うのである。
https://twitter.com/BunAl_PR/status/1054927998388858880
胸元に椿の飾り、そして紅白の紐から「紅い椿白い椿と落ちにけり」の河東碧梧桐、だったら隣の翼のチャームを下げた青年は「ホトトギス」の高浜虚子ではないか・・・・。こんな風にゲームプレーヤーたちはこの画像でそれを察してしまった(実際は逆だったのが心憎い)。画像をよく見ると赤いマントの方はホトトギスらしき表紙だし、青マントの方は三千里の表紙に似ている(というか拡大してみると三千里と書かれているような・・・)。とすると、アクセサリは互いへの信頼と友愛を籠めて交換してつけさせているのかもしれない。・・・いやはや私の気持ちまでざわついてしまう・・・。


いま俳句を作っている人たちで、河東碧梧桐や高浜虚子を知っているなんて人がどれほどいるのだろう(あ、虚子はまだまだ現役かもしれぬ・・・)。そう考えると、なかなかに彼らの文学数寄者度、文学酔狂度はかなり高いのではあるまいか・・・・。



そんなわけで最近、サブカル界隈の文学ネタ文豪ネタが賑やかだ。


例えば、『文豪ストレイドッグス』(原作:朝霧カフカ・作画:春河35『ヤングエース』(角川書店→KADOKAWA)2013.1~)wikiによれば、「芥川龍之介、中島敦といった文豪がキャラクター化され、それぞれの文豪にちなむ作品の名を冠した異能力を用いて戦うアクション漫画である」。自殺主義の太宰治が他の異能力を無効にする「人間失格」を発動したり、中島敦が異能月下獣を発動し人虎となり、芥川龍之介(異能力技は「羅生門」・・・顎(あぎと)、叢(むらくも)、彼岸(ひがん)桜(ざくら)など各種あり)と戦ったり・・・。谷崎潤一郎には怪しい(妖しい、ではない)妹ナオミがいて、江戸川乱歩には超推理力がある。いや、こんなところにまさかの広津柳浪・・・、まさか本の題を叫びながら戦う文学者たちを見ようとは(谷崎の技は「細雪」だ。風流すぎる)。


あるいは『月に吠えらんねえ』(清家雪子『月刊アフタヌーン』(講談社)2013.1~)
題名から主人公はなんとなくかの人かと心当たりも出そう。これもwikiによれば「登場人物たちはそれぞれの作家の作品から受けた印象を擬人化したものである。作家自身の肖像写真と似たキャラクターデザインがされている者も一部いるが、作家本人をモデルとしているわけではない」とのことで、これもwikiに拠ればシキさんは「ひょうひょうとした風貌でいつも街の高台でスケッチを描いている。ナツメという黒猫を連れている。朔くんと白さんには密かに嫌われている」。そのシキさんが何を描いているかといえば木にぶら下がった死体だし、家出したナツメ号はあろうことか吉原の花魁の懐に納まっていて・・・、 となかなかに遊び心も半端ないのであるが、あろうことか「かつては同門親友同士の二人!譲れぬ思いがここにある!定型か!自由律か!俳句とは何かッ!どこまでが俳句かッ!今宵ここで決めようじゃあないか!」・・・「赤コーナー 俺こそが正統 俺こそが正義 そう俺こそが俳句!俳壇の帝王キョーシーハーイビーーーチ」「青コーナー後続達よ俺の屍を越えてゆけ 俳句に自由を!俳句に未来を!俳壇の革命児ヘキゴトー―――――リバーイー―――――スト」リング上の二人の戦いに「何故こんなことになった…」と頭を抱えるシキさん(じつのところワタクシも・・・)の姿はシュールの極みと云うべきか。
面白いのは(もちろん作者の指向性やこのマンガの世界観にもよるのだろうけれども)、やっぱり描かれ方として詩人の方が重く、俳人たちはなんとなくコメディタッチになっているところ。これまで小説>詩>短歌>俳句という構図を学校の授業で目の当たりにしてきたが、ここでもそのヒエラルキーはやっぱりかるーくではあるが維持されているのだなあと。
そういえば彼らの住む町は「□町=しかくまち=詩歌句町」・・・あれ?気のせいか既視感が・・・。

そして先にも挙げた『文豪とアルケミスト』(DMM.comより配信されているブラウザゲーム。2016.11配信開始)書物を侵すモンスター(?)を退治するのに文豪たちが各種武器を使って戦闘を繰り広げるわけだが、正岡子規をはじめとする子規一門の武器が銃なのはやはりいとこの藤野古白へのオマージュだろうか(←聞くところでは韻文関係の作家たちの武器は銃であるにすぎないらしい・・・なあんだ)。新思潮派とか白樺派などのグループで出撃するとダメージ倍率が上がるのでそのレベルの文学史を知る場とはなり得るのかも。



何にせよ刀剣女子が巷ではすっかり定着した感があるが文豪女子も(できれば男子もいてほしいがビジュアル的にどうなんだろう・・・)キャンパス内ではどんどん増殖していることは確かだ。
そういえば先日芦屋の虚子記念文学館に行ったら学芸員の小林さんがややびっくりというか戸惑いの表情で「最近客層が変わってきてるんです」といっていた。「ゲームでやってるとかで・・・」と。間違いなく、文豪女子たちはその活動範囲を図書館、教室、電車、という屋内の読書環境から資料館や博物館文学館という外部の研究施設へ足を運ぶものへと変化させている。「いっそコラボしちゃったらどうですか??」なんて無責任に言ってきたけれど、じっさい文アルプレーヤーでもあるともだちのひとりは「この前近代文学館の横光利一展行ってきたよー♪文アルの看板出てたー♪」とブンガクには疎くってーといいながらも、サブカルから文学への境界を軽々と飛び越え、やすやすと文学の領域へ浸食してしまった(事実、各文学館でのコラボイベントや企画展はたくさん行われているようだ)。
入り口として、こんな風に扉が開いているのは悪いことではない(正直なところ、私ですらちょっとびっくりしてしまうほどにダークだったり奔放だったりするけれども)。

ところで、いまそういうコラボレーション以外にも文学館のほうでも変化が始まっている。
ごく身近なところで二つ。


まず芝不器男記念館。以前はそこで芝不器男俳句新人賞の選考会と授賞式が行われていた(不器男忌俳句大会はまだそこで行われている)。
その不器男記念館を応援する会というのが静かに活動を始めているらしい。
以下入会案内の用紙から抜粋。


【不器男記念館を応援する会はこんな会です】
 平成30年度に設立した入口句会は俳句の入口として親しみやすい会を運営を行ってきました。これからは作句活動だけではなく不器男記念館の利用促進も会の活動として取り組んで参りたいと考えています。そこで今まで以上に不器男記念館をご利用していただくため 不器男記念館の開催行事の情報発信と不器男記念館への関心を高める活動を行うことを目的に不器男記念館を応援する会としてこれから会を運営していきます。不器男記念館をより多くの方に活用していただき松野町出身の俳人芝不器男の理解と功績を後世へと繋いでいく取り組みに賛同していただける方の参加をお待ちしております。

入口句会(不器男記念館を応援する会準備委員会) 担当:川嶋健佑 0895-42-1584(不器男記念館)

【年間スケジュール(平成30年度)】
浴衣祭り
小・中学生夏休み宿題キャンペーン
ガラスと不器男の特別展(お月見)
不器男研修
不器男忌俳句大会
桃の節句企画展


現在「入口句会」という句会を通じてその活動が始まっていて句会のメンバーたちがボランティアで応援する会の活動を支えているとのこと。
他にカルチャースクールなどもあってこちらは珈琲の研究会やレザークラフトやパールジュエリーを作るなど俳句とは直接関係のない企画。町の小さな文学館が町おこしの一環として何ができるのか、その挑戦は現在進行形で続いている。


それから兵庫県伊丹市にある柿衞文庫。こちらも地元では俳諧文庫、俳句の文学館としてなじみのある文学館。わかい俳人たちには鬼(おに)貫(つら)賞で知られる「鬼貫青春俳句大賞」が有名。最近は近代俳句の資料も充実してきている。俳句雑誌や評論など書籍の寄贈も多くその蔵書も増えていて研究する立場としては実にありがたい。ここでは柿衞文庫応援隊「柿の会」が発足。伊丹市の小中学校も巻き込んで俳諧の町を目指すべくその活動を始めた。これも既存の、所謂「友の会」とはちがってボランティアたちが柿衞文庫を中心に据えて様々な企画を仕掛けていこうという勝手連の活動だ。地元の商店街のひとや一般の市民たちが知恵を出して盛りあげていこうという気概は尊い。

わが町の文学館の応援隊の活動ははじまったばかりだ。こちらも目が離せない。

ところで、私にとって碧梧桐研究はライフワーク(私のHPもそろそろ尽きてきた感があるからやばい。どこかにキノコは落ちていないか探しているがその間に落命しそう)。碧梧桐と虚子の絡みは親友だったりライバルだったり、ややBLブンガク的には抜群に美味しそうなふたりである(コラコラ)。そんなふたりの貴重な句集が虚子記念文学館で見られる。こちらも是非!

問い合わせ先
芝不器男記念館
http://www.town.matsuno.ehime.jp/soshiki/10/1212.html

柿衞文庫
http://www.kakimori.jp/
展示:《柿衞(かきもり)さんの中学時代(2019.4.6~5.26)》
柿衞さんとは館の名前の由来になっている岡田柿衞のこと!

虚子記念文学館
http://www.kyoshi.or.jp/
展示:《句集のいろいろ-虚子句集を中心に-》
スタッフのイチオシは『喜寿艶』!  (*^-^*)

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