「詩客」俳句時評

隔週で俳句の時評を掲載します。

俳句評 佐川盟子句集『火を放つ』を読む 秋月 祐一

2019年10月26日 | 日記
俳句評 佐川盟子句集『火を放つ』を読む 秋月祐一

 白くて美しい本である。現代俳句協会の「現代俳句の躍動 II-5」と位置づけられた佐川盟子句集『火を放つ』は、著者自身による装丁の本。表紙には、黒犬の走る姿が、墨絵のようなタッチで描かれている。白と黒の対比が、読者にあざやかな印象をのこす。

  犬放つやうに野焼の火を放つ

 表紙の犬は、この表題作から材を取ったもの。
 野焼きの火が、さあーっと広がってゆくのを、解き放たれた犬に見立てた句である。「犬放つやうに」という直喩から「野焼の火を放つ」へと展開されるストレートな文体や、二度くり返される「放つ」という言葉が、つよさを感じさせる。

  雪景色山芋すりおろしたやうに

 こちらも見立ての句。おそらく、山野の雪景色ではないかと想像するが、一読、あっと思わされ、今後、雪景色や山芋のすりおろしを目にするたびに、この句を思いうかべることになりそうだ。
 この二句からもうかがえるように、佐川盟子の句には、作者の物を視る目のたしかさと、その観察をひと息で言い切るような文体の力づよさに特徴がある。

  滔々と流れ岩魚を動かさず

  ほたるいか海の底へと地はつづき

 一句目。魚は川の流れにさからって泳いでいるから、止まって見えるわけだが、ここでは渓流の流れのほうに着目。滔々とした流れが岩魚を押しとどめている、と捉えた逆転の発想がおもしろい。
 二句目。「海の底へと地はつづき」にも、作者の物を視る力が発揮されている。「ほたるいか」という季語との取り合わせからか、この句はどこかなまめかしい。

  三月来そのときそこにゐなかつた

  真葛原むかしイチエフありました

 作者は福島県の人である。一句目。東日本大地震のとき、作者は福島にいなかった。そのことに対する複雑な思いがあるのだろう。一見さりげなく、読み過ごしてしまいそうな句だが、この句集を読み解く上で重要である。
 二句目。イチエフは福島第一原子力発電所のこと。イチエフが廃炉となって、葛の葉に覆われる日が来ることへの願いが込められている。
 この二句は、句集のそれぞれべつの場所の、日常的な明るい句の合間にそっと置かれている。声高に主張するのではなく、作者の意識の核にある問題を、しっかり書き留めた句として注目しておきたい。

  春の蚊を起して畳む段ボール

  寝なさいと寝た子を起こす春炬燵


 佐川盟子には、すぐれたユーモアのセンスがある。
 一句目。段ボールの片づけをしていたら、そのあいだから一匹の蚊がふわりと飛び立った。春の蚊を「起して」と表現したところに、視点のやわらかさを感じる。
 二句目。春炬燵で寝てしまった子に、ちゃんと布団で寝なさい、と呼びかけている場面である。それを「寝なさいと寝た子を起こす」という言葉遊び的なフレーズにまとめたところに、作者の機知がある。

  荒星や指の知りたる鼻の位置

  肉を切る刃物ときどき西瓜切る

 一句目。木枯らしの吹く星の夜、暗さの中でも、指は鼻の位置を知っている。
 二句目。日頃は肉を切るのに使う包丁を、夏場はときどき西瓜を切るのにも使っている。
 どちらも、意味内容は単純明快だが、いざ俳句を書こうというときに、なかなか、こうは表現できないものだ。
 『徒然草』第二二九段に「よき細工は、少しにぶき刀を使ふといふ」という一節があるが、この二句に通じるものを感じた、と言ったら褒めすぎだろうか。物のよく視えている作者が、あえてとぼけた表現をしているような鋭さが、これらの句から感じられるのである。

俳句時評 第114回 「俳人のみつけかた」 廣島 佑亮

2019年10月06日 | 日記
 東海地区の俳句団体である「中部日本俳句作家会」(以降、中日作家会)は、昭和23年5月に中日新聞文化部所属の加藤鎮司(早蕨、俳句評論、橋代表)が「俳句の枠を取り去った新しい俳句の推進」を目的に立ち上げたのが始まりである。昭和30年より会員のアンソロジーである「年刊句集」を毎年発行している。出稿者の中から1名もしくは2名に、「中部日本俳句作家会賞」が贈られる。受賞者の中には忘れられたり、個人句集を入手できなかったり、個人句集を刊行していない俳人がいる。今回は、歴代受賞者を紹介しつつ、中部俳壇の歴史を見ていこうと思う。句は受賞作品から抜粋、結社は受賞時の所属。


◎第1集 昭和30年度
小島武男 (こじま たけお)
 大正元年(1912)生。結社:「早蕨」。平成2年没。内藤吐天主宰の「早蕨」同人。内藤吐天逝去後、昭和52年「橋」創刊に参加。昭和63年「橋」代表。句集:「感傷植物」

  吾子生まれしこゑへ覚め耀る夜の林檎
  吾子へ降る牡丹雪軀をうちあひつゝ
  子の机春の霞へちかく置く


塚腰杜尚 (つかこし としょう)
 大正11年(1922)生。結社「天狼、環礁」。平成25年没。山口誓子、加藤かけいに師事。「天狼」同人、「環礁」同人。「森」主宰。句集:「都会派」

  天心に触れつゝひばり翅つよし
  死に瀕し金魚が水を彩れり
  凩が凩を追ふ天涯まで


◎第2集~第4集 受賞者なし

◎第5集 昭和34年度
中村吉子 (なかむら よしこ)
 昭和4年(1929)生。「早蕨」。「早蕨」同人。「早蕨」終刊後は無所属。

  樹々若く万朶の花の接吻(きす)する唇(くち)
  少年哀し黒きレースの手を待つや
  騎馬朝露に疾駆の鞭を乙女より


◎第6集 昭和35年度
小島武男 (こじま たけお)
 二回受賞は彼だけ。これ以降、過去受賞者は選考から除外することになった。

  麦熟るゝ夜へ降りし汽車明るく去る
  映し合う鏡の中の雪の世界
  手籠よりパン頭復活祭の陽へ


◎第7集 昭和36年度
武藤城楠 (むとう じょうなん)
 明治38年(1905)生。結社:「早蕨」。「早蕨」同人、「つばき」同人、「営」同人。

  埋葬終る薊につまづくこともなく
  寒い傾斜一日単位の木の歯車
  万緑をわがものとして寂しき木樵


◎第8集 昭和37年度
坂戸敦夫 (さかと あつお)
 大正13年(1905)生。結社:「南風、火燿」。平成22年没。「南風」同人。「俳句評論」同人。同人誌「騎の会」を発足し編集同人、発行者。句集:「地下水脈」「冬樹」「朿刑」「苦艾」「艸衣集」「異界」「影異聞」「異形神」「彼方へ」

  厚き冬霧自己喪失の都市沈む
  痛烈な梅雨夕焼ここにあるは訃報
  虹の断片見て荒涼と都市の夜へ


◎第9集 昭和38年度
加藤佳彦 (かとう よしひこ)
 昭和4年(1929)生。結社:「早蕨、俳句評論」。「早蕨」同人、「俳句評論」同人。「早蕨」終刊後、「橋」の創刊に参加、同人。

  鳥を撃たず青空の近くに住む
  海をひらくひとつの撃鉄として嬰児
  眠い虎の分身焦げるパン一枚


◎第10集 昭和39年度
上月 章 (こうづき あきら)
 大正13年(1924)生。結社:「早蕨、十七音詩、海程」。平成19年没。「海程」創刊に参加、「早蕨」同人。「早蕨」終刊後、「橋」に参加。第13回現代俳句協会賞受賞。句集:「胎髪」「蓬髪」「上月章句集」

  武器をもつ農民に似て燃える生木
  教室裏口遺族たちに発育のいい彫刻
  靴をもつてのぼる高い塔の内部


◎第11集 昭和40年度
鈴木河郎 (すずき かわろう)
 大正14年(1925)生。結社:「青玄、営」。昭和58年没。「青玄」「林苑」を経て「草苑」同人。元・現代俳句協会東海地区会議幹事。句集:「双神の時」「空華」

  枯れて久しき葦同温の老人待つ
  酒を待つ木椅子に冬の樹を感じ
  日本脱出も難し聖菓の弱き燭


◎第12集 昭和41年度
中野 茂 (なかの しげる)
 昭和4年(1929)生。結社:「早蕨、俳句評論」。平成6年没。「早蕨」同人、「俳句評論」同人。「早蕨」終刊後は、「橋」の創刊に参加、同人。「青の会」会長。句集:「魚眼」

  赤い窓ある夫婦に植物のような夜明け
  磨いた歯で遠い冬日の森を噛む
  高層ビルの真下ごみ箱が愉しくこわれ


◎第13集 昭和42年度
星野昌彦 (ほしの まさひこ)
 昭和7年(1932)生。結社:「早蕨、林苑、営」。「早蕨」「地表」「林苑」「橋」等の同人を経て、「景象」創刊。第1回現代俳句新人賞。第5回現代俳句評論賞。第68回現代俳句協会賞受賞。句集:「藁の国」「五丁目二十八番地」「玄冬考」「七百句」「而今そしていま」「是空」「花神の時」「天狼記」

  楽器を胸に沈めて驟雨の中にいる
  眼帯で眼を覆い触れてみる魚の弾力
  海へインクを一滴落とし少年去る


◎第14集 昭和43年度
志摩 聡 (しま そう)
 昭和3年(1928)生。結社:「俳句評論」。平成15年没。加藤かけい、富沢赤黄男のち高柳重信に師事。「俳句評論」同人「騎の会」同人。のち無所属。句集:「蜜」「紫刑楽句」「白鳥幻想」「勃海薔薇」「哇」「汽缶車ネロ」「志摩聰全句集」

  一角犀の睡りに溺れる子 泥壺の中の胡桃
  錫騎士や角(かく)の算術髭の角(かく)
  蝿取紙に集(たか)る菫 蘿甸語(らてんご)を遠渚に廃し


◎第15集 昭和44年度
奥山甲子男 (おくやま きねお)
 昭和4年(1929)生。結社:「海程、営」。平成10年没。金子兜太に師事.昭和38年「海程」に入会。「営」「赫」「橋」等の同人を経て「木」を創刊に参加し.編集を務める。第38回現代俳句協会賞受賞。句集:「山中」「奥山甲子男句集」「飯」「水」「奥山甲子男遺句集」

  雷の夜の幹けんらんと水を隠し
  満月の吹かれくる塩髭にためる
  飯も水もぞろぞろと着く村が見え


◎第16集 昭和45年度
立原雄一郎 (たちはら ゆういちろう)
 大正1年(1912)生。結社:「営、原型派」。平成3年没。「街路樹」同人、「原型派」同人。「橋」の創刊に参加、同人。

  妙(みょう)というあるひとひらと悪を練る
  ひたすらを彫り冷笑を彫りあがる
  以後無事で死界にいます 風岬


◎第17集 昭和46年度
浅井一邦 (あさい いっぽう)
 昭和18年(1943)生。結社:「地表、俳句評論」。「地表」同人。「俳句評論」同人。句集:「玄実歌」「風学歌」「火宙歌」「天天小歌」「浅井一邦全句集」

  うぐいすを撫でゆくやがて鉄橋や
  蟷螂のかけら零れて指はあり
  液体のながい坂ゆく冬わすれ


森下草城子 (もりした そうじょうし)
 昭和8年(1933)生。結社:「早蕨、林苑、営、海程」。平成30年没。内藤吐天主宰の「早蕨」、「林苑」などを経て、「海程」同人.「木」創刊。第48回現代俳句協会賞受賞。元・東海地区現代俳句協会会長。元・現代俳句協会顧問。句集:「風炎」「生家」「野鯉」。

  青年やたそがれをゆく紙の舟
  月よりかるく吹かれる伐採の空の男
  鯛の身ほぐし食う次の間の血縁たち


◎第18集 昭和47年度
小笠原靖和 (おがさわら せいわ)
 昭和18年(1943)生。結社:「地表、俳句評論」。「地表」同人。「俳句評論」同人。「地表」終刊後は、「韻」の創刊に参加、同人。句集:「水奏観」

  火を献じて餅の白さのくにさがひ
  雨音や死んだ奴から柿出てゆく
  軒深く背鰭の冬となりゆけり


◎第19集 昭和48年度
白木 忠 (しらき ちゅう)
 昭和17年(1942)生。結社:「地表」。平成25年没。「豈」同人。地表終刊は、「韻」の創刊に参加、同人、編集をつとめる。句集:「牢として風のなかに」「君不知」「暗星」

  菜の花や百日鴉くもりつつ
  神経の蝶が右手にのこるなり
  欲望のあらゆることば葡萄垂る


◎第20集 昭和49年度
田中正一 (たなか しょういち)
 大正5年(1916)生。結社:「早蕨、街路樹、俳句評論」。平成元年没。

  パン屋を過ぎて身体が宙にある早春
  六月の妊婦が愛ずる虫めがね
  犬に曳かれて寒(かん)の時空を漂う齢(よわい)


◎第21集 昭和50年度
伊吹夏生 (いぶき かせい)
 昭和10年(1935)生。結社:「赫、海程」。平成22年没。小川双々子に師事。「地表」同人。編集長を務めた。同人誌「ZERO」創刊、「木曜島」俳句会代表。平成20年「翼座」創刊代表。

  桃山の閑かや狂う兄を連れ
  夏がすみ朽ちつつおもき内宇宙
  在りし日の雪の音きて絶えにけり


中烏健二 (なかがらす けんじ)
 昭和23年(1948)生。結社:「地表」。平成26年没。「地表」同人。「豈」に入会、編集をつとめる。「未定」に参加。句集:「愛のフランケンシュタイン」「Alligator symphony」

  陰々と鳴りたる鈴をひろひにくる
  川の岸凍蝶のゐるふりをして
  仄ぐらき夢を出たがる春の泥


◎第22集 昭和51年度
勝野俊子 (かつの としこ)
 昭和7年(1932)生。結社:「早蕨、橋」。中村吉子以来、17年振り二人目の女性受賞。「早蕨」「橋」終刊後は、「翼座」創刊に参加、同人。読売新聞「とうかい文芸」選者。句集:「澪標」

  絵蠟燭ともるかなたの女体かな
  花あやめ花の高さに坐りけり
  忽然とひがん花消え宥されし


岩田礼仁 (いわた れいじ)
 昭和18年(1943)生。結社:「地表」。「地表」同人。「地表」終刊後は無所属。

  水餅はいかなる鳥にはぐれたる
  あさがほにつくづく遲れ生まれけり
  鶏頭の旅人となる日の暮は


◎第23集 昭和52年度
清水冬視 (しみず とうし)
 大正12年(1923)生。「橋、海程」。平成15年没。「橋」同人。「海程」同人。句集:「寒い林」

  蟷螂のうしろの水の泣き出せり
  夜桜の下の地獄は湖の地獄
  かまつかの一本燃えて鬼はしらす


◎第24集 昭和53年度
鈴木照子 (すずき てるこ)
 大正13年(1924)生。結社:「俳句評論、街路樹、橋」。「俳句評論」同人、「橋」同人。「橋」終刊後は無所属。句集:「ふしぎの風」「天窓」「無風の窓」

  おんどりの左右のにらみ剃刀とぐ
  血の音や樹一本の舞台装置
  蠟燭をともして夢の後始末



◎第25集 昭和54年度
橋本輝久 (はしもと てるひさ)
 昭和14年(1939)生。結社:「俳句評論、橋」。高柳重信に師事。「俳句評論」同人。「橋」同人。「橋」終刊後は、「伊勢俳談会」所属。現・東海地区現代俳句協会顧問。三重県文学新人賞。第7回現代俳句協会新人賞。三重県文化賞文化奨励賞。句集:「国見」「歳歳」「残心」

  とある朝街中の傘が河口に佇ち
  菊抱きて日常の顔白くせり
  矢印を幾度ゆきて還らざる


◎第26集 昭和55年度
林 英男 (はやし ひでお)
 昭和14年(1939)生。結社:「俳句評論、橋」。「青玄」同人、「俳句評論」同人、「橋」同人。「卵の会」会員。「橋」終刊後は無所属。現・東海地区現代俳句協会理事。

  寒菊の際過ぎ雨の日の葬り
  うなじゆくいま山茶花の闇をまがり
  風速き夜はくれないの木をせめる


◎第27集 昭和56年度
高桑冬陽 (たかくわ とうよう)
 大正6年(1917)生。結社:「地表」。平成5年没。「地表」同人。句集:「白露祷」

  きさらぎは竹に撓へとふことか
  ゆるされていいのか雁の腋見えて
  てのひらがつかれてゐるに雪つかむ


◎第28集 昭和57年度
受賞者なし

◎第29集 昭和58年度
小出尚武 (こいで なおたけ)
 昭和16年(1941)生。結社:「地表」。「地表」同人。

  砂握る音の哀しき春の昼
  咎なりや鶏頭があり海があり
  夭折とは星のしづくをのむことか


林 政恵 (はやし まさえ)
 昭和9年(1939)生。結社:「橋」。平成22年没。「早蕨」同人。「橋」の創刊に参加、同人。「橋」終刊後は無所属。句集:「椅子


  元旦の物置の戸が少し開く
  たそがれをしばらく茄子とたのしめり
  安堵とは素描の薔薇を見ることか


◎第30集 昭和59年度
岡本信男 (おかもと のぶお)
 大正5年(1916)生。結社:「地表、花曜」。平成元年没。「環礁」「天狼」を経て、「地表」同人、「花曜」同人。句集:「挙白拾章」「銀紋雑記」

  劇的に地下鉄(メトロ)のにほひ如月は
  あゝ垂直に六月は亡命せん
  蛍の臭また残る指いくさ前


◎第31集 昭和60年度
鈴木知足 (すずき ちそく)
 大正15年(1926)生。結社:「地表、木」。昭和63年没。「地表」同人。「木」同人。

  ぬるみゆく水に手を入れ国をふと
  曼珠沙華暮れて古今のあるがまま
  霜月のつかわねば筆倒れけり


◎第32集 昭和61年度
杉本亀城 (すぎもと きじょう)
 昭和2年(1927)生。結社:「地表」。「地表」同人。

  末黒野を鎖ひきずりゆく犬よ
  葛の葉のみな裏がへる告白や
  廃屋が見ゆ空蝉の背なかより


◎第33集 昭和62年度
岸 貞男 (きし さだお)
 大正13年(1924)生。結社:「地表」。平成11年没。「天狼」同人。「地表」創刊に参加、同人。句集:「花魂」

  大根の山積み欲望とは違ひ
  夕焼の岩礁に立ちしことモーゼは
  これまでの榠樝を思ふ真暗がり


北川邦陽 (きたがわ ほうよう)
 昭和7年(1932)生。結社:「林苑、海程、木」。平成24年没。「海程」同人。同人誌「卵の会」代表。句集:「虚蟬笛」「花夢中」「黒船屋」

  上昇の蝶見えるまでガラス拭く
  下積みにせり白桃の不器量は
  上空の鶴の一掻き見てしまう


◎第34集 昭和63年度
小林美代子 (こばやし みよこ)
 大正13年(1924)生。結社:「地表、橋」。「地表」同人、「俳句評論」同人、「橋」同人。

  死後しかと目を閉じゐたる花明り
  螺子の馬行きては止まる灯のおぼろ
  年忘れ踵埠頭の灯に到る


◎第35集 平成元年度
今井真子 (いまい まさこ)
 昭和22年(1947)生。結社:「橋」。「橋」終刊後は、「翼座」に参加。「橋」同人、「青の会」会員、「翼座」同人。現・東海地区現代俳句協会理事。現・中部日本俳句作家会事務局。句集:「水彩パレット」「約束」

  空缶の中の葉月を蹴り上げる
  花冷えやからだ透けゆくすべり台
  桃匂う袋を解いて折鶴に


◎第36集 平成2年度
柴田和江 (しばた かずえ)
 昭和7年(1932)生。結社:「海程、木」。「海程」同人、「木」同人。

  杉の実の匂いことばの気配充ち
  春疾風解かれて虚空ゆくもあり
  ばらばらに朝のさくらを出てゆけり


永井江美子 (ながい えみこ)
 昭和23年(1948)生。結社:「橋」。「草樹」「早蕨」「橋」を経て「韻」の創刊に参加し、現在は編集・発行人を務める。「青の会」会員、「韻」同人。現代俳句協会理事。現・東海地区現代俳句協会副会長。安城市文化協会賞。句集:「夢あそび」「玉響」

  八月に生まれしもののひかり合ふ
  山茶花に男のこえの残りたる
  死ぬ力少し残して桃ひらく


◎第37集 平成3年度
村瀬誠道 (むらせ まさみち)
 昭和4年(1929)生。結社:「地表」。「地表」同人。句集:「遊人抄」

  春や昔われらねじ式オルゴール
  半夏生紐となりゆく男かな
  死ぬるとき脳天枝垂れ花火かな


◎第38集 平成4年度
植村立風子 (うえむら りっぷうし)
 大正13年(1924)生。結社:「海程、木」。平成26年没。
「海程」同人。「木」同人。句集:「耕」

  鶏裂けば麦ばらばらとでてきたる
  泥田から素足で飯を食いにくる
  盛り上がる黒土であり冬の牛


佐佐木敏 (ささき びん)
 昭和13年(1938)生。結社:「地表、ZERO」。「地表」同人。「ZERO」同人。「地表」終刊後、「韻」創刊に参加、「韻」同人。

  蝶の翅宙にとどまるとき勁し
  銃口をひきつけてゐる杜若
  枯蟷螂最後の道のかがやきは


◎第39集 平成5年度
竹内まどか (たけうち まどか)
 昭和3年(1928)生。結社:「橋」。「橋」同人。のち無所属。

  沖より風無灯の船が沖をさす
  棺に入れし花菜いまごろ花盛り
  君が見てわがみて満月を鎖す


◎第40集 平成6年度
吉田さかえ (よしだ さかえ)
 昭和14年(1939)生。結社:「海程、木、未完現実」。平成18年没。「海程」同人。「木」同人。「伊勢俳談会」所属。第19回三重県文学新人賞。第9回現代俳句協会新人賞。句集:「山の村」

  たましいのひとつひとつや梅の花
  念仏へ蛇を追う夜は人呼んで
  雪おんな見てきて夜は紙を折る


◎第41集 平成7年度
伊藤政美 (いとう まさみ)
 昭和15年(1940)生。結社:「菜の花」。山口いさを主宰「菜の花」創刊に参加。現在「菜の花」主宰。現代俳句協会副会長。東海地区現代俳句協会会長。四日市市文化功労者。三銀ふるさと三重文化賞。三重県文化功労章。句集:「二十代」「天の森」「天網」「天音」「父の木」「四郷村抄」

  大寒の滝懸命に落ちてをり
  何やかや埋める夏野に穴あけて
  大焚火みんな背中に闇を負ふ


山田鍵男 (やまだ かぎお)
 昭和7年(1932)生。結社:無所属。

  跡かたもなし炎天を尋ね来て
  汗顔や運河を汚したるひとり
  風邪流行る街を流れる黒い河


◎第42集 平成8年度
佐伯春甫 (さえき しゅんぽう)
 昭和8年(1933)生。結社:「紫陽花主宰、地表」。句集:「鎖の足」

  まんさくのすべてが水に映り・死は
  微睡むや蝶一頭を許しつつ
  叫びでも怒りでもなく八月来


◎第43集 平成9年度
五藤一巳 (ごとう かずみ)
 昭和11年(1936)生。結社:「地表」。平成16年没。「地表」同人。

  梅一枝ことに退きたき時を
  あやめ・オフィーリア漂ふに水湧きつ
  水無月の水を掴んで立ち直る


前田典子 (まえだ のりこ)
 昭和15年(1940)生。結社:「海程、草苑、木」。「海底」同人、「木」同人。第16回現代俳句協会年度作品賞。現・東海地区現代俳句協会理事。

  陽炎に体はこばれ峠越ゆ
  螢きて杉山の闇あたらしき
  凍蝶のたましひのまだ凍てざりし


◎第44集 平成10年度
金子晴彦 (かねこ はるひこ)
 昭和13年(1938)生。結社:「地表」。「地表」終刊後は、「翼座」の創刊に参加。現「翼座」代表。「木曜島俳句会」会員。現・東海地区現代俳句協会理事。

  啓蟄を死刑執行人の影や
  七月や鳥・虫・草・木・水死せる
  鉄格子をとこ靜かに凍りけり


馬場駿吉 (ばば しゅんきち)
 昭和7年(1932)生。結社:無所属。美術評論家、医学博士、名古屋市立大学名誉教授。「年輪」主宰の橋本鶏二に師事。名古屋ボストン美術館元館長。句集:「断面」「薔薇色地獄」「夢中夢」「海馬の夢」「耳海岸」

  凍て深き大地にマタイ受難曲
  月下ふと假面に死相謝肉祭
  紅顔と白骨の間を晝寝かな


◎第45集 平成11年度
井戸昌子 (いど まさこ)
 昭和10年(1935)生。結社:「地表、暖鳥」。「地表」同人、「雪天」同人、「翼座」同人。句集:「秘花抄」

  実在も不在も春の寒さかな
  人間の限界花の散ることも
  国憂ひ草矢を乱射してをりぬ


横地かをる
 昭和19年(1944)生。結社:「海程、木」。「海程」同人、「木」同人。現・東海地区現代俳句協会理事。

  しろつめ草つめたきかたち朝の家
  群れるとんぼ二階は母のみずうみ
  老僧の透けてくるなり寒の水


◎第46集 平成12年度
二村秀水 (にむら しゅうすい)
 大正11年(1922)生。結社:「地表」。「地表」同人。句集:「命綱」「そらは露」「莫眼花」

  忘却の大河雪解の幅となる
  椿落つ思考の海を昏くせり
  生煮の老人乾く西日かな


金子ひさし (かねこ ひさし)
 大正6年(1917)生。結社:「海程、つばき、木」。「海程」同人、「木」同人。
 
  大かたは鞄かかえる爆心地
  ながながと生きて蛍につきあたる
  八月の賽銭箱の中のぞく


◎第47集 平成13年度
小川二三男 (おがわ ふみお)
 昭和23年(1948)生。結社:「地表」。小川双々子の甥。「地表」終刊後は無所属。現在の筆名は「藤尾州」。小川双々子の遺句集「非在集」を刊行した。句集:「木偶坊」「白鳥」

  一握の野蒜の白の冥かりし
  超えるとき泰山木の匂ひたる
  水底をザリガニ歩く天渇き


◎第48集 平成14年度
柴田典子 (しばた のりこ)
 昭和3年(1928)生。結社:「潮騒」。「潮騒」同人。

  逝く春の淀みへ真水こぼしけり
  炎天に佇ちをり己の中の闇
  穴まどひ一行の詩を曳きゆけり


野村紘子 (のむら ひろこ)
 昭和13年(1938)生。結社:「橋」。「早蕨」同人、終刊後「橋」同人。「橋」終刊後、無所属。

  雛飾るうしろに亡父も来ていたり
  朝に夕なに蟬鳴き人は帰らざる
  眼鏡拭くや映りしあまたのもの乾く


◎第49集 平成15年度
岸 美世 (きし みよ)
 昭和3年(1928)生。結社:「地表」。平成21年没。「地表」同人。地表終刊後は無所属。岸貞男の妻。

  踏絵あり非日常の日常や
  科学的立場としてのトマト熟れ
  不条理の最たるかたち枯向日葵


大西健司 (おおにし けんじ)
 昭和29年(1954)生。結社:「海程、木」。昭和48年「海程」入会、のち同人。現・東海地区現代俳句協会副会長。句集:「未完の海」「海の翼」「海少年」「群青」

  馬の目の潤みて夏に散る花よ
  深海魚の兄かな春に化粧せり
  空蟬の中に熊野の闇を置く


◎第50集 平成16年度
淺井霜崖 (あさい そうがい)
 大正15年(1926)生。結社:「地表、禱炎」。平成24年没。「環礁」同人。平成9年同人誌「禱炎」創刊代表。平成10年「環礁」終刊後、「地表」入会、同人。句集:「黄砂茫茫」「淺井霜崖全句集」

  鐵板に霰まろびし黙示かな
  月おぼろ人間の盾きらめきつ
  河骨ニオエツノ男タツテヰル


◎第51集 平成17年度
浅生圭佑子 (あさお けいこ)
 昭和17年(1942)生。結社:「海程、木」。「橋」同人。「海程」同人。「木」同人。現・東海地区現代俳句協会理事。

  おだやかに帰雁となりて逝かれけり
  トマトに塩ひとつまみ降る生きるとは
  夕星はわたしの味方十二月



◎第52集 平成18年度
石上邦子 (いしがみ くにこ)
 昭和7年(1932)生。結社:「海程、卵の会」。「卵の会」は北川邦陽が代表の同人誌。「橋」同人、「海程」同人。

  目に見えぬ花粉ざらつく祖国かな
  月天心肉切り包丁研いでをり
  大寒の肩甲骨の確かなり


山田哲夫 (やまだ てつお)
 昭和13年(1938)生。結社:「海程、木」。「林苑」同人。「海程」同人。「木」同人。現・都会地区現代俳句協会理事。句集:「風紋」

  雑踏のひとりがふっと消え風花
  鈴虫の闇へかたむくこころかな
  鶏が横切り胡麻を干す老婆


◎第53集 平成19年度
中根唯生 (なかね ただお)
 昭和4年(1929)生。結社:「氷点」。「環礁」同人。「氷点」に入会。のちに「氷点」代表。「木曜島」俳句会にも参加。句集:「旦暮抄」「きつね雨」「有情帖」「八旬」「百句鈔 山・蜩・蝸牛」

  心太啜って個人・個人かな
  百年ののちを振り向く蝸牛
  ヒロシマ忌レールが二本伸びている


◎第54集 平成20年度
杉﨑ちから (すぎさき ちから)
 昭和5年(1930)生。結社:「海程、木、氷点」。「早蕨」同人。「海程」同人、「木」同人。句集:「鉄の繭」「鐵」

  人日や家が機械に壊される
  てのひらに落花しずかに血のかよう
  枯蟷螂われみる眼玉ひかるなり


◎第55集 平成21年度
山口 伸 (やまぐち しん)
 昭和4年(1929)生。結社:「林苑、青、海程、木」。安城文化協会名誉会長。句集:「心土」「野帖」「麦稈抄」

  極月やあてなき鶴を折っており
  抽斗にニトロ冬がぬうと来る
  庭焚火継ぐ子なければ燻れり


◎第56集 平成22年度
犬飼孝昌 (いぬかい たかまさ)
昭和16年(1941)生。結社:「菜の花」。「菜の花」編集長。現・東海地区現代俳句協会事業部長。句集:「土」

  長く引く波に石鳴る春の暮
  鵺鳴くやすぐには消えぬ猜疑心
  幾重にも峰を重ねて鮎の川


前田秀子 (まえだ ひでこ)
結社:「草樹」。

  春雷の音のひとつに母がゐる
  りんご真二つ対称といふ不安
  雁渡ることばを綴りゆくやうに


◎第57集 平成23年度
稲葉千尋 (いなば ちひろ)
 昭和21年(1946)生。結社:「木、海程」。「海程」同人、「木」同人。「蘖通信句会」世話人。現・東海地区現代俳句協会会計監査。

  白梅の一輪という重みかな
  またテロが頬に飯粒つけたまま
  便器一つ白鳥ほどに光らせて

時野穂邨 (ときの すいそん)
 大正15年(1926)生。結社:「林苑」。「林苑」同人。句集:「落し文」

  水飲んで大きな夏の隅にいる
  さくらさくら忽ち昨日を遠くする
  花虻の花粉まみれという幸せ


◎第58集 平成24年度
鈴木 誠 (すずき まこと)
 昭和9年(1934)生。結社:「海程、木」。平成29年没。「海程」同人、「木」同人。句集:「原郷」

  夏の午後靜かなる人は靜かに逝く
  郭公は空の歪みを直し鳴く
  曼珠沙華このごろ土に傷を持つ


米山久美子 (よねやま くみこ)
 昭和6年(1931)生。結社:「翼座、韻」。「天狼」「地表」に所属し、終刊後は「翼座」「韻」の創刊に加わる。現在は「韻」同人。句集:「おきなぐさ」

  春立つといふに物音ひとつせず
  蝉しぐれ浴びる寡黙の人となり
  ためらひつ惑ひつ翔べり冬の蝶


◎第59集 平成25年度
神谷きよ子 (かみや きよこ)
 昭和7年(1932)生。結社:「林苑」。「林苑」同人、愛知県豊橋市の「とまり木俳句会」代表。

  更衣ひととき過去の中に居る
  直線を重ねて畳む秋袷
  黄落のひかりの中にいて老いる


◎第60集 平成26年度
平山圭子 (ひらやま けいこ)
 昭和20年(1945)生。結社:「木、海程」。「海程」同人、「木」同人。

  子を容れて日傘の男近づけり
  夏つばめ筋肉質の平和像
  寒禽や森の静寂裂けている


星川佐保子 (ほしかわ さほこ)
 昭和16年(1941)生。結社:「秋、翼座」。「秋」は石原八束の主宰誌。石原八束に師事。「秋」入会、同人。「翼座」同人。句集:「あゆちの泉」。

  逢ふひとの誰かれ眩し初御空
  花桃の賑やかすぎる午後であり
  淋しさの湧く日十薬引いてをり


◎第61集 平成27年度
大島多津子 (おおしま たつこ)
 昭和33年(1958)生。結社:「雪天」。「雪天」は新谷ひろし氏主宰の俳誌。現在の俳号は金子ユリ。「韻」同人。現・東海地区現代俳句協会広報部長。句集:「チベットの春」

  浮揚する凧愛といふ糸が在り
  赤ちゃんと寝転んでゐる宇宙かな
  しぐれふるただ黙々と群集は


永井清成 (ながい きよなり)
 昭和14年(1939)生。結社:「林苑」。「林苑」「第二卵の会」に入会。のち無所属。句集:「夕もみじ」「夏冬」

  あしたには空蟬となる身の火照り
  渋柿吊す測られている骨密度
  空瓶に沈んだままの寒さかな

◎第62集 平成28年度
武藤紀子 (むとう のりこ)
 昭和24年(1949)生。結社:「円座主宰」。年児玉輝代に俳句を学び、宇佐美魚目に師事。「晨」同人、「古志」同人。平成23年「円座」創刊。現・東海地区現代俳句協会理事。句集:「円座」「朱夏」「百千鳥」「冬干潟」。

  さまざまの戦の果ての柿の色
  現とも夢とも冬の杖の人
  椰の葉に来てしばらくを冬の蠅


片山洋子 (かたやま ようこ)
 昭和26年(1951)生。結社:「円座、韻」。「円座」同人、「韻」同人。句集:「羊水の。」

  鶴を見てひらがなのからだで眠る
  サガン読む果肉のやうな九月の部屋
  いちまいの凍蝶水になる途中


◎第63集 平成29年度
佐藤武子 (さとう たけこ)
 昭和5年(1930)生。結社:「翼座」。「環礁」同人、上田五千石の「畦」同人。両誌が終刊後は「地表」、「地表」終刊後は「翼座」創刊同人。「木曜島俳句会」に参加。句集;「舞踏」。

  枇杷の花言葉の裏を極彩に
  てふてふの群るるやはらかき闘争
  水溶性の恋をして冬の鳥


天野素子 (あまの もとこ)
 昭和32年(1957)生。結社:「翼座」。「翼座」同人。

  三月の外科白い傘の明るさで
  空にジャズ消え紫苑の静けさ
  冬の海まなざし遠き駱駝かな


◎第64集 平成30年度
平賀節代 (ひらが せつよ)
 昭和22年(1947)生。結社:「菜の花」。「菜の花」同人。現・東海地区現代俳句協会事務局長。句集:「たんぽぽ」

  青き踏む自分の歩幅大切に
  膝抱いて海を見てゐる啄木忌
  一人居の夜の寒さは四方から


岡本千尋 (おかもと ちひろ)
 昭和14年(1939)生。結社:「菜の花」。「菜の花」同人。句集:「緑さす」

  抽斗の一つが開かぬ雛箪笥
  さくら咲く母校の窓の大きかり
  神送る男がひとり火を焚きて



1.受賞者の師系
 受賞者を輩出する師系がほぼ決まっている。加藤かけい系(環礁、潮騒)、内藤吐天系(早蕨、橋)、太田鴻村系(林苑)、小川双々子系(地表、韻、翼座)、森下草城子系(海程、木)、伊藤政美系(菜の花)である。会員も選考委員もこの師系に属する人ばかりだから、この結果になるのは当然だろう。中日作家会は東海地区現代俳句協会の母体となっていて、歴代東海地区会長は内藤吐天(当時は東海地区会議委員長)、小川双々子、森下草城子、伊藤政美氏である。

2.受賞者の生年
 生年不明の1名を除くと、受賞当時の受賞者の生年は、明治年代1名、大正年代19名、昭和0年代29名、昭和10年代21名、昭和20年代9名、昭和30年代2名である。近年の傾向から考えて、昭和20年代俳人の受賞が今後も続くだろう。

3.会員数の推移
 正確な会員数が記録され始める昭和35年度が165名。それから会員数は増え続け、平成9年度には327名、それから減少し始め、平成30年度は155名である。今後も毎年8名ほど減少していくと予想される。

4.現在の会員の生年
 平成30年度の所属会員の生年は、大正年代9名、昭和0年代48名、昭和10年代62名、昭和20年代30名、昭和30年代5名、昭和40年代1名である。ちなみに10年前、平成20年度の昭和30年代は1名である。10年で4名しか増えていない。昭和30年代の会員に男性はいない。

5.俳人と組織運営
 俳句をつくる能力と組織を運営する能力は違う。たいていの「俳句賞」は、作品に対する評価、俳人としての評価であるのが普通だ。しかし、組織を存続させていくのなら、組織を運営する人間が必要だし、育てなければならない。句会を開催し、俳誌を刊行するだけで、会員が増える時代は終わった。新規会員の獲得と既会員の退会防止対策を考え、実施する人間が必要だろう。

6.中日作家会の活動
 平成30年度の中日作家会の活動は、毎月の句会(参加者は会員)、毎月句会報発行(寄稿者は会員)、年刊句集刊行であった。
 ちなみに昭和49年度の活動内容は、毎月の句会のうち、8月は特別例会として三谷昭、高柳重信、赤尾兜子を迎えて講話及び選句選評。10月も特別例会として阿部完市を迎えて講話及び選句選評。11月は句会場を名古屋城に移し、小天守閣会議室内にて「名城観菊句会」を開催。
 句会報は会員の寄稿に加え、8月号は特別例会の講話(高柳重信、赤尾兜子)、10月号は「「時間」俳句のなかの」阿部完市寄稿、12月号は「年刊句集48年度読後」阿部完市寄稿。そして年刊句集刊行であった。

7.最後に
 中日作家会発足当時の事務局長の柳田知常(早蕨、橋代表、金城大学学長)の言葉で締めくくる。
俳句作家会はこれでいいのかという漠然たる不満は、やはり底の方に低迷していて、その低迷の渦は次第にその速度を加えて行くように見える。俳句作家会は、各結社の単なる連合体なのか、中部俳壇というものの政治的な実態なのか、純粋に文学としての俳句を追求しようとする研究団体なのか。幾つかの要素・性格を抱合しているのだとすれば、その要素・性格に従って会の仕事を分け、もっと機能的に車が廻転するようには出来ないものか」(昭和43年度年刊句集「中日俳句作家会の動向」より)