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極限状態の究極の選択『八甲田山死の彷徨』by新田次郎

2019年07月31日 | 雑感・日記的な
八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

~日露戦争前夜、厳寒の八甲田山中で過酷な人体実験が強いられた。
神田大尉が率いる青森5聯隊は雪中で進退を協議しているとき、大隊長が突然“前進"の命令を下し、指揮系統の混乱から、ついには199名の死者を出す。
少数精鋭の徳島大尉が率いる弘前31聯隊は210余キロ、11日間にわたる全行程を完全に踏破する。
両隊を対比して、自然と人間の闘いを迫真の筆で描く長編小説。
(内容紹介)より


猛暑日が続いているので、極寒の小説でも読もうと、前から気になっていた本書を借りてきました。

日露戦争開戦の直前に実際に行われた、「雪中行軍訓練」について描かれています。

青森県に展開する第八師団の幹部が揃って会議を開いているところから物語がスタートします。

無謀な軍上層部の暴走と、その非情な指揮によって有無を言わさず戦場に駆り出される兵士達の対比が、よく戦争ものの小説には描かれますが、本書は筆者が実際に行軍に同行したかのようなリアルな描写で描き出されています。

当時の日本陸軍の『将校>士官>兵卒』という階級絶対主義が随所に表れており、兵卒は自らの命の灯火が消えようとする、その瞬間まで、盾となって上官を守りぬくという軍人精神や、士族出身者と平民出身者の差別意識も根底に流れており、『一億人総平民』、『人類は皆平等』という現代では、到底考えられないことが徹底されています。

また、軍人・軍属と、一般庶民の格差のようなものも描かれており、とても興味深い内容です。

戦時下ではない訓練中の事故(ある意味では人災ともいえる)によって、尊い200名ほどの若い命が絶たれた現実を思うとき、平和であることの有り難さを感じずにはいられません。

読み終わった後に、巻頭に挟んである、八甲田山周辺の地図を見直したのですが、二つの隊が歩いた道程を見て、「これは、まさにとんでもない行軍であった!」ということを改めて思い知らされます。

組織を運営して、物事を進めていく中で、事前準備の大切さ、それでも起こってしまう突発的な事案に対する意思決定のプロセス、そして、容赦なく襲いかかる自然の猛威等々 ・・・。
現代社会を生きる我々にも様々な教訓を与えてくれる小説です!

★★★☆3.5です。

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