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台湾史がよくわかる『流』by東山彰良

2019年11月26日 | 小説レビュー
『流』by東山彰良

~一九七五年、台北。内戦で敗れ、台湾に渡った不死身の祖父は殺された。
誰に、どんな理由で?無軌道に過ごす十七歳の葉秋生は、自らのルーツをたどる旅に出る。
台湾から日本、そしてすべての答えが待つ大陸へ。
激動の歴史に刻まれた一家の流浪と決断の軌跡をダイナミックに描く一大青春小説。直木賞受賞作。「BOOK」データベースより


2015年の『第153回直木賞』受賞作品です。ちなみにこの年の芥川賞が又吉直樹氏と羽田圭介氏でした。

著者の東山彰良さんは、台湾生まれの作家さんで、1968年生まれで、9歳のとき日本に移住して来られました。筆名は、家族の出身地である中国の山東省などが「良い」との思いから『東山彰良』と名付けたそうです。

「いずれ家族の物語を書こうと思っていた」と語る東山さんのお父さんの実体験に基づくエピソードが満載で、台湾で暮らす庶民の目から見た、戦中戦後の台湾~中国史がわかります。

現在、香港におけるデモの映像がテレビから流れない日はありません。隣接する台湾と中国も非常に複雑な関係であるので、少し触れておきます。

~1894年日清戦争に敗北した清国は下関条約に基づいて台湾を日本に割譲、日本領として台湾総督府を設立。1945年の第二次世界大戦敗戦まで日本が統治。
中華民国政府は1945年の日本敗戦後、連合軍の委託を受けて台湾に軍を進駐させ、台湾を自国領に編入。さらに1947年に台湾省を設置し、台湾の統治体制を固めたが、中国大陸においては厳しい立場に追い込まれていた。
1946年から激化し始めた国共内戦(国民党政府軍VS共産党人民解放軍)は、当初は中華民国政府が優勢であったが、次第に人民解放軍が優位となり、中華民国政府は支配地域を中国共産党に奪われていった。
1949年になると急加速し、中華民国政府は4月に首都の南京を人民軍に制圧され、10月には中国大陸の大部分を制圧した中国共産党が中華人民共和国の建国を宣言するまでになった。
弱体化した中華民国政府は台湾への撤退を決定し、国家の存亡をかけて残存する中華民国軍の兵力や国家・個人の財産などを続々と台湾に運び出し、最終的には12月に中央政府機構も台湾に移転して台北市を臨時首都とした。
中華人民共和国政府は当初台湾への軍事的侵攻も検討していたが、1950年に勃発した朝鮮戦争に兵力を割かざるを得なくなった為、人民解放軍による軍事行動は一時的に停止した。
1951年に日本が連合国側諸国とサンフランシスコ平和条約を締結する。その中には日本の「台湾における権利の放棄」しか取り決められておらず、更には日華平和条約においても「台湾における日本の領土権の放棄」しか明記されていない。その為、現在に至るまで国際法的には台湾の主権移転対象(帰属先)については不明確な状態にあり、これを根拠に台湾の国際的地位はまだ決まっていないとする「台湾地位未定論」も唱えられている。
中華人民共和国は、1954年、1955年、1958年に台湾へ攻撃を再開し(台湾海峡危機)、1965年にいたるまで軍事干渉を続けた。以降、大規模な衝突にはいたっていないが、緊張関係は続いている。
 『台湾問題』ウィキペディア(Wikipedia)より抜粋

ということですね。

で、話を本に戻しますが、ストーリーとしては台湾版『ワイルド・ソウル』のようで、なかなか面白いのですが、いかんせん盛り上がりに欠けてしまうのは構成の拙さでしょうか?

 膨らみかけた興奮が、スゥーッと冷めていく感じ。それもその筈で、「・・・その後、〇〇とは別れることになるのだが」的なネタバレを自分でしてしまっているんですね。
また、回想と現実の境目がわかりにく、どうしても物語に「?」となってしまいます。
 
 人々のレビューには「登場人物の名前が覚えられない!」という苦情が多数届いていますが、「こんなもん!『半島を出よ』に比べたら楽勝楽勝!」と、それほど苦になりませんでした。

 ミステリーとしても、あと一歩。ハードボイルドとしても、あと一歩。という感じで、やっぱり実話を基にしているので、あまり突拍子もない展開は難しかったんですかね?

 それはそれとして、小説としては中々読ませてくれますし、台湾で暮らす人々の複雑な感情のもつれなども良くわかりました。読んで損はない作品だと思います。

★★★☆3.5です。