二葉鍼灸療院 院長のドタバタ活動日記

私が日頃行っている活動や、日々の鍼灸臨床で感じたことなどを綴っていきたいと思います。

妊活と鍼灸~ストレスの軽減を考える ①~

2022年01月21日 | 不妊症

 昔から、一年で一番寒いとされる大寒に記事を書いています

 金沢も雪が降っています。大寒というのは二十四節気の一つですが、自然の中から編み出され、人々が気候に則って生活するためにつくられた暦です。本当にうまくできているな~といつも思うのです。

 そんな寒い中でも、人間の身体は日々刻々と新陳代謝を繰り返しながら生命を営んでいます。

 女性の生理周期も同様です。

 約28日周期でおとずれる生理周期。この生命を育むシステムは、乱れる方々もおいでですが、初潮から閉経まで呼吸や心拍などのように意識することなく身体の自動システムとして粛々と行われます。

 

 当院においては、妊活のための鍼灸、妊娠しやすい身体づくりのための鍼灸にも力を入れて実施しています。

 私が本格的にこの分野に力を入れ出したのは20年前です。一番最初に体外受精で妊娠出産されたお子さまが今では大学1年生で、時々、鍼灸を受けに来院されます。すごく感慨深いものがあります。

 

 さて、今回この妊活におけるストレスあるいはストレス対応(メンタルヘルスケア)という部分をピックアップします。
 私は鍼灸施術を行いながら、果たして鍼灸は妊娠のどこの部分に効果があるのか、そして不妊クリニックが行う治療のどこの部分のサポートができるのか、鍼灸を受けに来ていただける方に効果として何を提供できるのか、という事をいつも思いながら施術しています。

 そこを考えるとストレス対応という部分に関しては、鍼灸施術が大きく関わっていけるだろうと感じます。
 それは、これまでの不妊症の患者さんを施術してきた経験と、東洋医学研究所で修行・研修した当時から自律神経失調や不定愁訴の研究や勉強を通じて学ばせていただいた事から、対応できる可能性は充分あると感じます。

 

 さて、不妊症に取り組まれているご夫婦には様々なストレスが存在します。

 今回は、不妊に関するストレスをみていき、パート2では、不妊女性の精神的ストレスに対する鍼灸の有用性について書かせていただきます。

 

 その前に、不妊に関する最近の状況についてのトピックをみていきます

 

不妊に関する最近のトピック

 実際に不妊の検査や治療を受けたことがあるご夫婦は、全体で18.2%、子どものいないご夫婦では28.2%で、これは夫婦全体の5.5組に1組に当たります。(国立社会保障・人口問題研究所の第15回出生動向調査〈2015年〉による)

 不妊の増加の原因は一つではありませんが、ライフスタイルや価値感の変化、晩婚化があげられます。

 2017年の体外受精治療件数は約448000件、出生数は5万6617人が体外受精にて生を受けました(全赤ちゃんの約16人に1人)。2019年の体外受精治療件数は約458000件、出生数は6万598人(全赤ちゃんの約14人に1人)となっています。(日本産婦人科学会 倫理委員会 登録・調査小委員会のデータより)

 出生数は全体に減少していますが、体外受精件数やその出生数は増加しています。

 ART(高度生殖補助医療)における出生数のうち、5万4188人とほとんどが「凍結融解胚」によるものです。(上記委員会による)

 IVF(体外受精)の総件数の年齢は、38歳から42歳が35000件を越え、40歳が頂点(約38000件)となる山型のグラフとなります。(上記委員会による)

 IVFによる妊娠率は、20代後半から32歳までは45%前後を推移し、33歳では約43%と45%をきり下降が始まり、37歳には約38%と40%をきり、そこからの下降幅は急となり、40歳では約28%、43歳では約16%、45歳からは約8%となります。(上記委員会による)

 日本の体外受精実施件数はアメリカを抜いて世界第1位です。それに対し採卵1個あたりの出産率は調査国中で世界最下位になっています。体外受精を受けた女性の年齢を国際比較(2011年)すると、40歳以上の割合は、ヨーロッパ諸国では11~16%、アメリカ大陸では22~23%、オーストラリアでは28%、に対し、日本は44.7%と倍近い割合になっています。(国際生殖補助医療監視委員会〈ICMART〉の2018年報告)

 体外受精実施件数の割に出産に結びつかないのは、大きな原因として晩婚化による生殖開始の遅れがあるのは間違いありません。これに関しては不妊症の正しい理解とともに、生殖や性に関する教育を学生のうちに行うことが必要ですし、社会をつくっていくのは人であり、その根本である生殖や性を、医療だけではなく社会全体の問題として捉えて問題を解決していく必要があると感じます。

 IVFによる流産率は、20代後半から30歳までは15%前後を推移しますが、そこから年齢を増す毎に率は高くなり、40歳では32.9%、45歳では60%となり40歳を越えると急激に増加します。(上記、登録・調査小委員会による)

 IVFによる出産率は、20代後半から32~33歳までは30%前後を推移しますが、そこから下降をはじめ33~38歳までは下降しながら20%を維持しますが、39歳には16.9%、40歳では13.4%、42歳からは7%となります。(上記、小委員会による)

 

 これらはあくまでも統計的な数字であり、現在の不妊治療の現状の一端を示しています。

 治療中の方は、「あー、私の可能性はこんなに低いんだ~」と捉えるのではなく、子どもを授かる可能性が広がった中での現状の数字を理解しながら、ご自身の不妊治療に活かしていくことが大切であると思います。

 不妊専門クリニックでは、ご夫婦個別に何が原因か、こうすれば治療が成功するのではないかという所を毎回工夫を行いながら不妊治療を行っております。その限界と可能性の両者を理解しておくことは、妊活期間の身体と心の両面の在り方として大切だと私は理解しております。

 これらを理解しておけば、それでは不妊で悩む当事者自身として何が大切か、出来るのかと言うことが見えてきます。
 まず出来ることは、自分自身の身体を健全に保つことです。運動すること、食事に気を配ること、睡眠をしっかりとること、ゆっくり休む時間をつくること、笑顔は多めに等、不妊に限らず、健康を保つために基本的な事柄を実践することが、どんな場合にでも身体づくりのベースになるということです。

 人事を尽くして天命を待つです。

 あっ、完璧でなくてもいいですよ。笑

 

 さて、ここから不妊女性の心理的ストレスをみていきます。

 

不妊女性の心理的ストレス

1.自己意識から生じるストレス

 今の世の中、価値感は多様です。皆が同じでなくてもいいのです。しかし、女性には子どもを産むことができるという男性にはない能力がほとんどの方に存在します。これは女性に共通する人類の価値です。

 結婚ー妊娠ー出産ー子育てを理想とする女性が多いのは当たり前かもしれませんが、反面、その過程で、妊娠しないことで女性としての能力の喪失、親になる能力の喪失、自身の身体に対する信頼の喪失、自己コントロール感の喪失など多くの喪失を味わいます。

 自分を責めてしまいます。

 それに拍車をかけるように、これだけ情報が発達した現代の日本の社会でも、「女性は子どもを産んで一人前」「子どもを産むのが当たり前」という伝統的価値感がなお根強く存在しています。それにともなう不妊のご夫婦への心ない言葉もよく耳にするところです。不妊に対する一種の差別や偏見は今しばらく続くのかもしれません。

 

2.社会との関わりで生じるストレス

 多くの人は、不妊治療を行っていることを、自分が関わる全ての人に話すことができないのが事実です。それは友人や家族、親族にもそうであり、会社勤務されている方は、直属の上司にだけ話を通してあるという話もよく耳にします。

 そんな状況の中で何気なく「子どもはまだ?」という言葉が会話に出てくることがあります。相手は会話の中の何気ない一言であっても、本人は自己意識から生じるストレスの劣等感や罪悪感を刺激され悲しみに暮れることもあります。

 また友人からの妊娠の報告や年賀状の家族写真を素直に喜べない、職場や友人との雑談での子どもの話題に耐えられない状況に陥り、距離をとってしまい、疎外感や孤独感を感じるケースもあります。そんな自分自身に落胆してしまいます。

 

3.治療によるストレス

 近年では不妊治療の原因の約半数が男性側にあるとの数字が出ています。精索静脈瘤や精子に原因がある場合は手術やその治療を行わないといけませんが、検査から治療、結果を待つ過程においては圧倒的に女性側の負担が大きいことは理解できるかと思います。

 子宮卵管造影検査は痛みを伴うことが多いです。経膣超音波検査での毎回の卵胞計画は内診台での検査ですので羞恥心を伴います。タイミング療法では夫婦関係の日のおおよそを指定されるため、性欲にしたがったセックスではなく、律動的で形式的な行為になってしまうこともあります。仕事や時間の都合でタイミングが合わずその日にセックスができなかった場合は夫婦間に葛藤が生じることもあります。いわんや人工授精、体外受精ともなるとセックスと生殖は別のもののようになり、いつの間にかセックスレスになることもあります。

 不妊治療期間中は、特に女性において検査や治療、その結果により多くのストレスに晒されます。

 専門クリニックでの不妊治療を始めたらすぐに妊娠できると思っているご夫婦も多いと思いますが、全ての方が簡単に妊娠、出産できる状況ではないため、上記のトピックのような状況になっています。

 タイミング療法から始まり人工授精、体外受精へとステップアップしていく場合もありますし、検査結果によってはすぐに体外受精へ進む場合もありますが、妊娠、出産までは長い年月を要するご夫婦もおいでです。
 治療期間中、妊娠への期待で気分が高揚しますが、月経が来る度に気持や気分が乱降下しますし、治療期間が長くなればなるほど、見通しが立たず真っ暗な出口の見えないトンネルを進んでいるような気分になります。

 不妊治療期間や年齢を考えて、どこで治療を終結させるかという問題も出てきますが、これも大きなストレスとなります。
 妊娠・出産が難しい場合、卵子提供か、里親や特別養子縁組制度か、子どもを諦めるか、そんな選択に迫られるポイントが必ず訪れます。

 令和4年4月から、生殖医療においても保険適用になるということですが、まだ内容を把握していないので何とも言えませんが、現在、不妊治療を行うご夫婦の大きな経済的助けとなっている「特定不妊治療費助成制度」がなくなるという話題も出てきています。

 そう、経済的負担も大きなストレスとなります。1回の胚移植までの検査や治療の経済的な負担も多額です。長年治療を継続されている方は、総額が高級乗用車1台を簡単に購入できるほどの治療費となります。それくらい、妊娠・出産にかける思いが強いということなのです。

 

 不妊のご夫婦とくに女性側の大きく強いストレス環境がご理解できたかと思います。
 個人差はありますが、大なり小なりストレスを受けることで、心身に影響が出る=妊娠を妨げる要因となったり、様々な不定愁訴が出現するだろうことが予測できます。

 

そんな中で鍼灸治療で何ができるのか・・・

 これがパート2での話題となります。

 不妊女性の精神邸ストレスに鍼灸で何ができるのか、鍼灸で何が変わるのかを書かせていただきます。

 鍼灸以外の方法も少し書くことができれば書いていきたいと思います。

 

 それでは、パート2でお会いしましょう

 最後までお読みいただき、誠にありがとうございます

 

二葉鍼灸療院(金沢)


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