ミチロウさんの死をネットニュースで見た瞬間、私は空を見上げた。
ショックとともに諦めざるを得ない思いから広がる真空状態にでもなったかのようになり、そのまましばらく空を眺めた。
ミチロウさんの病気を知ってから、すい臓ガンではなかなか難しいと思っていたが復帰を陰ながら願っていた。
アピア40の店長のレイ君にはこの前のライブの時もミチロウさんの芳しくない様態を聞いていた。
昨日6月のアピア40の出演日を聞くために電話すると、レイ君がちょうど出たのでミチロウさんのことを少し聞いた。
レイ君とミチロウさんの彼女さんだけがミチロウさんを看取ったとのことだった。
誰も見舞いなどは来てほしくなかったミチロウさんの願いをレイ君はしっかりと守ったらしい、最期まで震える手で何かを書き留めたりしていたがとても穏やかな死だったとのことだった。
ミチロウさんは私のことなど覚えていないだろうが、一度だけアピアのママの通夜の時に少し話したことがある。
ステージとはまったく違った、謙虚で物静かな印象を私は持った。
ママにもうずっと前にミチロウさんのことを聞いたことがある。
ある時、ミチロウさんが「もう化粧を辞めようかと思っている」と言うと、ママは「ミチロウ、あんたが化粧しなくてどうする!」と発破を掛けたらしい。
「ミチロウね、この前、ライブの途中に一弦が切れて、それが目に刺さり、でも白目のところだから良かったんだよ。一年中いろんなところに一人で歌いに行っている。PAもないところも。自分で音を作ったりしているんだよ。すごいでしょ」とママはミチロウさんを教えてくれた。
私は勇者の話しを聞く子供のようにママからミチロウさんの話しを聞いた。
今ごろ、ミチロウさん、天国でアピアのママと会っているかな?
ママはこう言いそう「ミチロウ、ちょっと早いんじゃないの?」と。
ミチロウさんはただ照れて笑っていそう。
レイ君はミチロウさんの音楽葬を考えていると言っていた。
「ミチロウさんはスターだから、アピアでは小さすぎる」のでアピアではないところでやるようだが、アピアでもしたいとのことだった。
ご冥福を祈ります。