A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

未読日記128 「囚われの女Ⅱ」

2007-11-12 23:01:24 | 書物
タイトル:失われた時を求めて10 第五篇 囚われの女Ⅱ
著者:マルセル・プルースト 鈴木道彦訳
装丁:木村裕治
カバー画:キース・ヴァン・ドンゲン「アルベルチーヌとアンドレ」
発行:集英社/集英社文庫ヘリテージシリーズ
発行日:2007年1月24日
内容:
「でもアルベルチーヌさんはお聞き入れにならないんです。このお手紙をお坊ちゃまにとおっしゃって、九時にお発ちになりました」
(本書帯より)

語り手はシャルリュスの主催するヴェルデュラン邸での夜会に赴く。この夜会でヴェルデュラン家の人びとは、シャルリュスとモレルを引き離すための陰謀を企み、シャルリュスは追われるようにヴェルデュラン家を去っていく。語り手とアルベルチーヌの、嫉妬と倦怠の交錯する生活。語り手は、アルベルチーヌと別れて憧れのヴェネチアに行きたいという気持ちを強めるが、そんなある日、突然、アルベルチーヌは失踪する(第五篇Ⅱ)。
エッセイ:姜尚中
(本書カバー裏解説より)

購入日:2007年11月4日
購入店:紀伊國屋書店 渋谷店
購入理由:
解説を読むと語り手とアルベルチーヌとの関係もいよいよ終りを迎えそうな「囚われの女Ⅱ」。恋愛における嫉妬と倦怠の考察はうなずくばかりの思考の軌跡を堪能させてくれる。このエピソードが味わえるのもここまで読み進んできた読者だからこそ、この思考が確かな手ごたえとともに読むことができるのだろう。
今日読んだ一節は語り手がヴェルデュラン家でシャルリュス氏が主催するヴァントゥイユの七重奏曲の演奏会を聞くくだりだ。その楽節を描写する言葉の連なりは、見えない音を記述する文章として「言葉」による「音楽」だった。朝、仕事に向かうバスの中でこのような文章から一日を始めることができるのは気持ちがいい。可能ならこのまま読み進んでいたいところだ。
余談だが、松明堂ギャラリーで行われている<松明堂「文庫」展 オリジナルカバーとブックオブジェ>において石塚雅子さんが「失われた時を求めて」にオリジナルカバーを制作している。集英社文庫版の装丁にあまり愛着のない私としては、石塚雅子装丁版で「失われた時を求めて」が出版されていたら、もっと早く手に取ったのにと思う。書店の平積みで見かけたら、自分ならきっとすぐ買ってしまうことだろう。集英社文庫版の装丁に不満足なら、デザイン的にはずっと品のあるちくま文庫の井上究一郎訳を読めばいいではないかと言われるかもしれないが、新訳の興味もあって集英社文庫を手に取り、10巻まで進んでいまさら乗り換えるのはもう遅い・・・。

未読日記127 「昭和イデオロギー」

2007-11-10 00:07:36 | 書物
タイトル:昭和イデオロギー 思想としての文学
著者:林淑美
装幀:東幸央
発行:平凡社
発行日:2005年8月18日
内容:
戦いの場・賭け金としての文学

この時代を貫くイデオロギーの諸形態。
中野重治、戸坂潤、坂口安吾、‥‥‥
思想としての文学の戦いのうちに、
小林秀雄、堀辰雄、‥‥‥
支配的言説への加担と対抗のうちに、
<奉載>という制度をはじめ、イデオロギー的支配の延命策と
支配的イデオロギーの再生産のからくりを読み取る。昭和という時代の
暗い意味と可能性を浮かび上がらせる果敢な試み。
(本書帯より)

購入日:2007年11月2日
購入店:まつおか書房
購入理由:
東京都写真美術館において開催されている<昭和-写真の1945-1989-第4部「オイルショックからバブルへ」昭和50年代以降>展のための参考図書として。全4部のこの展覧会もいよいよ最終回。第1部の「オキュパイド・ジャパン(占領下の日本)」のときは同時期に行われていた、<モダン日本里帰り 大正シック-ホノルル美術館所蔵品より->展(東京都庭園美術館)を見た。連続して見たことで大正~昭和にかけての美術・写真・時代の様相が立体的に浮かび上がり、過ぎ去った「時代」を検証する試みとして興味深かった。
ならば、最後となる<昭和>展の予習・復習として今度は文学と写真を交差させてみようということで、以前から読んでみたかった林淑美氏の「昭和イデオロギー」を手に取った。私が引っかかりを憶える作家は小林秀雄と坂口安吾だが、それ以外の林氏の専門である中野重治なども本書を通じて文章に触れてみたい。そのテキストの裏には<昭和>展で見てきた/見るであろう「昭和」の映像・イメージが置かれることになるだろう。

未読日記126 「セザンヌ 4つの魅力」

2007-11-08 23:16:24 | 書物
タイトル:セザンヌ 4つの魅力-人物・静物・風景・水浴-
編集:石橋財団ブリヂストン美術館
執筆:島田紀夫(石橋財団ブリヂストン美術館館長)
   田所夏子(石橋財団ブリヂストン美術館)
表紙デザイン:アウトサイドディレクターズカンパニー
発行:石橋財団ブリヂストン美術館
発行日:2007年10月6日
金額:¥800円
内容:
2007年10月6日-11月25日に東京・ブリヂストン美術館において開催された特集展示「セザンヌ 4つの魅力-人物・静物・風景・水浴-」展の図録。

論考
「セザンヌ 4つの魅力」島田紀夫

購入日:2007年10月28日
購入店:石橋財団ブリヂストン美術館 ミュージアムショップ
購入理由:
前田英樹氏の「セザンヌ 画家のメチエ」を読んでいたところ、ブリヂストン美術館においてセザンヌの展覧会をやることを知った。タイミングがいいので、見に行き前田氏の「絵画の二十世紀」(NHKブックス)も購入し、セザンヌについて考える場にしたいと思い図録を衝動買い。安かったため軽い気持ちで買ってしまったが、あとで見返してみると買わなくてもよかったかなと思ったりもした。
とはいえ展覧会はよかった。久しぶりにブリヂストン美術館所蔵の「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール(1904-06)を見て、こんないい絵だったかと思う。ひろしま美術館所蔵の「曲がった木」(1888-90)では画面の隅々まで見ても見ても見飽きない。まなざしの持続力を保つ力がセザンヌのタッチにはある。セザンヌの絵の前に立つことでしかわからないこと。その感覚は絵を見ている間しかなく、一度美術館を出てしまうとなんだったかのよくわからなくなる。これが画家のメチエというやつか。また、セザンヌを見よう。


未読日記125 「絵画の二十世紀」

2007-11-06 23:23:58 | 書物
タイトル:絵画の二十世紀 マチスからジャコメッティまで
著者:前田英樹
口絵・章扉デザイン:宮口瑚
カバー:Palette(wood) by French School(19th century)
発行:日本放送出版協会 NHKブックス996
発行日:2005年2月10日2刷(初版2004年4月25日)
内容:
絵画の秘密を解き明かす!
マチスの<色>、ジャコメッティの<線>‥‥‥
視覚ではなく感覚で描くとは?創造の謎に迫る
(本書帯より)

[写真以後、絵画はどう変わったのか]
絵画は何のために在るのか?
写真の登場によって、二十世紀の画家たちは
物を見た目そっくりに描くことを超えて
絵画の新たな役割・手法を模索する。
視覚によらず感覚を通して
世界の在るがままの姿を把握し描こうとした
マチス、ピカソ、ルオー、そしてジャコメッティ。
この困難な課題に挑んだ彼ら四人の軌跡を通して、
二十世紀絵画に明快な鑑賞の指針を与える力作。
(本書カバー裏解説より)

本書をすいせんします 保坂和志(作家)
写メールやデジカメなど、視覚を記録する機械はどんどん進化しているけれど、私たちは撮るだけで見ていない。機械は<見る>ことを妨げ、私たちは<経験>として蓄積されない平板な時間を生きることになる。前田さんは、画家の感覚と思考に分け入り、<見る>とは世界が語りかけてくるものに向かって、自分を開くことなのだと教えてくれる。見えないものまで見ること、それが本当の<見る>なのだ。本書によって、世界の、人間の、物の、別の次元が開かれたと思う。
(本書帯より)

購入日:2007年10月28日
購入店:ブリヂストン美術館 ミュージアムショップ
購入理由:
待望の前田英樹本。以前から保坂和志氏のコメント推薦文により読みたいと思っていたが『セザンヌ 画家のメチエ』(青土社)、『倫理という力』(講談社現代新書)、<鈴木理策 熊野、雪、桜>展トークショーを経ていよいよ満を持して本書を手に取った。本を読むにはタイミングというものがある。今回は、前田氏の美術関連の著作において重要な位置を占めるセザンヌが、偶然にも東京のブリヂストン美術館において展覧会が開催されていたため連動して読むとよりセザンヌ及び絵画について考える機会になるのではと思い、展覧会に出かけた際に購入した。本当は事前に読もうと図書館で借りたのだが、目次を見た段階でこれは付箋、書き込みが多くなると判断し購入することにした。したがって、予習として本書を読んでから展覧会に行こうと思っていたのがずるずる延びて、実際に読めるのはいつになるやら。「絵画は何のためにあるのか」という設問も難題だが、以前の著作でも見られた前田氏の「在るもの」に対する絶対的な信頼、見えないものまでも見ようとする見ることから逃げない姿勢に、本書はどのような思考を展開していくのか、いまは本書を読むことを楽しみたい。

音楽論009 「i must stop making plans」

2007-11-05 23:58:31 | music
タイトル:i must stop making plans
アーティスト:always the runner
発売:FABTONE RECORDS
販売:メディアファクトリー
発売日:2007年10月3日
内容:
2003年ルイジアナ州の州都であるバトンルージュにて、ex-McCloudのエリックとチャド、ex-Silkoのギャレットとイアンの4人により結成されたAlways The Runner。ヴァース→コーラス→ヴァースというポップ・ミュージックとしての楽曲構成を打ち砕く為にスタートさせたというそのコンセプトに習い、繊細なアルペジオを基軸に、必要最低限の音色&構成で眩い音像を次々と生み出すことに成功していった彼等は、2004年、Myla and Velora Recordingsより「Always The Runner EP」でデビュー。メンバー自身が立ち上げた小さなレーベルからのリリースにもかかわらず、このデビュー作からExplosions in the Sky、Godspeed You Black Emperor、Mogwai等の名を比較に出されるほどの高評価を手にすると、Owen、Early Day Miners、The Mercury Program、The Six Parts Sevenいったポスト・ロック/スロー・コア界の人気バンド達だけでなく、The Appleseed CastやMock Orange、Engine Down、Hey Mercedesといったエモ・シーンの大御所バンドとも次々共演。翌2005年リリースのSnowbeastとのスプリット盤(ジャパニーズ・ポスト・ロック界の雄、te’のアメリカ盤をリリースしたことでも有名なStatus Quo Audioからのリリース)、1stフル・アルバム「August Golf」のリリースを経て、アメリカ南部のインストゥルメンタル・ロック・シーンを引率するまでの人気バンドへ成長していった。そして2007年10月、流通の悪さから、日本では限られた手段でしか入手不可能であった彼等の作品が、ベスト盤という形で遂に全国流通がスタートする。
(帯より)

収録曲
01.Miles 
02.You're Jumping Across Mountains
03.I Thought I'd Find You Here 
04.A Falconer's Prayer
05.Speaking Of Paliminos 
06.Telling Lies Over Lattes 
07.Lets See If Those Bastards Can Do 90!
08.An August Golf pt.1 
09.The Closest I Ever Came To Lightning
10.Something Important Happened In Falls Church 
11.An August Golf pt.2
12.Don't Kill the Messenger

公式サイト:XTAL RECORDS

購入日:2007年10月28日
購入店:HMV SHIBUYA
購入理由:
渋谷のHMVにていろいろな音楽を視聴し続けていた時、1曲目のイントロを聞いた時から惚れ込んで衝動買いしてしまった1枚。さんざん迷った挙句購入することにした。アメリカのポストロック、インストゥメンタル・ロックシーンというのはなかなかいいバンドがいるものだと思う。というより、いい音楽があっても自分が知らないだけで、世間には知られていないがいいものというのはどういうジャンルにもあるのだろう。文学、美術、映画もそうだが、読まない見ない聞かない人に限って批判したりするものだ。知れば知るほど自分の判断基準に揺さぶりをかけられるが、知れば知るほどその領域に魅せられていく。知識や教養というのは余計な知識を植えつけ、自分の判断や興味を狭めるというのは大きな勘違いで、実はより多くの扉を開けるものだろう。失敗することもあるだろうが、その失敗も含めて「知ること」はおもしろい。ちなみに、このCDの後半はちょっと飽きがくる感じで残念。1曲目「Miles」は自分好みのアルペジオギター炸裂のポスト・ロックで最近のヒット。

音楽論008 「LAST LIGHT」

2007-11-03 00:00:52 | music
タイトル:LAST LIGHT
アーティスト:MATT POND PA
レーベル:YOUTH
発売日:2007年10月24日
内容:
デビューから9年の年輪を重ねた、SSWマット・ポンド率いるクインテットによる、真のエモーショナル・ソングスが詰まった7thフル。
ニューイングランド出身、フィラデルフィアを経て、現在はブルックリン在住のシンガー・ソングライター、マシュー・ポンドを軸にした、流動的なメンバーによるバンド。現在は5人組。2年ぶり、7枚目となる本作では、彼らの大きな特徴であった叙情性の高いストリングスやフラジャイルな浮遊感よりも、より骨太でソリッドなロック・バンド・サウンド、そして、“うた”が完全に前面に出て、聴く者を圧倒する。長くアンダーグラウンドな活動をしてきた彼らが、現在、USの主要都市では1,000人規模のホールもソールドアウトにしてしまうという状況に対峙し、そこから決して逃げることなく、辿り着いた回答として、あまりにも完璧すぎる13曲。
(帯より)

購入日:2007年10月28日
購入店:HMV SHIBUYA
購入理由
友人からのススメにより購入。解説によると以前はストリングスを用いたフラジャイルなサウンドを展開するバンドだったようだが、今作ではロックサウンドで、叙情性のあるサウンド好みとしては少々意外だった。だが、聞き続けるうちにドライブ感のあるパワーポップに身体が反応してきて清々しい気持ちになる。まだ、自分がロックを聞ける若さがあることに自分で驚く。こうなると、今作以前のアルバムも聞きたくなる。おまけに12月に初の来日公演もあるという。行きたいところだが仕事で行かれないのが残念でならない。爆音で聴きたいものだ。

やや話はそれるが解説に引用されている彼らが“影響を受けた音楽”というのがユニークで、音楽以外にも映画、野球、文学などジャンルにこだわらず選ばれている。その中からバッハ、ケイト・ベッキンセール、ニール・ヤング、ジョン・カサヴェテス、ジョン・レノン、トルストイ、ステレオラブには私も同感・共感する。とくに映画監督ジョン・カサヴェテスを上げているところがすばらしい。日本では一般的にはほとんど知られていないが、幸福で濃密な映画体験をさせてくれる稀有なアメリカの映画作家だけにその名前を挙げているだけで同志を見つけた気がする。

未読日記124 「狩野永徳」

2007-11-01 22:39:26 | 書物
タイトル:狩野栄徳
編集:京都国立博物館
デザイン:株式会社エヌ・シー・ピー+ツムラグラフィーク
発行:毎日新聞社NHKNHKきんきメディアプラン
発行日:2007年10月16日
金額:2500円
内容:
平成19年10月16日(火)より11月18日(日)までを会期として、京都国立博物館、毎日新聞社、NHK京都放送局、NHKきんきメディアプランが主催する特別展覧会「狩野永徳」の解説付総目録。(p.28 本書凡例より)

論考
「狩野永徳の生涯」山本英男(京都国立博物館保存修理指導室長)
[図版]
墨を極める
永徳と扇面画
為政者たちのはざまで
時代の息づかい-風俗画-
桃山の華-金碧障屏画-
壮大なる金碧大画

ほか作品解説、関連作品、史料、落款・印章、年表、参考文献、出品目録収録。

購入日:2007年10月27日
購入店:京都国立博物館
購入理由:
今年春から待ちに待った本年度最大の「特別展覧会」。大げさだが今年はこの展覧会を見るまでは死ねないと思っていた(実は展覧会を理由に秋の京都に行きたかったのが本当の理由なのかもしれないが)。
約320pの大作図録というだけで、この展覧会にかける美術館の意気込みが伝わってくるが、内容もお腹いっぱいになるボリュームある展覧会だ。
新聞の一面で取り上げられたことでも話題になった今年の美術界の事件といえる永徳新発見の「洛外名所遊楽図屏風」もこの展覧会で初公開。戦火によりその作品の多くが消失したため回顧展を開くことは困難とされてきた狩野永徳の全貌がいま明らかになる。
<唐獅子図屏風>、<檜図屏風>などダイナミックでエネルギッシュな奇想感ある画面構成は見る者を圧倒する。こってりとした肉汁したたるハードコア金碧大画の傑作。そうかと思えば<洛中洛外図屏風>などでは金雲の間から洛中洛外の市井の人々を繊細に丁寧に描き出していく。こちらはさっぱりとした京料理の繊細さでヒューマンストーリーの傑作を作り出した。忘れてはいけないのは水墨画だ。<花鳥図襖>のどこまでも伸びていくような枝の動き、大木のツイストするような身ぶりを目撃できることはこの展覧会に足を運んだ者だけが得られる特権である。
その画業は驚くほど多様でテクニシャンな狩野永徳。では、なぜいま狩野永徳なのだろうか。永徳の作品は安土城、大阪城、聚楽第など特定の場所に飾るため描かれたものだ。それも時の権力者信長、秀吉に重用された絵師だ。そのスケール感、豪壮華麗な画面は現代の美術には消滅してしまったと言ってもいい。そんな時代だからこそ狩野永徳が召還されたのかもしれない。私たちは狩野永徳の短い帰還に、恐れおののきながらその作品の前に立ちすくむしかない。

なお、京都国立博物館では来年4月に「河鍋暁斎展」、2010年には「長谷川等伯展」を予定しているという。いま、京都がすごいことになっている。