大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・070『いよいよクリスマスイブの集い』

2023-12-24 10:54:51 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
070『いよいよクリスマスイブの集い』   




 フォークの集いはテスト休みの日にもやった。

「連続してやらないと、肝心の本番で尻すぼみになってしまうからね」

 真知子はえらい。

 昨日は、佳奈子がバレーの試合で抜けたけど、代わりに4組の子たち三人。他のクラスが四人。うちのクラスからも委員長の高峰君も来てくれて、こじんまりだったけど、充実してた。

「そこじゃ寒いでしょー、良かったらこっちおいでよー!」

 天の声かと思ったら、三階の音楽室から声がかかる。

 一瞬だれだか分からないんだけども、ロコが「あ、峰岸先生ぇ!」と友だちのように手を振って、音楽の先生だと知れる。

「アハハ、みんな頬っぺた真っ赤っか( ´艸`)」

 音楽教室に入った途端、みんな赤頬のトナカイ。

 眼鏡の子が二人いて、その子たちは眼鏡も曇って、高峰君は温度変化に弱いのか、鼻がズルズル。

「わたし、三時で帰るから、それまでなら楽しく使って」

 そう言って準備室へ。

「下に張り紙してきます!」

 ゴミ箱に突っ込まれていたカレンダーを見つけると、マジックインクで「音楽室でやってます フォークの集い」と書いて張りに行く。

「じゃ、明日に備えてクリスマスソングからいこうか!」

 おお!

 赤鼻のトナカイから始まったのは言うまでもありません(^_^;)

 そのあと、ロコの張り紙を見て加わってくれた人もいて、二時間ちょっとイブの集いの前夜祭をやった。


 そして、終業式の昼、予定よりも三十分も早くイブの集いが始まった。


 なんと峰岸先生が「わたしも参加させて!」ということでアコーディオンを担いで加わってくれた。

「ちょっと音合わせ」

 10円男のギターと合わせていたら、待ちきれないみんなも歌い出して、自然に30分のフライング。

 真っ赤なお鼻のトナカイさんは~(^^♪(^▽^)(^^♪)

 とっても自然なフライングで、開始時間には中庭は人でいっぱいになった。

 フライングして始まったので、照明や音響が間に合ったのは予定の開始直前。ライトが付いてマイクが生きてくると、とたんにライブの感じ。

 うわあぁぁぁぁ!

 例のかがり火というかファイアーストームの火が点くと歓声があがった。

 かがり火は、前よりも進化していた。

 火はチロチロ揺らめくし、火の粉まで飛んでるし、パチパチとかボウボウとかの音もしてるし。
 かがり火の後ろに人がいると思ったら、部長の牧内千秋さん。
 黒のジャージは裏方のコスなんだろうね、背中の『宮之森高校演劇部』のプリントに心意気を感じた。

『遠い世界に』『この広い野原いっぱい』『受験生ブルース』『友よ』と立て続けにフォークの集いでお馴染みの曲が続いて、とっても雰囲気!

「さあ、次は『ドレミの歌』いきまーす!」

 これは予定にはない。

 でも『エーデルワイス』は何度もやってたし、みんな、わたしと違って映画の『サウンドオブミュージック』を観てるから、瞬間でテンションマックス。
 指示もしてないのにみんなで肩寄せ、左右に揺れてリズムをとるところなんか、本当にミュージカルのワンシーンみたくなった!

 たーて飢えたる者ーよぉ♪ いまーぞ日は近しぃー♪

 なんか違うフレーズが混じって――あれ?――と思ったら、急にみんなの歌声も萎んできた。

 え、え、なに?

 わたし一人状況つかめずにいると、みんなの視線は校舎の屋上に。
 
 学園紛争の生き残りたちが嫌がらせにハンドスピーカー使って歌ってる。

 十円男は峰岸先生に一言告げると、校舎の中に駆けて行った。

「さあ、みんなアップテンポで行くわよッ!!」

 顔中口にする感じで言うと、峰岸先生のアコーディオンは行進曲みたいなテンポでドレミを奏で、高峰君はギターを引き受けた。かがり火も勢いを増し、みんなのマナジリも上がって、なんだかプロテストソングみたくなってきた!

 海を隔てつ我らー腕(かいな)結びゆーく! いーざ戦わーん いーざ!

 ドォはドーナツのドォ! レェはレモンのレェ! ミィはみんなのミィ!

 おおインタナショナール! 我ぇらがものお!

 ファはファイトのファァ!! ソォは青い空ぁぁぁぁ!!


 その次は聞こえてこないで、無事に『ドレミの歌』を大合唱し終えた。


「つぎ、『青年は荒野を目指す』いっきまーす!」

 真知子が指を立てると静かに前奏になった。


 君のー行く道はー果てしなーく遠いーー


 最初の歌い出しのところで、頬を晴らし鼻血を拭きながら10円男が戻ってきた。ボロボロになって戻ってきた。

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!

 一斉に拍手が起こって、戸惑う10円男。

 みるみるうちに腫れた目から涙がポロポロ零れた。

 君は 行くのかぁ そんな~にしてーまでぇ……

 最後のフレーズでは、みんなの中からもすすり泣く声が起こった。

「ここは笑顔だよぉ!」

 手をメガホンにして叫んでやると、奴はひきつりながらも拳を上げて笑顔を向けた。

 満面の笑顔になったその顔、前歯が一本欠けていた。

 悪いけど、とってもマヌケ面。

 でも、みんなも泣くの止めて笑顔になって、タイミングよく雪もチラホラ降って来て、最後は予定通り『エーデルワイス』を大合唱して昭和45年のクリスマスイブを迎えたよ。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第29話《成人式と蝉の抜け殻》

2023-12-24 06:52:04 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第29話《成人式と蝉の抜け殻》さつき 




 来年の成人式には出ないだろうと思った。


 去年の成人式は大荒れだった。暴走族が早くから集結し、式の最中に舞台に上がってメチャクチャにしたらしい。
 成人式は終戦直後、荒廃した日本の社会に成人として羽ばたいていく若者たちに、せめてものはなむけにと始まったものだ。

 今は、ただ慣例化して行われているルーチンワークのようなセレモニーにすぎないしね。

 それに、あの晴れ着というのは落ち着かない。大の大人が七五三やってるみたいだし。

 七五三の写真は、仏頂面で写ってる。あくる年に撮ったさくらのは、かわいく写ってる。
 あんまり「可愛い可愛い(^▽^)」と言われてるし「子どもの頃に可愛いやつは、大きくなったらブスになるよ」と言って泣かしてやった。

 犬養のおいちゃん、中学に入ったころから「成人式が楽しみだねえ」と言っていた。おいちゃんには娘さんがいたらしいんだけど、子どもの頃に亡くなっている。だから、わたしのこともさくらのことも娘のように思ってくれて、忙しい両親に代わって自転車を乗れるようにしてくれたのもおいちゃんだったしね。

 そのおいちゃんも亡くなったし。もういいだろうと思う。

「秋元クンは、来年どうするの?」

 バイトの休憩時間に聞いてみた。

「オレ、親父が警察だから……やっぱ、出るかな」

 補充注文カードを整理しながら呟くように言った。仕事熱心というよりは、この話題には乗りたくないというのが本音のようだ。そういう態度をとられると、ますます絡んでみたくなる。

「お父さんのメンツで決めるの?」

「オレ、大阪の東成ってとこなんだ。なんてのかなぁ、大阪でも、わりと地縁結合が強いところでさ……友だちもみんないくし……」

「でもさ、成人式ぐらい、自分の意志で決めてもいいんじゃない?」

「え、ああ、まあ、そうだけど……」


 この生返事で、話の接ぎ穂が無くなってしまった。

 考えたら、いらぬお節介。黙々と仕事に励む。

 キャ!

 バックヤードの奥でサトコちゃんの悲鳴。秋元君がすっとんで行って、わたしも後に続く。

「すみません、段ボール整理してたら……」

 そう言って見下ろした床にはセミの抜け殻が落ちていた。

 あ、ああ……思い当たった。

 去年の夏に店の中で蝉の抜け殻を入った袋をひっくり返した子がいた。どこか公園で遊んでいて見つけたんだろう。店の本で抜け殻の正体を調べていたんだ。ちょっと騒ぎになったけど、その時の抜け殻が一つ空調の風に飛ばされ、人に蹴られして、このバックヤードに残ってしまったんだろう。


 昨日家に帰ると、ご近所の四ノ宮クンが来ていた。


「アイテ、テテテ……もう少し優しくやってくれる」

「どうしたの、四ノ宮くん!?」

「成人式見にいったら、暴走族とケンカになったんだって」

 さくらが、甲斐甲斐しく手当をしている。

「病院行かなくて大丈夫?」

「救急車満員だったの」

「え、なに、それ?」

「暴走族八人ノシちゃって、擦り傷と打ち身だけだから。警察に呼ばれちゃったのよね。で、駅前で一緒になって連れてきたの」

「すんません。お邪魔しちゃって」

 このカップルもよく分からない。同じ一年生でも大学と高校。それが、まるで同い年のお友だち。いや、さくらの方が上に見える。


 ネットで、わが帝都大のホームページにアクセス。後期試験のことを調べようとしていたんだけど、違うものが目に飛び込んできた。

――フランス、クレルモン大学交換留学生募集――

 わたし自身への脱皮の誘いに見えた。
 


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査


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銀河太平記・196『お岩とフーちゃんと』

2023-12-23 15:37:30 | 小説4
・196
『お岩とフーちゃんと』お岩 




 好意的に受け止める者ばかりじゃなかったさ。


 ほら、島の南端の氷室神社に漢明占領軍の新しい広報官がやってきた。

 胡盛媛(フーションユェン)、去年の戦争で戦死した胡盛徳大佐の娘さん。着任すると、すぐに氷室神社にお参りに来てくれて孫大人と仲良くなった。
 氷室神社は、休戦中とはいえ敵の神さま。お参りすることを良く思わない漢明人も多いさ。

「でも、漢明というか中華文化の宗教観は多神教で、土地の神さまを大事にするんです。だから、ぜんぜん普通のことなんですよ」

 お参りのついでに境内を掃除してくれているフーちゃん。あ、盛媛(ションユェン)というのは言いにくいし愛称としての省略形も思い浮かばないんで、苗字の方で胡(フーちゃん)と呼んでる。

「そーお、でも、フーちゃんも軍人さんなんだから、無理しなくていいよ」

「あはは、無理なんかぁ。子どもの頃は、毎日村のお社の掃除とかもやってましたし、わたし的には自然なことなんですよ……ほら、これが村のお社です」

 二世代前のハンベを立ち上げて映像を見せてくれる。

「古いハンベなんで動画じゃないんですけどね……」

「ううん、必要な機能が付いていればいいのさ……関帝廟だね」

「はい、商売と運気向上の神さま、明の時代からあるんだそうです」

「そりゃあ、大したもんだ」

「いえいえ、日本なんて千年以上の神社がコンビニと同じくらいあるじゃありませんか。式内社っていうんですよね?」

「へえぇ、式内社って日本人でも知らない人多いよ!」

「え、そうなんですか? でも、神社の鳥居の横なんかに『式内社』って標柱(しめばしら) に彫ってありますよ」

「標柱も知ってるんだ。日本人でも石柱とか、音読みしてヒョウチュウだよ」

「あはは、アニメとかいっぱい見ましたから(^_^;)」

 そう言って照れながら頭を掻く、今どき、こんな風に照れる日本人も少ない。

「でも、すごいですよ。千四百年も前に日本中の神社を調べて記録して、それがそのまま残って、標柱に彫られてるんですから。日本との緊張状態が解れたら、日本に行って聖地巡礼とかやってみたいです」

「そうだね、そんな日が早く来るといいねぇ」

「はい」

 潮風がフーちゃんの髪を撫でる。セミショートの髪が靡いて形のいいオデコと生え際の産毛がソヨソヨ揺れる。

 この子の横顔に戦争は似合わない。そう思って切り出した。

「お父さんの胡盛徳大佐が戦死した作戦。あれを指揮したのはわたしなんだよ」

「……はい、知ってます」

「フーちゃん……」

「広報っていうのは情報部の所属です」

「あ、そうだった。でも、氷室神社っていうのは、シゲジイが気まぐれででっちあげたモグリの神社だよ」

「そんなことありません」

「どうして? シゲジイってカンパニーでずっと穴掘ってた。元々は鉱山技師だけど、無資格だし」

「シゲさんが神社を造ったきっかけは、落盤事故(078『落盤事故』)……だったと思うんです。大勢犠牲者が出ましたでしょ?」

「あ、ああ……」

 あの時の犠牲者で素性の分からない者や引き取り手のない遺骨は、うちの食堂で預かっていた。シゲのやつ、そういうことは一言も言わなかったさ。

「なにごとの おわしますかは 知らねども……ええと(^_^;)」

「かたじけなさに涙こぼるる……西行法師だね」

「あ、あ、そうです。さすがはお岩さんです!」

「フーちゃんすごいねぇ、西行法師まで知ってるんだ。これもアニメ?」

「いいえ、これは軍の学校で」

「へえ、漢明も捨てたもんじゃないねえ」

「習った時は――日本人のいいかげんさ――の例としてだったんですけどね。それまでに仕入れた知識で、これは日本人の……言葉は浮かんでこないんですけど、凄みだと思うんです。人智を超えたものに素直に感動して、感動したら、そこを掃き清めて神社にしちゃう。そして、それが千年以上も続いて、コンビニよりもたくさんあって大事にされてるって、すごいですよ!」

「アハハ、シゲジイが聞いたら嬉しすぎて死んじゃうかもね」

「死んでもらっちゃ困りますぅ。それに、神社は新しいですけど、御祭神は秋宮空子(ときのみやそらこ)内親王さまと大綿津見神 (おおわたつみのかみ)、空と海が神さまって、とても素敵です」

「ああ……」

 見上げると、社殿は戦闘で失われ、真新しい賽銭箱がドーンと据えられた向こうに、大空と大海原と…… シゲのうさん臭さが、ちょっと違って見えてしまうから不思議だ。

 いつもは、パンパンと二拍手しておしまいだけど、フーちゃんといっしょに、きちんと二礼二拍手一礼、お賽銭もちゃんと100円あげたさ。

 食堂に戻るとモニターにニュースが出ていた。


 漢明は西之島南端の占領を解く。新たに西之島は漢明に対し、緊急時に避難の為に港の使用を認める。漢明は占領部隊を引き上げ、連絡員若干名を常駐させることとする。

 フーちゃんはどうなるのだろう……気になって連絡をとると、引き続き連絡員として残留の見通し。

 まずは、良かった。


☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

 


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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第28話《やっと今年の幕が上がった》

2023-12-23 06:02:11 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第28話《やっと今年の幕が上がった》さつき 





 ――羽田第二旅客ターミナル、12時に待つ――


 正月明けの休み、島田さんからメールがあった

 一方的だなあ……そう思いながら足が向いてしまうから、我ながらよく分からない女だ。

 はっきり言おう。

「お付き合いはできません」

 あの、大晦日の再会と、強引な交際の申込み、元カノを目の前で切った合理的過ぎるやり方。

 バイトを理由に、その場を離れることで意思表示したつもりだ。あれから一週間以上になる。

 そこに、このメールだ。はっきりさせよう。


「おう、飯食おうぜ!」


 あたしが見つける前に、ゲート前に手と声の両方があがった。

 あたしも、朝はトースト一枚だったので、フテた顔をしながらも九州ラーメンの店を提案した。


 予想通り、ズルズル~! ツルツル~!の合唱が店の中に満ちていた。


 その合唱に加わると、胸の中にあったものがラーメンといっしょにお腹の中に暖かく収まって、そうそう深刻な話にはならないだろう。少なくとも、そういう話はNGという意思表示にはなる。


「腹が減ってると、何でもないことに腹が立ってしまうもんだからな」

「で、どこか旅行でもいくんですか?」

 つっけんどんに言うのに苦労した。ロケーションは二軒目のカフェになっている。

「せっかく暖まったんだから、暖かい話をしようぜ」

「沖縄にでもいくんですか?」

 そう言わしむるに十分に気楽な格好だったし、キャリーバッグはパンパンだった。

「大阪に引っ越すんだ。大きな荷物は先に送ったけど、細かいの案外かさばるのな」

「え……?」

「早稲田の演劇は、どうもオレには合わない。で、大阪の畿内大学の演劇科に鞍替え」

「こんなハンパな時期に?」

「ハンパじゃないぜ、いいタイミング。辰年の正月なんて、十二年に一度しかないからな」

 真面目な物言いに思わず頬が緩んでしまう。

「そう、その力のある笑顔に、オレは惚れたんだ」

 直截な言い方に、思わずコーヒーを吹き出してしまうところだった。

「さつきってさ」

「はい?」

「あの時、分かってなかったんじゃね?」

「え、いつ?」

「ほら、中央大会のあとマックで、さつき向きの本紹介したじゃんよ」

「覚えてます。ちゃんとメモとってたから」

「最後に勧めた本覚えてる?」

「えと……」

「ああ、やっぱ通じてなかった!」


 横の、多分婚約中と思われるカップルが立ち上がって思い出した。


「ああ、チェーホフの『結婚の申込み』?」

「タイトルだけだろ」

「だって、男が二人も出てくるんだもん。うちの帝都じゃ難しいと思って、あれはメモしてなかったから」

「だからさ、結婚のだいぶ手前で、付き合ってみないかってナゾがかけてあるんだぜ」

「ええ、そんなの分からないって!」

「オレは、あれで脈無しって諦めたんだぜ!」


 幼い青春のすれ違いを再認識した。


 その後、彼は早稲田の演劇科に。あたしは東都の文学部に。

 で、それっきり。

「本屋で見つけたときは運命だと思った。大阪行きも決まってたし。腐れ縁の彼女と縁切るのにも困ってたとこだし」

「あ……彼女は?」

 一番気に掛かっていることを聞いた。

「あいつは、オレが一番惨めなカタチで縁が切れるようにシナリオ練ってたんだ。あの日は初詣で偶然を装って、オレを一気に元カレの地位にけ落とすつもりだったんだよ」

「どうして、知ってんの?」

「だって、相手の男から聞いてたから」


 どうも彼は、あたしなんかより、ずっと不思議で大人の世界にいるらしい。


 二時、彼を乗せた大阪行きが飛んでいった。小さくなって視界没になるまで見ていた。

「……あたし、タメ口になってたなぁ……で……なんで見えなくなるまで見てんだろ」

 身震い一つしてモノレールに乗った。やっと今年の幕が上がったような気がした。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
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RE・かの世界この世界:221『羨道を前にして』

2023-12-22 13:34:26 | 時かける少女
RE・
221『羨道を前にして』テル 



 先遣隊・中継隊・ベースキャンプ隊の三つに分かれた。


 先遣隊――イザナギ ヒルデ タングニョ-スト テル 

 中継隊――ケイト 与一 桃太郎二号 

 ベースキャンプ隊――ヨネコ 雪舟ねずみ


 先遣隊もイザナミさんの気配がしたら、その場で待機する。

 イザナミさんや黄泉の神々と話すのは、神であり夫であるイザナギさん一人でなくてはならない。

 本当ならば、イザナギさん以外は黄泉の岩戸に踏み込むべきではないだろう。

 イザナギ・イザナミお二人で約束されたことであり、幽世の国にはどのような穢れが潜んでいるか分かったものではない。穢れを払うのは神の身としても大変なことで、まして人の身では相当な負担になる。帰りを考えると、ここで無理をすべきではないと思う。

 
「この先、通路が狭くなっています」


 篝を持って先頭を進んでいるタングニョ-ストが手を挙げて立ち止まった。

 少しの異変や変化でも立ち止まって様子を探ろうというのは歴戦の下士官らしい振舞だ。以前の世界ではタングリスと二人で任に当たってくれていた。こちらの世界に転移してきたのは何か大きな力が働いているのかもしれないが、タングニョ-ストに関しては、軍人として、ガードとしての責任感だったのかもしれない。

イザナギ:「羨道のようですね」

ヒルデ:「センドウ……passageのようだな、言葉は違うが、墓室に続く通路のことだろうか?」

イザナギ:「ヒルデさんの国でも同じなのですか?」

ヒルデ:「種族、部族によって違うのだが、石組みを組んで墓とする場合は、この形式が多いように思う」

イザナギ:「そうですか、どこの世界でも人の死を悼むと似たような形になるのかもしれませんねえ」

テル:「わずかだけれど、羨道には篝があります。拒絶はされていないようです」

 三人とイザナギ殿に顔を向ける。

 冷静にイザナギ殿の判断を仰ごうとしているんだ。

 気は逸るが、みんなそれぞれのポジションと目的を理解している。

 単位は小さいが、いいパーティーだ。

イザナギ:「おそらくは、黄泉の神々も気づいていると思います。進んで迎えようと言う様子もありませんが拒まれているようにも思えません。いま少し様子を伺って、だいじょうぶと思えたところで、わたし一人でこの先に向かいます」

テル:「分かりました、小休止にしましょう」

 ドサ

 腰を下ろす音が微妙に響く、周囲の岩壁に反射したものか、微妙に疲れが現れているのか。

ヒルデ:「タングニョースト、貴様の背嚢……」

タングニョースト:「重くなってきました……これは……タングリスの復活が近い……いや、復活します!」

 タングニョ-ストが背嚢を下ろすと、まるで生き物のようにモゾモゾと動き始めた!


☆ ステータス
 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 


 

 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第27話《話は遡るけど白石優奈って覚えてる?》

2023-12-22 10:15:45 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第27話《話は遡るけど白石優奈って覚えてる?》さくら 




 話しは遡るけど、白石優奈って覚えてる?


 ほら、去年、終業式の日の大掃除で屋上から飛び降りようとして、わたしが救けた子。

 自分のことを熊野の八百比丘尼だと言っている、ちょっと電波な子。

 八百比丘尼って、人魚の肉を食べて永遠の若さと命を授かってるんだ。だけど、近ごろは永遠の命はともかく、若さの方は衰えるようになってきて、来たるべき日に備え、時どき肉体を更新しなければならない。

 わたしと話したことで、なんだか活性化したみたいで、肉体の更新は思いとどまってくれたのが、ついこないだのこと。


 その白石優奈からメールが来た。

――学校のカフェテリアで待ってる――


「どう、元気してる?」

「うん、おかげでね。ちょっと待ってて……」

 南側のテーブルに着くと、優奈はホットミルクコーヒーを取りにいった。ちなみに、この食堂がカフェテリアなどという小粋な名前でいられる言い訳が、このホットミルクコーヒー。
 ここのオーナーは帝都の大学の学食も引き受けていて、大学では、キチンとしたカフェテリアがある。そこで出た大量のコーヒーの出がらしを煮詰め、シロップとミルクをしこたま入れてミルクコーヒーにしている。
 アカラサマに言えばチープな再生飲料なんだけど、脳みその活動に必要な糖分の摂取にはもってこい。夏はアイスで、冬はホット。300CCで80円というのも嬉しい。

 優奈は、それを二つ持ってきて、テーブルに置いた。

「どうぞ」「ゴチです」

 取りあえずミルクコーヒーで暖まる。

 ホワワ~~

 タイミングよく、雲間からお日様が顔を出して、年の瀬とは思えない暖かさになった。

「……実は、年明けから中国に行くの」

「中国?」

「うん、お父さんの仕事の都合でね」

「え……ちょっとたいへんなんじゃない?」

 ネットとかで、いまの中国はいろいろ大変だと聞いている。

「うん、まあね。それで、さくらにはどうしても会っておきたくて……」

「あ、うん……ありがとう」

 そのあと言葉が続かなくて、陽だまりの席で熱々のミルクコーヒーをいただく。
 
「なんだか、いつもより美味しい……出がらしとは思えないわね」

 出がらしのところは、そよっと顔を寄せる。カウンターのおばさんに聞こえたら悪いもんね。

「うん、ここの名物だし……今日は、ちょっと特別なの」

「とくべつ?」

 そう言うと、優奈はポケットから小さなボトルを取り出した。

 お寿司の醤油淹れより少し大きいボトルには『熊』の一字が刻まれている。

 白地のボトルに熊なので、熊のプーさんが浮かんだんだけど違った。

「熊野明神に行ってきたの」

「あ、あの熊野明神?」

 口には出さず、コクリと頷く優奈。

「うん、日本を離れるんで、こないだの報告を兼ねてご挨拶に行ってきたの」

「じゃ、それは……」

 テーブルのボトルに目がいく。

「熊野明神の御神水」

「ごしんすい?」

「わたしが日本を離れているあいだ、わたしの代わりをしてもらいたくて」

「え!?」

「八百比丘尼になるわけじゃないわ」

「え……ああ……」

 残念なようなありがたいような。

「力の現れ方は人によってちがう。それに、わたしが日本に帰ってくるまでの間だけだし」

「それで、これを飲めとか?」

「うん」

 あっさり言うしぃ(^_^;)

「ええと……」

「だいじょうぶ、もう飲んでくれたし」

「え?」

 優奈は、ソロっとミルクコーヒーのカップに目を落とした。

 は、謀られたぁ……(;゚Д゚)

「じゃ、ごめん、飛行機の時間迫ってるから(^▽^)」

 晴れ晴れとした笑顔で小首をかしげると、すっごい軽やかさでカフェテリアを出ていく優菜。

 
 我に返って周囲を見回すと、どの席も椅子がテーブルに上げられ、配膳のカウンターにもシャッターが下りている。

 そうだよ、冬休みの真っ最中、カフェテリアどころか学校だってやってるはずがない!


 ダスゲマイネ(-_-;)


 手遅れかもしれないけど、大晦日から元日にかけて、まくさと絵里奈と三人で初詣しまくった。

 もちろん厄除けよ! 

 少しは優奈の無事も祈ったけどね。

 
☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査

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くノ一その一今のうち・90『潜入城塞都市』

2023-12-21 11:52:49 | 小説3
くノ一その一今のうち
90『潜入城塞都市』そのいち 



 日干し煉瓦の家や店舗、少しは鉄筋らしいのも混じっているけど、ちょっと見すぼらしい。
 しかし、商業地区らしい活気はあって、道路というか通路というかは微妙にうねっていて、でたらめに紐やら電線やらケーブルやらに商品や看板や洗濯物がぶら下がり、道路というか通路というかには商品やゴミ袋が我がままに場所を占め、年末特番の障害物競走をやるのにいいロケーション。住民や買い物客は慣れていて、よそ見したりお喋りしながら器用に行きかっている。
 
 お祖母ちゃんが子どもの頃、曽祖母ちゃんの手伝いで走り回っていた闇市というのは、こんな感じだったのかもしれない。

『区角割りされてるようですね……』

 スカーフに化けたえいちゃんが耳もとで呟く。

 高さ3mほどの壁が家や店の間から覗いている。壁のところまで行ってみると、所どころに正規のものやそうではない出入り口があって、人も犬も自由に行き来している。

 壁を抜けると車が通れる道、道を挟んで商業地と住宅地が混在していて、その向こうには多少の低層の鉄筋コンクリート。多少というかまばらなのは、商業地区同様に古い町並みを抱えているからだと思われる。

 皇居と丸の内を合わせたよりも大きな城塞都市だけども、ちょっと手狭。

 街の活気は、育ち盛りの子どものよう。子どもが、お下がりの服や靴が窮屈で、陽気に身もだえしているみたいだ。

 町を一巡して道路に戻って北に目を向けると、他の地区とは異なる城壁。城壁の向こうにはお伽の国のような宮殿が聳えている。

『長瀬の街に似ています』

 ああ、長瀬も駅から商店街が伸びていて、どん詰まりには西洋の城郭を思わせる大学の楼門が聳えている。

 しかし、向こうに聳えているのは日本の平和な学問の府などではない。

 実力で中央アジアの国々を従わせようという悪の城だ。

『見てください、あれを』

 えいちゃんに促されて目を向けると、夜間仕様になったプロジェクターが通りの広告や商店の明るさを圧倒していた。


 新首都建設!


 英語と現地語のタイトルが浮かび出て、数秒で別の標語に入れ替わる。

 中央アジア国家連合建設!

 続いて滲み出てきた地図はA・B・C・D四か国を間に挟み高原の国をも含んだものだ。

 そして、新首都として明滅しているのは、いまの高原の国の都だ!

 オオ! すごい! さすが! やるもんだ! ついにきたんだ! 待ってました! 大同団結! 盟主は草原の国だ! 我らが草の国だ!

 いろんな賛辞が飛び交って拍手が起こった。

 草原の国の国民は、国家連合が出来て、そこの盟主に自分たちの国王が収まると思っている。そして、それがそれこそが正義であると高揚しているんだ。

『……ノッチ、街の外に車の気配……軍用車両です』

 えいちゃんの感覚はさらに研ぎ澄まされたようで、わたしよりも先に気が付いた。

――見に行こう――

 裏通りを駆け抜けて東側の城壁に上る。


 グゴゴゴゴ……


 数両の戦車と兵員輸送車が城壁に沿って走っている。

『あの時の生き残りですね』

 わたしとえいちゃんとで混乱に陥れた機甲部隊の生き残りが帰ってきたんだ。

『北側に出入り口があるようですね』

「よし、行ってみよう!」

 もう少し街の様子を探りたかったけど、忍者の勘は――さらに奥に進め――と言っていた。

 魔石も再び熱を帯びてきた。警告か鼓舞か、わたしは忍者の勘に従った。

 

☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄
 

 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第26話《まだやってこない新年》

2023-12-21 07:30:25 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第26話《まだやってこない新年》さつき 




 大晦日はショックなことが二つあった。


 一つは、ご贔屓の服部八重のAKPの卒業。いろんな意味でショック。

 個人的には同年配に属するAKPは好きだ。あたしの思春期の時代とも重なり、人並みのファンであるという自認もある。他のメンバーよりも服部八重は矢藤萌と並んでAKBの大黒柱。

 卒業はショックだったけど、そろそろという気持ちはあった。でも、あの発表はないと思う。

 AKPのイベントならともかく、紅白という国民的行事、その出演者の一人に過ぎない八重の個人的な卒業は発表すべきではない。おかげで二輪明治さんの出演後のインタビューも吹っ飛んでしまったし、そのあとの大御所西島三郎さんの五十回目にして最後の出演が霞んでしまった。

 AKPって、いつの間に「わがままな子」の集団になってしまったんだろう。


 ま、それはいい。しょせん芸能界の話だ。


 大晦日の日『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』の作者大橋さんが挨拶にこられた。
 こちらはサイン会とか出版にかかわる営業とかじゃない、渋谷駅前で自転車に撥ねられた時に、たまたまお助けした(第19話《大橋むつおとの邂逅》)お礼にこられたのだ。

「どうもありがとう。これから大阪に帰ります。最後に顔見てお礼言いたかっただけです。ほんなら」

 と、あっさり一言だけ言っていかれた。過不足のない大人の対応だと思った。


 で、このあと、別口のあっさりが来た。


「よう、さつきじゃないか!」

 本棚の整理をしていると声をかけられた。

「あ、島田さん……!」

 高校時代、思いを寄せていた修学院高校の島田健二が立っていた。

「昼の休憩いつ? 飯でも食おうや」

 で、あっさり昼食の約束をした、


 いつも程よく空いているアケボノという洋食屋で待っていた。


 島田さんは、高校時代、名門の修学院高校演劇部の舞台監督をやっていた。

 やることに無駄が無く、他校の生徒への気配りもできる有能な人だった。二度ほどコンクールの打ち合わせのあとマックに行ったことがある。

「さつきは、思っているより華があるよ。帝都は役者の使い方間違えてる」

 リップサービスかと思ったら、小さいけど分厚いノートを出してページを繰った。

「なんですか、それ?」

「ああ、レパ帳。やりたい芝居が書いてあるんだ……うん、さつきなら、ざっと見ただけで五本くらい主役張れる芝居がある」

 町井陽子、井上ひさし、木下順二、イヨネスコ、大橋むつお、チェ-ホフ等から、女だけ、あるいは女が男役をやってもおかしくない芝居をたちどころにあげた。

 あたしはメモを取りながら、大した人だと思うと共に、憧れてしまった。


「おれたち、将来付き合うことになるかもしれないな」


 ドキッとするような一言をマックの帰り道に聞かされ、それっきりになっている。

 そんなトキメキを感じていたのは、ほんの三十秒ほど。

「あ、さつき、こっち!」

 奥のシートから声がかかった。大晦日の昼食なんで、ランチで済ます。卒業後のあれこれを喋っているうちに時間が過ぎていく。ほんの数秒スマホをいじっただけで、高校時代の気分にもどしてくれた。

「どう、あの時の将来が来たんだと思うんだけど?」

「え、ああ……」

 直截な言い方に、あたしは赤くなって俯くだけだった。


 アケボノを出てびっくりした。


 二十歳過ぎの女性が、敵意に満ちた目で、あたしたちを睨んでいる。


「新しい彼女って、この子ね!?」

「そう、一応合わせてケジメはつけておこうと思って」

「このドロボウネコ!」

 彼女の平手が飛んできて、思わず目をつぶってしまった。

 平手は寸止めで終わってしまった。島田さんの手が彼女の手を掴んだからだ。

「ショックかもしれないけど。こういうのはアトクサレ無くサッサとやった方がいいから」


 あたしは、この舞台進行のようなさばき方がショックだった。


「あたし、仕事あるから」


 そう言って、逃げるようにバイトに戻った。

 なにをしているのか分からないうちにバイトが終わり、家に帰ると、思いかけず自衛隊にいっているソーニーが帰ってきていた。


「よう、さつき……」


 あたしの表情を読んだんだろう、それ以上は何も言わずに、もう食べたはずの年越し蕎麦をいっしょに食べてくれた。

 兄貴って、こんなに良いヤツだったっけ……そう思うと、涙が流れてきた。


 そして、テレビでは服部八重が卒業宣言をしていた。


 あたしは、卒業はおろか、今年が、まだ終わっていない。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
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鳴かぬなら 信長転生記 157『時計を合わせる』

2023-12-20 09:55:29 | ノベル2
ら 信長転生記
157『時計を合わせる』謙信 




 御注進ーーーーーーーーーん!


 念のために出しておいた物見がもどってきた。

「申し上げます。お屋形様ご指示の通り丑寅の方角を探ってまいりましたが、兵馬俑一万余は長城の手前二キロの地点で方角を変えて東進しております」

「馬の脚は?」

「はい、半ば以上は歩兵でありますので、並足であります」

「時速5、6キロというところか。歩兵が半ば以上ならいつまでも出せる速度ではない、途中で休憩を入れる……とすると、一時間後の敵の位置は……」

 砂上に地図を広げさせて、兵馬俑どもの動きを予想する。

 上杉の最精鋭とは言え、たかだかニ十騎。

 正面からの攻撃はあり得ない……と、敵も味方も思っている。

 情報から敵の一時間後の位置を推定、トンと石を置き、東西南北から石に向かって矢印を入れる。

「二時間後、四方から同時に仕掛ける。仕掛けると言っても、それぞれ五騎。深入りはせずに、敵がうるさく感じたところで散る。敵が脚を止めたら再び仕掛ける。中軍が緩んだところで川中島を仕掛ける」

 地図を囲んだ中からウサ耳の宇佐美定満が顔を上げる。

「引き際は、どうなさいます?」

「三時間後、事の進捗に関わらずひいて長城の破れから扶桑に引き上げてちょうだい。目的はあくまでも……」

「信長殿への愛ですね」

「あのね、いくら『愛』がトレードマークだからって、なんでも愛でしめくくらないでよね、愛ちゃん」

「はい、承知しています。兵馬俑の注意をひいて信長……三蔵法師さま御一行の安全を図ること」

 そう言うと愛ちゃんこと直江兼続は愛の前立ての付いた兜をかぶり直し、それが合図だったように、宇佐美定光はウサ耳を立て直し、柿崎景家は柿、甘糟景持は雨傘の兜の緒を締めて馬に乗った。

「それじゃ、時計の時間を合わせるわよ。他の人もいっしょよ!」

 二十騎全員が腕時計を見る。

 ザザ

 全員美少女化しているのに、時計は男のように左手首の外側。

 内側に付けているのは自分一人、まあいいけどね。

 時計そのものは全員電波時計なので、時間を合わせる意味はないんだけど、真珠湾攻撃の時、赤城艦上で搭乗員は一斉に時計を合わせて出撃したって、去年転生した攻撃隊長が言っていたのであやかっている。

「五秒前……4……3……2……1……テーッ!」

 カチ!

 一つ一つは幽けき音だけど二十人がいっせいにやると迫力。

 あとは無言で馬腹を蹴って、五騎づつ四方に散った。



☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
   

 
 


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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第25話《え、うそ……!?》

2023-12-20 05:17:10 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第25話《え、うそ……!?》さくら 




 歳のわりに『なごり雪』が好きだ。


 東京で見る雪は最後ねと さみしそうに きみが呟く……


 なんてフレーズはたまらない。歌い出しのとこも好き。


 汽車を待つ君の横で ぼくは時計を気にしてる 季節はずれの雪が降ってる……


『なまり歌』の鹿児島弁バージョンを聞きながら、兄貴と明菜さんの品川の別れの写真を見ている。

 アツアツで入れたココアがすっかり温くなって、薄い膜が張っている。

 あたしは、なんとか写真から恋人同士の別れの情感を汲み取ろうとしたんだけど、数十枚撮ったどれを見ても、情感の情の字もない。

 さみしそうに呟くこともなく、時計も気にしない。「さようなら」がこわくて俯くこともなくヘラヘラする兄貴。なんとも絵にならない。

 どう見ても、いつも出会っている知り合い同士の何気ない会話にしか見えない。

 スマホを置いてココアを飲む。薄皮がキモイけど一気に飲み込む。

 アッチッ(◎Д◎) !

 思ったより、中は熱かった。と、閃くものがあった。

 さみしそうに呟くことも時計を気にすることもないほど、この二人の想いは熟している。だから妹にも、それとなく見学させた?

 表でお父さんと犬養のおばさんが笑顔で挨拶してる。でも、お正月なのに「おめでとうございます」の言葉が無い。

 そうだ、お向かいさんは喪中だよ。

 お葬式を思い出した。葬儀会館ではあたしもお姉ちゃんも胸に迫るものがあって、白布を取ってもらったおいちゃんの顔を見たとたんに涙が溢れて、お姉ちゃんも「うっ」てせき上げてハンカチで口を押えてた。
 でも、おばさんはニコニコして、おいちゃんの耳もとで「ほら、さつきちゃんとさくらちゃんよぉ!」って、いつもの調子で目をつむったおいちゃんに大きな声。「あら、いやだ、いつもの調子になっちゃった」と笑ってた。

 どちらも平然とした態度の中に意外に熱いものが隠れているのかもしれない。


 暖かいココアと共に胸を満たすものがあった。


「ちょっ、じゃま」

 お母さんが、洗濯物のカゴを持って、あたしを跨いで行った。

 あたしの部屋は三階の六畳だけど、ベランダの物干しと直結していて、今みたいにタイミングが悪いと、お母さんに跨がれてしまう。それに、元々和室だったとこをフローリングの部屋にしたので、ドアなどという気の利いたものは無い。襖のような引き戸なので、音楽なんか聴いていると気配に気づかないこともある。

 ベチョ。

 足首に冷たい感触……目を向けると、お風呂で下洗いした自分のおパンツが転がっている。きちんとカゴに押し込んでいなかった自分が悪いんだけど胸くそが悪い。

「渋谷に映画観にいってくる」

――いいご身分ねぇ――

 背中で、そう言ってるお母さんをシカトして、おパンツを洗濯機に放り込むと、ピンクという以外に可愛げのない機能性だけのブルゾン羽織って家を出る。なんとなくだけど『宇宙戦艦ミカサ』の最新作を観る気にはなっている。


 ギュ


 豪徳寺のホームに立つと、いきなり腕をつかまれた。

 え!?

 そのままホームのベンチに座らされたかと思うと、そいつはジャケットの襟を立て、毛糸の帽子を目深にした。

「四ノ宮クン……!」
「シ……後ろは見ないで!」

 そう言って、ヤツは馴れ馴れしく腕を肩に回してきた。

 背後の階段から、三人ほどが駆け上がってくる気配がしたけど、言われたようにシカトして、直後にやってきた電車に乗った。

 あ……!

 ドアが閉まると同時に発見されたようで、三人のオジサンとオニイサンが口をOにして見送っている。ナリからしてマスコミ関係の人と見当がついた。

「なにか、やらかしたあ(´¬_¬) ?」

 こいつには、いろいろと前科がある。

「世間には暇な人もいるんだ(-_-;)」

 あたしが、渋谷に映画を観にいくんだと言ったら、ヤツも付いてくると言う。料金を出してくれるというので、アッサリOK。

 が、渋谷の改札を出たところでアウトだった。

「四ノ宮忠八さんですね!?」

 マイクを持ったレポーター風のオバサンを先頭に、カメラさん、音声さん、その他が待ちかまえていた。

「なに、この人たち?」

「すまん、巻き込んじまった」

「元華族の四ノ宮さん、お家を出られたというのはほんとうなんですね!?」

「こちらの女性は!?」


 え(OωO ) ?


 わけわかめのあたしだった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・069『演劇部の大発明』

2023-12-19 16:10:07 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
069『演劇部の大発明』   



 令和の時代から昭和の宮之森高校に通ってる。


 多少の問題はあった、学校のトイレがみんな和式で音姫も付いてないとかね。体育の時間はブルマだとかね。むろん授業はつまらないけど、それは令和でも同じだから問題ない。

 狭い学校の付き合いだから断言はできないけど、人間はおもしろい。

 1970年は、前の年に学園紛争というのが完全に敗北。10円男に聞くと、主題は日米安保阻止だったとか。

「ええ、なに言ってんの、安保無しでどうやって日本守るの?」

「それは……」

 いろいろ十円男は言ったけど、ぜんぶタワゴト。やれ、革命だ! 造反有理だ! 国連だ! 話し合いだ! 共産主義だ! ゲバラだ! 毛沢東だ!

 あ、面白かったのがゲバラ。

 10円男は「チェ!ゲバラ!」と、かならず名前の前に「チェ!」って言うから「尊敬する人に、どうしていちいち『チェ!』なんて舌打ちすんのよ?」と聞いたら、スペイン語かなにかで「チェ」っていうのは「やあ!」とか「よ!」とかの呼びかけの言葉で、まあ「ダチ」ってな意味なんだって。

 あっちの国で「同志ナニナニ」って言うのと変わらない。

 で「チェ加藤!」って呼んだらムッとしてた。

 ホームルームや委員会でも、けっこうアグレッシブ。MITAKAじゃ、けっこう盛り上がってるしね。真知子、たみ子、ロコ、佳奈子も前向きな子たちで、いっしょに万博旅行したのは一生の思い出になるかもしれない。

 クリスマスイブの24日に『イブの集い』をやるために『フォークの集い』をやっている。

 まだ二回やっただけだけど、手応えは十分。

『エーデルワイス』でスッゴク盛り上がった。直前に『青年は荒野を目指す』をやってたんだけど、その三倍は盛り上がって、特に女子は四倍くらいに熱が入っていた。

 ちょっと不思議なんで家に帰ってから、改めてググってみる。

 ああ、そうなんだ!

『エーデルワイス』は『サウンドオブミュージック』ってミュージカル映画の挿入歌で、映画は65年のアメリカ映画で、アカデミー賞を五つも獲ったっていう不朽の名作。小学校で習った『ドレミの歌』も、この映画の歌だって発見して、グッと親近感。みんな、この映画『サウンドオブミュージック』の印象があるから、あんなに盛り上がったんだよね。

 これをスラスラギターで弾いた10円男は、根は案外のロマンチストなのかもしれない。

 その昭和の宮之森の数少ない不満が一個。

 土曜日にも学校がある!

 週休二日っていうのは世界の常識! お祖母ちゃん流に言うと神武以来の決まり事! だと思うんだけど。

 でも、今までは、そんなに気にしなかった。

 でも、今週は疲れたからね……ひとしおなんだと思う。


 ええ、すごいじゃん( ゚Д゚)!!


『フォークの集い』も三日目の今朝、商店街をロコといっしょに学校に向かっていたら、真知子とたみ子が追いついて来て「演劇部が大発明してくれた!」と言って、教室に行く前に演劇部の活動場所である図書分室に向かった。ドアを開けて、思わず三人口を突いて出たのが「「「ええ、すごい( ゚Д゚)!!」」」だよ。

 まるで、本物のファイアーストームだよ!

 四角い箱の中に薪がくべてあって、そこから真っ赤な炎がボウボウと燃え盛ってるんだけど、これが、ちっとも熱くない。

「ええ?」「なんか、仄かに涼しいくらいですよ」「どういう仕掛けぇ?」

 不思議に思っていると、ジャージ姿の美人さんが腰に道具袋(あとで聞いたらガチ袋というらしい)を下げて入ってきた。

「千秋、どういう仕掛けなのぉ?」

 美人さんは智満子の知り合いで千秋というらしい。

「あ、演劇部の部長の牧内千秋。こっちはMITAKAの仲間」

「どうも、ほんとはもっと早く仕上げるつもりだったんだけど、まあ、気に入って頂けた感じだからよかった」

「で、どういう仕掛けになってるんですか?」

 ロコが子犬みたいにピョンピョン。

「いったん、スイッチ切るわね」

 ペチ

 見ると箱からはコタツみたいなコードが伸びていて、そのスイッチを切ると、炎は瞬間で輝きも勢いも失って沈んでしまった。

 ええ?

「覗いてみて。説明するよりも早い」

 どれどれ(._.)

 オオ! なるほどぉ!

 箱の中には小さな扇風機とライトが入っていて、箱の縁には、ダミーの薪と、その内側に炎の形に切られた赤とオレンジの布切れが張ってある。

「スイッチ入れると、扇風機で布が吹きあがって、ライトに照らされて、まあ、ファイアーストームに見えるわけです」

「す、すごい発明です!」

 ロコは、もうノーベル賞受賞者を見る目だよ(^_^;)

「ううん、昔からある手法よ。でも、こんなものでも女子だけのクラブだとなかなかでねえ。まあ、今日からは、ほかの照明も含めてなんとかするから」

「そうね、これでいちだんと盛り上がるわ、ありがとう千秋」

「いいよいいよ、役に立ったんならこっちも嬉しい」

 
 放課後、三回目の『フォークの集い』が盛り上がったのは言うまでもありません。

 おかげで、わたしのLED照明も忘れられて、ホッと胸をなでおろしたよ。


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  


 

 

 
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やくもあやかし物語2・021『戦い済んで・1』

2023-12-19 10:49:41 | カントリーロード
くもやかし物語 2
021『戦い済んで・1』 




 ね、やって見せて!


 ソフィー先生が席を外すと、子どものような目をして王女さまが言う。

「え、ここでですか!?」

 ネルが目を丸くする。

 わたしとネルとハイジは、デラシネをやっつけたので、その報告に王女殿下の部屋に呼ばれている。

 時々ソフィー先生が「跳んだ高さは?」とか「敵との距離は?」とか「命中率は?」とか専門的なことを聞いてタブレットに入力して、一通りまとまったんで司令室へ戻って行った。

 それで、それまで真面目に聞いていた王女さまは、自習時間に監督の先生が出て行った生徒みたいに精神年齢の下がった表情になってネルに言ったんだよ。

 耳をクルンチョと曲げて、手を使わずに耳の穴を塞ぐのを見せて欲しいって。

 ほら、デラシネとの戦いでやってたでしょ(019『デラシネの攻撃!』)、耳をクルっと巻いて耳の穴を塞いだ、あれよ。

「え、そんなのやってたのかぁ! 気が付かなかった、ハイジも見たいぞ!」

 ハイジも懸命だったので気が付いていなかったんだ。

「え、あ……では、ちょっとだけ」

 しゅんかん息をつめたような顔になると、ネルの耳はクルンと巻いて見事に耳を塞いだ。

 パチパチパチ

 お行儀のいい王女さまは、キチンと感動の拍手をされる。

「は、拍手されるときまりわるいです(^_^;)」

「おお、それでハナクソとかもほじれるのかぁ?」

 ハイジがバカを言う。

「んなことするかあ!」

「でも、見事です。見事にデラシネをやっつけて、しばらくは森も平和になると、ティターニアもお礼を言ってましたよ」

「ええ、ハイジたちにはお礼来ないぞぉ」

「森の者たちも舞い上がってしまって、気が付いたらあなたたちも帰ってしまっていたそうよ」

「アハ、でしょうね」

 たしかに、あの後の森のざわめきは止む気配が無くて、それでわたしたちも帰ってきたんだし。

「たぶん、このあとお礼を言いにくると思うわよ」

「あ、そうなんですか(^_^;)」

「はい、森の者たちは、そういうところキチンとしているから。あなたたちも、キチンと受け止めてあげて」

「「「はい」」」

「森の件はひとまず置いておいて、もう一つ伝えておくことがあるの」

 え、なんだろう?

「実は、日本から聖真理愛学院の生徒たちが修学旅行で来ることになっていたんだけど、事情で二月に伸びてしまったの。他の先生たちや生徒たちにも伝えておくけど、なにかおもてなしのアイデアを考えておいて欲しいの」

 あ、そうか。いろいろドタバタして忘れていたけど、たしかにそういう話があったよ。

 忘れたまま突然的に来られたら、アタフタして何もできなかっただろうけど、クリスマスや正月を挟んで二か月あれば、じゅうぶん準備もできるだろう。

 ちょっと楽しみが増えた気持ちになって、王宮を後にして学校に戻る。

 エリアゲートをくぐって、学校への道にさしかかると、森の方から風が吹いて来た。

 ピュゥ~

 そして道の真ん中で渦を巻いたかと思うと、背中に大きな蝶々の羽を付けた銀髪のきれいな女の人が空中に現れた!

 ティターニア女王だ(⊙∀⊙) !



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン
 

 

 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第24話《四日目のさくら》

2023-12-19 07:17:57 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第24話《四日目のさくら》さくら 




 二日と三日はグータラな正月だった。


 大晦日から元旦にかけては、恵里奈とまくさの三人で、初詣のハシゴをやって、家に帰ってからは一日寝ていた。夕方に起きてトイレに行ったら、兄貴を感じてしまった。
 便座に無防備で座っていたところを開けられたことじゃなく、便座の蓋がスーっとゆっくり閉まったときに――ああ、ソーニイが直したんだ。と、シミジミ感じた。


 夕方帰ってきた兄ちゃんは、パソコンで、なにやら調べていた。

 新幹線の時刻表と博多駅の構造を調べている様子だ。


「博多にでもいくの?」

「攻撃するためには、敵の情報を知るのが肝心だからな……」


 それ以上は機密という顔をしてしまったので、あたしは、後出し分の年賀状を書いた。友だちが少ないので年末に出したのは十枚ほどだったけど、三枚番外のがあった。今の担任と中学の担任の先生。そして、白石優奈。


 二日の朝は、兄貴がふらっと近所を散歩するようなナリで出て行った。あたしはバイトに行くお姉ちゃんといっしょに家を出た。第一目標は年賀状を出すことだったけど、ポストが駅前にしかないので、ついでに渋谷にでも出てみようと、定期、お財布、スマホの三点セットを持っている。

「ねえ、あれソーニイじゃないの?」

 デミーズから、ジャケットにマフラーだけという軽装の兄ちゃんが出てきたのをあたしは目ざとく見つけた。

「ちょっと、年賀状は?」

「行った先で出す」

 そう言って、兄貴を追跡することにした。


 ソーニイは、渋谷で山手線に乗り換えた。


 お姉ちゃんと別れたあたしは、品川駅までの切符を買って、あとをつける。

 予感は当たって、兄貴は品川駅で降りて新幹線のホームに向かった。急いで入場券を買って後に続く。

 前から三番目の乗車マークのあたりで、新聞を広げ始めたので、あたしは大胆にも隣の乗車マークのところで、兄貴の背中を視野に入れつつ立ちんぼした。

 五分ほどすると、明菜さんが、キャリーバッグを引きずりながらやってきた。

 明菜さんは、驚いた様子もなく、兄貴の後ろに立つと、頭をポコンとした。なんだか、約束していたカップルみたいに見える。

 一言二言交わすと、スマホを出し合って番号の交換をしている様子。

 それから、電車が来るまで十分足らずだった。二人は、ほとんど喋らないどころか顔も見合わせない。入ってきたのぞみのドアが開くと、やっと二人は向き合うと、げんこつ同士ぶつけるアメリカ映画でガキ同士がやるような別れの挨拶。明菜さんが乗り込み、発車すると、のぞみの姿が見えなくなるまで兄貴は見送っていた……。

 しまった(꒪ꇴ꒪|||) !

 家に帰って玄関を開けようとしたら年賀状を出してないことに気付いて、駅前のポストまで戻る。ちょっと凹んだ(-_-;)。


 そして、二日後の四日。再び品川の駅に兄貴といる。ただし横須賀線のホーム。


「さくら、付けてくるの、ヘタッピーだよな」

「え……?」

「渋谷から分かってたよ。品川じゃ、さくらが入場券買うの待ってたんだぞ」

「ソーニイ、人が悪いよ!」

「ちょっと早いが、男と女の有りようの観察させてやったんだ。感謝しろよ」

「ソーニイ、自衛隊に入って人が悪くなった」

「思慮深くなったんだ。昔のオレなら、渋谷でさくらのことまいてるぞ。観察と分析、戦闘行動の要諦だ。おまえも、もう半分女だ、スマホで撮った明菜の顔とか、よく見て勉強しろ」

 新聞丸めたので、頭をポコンとされた。我ながら軽い音がする。

「今度戻ってきたら……夏かもしれない。父さん母さん頼んだぞ……それから、さつきのこともな。シャト-豪徳寺の東大生は悪い奴じゃない。まあ、歳の離れた友だち程度の気持ちでつきあっとけ」

「え、なんで……( ゚Д゚)」

「観察と分析。とにかくさくらは人間関係ヘタクソだから、勉強しとけ。じゃあな」

「まだ、電車来てないよ」

「兄妹で映画みたいに見送られるのはごめんだ。早く帰って冬休みの宿題をやりましょう。英語がまだ残ってんだろ」

「ウウ……」

 なんでもお見通しのソ-ニイだった。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査

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銀河太平記・195『広報係・胡盛媛中尉』

2023-12-18 15:53:26 | 小説4
・195
『広報係・胡盛媛中尉』孫悟兵 




 虫歯治療の為に麻酔をかけたらこんな感じだな。


 痛みは無いが、物言わぬ虫歯が地味にその存在を主張している。

 いや、腎臓結石をやって内視鏡カテーテルを突っ込まれた時の感じにも似ている。他人には言わないが、この孫悟兵、体のかなりの部分が生身だ。なによりも脳みそは、混じりけなしの100%自然のままアル。

 神社裏の崖から釣り糸を垂らすのが、ここのところのルーチンになりつつある。
 釣りはうまくない。義体やロボットなら、釣りのスキルをダウンロードすれば、並の名人程度には釣れる。
 生身だから、大いに連れる時もあれば、まるきりの坊主ということもある。

 そこが面白い。

 釣り糸を垂れながら、ボンヤリ思う。

 この戦の行方はどうなるんだ?

 全面戦争をやる気持ちは日本にも漢明にもない。たとえ勝利したとしても、とんでもない傷を負って、当分は今の国際的地位を失ってしまう。
 人類の活動範囲は百年前に太陽系(主に月と火星だけだが)に広がり、パルスギが採掘されるようになった現在では、銀河世界へ飛び出すのも時間の問題だと言われている。
 その変革の時に、枢要な国際的地位と力を保持し続けるためには、国力の疲弊は避けなければならない。

 だから、決定的な戦局を迎えることもなく、麻酔をかけたような平穏が続いている。

 自分の商売は、漢明においても日本においても、この西之島、アメリカ、ヨーロッパにおいても、拡大こそしていないが手堅くやっている。月や火星でも気まぐれに取引することはあるが、本腰を入れるつもりはない。十分に根が張っていない木が枝葉を伸ばしても仕方がないアルヨ。

 カサコソ

 神社の方で気配。

 神社は漢明の占領地にあるが、宗教施設なので非武装ならば出入りは自由になっている。大晦日から正月にかけては島民やボランティア兵、それに珍しもの好きな漢明兵も混じって初日の出を拝んだりしていた。

 折悪しく、神主のシゲも巫女のハナも留守にしている。

 しかたない、この孫大人が相手をしてやるアルカ……

「あのぅ、ちょっとすみません」

 きれいな女言葉に振り返ると、漢明の第一種軍装に身を包んだ女性中尉が見下ろしていた。

「お参りの仕方が分からないので、教えていただけると嬉しいんですが」

 国営放送のアナウンサーかと思うほどきれいな日本語だが、軍服に敬意を表して漢明語で応える。

「新米の中尉さんが神社に用事なのかい?」

「え、あ……漢明の方なんですか?」

 むこうも漢明語に切り替える。

「孫悟兵という年寄なんだがね、漢明と日本と両方相手に商売させてもらっとる。両方に顔がきくんで、釣りをしながら留守番をしとるんですよ」

「あ、それはよかった。こちらの神さまに着任のご挨拶にあがったんです」

「おお、それはそれはご奇特なことで」

「すみません、釣りをしていらっしゃるところでしたのに」

「いやいや、下手の横好き……お……今になって」

 グンと糸がひいて、竿がギギっとしなってきた!

「あ、大きいですよ!」

 グン ググン!

「おっとっとぉ……!」

「手伝います!」

 第一種軍装の上を脱ぐと、軽々と岩場に下りてきて、竿を曳いてくれる。

 緩急の力の入れ具合も良く心得ていて、二分余りで目の下一尺はあろうかという見事な鯛が釣れた!

「そうだ、お参りのお供えにしよう!」

「え、いいんですか?」

「いいもなにも、あんたの助けが無きゃ逃げられてましたよ」

 ころあいの石を見つけてお供えの台にする。

「中尉さん、お名前は?」

「あ、申し遅れました。守備隊広報係りの胡盛媛と申します」

「胡盛媛……たしかチルル空港の」

「あ、はい……第一次制圧隊長をやっていました胡盛徳の娘です」

「あ……そうでしたかぁ、お父上は残念なことでした」

 胡盛徳大佐は一次攻撃で瀕死の重傷を負って、一時は沖の艦隊に収容され、二度目の攻撃でお岩さんたちの待ち伏せ攻撃で戦死している(147『待ち伏せ』)。

「あ、いえ、軍人ですから(^○^;)」

 日本語で応えた、理由は主語を付けずに言えるからだろう。

 広報担当に選ばれるだけあって、言葉の感覚がいいようだ。


 日本式のお参りは二礼二拍手一礼であると見本を見せると、きれいに所作を決めた。


「教えていただかなかったら中華式でやるところでした、あれだと三跪九拝です……軍服、クリーニングしたてでしたから」

「アハハ、なるほど、ここに膝を突いたら洗濯のやり直しだぁ」

「ありがとうございました」

「そうだ、せっかく二人で釣った鯛だから、二枚におろして半分ずつにしよう」

「え、いいんですか?」

「いいさ、ここに供えていても酒飲み神主のサカナになるだけだからね」

 
 そのまま、お岩さんの食堂に行き、きれいにおろしてもらった。


 盛媛の明るさと礼儀正しさに、お岩さんも喜び、父の胡盛徳大佐の話になると、食堂に居合わせた者たちは、ちょっとシンミリしてしまった。

 休戦中とは言え、敵同士なので、いっしょに乾杯した後、盛媛中尉は鯛の半身をぶら下げて帰って行った。


「あ……孫大人、盛徳大佐ってロボットだったよ」

「え、あ……」

 盛媛中尉、いっしょに竿をひいた時の感触は、ぜったい人間だ。義体であったとしても義体率は50%は超えていない。お岩さんも、この孫悟兵も、そのあたりの見間違いはしない。


 その夜、漢明守備隊の広報誌が出て、昼間のエピソードが新広報係りの紹介と共に出ていた。

 胡盛媛中尉は盛徳大佐の養女であった。

 漢明は、ロボットと人間の養子縁組を認めていなかったが、劉宏大統領がPI後に民法の改正を示唆して実現したのだそうだ。

 この話を知った児玉元帥は越萌マイとして睦仁親王と共に盛媛中尉に「氷室神社参拝に感謝」と電信を打った。


☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

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魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 小悪魔だけどな(≧ヘ≦)! 2『るり子の新型スマホ』

2023-12-18 06:27:24 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 悪魔だけどな(≧ヘ≦)!

2『るり子の新型スマホ』 
 
 これは旧作『小悪魔マユ』を改作したものです



「やあ、おはよう」


 今朝も門衛の田中さんが、いつものように挨拶してくれた。

 田中さんは元自衛官。五十五歳の定年で、この聖城女学院の門衛さんになった。だれに対してもキチンと顔を向け、目を見て挨拶してくれる。地獄の門番ケルベロスを連想する。もっともケルベロスは首が三つもあるので、大勢やってくる人間どもの顔を見逃すことはねえけどな。

 田中さんは、たった一人で、首も一つなのにケルベロスをやってのけているぞ。

 ウワサだけど、田中さんは千二百人いる生徒や教職員の顔と名前を全部覚えているらしいぜ。一度チャンスがあったら、ゆっくり話がしてみたいと、マユは思っているぞ。

 だけどな、マユは、転校というカタチで人間の世界にやってきて間がないんだ。魔界の補習のためにやってきているんだ。あまり余計な時間はとりたくねえ。さっさとやることをやって魔界に戻りてえのが本音ってとこだ。


 教室に行くと、いつものように、半分くらいの生徒が来ていた。


「おはよう、里依紗」

「あ、おは……」「おは……」「お……」


 里依紗のそっけない返事。沙耶と知井子も簡単すぎる挨拶しか返ってこねえ。事情は聞かなくても分かっている。この三人は、昨日、骨髄性の難病で休職中の恵利先生の家に行ってきやがったんだ。

 マユが写メにちょっとした細工をしたのが嬉しくて。ただ送信すればいいだけのそれを、わざわざ電車に乗って、恵利先生に会いに行った。で、赤ちゃんの清美ちゃんにも対面しやがった。


「「「チョーかわいい!」」」


 女子高生のボキャ貧な感嘆詞も恵利先生は嬉しかった。

 恵利先生の嬉しさには、二つの理由がある。

 教え子がわざわざやってきてくれたことと、持ってきてくれた清美ちゃんの写メだ。

 画面にタッチすると十七歳になった清美ちゃんの姿になるように魔法がかけてある。それも見るたびに、微妙に表情なんかが変わるようになっていて、見飽きることがねえ。

 そして、なんと言っても、赤ちゃんはかわいいもんだ。で、つい長居してしまい、遅く帰宅した里依紗たち三人は、宿題ができてなかった。

 で、三人はホームワークシェアリングをやって、分担したのを写しあっている最中ってわけだ。

 三人の必死の形相にマユは、小悪魔らしくほくそ笑んだぜ。


 ウワアアアアアアアア!


 窓辺の日当たりの良い席から歓声があがった。


「チョーおいしそう!」

「オタカラスィーツじゃないっすか!」

「でしょでしょ(^▽^)/」


 三番目の声の主は、クラス一番のタカビーの指原るり子。

 こいつは小悪魔のマユがほれぼれするほどに意地が悪い。

 この窓ぎわの特等席も、席替えのときにズルをして、取り巻きどもと占拠したんだ。
 恵利先生がいたら、こんなズルは出来ないんだけど、副担のトンボコオロギこと坂谷のたよりなさに乗じてやりやがった。
 みんな不満に思ってるけど、だれも面と向かって文句を言わねえ。だからマユも干渉はしねえ。これでも悪魔だからなψ(ΦwΦ;)ψ 。


「キャー、このパンナコッタ、ヤバイよ!」

「このティラミスもヤバ~イ!」

 取り巻き連中が、半分お追従、半分本気で、羨ましがってやがる。

「どーよ、8Kの3Dだから、すごくいいっしょ。むろん、このスィーツも帝都ホテルの特製だから、そこらへのスィーツとは比べモノにはならないんだけどねぇ」

 るり子は、最新のスマホで、昨日食べてきた帝都ホテルのケ-キバイキングの写メを見せびらかしてやがる。

「チ、うるさいなあ……」

 知井子が小さく舌打ちした。

「なんか言ったぁ……?」

 取り巻きの一人が、耳ざとく聞きとがめた。るり子の取り巻きたちがいっせいに三人を睨んだ。

 ジロ

「あいつら、いまごろ宿題やってますよ、るり子さん」

「オホホ、ごめんなさいねぇ。そんなとこで、ドロナワで宿題やってるなんて気がつかなくって!」

 るり子がトドメを刺す。

 キャハハハハ(^Д^) (*`艸´)(^▢^) 

 取り巻きたちがいっせいに笑った。知井子が立ちかけたが、里依紗が止める。

――挑発にのったら、宿題できなくなる――

「あら、素敵なスマホじゃない。わたしにも見せてくれる!?」

 マユは満面の笑みを浮かべて、るり子たちに近づいたぜ。

「あら、マユも見たい。どうぞどうぞご遠慮なく」

 背中に里依紗たちの視線を感じながら、マユはるり子たちの輪の中に入っていったぞ。

「このサバランなんて、いけてるのよぉ、ラム酒に漬けた生地使ってるからとても香りもいいの。残念ねぇ、香りはしないけど、3Dの映像で我慢してねぇ」

 るり子が、鼻を膨らませやがる。るり子が得意になったときのクセだ。

「あら、もったいない。このスマホ、匂いも再現できるのよ。知らなかった?」

 マユはカマしてやったぜ。

「ほんと?」

 タカビーだけど、るり子はこのへんは素直……というか単純。

「ちょっとかして……このアプリをダウンロードしてと……」

「「「おお!!」」」

 教室にラム酒の混ざった、サバランの甘い香りが満ちた。

「さすが、ルリちゃんは元華族!」

「あ、それナイショ(;^_^」

 と言いながら、るり子は積極的には制止しなかった。しかし、取り巻き達は「華族」と「家族」の区別がつかず、キョトンとしていた。サバランの甘い香りの中で、しぶしぶという自慢顔でるり子は説明した。

 里依紗たちの怖い顔に、マユはウィンクで応えたぜ。


 るり子のスマホの噂は、昼頃には学年中に広まって、るり子の自尊心は東京タワーのてっぺんぐらいに高くなっちまったぜ。


 そして、それは昼休みのキャフェテリアで起こったぞ。

「ねえ、ルリちゃん。噂聞いたわよ。ちょっと見せてよ!」

 カレーライスをトレーに載せた隣のクラスのタカビーが寄ってきた。ここのキャフェテリアのカレーはよその学校みてえな業務用なんかじゃねえ、自家製で、聖城女学院の名物メニューなんだぞ。

「いいわよ」

 るり子は気前よく、スマホを取りだしてスイッチをいれた。

「またやってる」

 いまいましいので、里依紗たちはキャフェテリアを出て、中庭からガラス越しにそれを見ていた。

 キャーーーーーーー!!

「なんか変だわよ……?」

 沙耶が、ベンチから立ち上がった。キャフェテリアの中は大騒ぎになっていた。

「な、なにがあったのかしら!?」

 立ち上がった三人にマユは説明してやりたい衝動にかられた。

――あのスマホには、仕掛けをしておいたんだ。写したものはちゃんと時間経過した姿と匂いで現れるようにしてあるんだぜ――

 最初に再生したときは、写したときの姿と匂いがしているけど、次に再生したときは、写したときから同じ時間がたったときのそれになって出てくるんだ。

 で、るり子がスィーツを食べてから、十二時間ほどが経過していた……。

 スマホから再生したスィーツたちは、食後十二時間たった状態だ。姿はキャフェテリアの名物に似ていたぜ(๑ ิټ ิ)。
  

☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
コメント
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