大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 48『飛んでいる』

2021-12-06 15:11:02 | ノベル2

ら 信長転生記

48『飛んでいる』  

 

 

 大森林の上を這うように飛んでいくのかと思った。

 国境を画している長城は、要所要所に櫓が設えてあって、城壁の高さでは死角になる視界を補っている。

 むろん、城壁にも櫓にも三国志の兵が昼夜を問わず監視の目を光らせている。

 太陽は、ほとんど西の空に没しようとしているが、紙飛行機が飛ぶ高さでは、まだまだ十分な明るさを保っている。

 

 出発前の問答を思い出す。

 

「いっそ、日没を待ってはどうだ?」

「僕は、神さまになって、まだ百年足らず。他の神さまのように強い力がありません。お二人を乗せた紙飛行機を、おおよその目的地まで飛ばすのがやっとです。完全に陽が落ちては機位を保つことができません。保てなければ、大樹林の木にひっかかったり、城壁にぶつかったり、着陸地点を見失ったり……飛行の安全と、越境、着地の三つを勘案して、ギリギリで、この時間を選択したんです。僕は織田さんの志には敬服しますが、何よりも、織田さんの安全を担保したいんです」

 多弁な奴は嫌いだ。

 光秀とかな。

 一つの事を言うのに二回以上息を継ぐやつは能無しだ。

 例外はサルだけだ。サルはTPOを良く心がけておって、俺が必要と思う時以外は、俺以上に言葉を惜しんでおった。

 この飛行機オタクはどうだ。

 光秀ほどではないが、言葉が多い。

 しかし、どうも不快ではない。

 俺も転生して寛容になったのか?

 いや、どうやら、忠八が持っている個性のようだ。

 どんな個性だ?

 意地悪く質問してみた。

「お前の言う『織田さん』の中に、俺は入っていないのではないか?」

「え……」

「どうだ?」

「はい、織田さん……僕が『織田さん』という時には、いっちゃ……市さんの顔が浮かんでいます」

「であるか」

 腹が立たない。

 こいつの発言には媚びも外連味(けれんみ)もない。

 

 それで、黙って、この紙飛行機に市と一緒に乗っている。

 市は、いっぱいいっぱいのようで、真っ直ぐに正面を向いて、紙飛行機に身をゆだねている。

 いかん、可愛いと思ってしまったぞ。

 

 おお?

 

 樹海の上を這うように飛ぶだけかと思ったが、木々の隙間があるところでは、器用に潜り込んで姿をくらましている。

 あたかも、紙飛行機の忍びのようだぞ。

 忠八、これは、なかなかのものであるぞ。

 サワ……サワ……サワワ……

 そうやって樹海を浮きつ潜りつしていたかと思うと、紙飛行機は、俄かに現れた城壁をたちまちのうちに飛び越えて、三国志の草原を這うように飛び、岩を躱し、小川を渡り、田畑を掠め、集落を迂回して、林の中に静かに滑り降りていった。

 ザザザザザザ

 いささかの草むらをなぎ倒し、俺と妹は敵地に舞い降りたった。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  •  今川 義元       学院生徒会長 
  •  坂本 乙女       学園生徒会長 
  •  

 

 

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明神男坂のぼりたい・02〔大晦日の明日香〕

2021-12-06 06:24:11 | 小説6

02〔大晦日の明日香〕   

          

 


 夕べのレコード大賞はどこだった?

 仕事で見落としたお父さんが聞く。

 ええと……え、どこだっけ?

「おい。若年性認知症か?」

 いっしゅん焦ったけど、寝落ちしたことを思いだす。

 まあ、お母さんが見てたのを視界の端に留めていたって程度なんだけどね。今どきの高校生は紅白なんて見ないし。

 でも、紅白をネタに娘と普段は途絶えがちなコミニケーションを計ろうとしたのかも。

 だったら申し訳ない(^_^;)

 なんか返そうと焦ったら、さっさと諦めて? 呆れて? 表に新聞を取りに行った。

 新聞とテレビが情報源……情弱のジジイになるぞ……思っても口には出さない。

 
 うちのTGH高校の演劇部は、自分で言うのもなんだけどレベルは高い。過去三年間地区大会一等賞。で、本選では落ちてくる……その程度には。

 今年は『その火を飛び越えて』という東風先生の本をやった。

 いつも通り「すごいわ!」「やっぱ、勝てない!」などの歓声が幕が下りると同時におこった。香里奈なんかは「先生、本選は土曜日とってくださいね。わたし、日曜は検定だから」と、早手回しに息巻いていた。

 上演後の講評会でも、審査員は「演技が上手い」「安心して観ていられる」などと誉めちぎってくれたけど、審査発表では二等賞だった。

 一瞬「なにかの間違い?」というような空気になった。

 一等の最優秀賞は、都立平岡高校だった。だけど、歓声も拍手も起こらない。当の平岡の生徒たちも信じられないという顔をしていた。

 次の瞬間、会場はお通夜のようになってしまった。

 

 柳先輩が、パンフを見たときの言葉が浮かんだ。

「チ、審査員、浦島太郎……!」

 

 ちなみに柳先輩は、身長160センチのベッピンさんで、けして柄の悪いアンチャンではない。

 そのベッピン柳先輩をしてニクテイを言わしめるほどに、劇団東京パラダイスの浦島太郎は評判が悪い。

 一昨年の本選で、当時は統合前だった千鳥ヶ淵高校の作品を『現代性を感じない』とバッサリ切った前科がある。現代性が尺度なら古典はおろか、バブル時代の本だってできない。

 問題は、いかに作品の中に人間を描きだすか。わたし的にはオモロイ芝居にするかが尺度だよ。

 浦島太郎は、こんなことも言った。

「二年前もそうだったけど、なんで、今時こんな芝居するかなあ。バブルの時代の話しでしょ」

 平岡高校の時は終戦直後、旧制中学が新制高校に変わるときのお話だったよ。そっちの方が時代性なくね?

 ちなみに浦島太郎っていうのはキンタローと同様に験担ぎの芸名。幼稚園の生活発表会で浦島太郎の役をやって当たったんで、そのまんまで、やっている。
 もっとも当たったのは、その日の弁当の食中毒で、本人はシャレのつもりでいてる。名前から来るマイナーなイメージには頓着してない……ところが、この人らしい。

 

 我が城北地区には、生徒の実行委員が選ぶ地区賞というのがある。

 

 我がTGH高校は、それの金賞をもらった。通称「コンチクショウ」という。まさに字の通り。

 平岡高校は、それの銅賞にも入らなかったよ。

「どうしようもないな」

 そう言ったら、東風先生に「言い過ぎ!」と怒られた。

 腹の収まらないあたしたちは「アドバイスをいただきたい」ということで、浦島太郎を学校にお招きした。

 一応相手は、プロで大人だから、礼は尽くす。

「先生の審査の柱は?」「わたしたちに高校演劇として欠けているものは?」「演出の課題は?」「どうやったら先輩たちのように上手くなれるんでしょう?」「高校演劇のありようは?」「道具の使い方のポイントは?」

 浦島太郎は「道具を含むミザンセーヌのあり方が……」「演出の不在を感じた」「エロキューションはうちの劇団員よりいい。でも、それだけではね」などと言語明瞭意味不明なことを述べ、あたしらは、ただ「恐れ入る」ということを主題に演技した。

 あたしは思った。

 ダメだと思ったら落とすための理由を審査員は探す。イケテルと思ったら上げるための理由を探す。審査基準が無いためのダブスタの弊害。

 西郷先輩が、帰りの電車で浦島太郎といっしょになった。

「いやあ、君たちのような高校生といっしょに芝居がしたいもんだ」

 西郷先輩は、そのままメールでみんなに知らせてくれた。

―― どの口が!? ――

 あたしは、そう返した。

 なんだか、がんばらなくっちゃという気持ちになって台本を読む。

「明日香、いつになったら部屋片づけのん!?」

 お母さんの堪忍袋の緒が切れた。

「あ、今やろうと思ってたとこ」

 白々しくお片づけの真似事を始める。

「今から、そんなことしないでよ。ゴミ収集が来るのは年明けの五日だぞ!」

 大人は理不尽。

「買い物行ってきて。これリスト」

「ええ、生協で買ったんじゃないの!?」

「それでもいろいろ漏れるの。さっさとしないと昼ご飯ないよ!」

 あたしは、玄関でポニーテールが決まっていることだけを確認。

「よし!」

 そして、ホームセンターと近所のスーパーをチャリンコで周る。

「ええ……ディスクのRWに電池、ベランダ用ツッカケ……たかが三が日のために、年寄りの正月はたいそうなんだから」

 そう思いながら、大事なものが抜けていることに気がついた。

 しめ縄がない。

 で、気を利かして1000円のしめ縄を買った。

 

「バカか。うちは喪中でしめ縄なんかできないでしょ!」

 

 お母さんははっきり口に出して、お父さんは背中で非難した。

 そうだ、この七月にお婆ちゃん(お父さんのオカン)が亡くなったんだった……。

  自己嫌悪で締めくくった大晦日だった。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
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ライトノベルベスト『恋する式神』

2021-12-06 05:09:02 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
『恋する式神』   
  


「to Newyorkって言うと二枚切符が出てきたの」

「え……」
 
「分からなきゃ、いいです」
 
 瑞希は、素っ気なく言った。英語科準備室は、あちこちで忍び笑いが起こった。

「それ、toとtwo(2)のひっかけですよ」

 野崎先生が解説してくれて、やっとボクも笑えた。
 
 瑞希の目が輝いた。
 
「これじゃ通じないんだと思って言い直すの。for Newyorkって、そうすると四枚切符が出てきて焦っちゃう。で、思わず、えーと……って言ったら八枚出てきちゃった!」
 
 アハハハハハハハハ
 
 準備室は大爆笑になった。

 
 瑞希は、時々準備室に来て質問する。で、そのあとに、こういうジョ-クを言って行く。
 

 ボクは、瑞希のジョークをそのまま授業で使わせてもらって、なんとか面白い英語の先生でやってこれた。
 
 新採のボクは、最初のころ、授業がまるでダメ。五月の連休頃には、すっかり自信を失っていた。
 
 ボクは早稲田の英文科を、かなり良い成績で卒業し、自信満々で、この神楽坂高校に赴任してきた。

 しかし、自分が出来ることと、上手く教えられることが別物であることを、その一カ月足らずで思い知った。

 お袋は、ダメなら、さっさと辞めてうちの仕事を手伝えと言う。
 
 実家は、有限会社で、小なりと言え貿易会社である。ボクには親父のような商才がないので、教師になったが、これもうまく行かない。それまで、勉強については順風満帆だったので、正直落ち込んだ。

 で、連休が明けて最初の授業のA組に行くと、転校生で阿倍瑞希が来ていた。
 
 パッとしない黒縁のメガネにお下げという姿で、およそ、今時の可愛いという基準からはズレた子だった。
 
 でも、授業は熱心に聞いてくれ、その時間の終わりには、この学校に来て、初めて授業らしい授業ができた。
 
 瑞希は、よく質問に来るようになった。で、オヤジギャグみたいなジョークを披露していく。

 で、気づいたら、授業で、そのジョークを言ってしまう。瑞希は、自分が教えたくせに、みんなといっしょになって笑っている。おかしな奴だ。

 極めつけは、AETのジョージに授業中に「こう言ってみて」というやつだった。
 
 小道具まで用意してくれた。学級菜園で採れたジャガイモが、黒板の前に並べられていた。ジョージはアイダホの農家の出で、ジャガイモが懐かしいらしくいじりだした。
 
「ジョージ、掘った芋いじっでねえ」
 
「オー、イッツ、ツーオクロック」
 
 教室は、爆笑の渦になった。
 
 What time is it nowになることに、初めて気づいた。

 そして、二学期の期末テストが終わった日、廊下で瑞希と出会った。下校するんだろう、いつものお下げを毛糸の帽子の中に入れて、ダサさが、いつもの倍ほどになっていた。

「先生、英語の詩を作ったの。聞いてくれる?」
 
「うん。じゃ、準備室行こうか」
 
「ここで。あんまり時間ないから」
 
「うん、いいよ」

 瑞希は、白い息一つして言った。

「あ、その前に。あたしが口走ったジョークは、オリジナルじゃないの。先生は、そのへんの研究が足りません」
 
「あ、そうなんだ」
 
「じゃ、いきます。ホップ、あなたに近づいて。ステップ、あなたに恋をして。ジャンプ……しても届かなかった」
 
「ハハ、なかなかいいじゃないか」
 
「タイトルは『恋の三段跳び』だよ」
 
「ピッタリのタイトルだよ」

 瑞希は、なにか言いごもって、うつむいた。

「どうした……?」
 
「最後に、あたしの顔見て」
 
「え、いつも見てるよ」
 
「これが、ほんとのあたし……」
 
 瑞希は毛糸の帽子とメガネを取った。

 
 息を呑んだ。

 
 ロングの髪がサラリとあふれ、切れ長の潤んだ目が、眉に美しく縁取られていた。瑞希は、こんなに綺麗な子だったんだ……。

「じゃ……じゃ、さよなら!」

 瑞希は、廊下を小走りに下足室に向かった。
 
「瑞希!」
 
 ボクは、思わず後を追った。

 ウロウロと昇降口のロッカーの谷間を探したが見当たらない。

 瑞希のロッカーの下に、白い紙の人型が落ちていた。拾い上げてみた。

 an obstinate personと書いてあった。
 
 朴念仁か……。

 その夜、お袋からメールが来た。
 
 祈願成就のお参りが満願になったと……神社は清明神社だ。
 
 式神の写メが添付されていた。
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