小悪魔マユの魔法日記・12
『知井子の悩み・2』
『知井子の悩み・2』
知井子が決心をした。
たいそうな決心ではない。この半年近くで、身長が五センチも伸びたので、新しい服を買いに行く決心をしたのだ。
縦には成長したが、横には、それほどに成長していなかったので、服はずっとそのままでいた。しかし、さすがに持っているミニスカートがマイクロミニになりかけて、階段の上り下りに気を遣うようになった。で、思い切って服を買い換えることにしたのだ。
まずは制服だった。毎日着る物なので、これが最初になった。
「入学の時、少し大きめのを買ったのにね」
知井子のお母さんは、そう言いながらも制服を買い直してくれた。不足そうな言い方だったけど、娘の成長は嬉しい。単に身長が伸びたことだけじゃなくて、何事にも自信を持ち始めたことが嬉しいのだ。
「他の服も買い直さなくっちゃなあ」
お父さんが、嬉しそうにお小遣いをくれた。
マユは知っていた。落第天使の利恵がかけた白魔法が効いてきたのだ。片岡先生の事件の前に、利恵が知井子のコンプレックスを知って、お気楽にかけた白魔法。
オチコボレ小悪魔のマユは、知井子が魔法で身長を伸ばして得る自信はにせものだと思った。知井子の身長が伸びると、知井子は自分でも思いもかけない苦労をしょいこむことを知っている。だから対抗して、知井子の身長が伸びない黒魔法をかけたが、結果は、半年で五センチも背が伸びるという、育ち盛りの小学生並の成長になった。
利恵は、思ったほどに知井子の背が伸びないことに、やや不満。マユは自分の黒魔法が利恵に勝てなかったことが不満。
実際のところは、オチコボレ天使と小悪魔の魔法は相殺されて、知井子の背が伸びたのは、あくまでも自然な成長であった。影響があったとすれば、英語の片岡先生が、メリッサ先生と恋人同士になるドラマチックな展開を目の当たりにしたことであろうか。
マユには見えていた。街に服を買いに行ったら、どういう展開になるか(小悪魔マユの魔法日記・3『知井子の悩み』に書いてある)
「ねえ。知井子、明日いっしょに街に出ない?」
マユの方から声をかけた。知井子は沙耶や里依紗もいっしょ行きたかったが、あいにく二人は検定試験で出かけられない。むろんマユはそれを見越して、声をかけている。未熟な小悪魔であるマユは、人数が多いと、これから起こる問題をさばききれないからである。
「ねえ、キミお茶しない?」
イケメンくずれのお笑いタレントのようなオニイサンが声をかけてきた。
多少くずれていてもイケメンである。知井子は人生で初めて、男の人に声をかけられた。中学生のとき、ディズニーランドでスタッフのオニイサンが「迷子になったの?」と声をかけてくれたのを例外として。
――予想通りだ。
ゴスロリの店で、知井子は思い切って服を買った。あたりを歩いているヒラヒラのゴスロリではなく、シックな二十世紀初頭のイギリスのお嬢さんのように見えた。
「いいえ、けっこうです」……とは言えなかった。
なんせ、人生で初めてオトコから声をかけられたのである。で、ディズニーランドのスタッフのオニイサンではない。
「え……あの、あの……」
知井子は、後の言葉が続かない。このままではイケメンの軽いナンパに引っかかってしまう。
マユは、知井子自身に断って欲しかった。でも、予想通り、知井子は声も出せない。
「だからさ、気楽に、そっちの子もいっしょにさ」
あきらかに、ついでに言われていることにむかついて、マユは、ヒョイと指を横に振った。
とたんに、イケメンの口は閉じたチャックになってしまった……。
たいそうな決心ではない。この半年近くで、身長が五センチも伸びたので、新しい服を買いに行く決心をしたのだ。
縦には成長したが、横には、それほどに成長していなかったので、服はずっとそのままでいた。しかし、さすがに持っているミニスカートがマイクロミニになりかけて、階段の上り下りに気を遣うようになった。で、思い切って服を買い換えることにしたのだ。
まずは制服だった。毎日着る物なので、これが最初になった。
「入学の時、少し大きめのを買ったのにね」
知井子のお母さんは、そう言いながらも制服を買い直してくれた。不足そうな言い方だったけど、娘の成長は嬉しい。単に身長が伸びたことだけじゃなくて、何事にも自信を持ち始めたことが嬉しいのだ。
「他の服も買い直さなくっちゃなあ」
お父さんが、嬉しそうにお小遣いをくれた。
マユは知っていた。落第天使の利恵がかけた白魔法が効いてきたのだ。片岡先生の事件の前に、利恵が知井子のコンプレックスを知って、お気楽にかけた白魔法。
オチコボレ小悪魔のマユは、知井子が魔法で身長を伸ばして得る自信はにせものだと思った。知井子の身長が伸びると、知井子は自分でも思いもかけない苦労をしょいこむことを知っている。だから対抗して、知井子の身長が伸びない黒魔法をかけたが、結果は、半年で五センチも背が伸びるという、育ち盛りの小学生並の成長になった。
利恵は、思ったほどに知井子の背が伸びないことに、やや不満。マユは自分の黒魔法が利恵に勝てなかったことが不満。
実際のところは、オチコボレ天使と小悪魔の魔法は相殺されて、知井子の背が伸びたのは、あくまでも自然な成長であった。影響があったとすれば、英語の片岡先生が、メリッサ先生と恋人同士になるドラマチックな展開を目の当たりにしたことであろうか。
マユには見えていた。街に服を買いに行ったら、どういう展開になるか(小悪魔マユの魔法日記・3『知井子の悩み』に書いてある)
「ねえ。知井子、明日いっしょに街に出ない?」
マユの方から声をかけた。知井子は沙耶や里依紗もいっしょ行きたかったが、あいにく二人は検定試験で出かけられない。むろんマユはそれを見越して、声をかけている。未熟な小悪魔であるマユは、人数が多いと、これから起こる問題をさばききれないからである。
「ねえ、キミお茶しない?」
イケメンくずれのお笑いタレントのようなオニイサンが声をかけてきた。
多少くずれていてもイケメンである。知井子は人生で初めて、男の人に声をかけられた。中学生のとき、ディズニーランドでスタッフのオニイサンが「迷子になったの?」と声をかけてくれたのを例外として。
――予想通りだ。
ゴスロリの店で、知井子は思い切って服を買った。あたりを歩いているヒラヒラのゴスロリではなく、シックな二十世紀初頭のイギリスのお嬢さんのように見えた。
「いいえ、けっこうです」……とは言えなかった。
なんせ、人生で初めてオトコから声をかけられたのである。で、ディズニーランドのスタッフのオニイサンではない。
「え……あの、あの……」
知井子は、後の言葉が続かない。このままではイケメンの軽いナンパに引っかかってしまう。
マユは、知井子自身に断って欲しかった。でも、予想通り、知井子は声も出せない。
「だからさ、気楽に、そっちの子もいっしょにさ」
あきらかに、ついでに言われていることにむかついて、マユは、ヒョイと指を横に振った。
とたんに、イケメンの口は閉じたチャックになってしまった……。