大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくも・06『マップメジャー・2』

2020-11-22 06:54:28 | ライトノベルセレクト

・05『マップメジャー・2』  

 

 

 今日も杉野君と二人。

 

 マップメジャーで遊んでいる。

 いろんな地図で試しては、小さく「へー」とか「ほー」とか言う。

 そんなに面白いというわけでもないんだけど、こういうことに程よく熱中していた方が距離がとれるし、ひょっとしたら可愛げのある女子と思われるかもしれない。

 程よい可愛げというのは大事なんだ。ハミゴはごめんだし、へんにベタベタされるのもいやだ。ちょっと愛嬌のあるNPCぐらいの存在でありたい。杉野君はあいかわらずラノベばっか、その横に座っているだけと言うのは、三日目にもなるともたないもんね。変に話しかけるのもあれだし……それに、杉野君はラノベ読みながら、時々、時々だけど、ニヤッと笑ったり、ポッと頬を赤くしたりする。人間関係もほとんどないのに、そういう人の横には、ちょっとね……。

 国土地理院の地図は、この街しか分からない。

 他の地図は知らないとこばかりなので興味が湧かない。

 それで、地図の付いている本を適当に出してはマップメジャーを転がしてみる。

 東京大阪間は550キロと出てきた。逆に大阪東京間で計ると570キロになる。

 まあ、アナログなんで転がし方によって出る誤差なんだろう……三回測ってみる、数キロの違いは出てくるけど、どう測ってみても、大阪からの方が遠い。

 歴史の本を出して、江戸大坂間を測ってみる……縮尺が書いてない。ま、適当に……140里。

 え?

 140里という数字が地図の東海道の上に浮き出てきた。

 変だよね、ふつうマップメジャーの文字盤に矢印が指すんだ。それが地図の東海道に沿ってホワ~っと現れた。

 十秒もたつと消えてしまう。もう一度あてがうと、また出てくる。

 これは、アナログに見えてたけど、デジタルなのかもしれない。ほら、バーチャルキーボードってあるじゃない。パソコンの前にキーボードが投影されたのをリアルキーボードみたく操作できるやつ。

 今度は戦国時代の地図。

 信長のいる京都と秀吉のいる備中を測ってみる……100と出てきた。むろん地図の上。

 光秀のいる丹波と京都、めちゃくちゃ近いにちがいない。近いからこそ、光秀は謀反を起こす気になったんだ……あれ?

 ∞?

 8の横倒し……無限大だと分かるまで、数秒かかった。

 無限大って?

 戸惑っていると――心理的距離――と出てきた。

 京都丹波間……110?

 ああ、信長は秀吉と同じくらい光秀を信用していたんだ。光秀が一人距離感じてたんだよなあ。

 レトロなスタイルしてるのに、このマップメジャーはスゴイ!

 

 今度は、ポケットから図書委員のローテーション表を出す。

 

 図書部の先生と自分を測ってみる……350、無限大よりはマシだけど、まあ、こんなもんか。

 杉野君とわたしを測ってみる……30……うそ!?

 方向を逆にして、わたしから杉野君……180? これって、杉野君がわたしを?

 あり得ない、今もカウンターでラノベに夢中だ。

 

 う~ん

 

 ロ-テーション表の裏に、うちの家族を書いてみる。わたしを中心に、お爺ちゃん、お婆ちゃん、お母さん。

 お爺ちゃんが100 お婆ちゃんが90 お母さんが20   ま、こんなもんか。

 逆にわたしからの距離を測ってみる。

 お爺ちゃんへは2000 お婆ちゃんへは1800 お母さんへは800  なんだこれは……。

 

 すみませーん、貸出おねがいしまーす。

 

 カウンターで声。女子がわたしを呼んでいる。杉野君はトイレにでも行ったんだろう。

「はーい、ただ今」

 カウンターに戻って貸し出し手続きをしてあげる。

 図書カードをボックスに入れていると、ハンカチを仕舞いながら杉野君が戻ってきた。

「あ、ごめん……」

 自分が席を立った間に貸し出しがあったので、ポッと顔を赤くしている。

「ううん」

 180を100くらいに縮める笑顔で返事して、マップメジャーに戻る。

 

 あれ? どこを探してもマップメジャーは見当たらなくなってしまった。

 

 少し遅れて完全下校のチャイムが鳴った。


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