サタンとミカエルの戦いを除いて、有史以来初めての「時間よ止まれ、ダブルブッキング事件」から一ヶ月。
知井子の身長が一センチ伸びた。
本人はビックリしていたが一センチなので、誰にも言わない。誰も気づかなかった。
落第小天使利恵は、自分の白魔法のなせる技だと思っていたが、ただの自然な成長であった。利恵の思いこみのいきさつについては『小悪魔マユの魔法日記・3 知井子の悩み』を見ていただきたい。
本題は知井子のことではない。
ルリ子たちワルのアミダラ女王パンツに、ことの発端がある。
マユのイタズラで、ルリ子の仲間の一人のスカートが翻り、アミダラ女王のパンツが丸見えになった。心を閉ざし、無気力な授業をやっていた片岡先生の心は読めなかったが、その瞬間、片岡先生は一瞬ドキリとしたが、並の男が、こういう状況で感じるドキリとは違っていた。ブルネットの髪をした女性の顔が一瞬浮かんだだけである。
そのことが気になって、マユは、階段の踊り場で、片岡先生が手にしていた商売道具を滑らせた。さすがに片岡先生も「あ!」と声を上げて、閉ざされた心が、わずかに開いた。そこで時間を止めて、先生の心の闇を覗いてみようとしたのだが、落第天使の利恵も同時に時間を止めてしまった。その差0.01秒。世界はダブって止まってしまった。これが「時間よ止まれ、ダブルブッキング事件」である。
仕方なく、落第ということで共通している小悪魔と小天使は手を繋いで、時間を同時に再起動した。
それから、一ヶ月。知井子の身長が一センチ伸びた……だけではなかった。
「ええ、今日から、スミス先生の代わりとして赴任された、メリッサ・フランクリン先生です」
英語科主任の山田先生が紹介した。片岡先生は、月に一度の通院で休んでいる。
「こんにちは。キョウから、みなさんの英会話のベンキョウのオテツダイをするメリッサです。どうぞよろしく」
前任のスミス先生は、本国の友だちに頼んで買ってもらった宝くじが大当たり。日本円で五億円手に入れた。
なんでも、宝くじを買うのに並んでいたら、偶然前に宝くじマニアで、何度も賞金を獲得しているキンバリーというオッサンがいることに気づいた。
キンバリーというオッサンは、宝くじマニアの中では、カリスマと言われている人物である。面が割れないように、帽子を深々と被って、付けひげをして、口には含み綿を入れ顔を変えていたので誰にも分からなかった。気づくのには理由があった。
宝くじの行列の脇を、プラダを着込み、濃いめのグラサンをした女性が通りから身を隠すように歩いていた。そして、ヒールを歩道のブロックに引っかけて倒れ込んでしまった。
で、倒れ込んだ先にキンバリーのオッサンがいて、彼女を抱き留めた。
女性のグラサンが外れた。外れたその顔を見て、オッサンは驚いた。
女性はオッサンが若い頃からファンであった、名女優のオリビア・ヤッセーであった。
「あ、あなたは!?」
びっくりした、キンバリーのオッサンの帽子も付けひげも外れてしまい、含み綿を飲み込んだ。そして、勢いで、二人揃って列から外れて、はみ出してしまった。
オリビアは、つい二ヶ月前に三番目の夫と別れたばかりであった。当然パパラッチたちに付け狙われており、このときも三人のパパラッチがカメラを構えた。そして気づいた。
「宝くじカリスマのキンバリーだ!」
あたりは大騒ぎになった。
「わたしの車に!」
キンバリーのオッサンは騎士道精神を発揮して、路肩のパーキングに停めていた自分のTOYOTAにオリビアを乗せて、幹線から外れた裏通りを通り、名女優を逃がしてやった。
なぜ、辣腕のパパラッチをかわせたかというと、キンバリーは、若い頃、映画のカースタントのドライバーをやっていた。一度、オリビアを乗せた車でスタントをやったことがあり、その時から、ほのかな恋心をオリビアに持っていた。むろんパパラッチのバイクを撒くなど屁でもない。そして、TOYOTAが小型で、性能が良かったことも幸いした。やはり、イザというときは日本製である!
ここまでハデにやれば、スミス先生の友だちも気づくわけである。
で、スミス先生の友だちはキンバリーが外れた順番に立つことになり、本来なら、キンバリーが手に入れるはずであった宝くじを手に入れ、一等の五億円を当てたのである。
それで、スミス先生は、安月給な日本の英語の講師をアッサリと辞め、本国に帰ってしまった。
キンバリーのオッサンは、これが縁で、オリビアの四番目の夫になった。
しかし、パパラッチの一人は、キンバリーがスピンをかけて方向転換をしたときに、ハンドル操作を誤り、車線を外れ、対向車線のヒュンダイに激突した。パパラッチは、命は取り留めたものの、腕や脚を骨折。仕事ができなくなり、半年前に買った家のロ-ンが払えなくなり、身重の妻といっしょに夜逃げをするハメになった。
天使がやる、幸せづくりというのは、どこかにしわ寄せがくるものなのであるが、利恵は、そこまでは知らないし、責任を持つつもりもない。
「似てるわね……」
メリッサ先生が、やる気になって、髪をまとめてオダンゴにしたとき、ルリ子が呟いた。
メリッサ先生の面影は、アミダラ女王に似ていた……。
つづく
落第小天使利恵は、自分の白魔法のなせる技だと思っていたが、ただの自然な成長であった。利恵の思いこみのいきさつについては『小悪魔マユの魔法日記・3 知井子の悩み』を見ていただきたい。
本題は知井子のことではない。
ルリ子たちワルのアミダラ女王パンツに、ことの発端がある。
マユのイタズラで、ルリ子の仲間の一人のスカートが翻り、アミダラ女王のパンツが丸見えになった。心を閉ざし、無気力な授業をやっていた片岡先生の心は読めなかったが、その瞬間、片岡先生は一瞬ドキリとしたが、並の男が、こういう状況で感じるドキリとは違っていた。ブルネットの髪をした女性の顔が一瞬浮かんだだけである。
そのことが気になって、マユは、階段の踊り場で、片岡先生が手にしていた商売道具を滑らせた。さすがに片岡先生も「あ!」と声を上げて、閉ざされた心が、わずかに開いた。そこで時間を止めて、先生の心の闇を覗いてみようとしたのだが、落第天使の利恵も同時に時間を止めてしまった。その差0.01秒。世界はダブって止まってしまった。これが「時間よ止まれ、ダブルブッキング事件」である。
仕方なく、落第ということで共通している小悪魔と小天使は手を繋いで、時間を同時に再起動した。
それから、一ヶ月。知井子の身長が一センチ伸びた……だけではなかった。
「ええ、今日から、スミス先生の代わりとして赴任された、メリッサ・フランクリン先生です」
英語科主任の山田先生が紹介した。片岡先生は、月に一度の通院で休んでいる。
「こんにちは。キョウから、みなさんの英会話のベンキョウのオテツダイをするメリッサです。どうぞよろしく」
前任のスミス先生は、本国の友だちに頼んで買ってもらった宝くじが大当たり。日本円で五億円手に入れた。
なんでも、宝くじを買うのに並んでいたら、偶然前に宝くじマニアで、何度も賞金を獲得しているキンバリーというオッサンがいることに気づいた。
キンバリーというオッサンは、宝くじマニアの中では、カリスマと言われている人物である。面が割れないように、帽子を深々と被って、付けひげをして、口には含み綿を入れ顔を変えていたので誰にも分からなかった。気づくのには理由があった。
宝くじの行列の脇を、プラダを着込み、濃いめのグラサンをした女性が通りから身を隠すように歩いていた。そして、ヒールを歩道のブロックに引っかけて倒れ込んでしまった。
で、倒れ込んだ先にキンバリーのオッサンがいて、彼女を抱き留めた。
女性のグラサンが外れた。外れたその顔を見て、オッサンは驚いた。
女性はオッサンが若い頃からファンであった、名女優のオリビア・ヤッセーであった。
「あ、あなたは!?」
びっくりした、キンバリーのオッサンの帽子も付けひげも外れてしまい、含み綿を飲み込んだ。そして、勢いで、二人揃って列から外れて、はみ出してしまった。
オリビアは、つい二ヶ月前に三番目の夫と別れたばかりであった。当然パパラッチたちに付け狙われており、このときも三人のパパラッチがカメラを構えた。そして気づいた。
「宝くじカリスマのキンバリーだ!」
あたりは大騒ぎになった。
「わたしの車に!」
キンバリーのオッサンは騎士道精神を発揮して、路肩のパーキングに停めていた自分のTOYOTAにオリビアを乗せて、幹線から外れた裏通りを通り、名女優を逃がしてやった。
なぜ、辣腕のパパラッチをかわせたかというと、キンバリーは、若い頃、映画のカースタントのドライバーをやっていた。一度、オリビアを乗せた車でスタントをやったことがあり、その時から、ほのかな恋心をオリビアに持っていた。むろんパパラッチのバイクを撒くなど屁でもない。そして、TOYOTAが小型で、性能が良かったことも幸いした。やはり、イザというときは日本製である!
ここまでハデにやれば、スミス先生の友だちも気づくわけである。
で、スミス先生の友だちはキンバリーが外れた順番に立つことになり、本来なら、キンバリーが手に入れるはずであった宝くじを手に入れ、一等の五億円を当てたのである。
それで、スミス先生は、安月給な日本の英語の講師をアッサリと辞め、本国に帰ってしまった。
キンバリーのオッサンは、これが縁で、オリビアの四番目の夫になった。
しかし、パパラッチの一人は、キンバリーがスピンをかけて方向転換をしたときに、ハンドル操作を誤り、車線を外れ、対向車線のヒュンダイに激突した。パパラッチは、命は取り留めたものの、腕や脚を骨折。仕事ができなくなり、半年前に買った家のロ-ンが払えなくなり、身重の妻といっしょに夜逃げをするハメになった。
天使がやる、幸せづくりというのは、どこかにしわ寄せがくるものなのであるが、利恵は、そこまでは知らないし、責任を持つつもりもない。
「似てるわね……」
メリッサ先生が、やる気になって、髪をまとめてオダンゴにしたとき、ルリ子が呟いた。
メリッサ先生の面影は、アミダラ女王に似ていた……。
つづく