大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・里奈の物語・16『閉店大売出し』

2019-07-06 06:17:21 | 小説3
里奈の物語・16『閉店大売出し』


 お昼を過ぎても外に出ないと骨董品になったような気になる。

 骨董品は好きだけど、自分自身が骨董品になりたいわけではない。
――骨董品になりそうなあたし――
 そうコメントを付けて、店番の自分を自撮りした写真を添付、送信にタッチ。
――17歳の骨董品……意外に売れるかも――と、拓馬から返ってくる。
「ポジティブな奴はかなわないなあ……おばさん、ちょっと散歩してきていいですか?」
「うん、行っといで。今日は中国の団体さんもけえへんし」

 けっきょく拓馬のメールに後押しされるようにして外に出る。

 考えたら、拓馬も家に引きこもり。そいつに「17歳の骨董品」呼ばわりされるイワレはない。
 しかし、拓馬は挑戦的引きこもり。
 なにが挑戦的なのかは分からないけど、この三日で感じたオーラは看板どおり。

 アテのない散歩だけど、気が付けば、あのポストを目指している。

 まだ二回しか行ったことがないけど、八百メートルほどの道のりは覚えている。
 むろん道のりにある景色全てを覚えているわけじゃない、要所要所のお家や看板を覚えていてたどり着くんだ。

『一日一日の毎日を大切にして、豊かで充実した高校生活を送りましょう』
 クラス開きの日、担任は校長の挨拶をコピーして笑顔であたしたちに言った。
『毎日毎日大切になんかしてたら、緊張感でもちません』
 そう言ったのは、まだ担任や教師に期待してたからだろう。いまなら黙殺する。
 人生なんて散歩と同じ。要所要所の日に、あるいは時間に集中して取り組み、それ以外はなんとなくなんだ。
 そう言いながら、不登校、引きこもりになってしまったのは、一日一日のあれこれにこだわり過ぎたせい。

 そのポストが好きなのは、ただ古いからだけじゃなかった。     

 ようく見ると、ポストは右に少しだけ傾いている。最初は気づかなかった。
 この傾きが、なんだか「休め」をしているようで安心ができるんだ。
 この安心は骨董に通じる。
 骨董は時間というか時代を経て佇まいにマロミがある。
 どんな高級品でも新品は尖がっている。いわば姿勢として「気を付け」だ、人も物も「休め」がいい。

「うん、うん、いまボストン靴店の前」

 そう言うオバチャンの声が聞こえた。オバチャンはガラケーに話しかけている。
 以前の以前住んでいた東京は、人の声は小さい。奈良の人も、そんなに声は大きくない。
 大阪の人間、とくにオバチャンの声は大きい。
 こういうアケスケナところは好きだ。ま、景色としてはね。
 現実に、こういうノリで迫ってこられたら引いてしまうんだろうけどね、毎日をなんとなく生きていて、こんなテンションでやっていけることは、正直羨ましい。
「うん、焦って買いにくることないよ。値段は春と変われへん。来年の閉店大売出しにはもっと安なってるんとちゃうか、アハハ、そらそうやな、毎日閉店大売出しやねんもんな!」

「え……?」

 店に帰っておばさんに聞いてみた。
「ああ、大阪ではようやってるよ。閉店大売出して言うたら、なんや元気出るし、安いいう感じするよってにな……どないかした、里奈ちゃん?」
「あ、いえ……」

 明るさは滅びのしるしであろうか……そう思い込んでいた。

 あたしは、まだまだ甘ちゃんだ。
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