大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

乃木坂学院高校演劇部物語・38『……九人しかいない』

2019-11-17 06:15:48 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・38   
『……九人しかいない』 


 
 部活の場所になっている視聴覚教室に向かう。思わず急ぎ足になる。

 ――まず、みんなにお礼とお詫びを言わなっくっちゃ。
 わたしは、二十七人の部員一人一人に言葉をかけようと、夕べはみんなからのメ-ルをもう一度見なおした。
 忠クンへのお礼ってか、想いは昨日伝えた。これでほとんど終わったつもりでいたんだけど、あらためてみんなのお見舞いメールを見ると、それぞれに個性がある。アイドルグル-プのMCの子がコンサートの終わりでやるような全体への挨拶じゃいけない。一人一人に言葉をかけなくちゃ……って、ついさっきも言ったよね。
 緊張してんのよ、わたしって……そうだ副顧問の柚木先生……ま、普段の部活には来ないから、あとで教官室に行けばいいや。お礼は、それまでに考えればいい……。

「おはようございまーす」
「おはよう……」
 まばらで、元気のない返事が返ってきた。
 まず、柚木先生がいたので、面食らった。まだ、お礼の言葉考えてない……。
 で、次に目についたのが、集まってる部員の少なさ……九人しかいない。
「さあ、まどかも来たことだし、始めようか」
 峰岸先輩がポーカーフェイスで言った。
「あの、最初にみんなに……」
「お礼ならいいよ、メールもらったし。早く本題に入ろう」
 勝呂先輩がいらついて言った。勝呂先輩のこんな物言いを聞くのは初めてだった。
「いらつくなよ勝呂。まどかは、まだ何も知らないんだから。まどかへの説明を兼ねて、問題を整理しよう」

――いったい、何があったんだろう……。

「まどか」
「はい……」
「まず、座れ。落ち着かなくっていけないよ」
「立ったままだと、倒れるかもしれないからな」
「勝呂!」
 ポ-カーフェイスの叱責がとんだ。

「じつは、まどか……マリ先生がお辞めになった」
 え?
 
 足が震えた……。

「顧問をですか……?」
 恐れてはいたが、かすかに予想はしていた。
「いいや、この乃木坂学院高校をだ」
 教室がグラッと揺れた……立っていたら倒れていた。むろん地震なんかじゃない。
「今回のことで責任をとってお辞めになった」
「学校が辞めさせたんですか!?」
「少し違う……」
 峰岸先輩がメガネを拭きながら、つぶやいた。
「それについては、わたしが話すわ」
 柚木先生が間に入った。
「今から話すことは部外秘。いいわね」
 みんなが頷く。
「理事会で少し問題になったみたいだけど、潤香のことも火事のことも……本人を前に、なんだけど、まどかのこともマリ先生の責任じゃない。詳しくは分からないけど、理事会としてはお構いなしということになった」
「じゃ、なぜ……」
「ご自分から辞表を出されたらしいわ」
 柚木先生は目を伏せた。
「それは違います」
 峰岸先輩が静かに異を唱えた。
「峰岸君」
 上げた先生の目は、鋭く峰岸先輩に向けられた。

 先輩は静かに続けた。

「柚木先生のお言葉は事実ですが、部分にすぎません。大事なポイントが抜けています。学校は先週のスポ-ツ新聞が取り上げた記事を気にしているんです」
「なんですか、それ?」
「ほら、コンクールで、うちの地区の審査員をやった高橋って人。マリ先生とは大学の先輩と後輩になるんだ。この二人の関係がスキャンダルになった。コンクールが終わった後、先生が立ち寄ったイタメシ屋で二人はいっしょになった。新聞には待ち合わせてと書いてあった」
「ウソでしょ……」
「乃木坂を落とした理由を説明するために、高橋って人はイタメシ屋に行ったんだ。それは、うちの警備員のおじさんも、店のマスターも証言している。店では大論争になったらしいよ。で、店を出た二人は地下鉄の駅に向かい、たまたま通りかかったホテルの前で写真を撮られたんだ。そして『新進俳優、高橋誠司、某私立女性教師と不倫!』という見出しで書かれてしまった」
「そのホテルなら知ってるよ。六本木寄りにある『ラ ボエーム』って言うホテルだ。店の面構えですぐに分かった」
 宮里先輩が言った。
「なんで高校生のオマエが知ってるんだよ?」
 と、山埼先輩。
「そりゃあ、道具係だもんよ。日頃から、いろんなもの観察してんだよ」
「あ、その気持ち分かります!」
 これは衣装係のイトちゃん。
「それって、濡れ衣だって分かったんでしょ。先輩……」
「むろんだよ、明くる日には謝罪訂正記事が出た。隅っこの方に小さくね。で、学校の一部の理事や管理職は気にしたようだね。マリ先生にこう言った。『丸く収めるために形だけ辞表を出してもらえませんか。いや、すぐに却下ということで処理しますから』で、先生は、その通りにした。『ご本人の硬い意思ですから』と理事長を納得させた」
「うそでしょ……」
 柚木先生の顔が青くなった。
「本当です。ここに証拠があります……」
 先輩は、小さなSDメモリーカードを出した。
「これは……」
「マリ先生とバーコードとの会話が入っています。ときどき校長と、ある理事の声も」
「峰岸君、キミって……」
「こんなもの、今時ちょっと気の利いた中学生でもやりますよ。な、加藤」
「え、ええ……」
 音響係の加藤先輩があいまいな返事をした。

 
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