「おーい」
という声で目が覚めた。
ボンヤリと白い服を着た人たちが目に浮かんできた……天使さんたちだ。
十五歳のこの歳まで、わたしはいい子でいた……自己評価だけど。だから、わたしは天国に来たんだ……そう思った。
中央に、大天使ミカエルさま。両脇にきれいなオネエサンの天使がひかえていらっしゃる。
でもいいのかな。うちって、たしか浄土宗か、浄土真宗……じゃ、これは阿弥陀さま?
ドタっと音がして、阿弥陀さまの顔が、マリ先生のドアップの顔に入れ替わった。
「気がついた、まどか!?」
ドアップが叫んだ。
「こまりますね。これから、いろいろ検査しなくちゃいけないんだから」
阿弥陀さまが文句を言った。
「すみません」
ドアップのマリ先生の顔が、視界から消えた。
そして、ようやく気づいた。
――わたしってば、助かったんだ……。
頭の中が、ジーンと痺れている。こういう時って、その混乱のあまり泣いちゃったりするんだろうなあ……ひどく客観的に見ている自分がいた。自分でも意外に冷静。
これが精神的なマヒであることは、あとになって分かってきた。
阿弥陀さんだと思ったのは、お医者さん。天使は、看護師のオネエサンだった。
その向こうに、うれし涙の、お父さんとお母さん。さっきドアップになったマリ先生の顔があった。
――でも、どうして、わたし助かったんだろう……あの燃えさかる倉庫の中から……?
「もう、その袋、放してもいいんじゃないかな」
阿弥陀……お医者さんが言った。
わたしってば、衣装の入った袋を握りっぱなしだった。そのときは……素直に……は手放せなかった。
手を開こうとしても、袋の握りのとこを持った手は開かない。ナース(看護師って言葉は、このとき馴染まなかった)のオネエサンが、その見かけより強い力で、やっと袋を放すことができた。
それからCTやら、なんやらいろいろ検査があった。
「大丈夫、どこも怪我はしていないよ」
お医者さんが笑顔で言った。
――よかった。
「でも、インフルエンザに罹っている。注射一本うっとこうね」
さっきのナースのオネエサンが注射器を、お医者さんに渡した。
「ちょっとチクってするよ……」
チクっとではなかった。グサッ!……ジワジワ~と痛みが走る。
お医者さんの向こうでニコニコしているナースのオネエサンが、白い小悪魔に見えた。
やっと解放されて、ロビーに出た。みんな待っていてくれた。
「お母さん」と、言ったつもりだったんだけど。白い小悪魔にマスクをさせられていたので、「オファファン」にしかならなかった。
「こいつが、おめえを助けてくれたんだぜ。さすが大久保彦左衛門の十八代目だ!」
お父さんが、そいつを押し出した。
「ども、無事でなによりだった……」
ヤツは……忠(ただ)クンは、煤と泥にまみれた制服姿で、ポツンと言った。
「ども、ありがとう」
マスクをつまんで、わたしもポツンと応えた。
という声で目が覚めた。
ボンヤリと白い服を着た人たちが目に浮かんできた……天使さんたちだ。
十五歳のこの歳まで、わたしはいい子でいた……自己評価だけど。だから、わたしは天国に来たんだ……そう思った。
中央に、大天使ミカエルさま。両脇にきれいなオネエサンの天使がひかえていらっしゃる。
でもいいのかな。うちって、たしか浄土宗か、浄土真宗……じゃ、これは阿弥陀さま?
ドタっと音がして、阿弥陀さまの顔が、マリ先生のドアップの顔に入れ替わった。
「気がついた、まどか!?」
ドアップが叫んだ。
「こまりますね。これから、いろいろ検査しなくちゃいけないんだから」
阿弥陀さまが文句を言った。
「すみません」
ドアップのマリ先生の顔が、視界から消えた。
そして、ようやく気づいた。
――わたしってば、助かったんだ……。
頭の中が、ジーンと痺れている。こういう時って、その混乱のあまり泣いちゃったりするんだろうなあ……ひどく客観的に見ている自分がいた。自分でも意外に冷静。
これが精神的なマヒであることは、あとになって分かってきた。
阿弥陀さんだと思ったのは、お医者さん。天使は、看護師のオネエサンだった。
その向こうに、うれし涙の、お父さんとお母さん。さっきドアップになったマリ先生の顔があった。
――でも、どうして、わたし助かったんだろう……あの燃えさかる倉庫の中から……?
「もう、その袋、放してもいいんじゃないかな」
阿弥陀……お医者さんが言った。
わたしってば、衣装の入った袋を握りっぱなしだった。そのときは……素直に……は手放せなかった。
手を開こうとしても、袋の握りのとこを持った手は開かない。ナース(看護師って言葉は、このとき馴染まなかった)のオネエサンが、その見かけより強い力で、やっと袋を放すことができた。
それからCTやら、なんやらいろいろ検査があった。
「大丈夫、どこも怪我はしていないよ」
お医者さんが笑顔で言った。
――よかった。
「でも、インフルエンザに罹っている。注射一本うっとこうね」
さっきのナースのオネエサンが注射器を、お医者さんに渡した。
「ちょっとチクってするよ……」
チクっとではなかった。グサッ!……ジワジワ~と痛みが走る。
お医者さんの向こうでニコニコしているナースのオネエサンが、白い小悪魔に見えた。
やっと解放されて、ロビーに出た。みんな待っていてくれた。
「お母さん」と、言ったつもりだったんだけど。白い小悪魔にマスクをさせられていたので、「オファファン」にしかならなかった。
「こいつが、おめえを助けてくれたんだぜ。さすが大久保彦左衛門の十八代目だ!」
お父さんが、そいつを押し出した。
「ども、無事でなによりだった……」
ヤツは……忠(ただ)クンは、煤と泥にまみれた制服姿で、ポツンと言った。
「ども、ありがとう」
マスクをつまんで、わたしもポツンと応えた。