大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 53『曹素 総大将の兄』

2022-01-10 14:04:49 | ノベル2

ら 信長転生記

53『曹素 総大将の兄』信長  

 

 

「ねえ、豊盃まで行こうよ」

 

 眉庇にした右手を下ろしてシイ(市)が言う。

 陽のあるうちに主邑の豊盃まで行こうというのだ。

「今夜は、酉盃で宿をとる」

「どーして? 今から行っても充分日のあるうちには着けるよ」

「豊盃には続々と増援の部隊が入っている」

「そりゃそうでしょ、戦争をやろうって言うんだから」

「兵隊は夜になったら寝るし、飯も食う」

「軍隊って、自己完結してる組織だから、泊りも三度の食事も自前でしょ?」

「一万の軍隊なら、それと同数以上の輸送部隊やら工作部隊やらが付いている。上級将校は露営ではなく市中の宿に泊まるだろうから、普通に行っては泊まれるところが無い」

「そうなの?」

「ああ、だから、まず宿を確保しておこう」

 

 酉盃の中心部を離れ、酒楼や飯店の看板を掛けている店を物色する。

「なんで、酒とか飯のつくとこなの?」

「三国志の宿泊施設は『宿』とは書かん」

「そなの?」

「ああ、宿と飲食店の境はあいまいなのだ。こちらの人間なら店構えで見当をつけている」

 

 プオ~ プオ~

 

「なに? 象でも逃げて来た?」

「警蹕のラッパだ、重要人物か重要物資の輸送だ、端に寄るぞ」

「うん」

「こら、シイ!」

 返事はいいが、生まれついての野次馬は防火用水桶の上に乗る。

 他にも街路樹や店先の荷の上に乗ってるやつもいる。争って目立つのもまずい。

「せめて顔を隠せ」

「分かった」

 いちおうスカーフを撒いて顔の下半分を隠した。

 

 プオ~ プオ~

 

 行列は、すぐそこまで迫ってきた。

 どうやら輸送部隊のようだが、それにしては大仰で厳めしい。

 いつの時代、どこの軍でも、輸送部隊と云うのは地味なもので、言ってみれば格下の扱いを受けている。

 それが、なんだ、旗指物に馬印……まるで、御大将の近衛部隊のようだぞ。

 

「さすがというか……」

「やっぱり、曹素さまよのう」

「輜重がついても大将じゃ」

「なんとも、ネズミがクジャクの羽根を付けたような」

「「「アハハハ」」」

「めったなことを! 総大将の兄君だぞ」

「おお、くわばらくわばら~」

 

 そうか、寄せ手の大将は曹一族の誰か。その兄というのが、この輸送部隊の指揮官……野次馬どもが言うまでもなく、この輸送部隊に似あわぬ派手さ、いささか馬鹿か?

「ねえ、輜重(しちょう)というのは、そんなに蔑まれるものなの?」

「俺は、そうは思わんがな。輜重(輸送部隊)は実戦部隊ではないので、軽んじられる傾向はある」

「そなの?」

「こんな囃し歌があった『輜重輸卒が兵隊ならば、チョウチョ・トンボも鳥のうち』ってな」

「ひどいね」

「ああ、織田軍では禁止した」

「ほお」

「なんだ?」

「なんでも……あ、なんか、すごいのが来る!」

「「「おお!」」」

 野次馬どもも唸って、その先を見ると、四頭立ての華麗な戦車が、御者一人だけを乗せただけで現れた。

「曹素さまが先導されてる」

「戦車の露払いか」

「おい、笑うな」

 戦車の前には、芝居の主役なら立派に大将が務まりそうな……しかし、戦慣れした俺の目から見るまでもなく、腰が落ち着いていない。目線もキョロキョロした見っともない奴……これが総大将の兄の曹素というやつか。

「ね、あの御者、女の子よ」

「うん?」

 たしかに、朱色の具足に身を包んでいるのは市と変わらぬ年ごろの少女だ。

 戦車も、御者に合わせたように朱色に金の金物が随所に打ち付けられ、見るからに女性的。

「総大将は……おそらく女だな」

「女なの?」

「ああ、そうだぜ」

 耳ざとい野次馬が相槌を打つ。

「こんど入れ替わったのは、曹素さまの姉君で曹茶姫(そうさき)てっいうお方だ。実物にお目にかかれるかと思ったんだがなあ」

「空車かよ」

「智謀比類なきお方ってことだから、我々凡夫にはうかがい知れん動きをされているんだろう」

「兄貴とは大違い」

「おいおい……」

 まさか聞こえたわけではないのだろうが、曹素の首がこちらを向いている。

「おい、シイ!」

「なに?」

「あ、ごめん」

 慌てて下がったスカーフを引き上げる。とたんに曹素の首が戻った。

 すぐに、その場を離れて、今度こそ宿を探しに行くことにした。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  •  今川 義元       学院生徒会長 
  •  坂本 乙女       学園生徒会長 

 

 

 

 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 明神男坂のぼりたい・37〔... | トップ | 明神男坂のぼりたい・38〔... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ノベル2」カテゴリの最新記事