大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・『制服マネキン』

2018-09-14 17:17:08 | ライトノベルベスト

ライトノベル・セレクト
『制服マネキン』
              

「お父さん、そろそろ閉めようか……」

 日の落ちかけた空を見ながら、美優が呟くように言った。
「そうだな……でも、明日は神楽坂の卒業式だろ。もう少し開けておこうや。ボタンとかスカーフとか、小物を買いにくる子がいるかもしれねえ」
「そだね、篠崎さんとこも閉店だし、神楽坂の制服扱ってるのうちだけだもんね」

 神楽坂学院は、この春から創立以来の制服を改訂する。

 新しい制服はデザインが凝っていて、街の小さな業者では採算が合わない。制服業者は、大手デパートと二十校以上の取引先を持っているY商店の二つになってしまった。
 学院創立以来、制服を手がけてきた篠崎屋は、店主が高齢なため、この二月いっぱいで店を閉めることになっている。篠崎屋から三十メートルほど離れた筋向かいの美優のテーラーSAKURAも、今日を限りに神楽坂学院の制服から撤退することになった。娘の美優が、早くからこういう日を見越して、制服以外のプレタポルテに比重を置くようにして、なんとか神楽坂で店を続けることができるようになってきた。

「ほんとに、美優のお陰だよ。こうやって店続けられんの」
「だよな、美優がいなけりゃ、ゲンとこみてえに店たたまなくっちゃならないとこだ」
「篠崎さんとこも、信ちゃんいればねえ……」
「もう、五年も前に死んだ人のこと言っても仕方ないでしょ」
 美優は、怒ったように言う。彼方の筋向かいの篠崎屋の看板が薄闇に滲んで、しばらく目が離せなかった。

「あ……雪……」

 そう呟くと、ホッペをこするフリをして滲んだ涙を拭った。
「お母さん、お茶……」
「あいよ、いま、お茶っ葉入れ替えるから」
 
 ホコホコと、そのお茶をすすり終えた頃、静かに店のドアを開けて、少女が入ってきた。

「すみません、まだいいですか?」
「はい、いらっしゃい」
 その少女は、この薄ら寒いのに、神楽坂学院のジャージにマフラーをしただけの姿で立っていた。
「あのう……学校の制服、まだ置いてらっしゃいますか?」
「ええ、あるわよ。まあ、こっちおいでなさいな、冷えるでしょ。お母さん、お客さんにお茶お願い!」
「インスタントだけどココアでも入れたげようね……」
「どうも、すみません」
「スカーフか何かかな、明日卒業式でしょ?」
「一式欲しいんです」
「え、上から下まで?」
「ええ、今日自転車で転んでしまって、あちこち破けてしまって」
「縫って直せないの、明日一日のことでしょ?」
「最後だから、きちんとして卒業したいんです……お願いします」

 少女は、自分の言葉に照れて、ペコンと頭を下げた。

「すみません、へんなこだわりで……」
「いいわ、お父さん、一着残ってたわよね?」
「ああ、ちょっと待ってくれ……」
「もう処分品みたいなものだから、原価でいいわ」
「ありがとうございます……あちち」
 少女は、慈しむようにココアを飲んだが、少し熱かったようだ。

「まあ、ピッタリね。九号サイズだから、どうかと思ったんだけど」
「わたしって小柄ですから」
 そうはにかむ少女に美優はえも言えぬ親近感を感じた。
「サービスで、名前の刺繍させてもらうわ。苗字は?」
「あの……嘘みたいですけど、神楽坂です」
 おずおずと、少女は生徒証を見せた。確かに名前は「神楽坂幸子」となっていた。
「こりゃ、目出てえや。気持ち籠めてやらせてもらうからね」
 オヤジは、嬉しそうにミシンに向かった。

「幸子ちゃんて、なんだか、とても懐かしい感じの子ね」
「そう言われると嬉しいです。わたしって、よくタイプが古いって言われるんです。消極的で……あだ名は昭和っていうんです」
「ウフ……ごめんなさい。わたし好きよそういうの」
「どうもです」
「最後の制服の学年だけど、なにか特別なことやるの?」
「いいえ、いつも通り。正式には卒業証書授与式っていうんですけど、わたしは、卒業式って呼んで欲しいんです」
「そうだよな、世の中、名前ばっか変えちまってよ。先だって、病院で看護婦さんて呼んだら『看護師』ですって叱られちまったよ」
 ミシンを踏みながら、オヤジがぼやく。
「わたし、卒業式の歌も、へんな流行歌じゃなくて、ちゃんと仰げば尊しと蛍の光で……ヘヘ、なんて言うから、昭和って言われるんですよね」
「いいや、そりゃ大事なことだよ。さっちゃん、なかなか良いこと言うね。だいたい今時の……」
「はいはい。お父さんが演説したら、さっちゃん帰れなくなっちゃうわ」
「はは、それもそうだ……ほい、できあがり。立派な神楽坂だ!」
「ありがとうございました。はい、お代です」
「ちょうどいただきます……さっちゃん、手が荒れてるわね」
「あ……肌荒れがきついんです、わたし」
「ちょっと待ってて……はい、スキンクリーム。即効性があるから、明日は、これを塗っていけばいいわ」
「ありがとうございます……え、丸ごと頂いていいんですか」
「いい、卒業式をね!」
「はい!」

 少女は、スキップするようにドアまで行くと、振り返り、丁寧なお辞儀をして行ってしまった。
 テーラーSAKURAの親子は、ホッコリした気持ちで、神楽坂学院ご指定の店の役割を終えた。

 その夜の遅くだった、救急車のサイレンの音で美優は目を覚ました。父と母が、あとに続いた。

「だれか、具合が悪いんですか?」
「篠崎屋のゲンさんが、心臓発作だってさ」
 向かいの洋菓子屋のオジサンが答えた。
 美優が駆けつけたとき、篠崎屋のゲンさんはストレッチャーごと救急車に載せられるところだった。
 救急車のドアが閉められる寸前、ちらりと神楽坂の制服を着た人影が車内に見えた。

 あの子……。

 同業のよしみで、明くる日、美優は病院にお見舞いに行った。病院は、子どもの頃からの馴染みのK病院だった。幼い頃、篠崎屋の信ちゃんといっしょにインフルエンザの注射をしにきたことがある。日頃は強がってばかりの信一が、猿のように嫌がって泣き叫んだことなどを思い出した。
 総合の待合いに、篠崎屋のオバサンがうなだれて座っていた。
「オバサン、大丈夫?」
「ああ、美優ちゃん……」
「オジサンの具合は?」
「うん。今夜が勝負だって……」
「病室は?」
「今は、あの子が見てくれているの」
「あの子?」
「ほら、マネキンの幸子……え……いま、あたし、なんて言った?」
「マネキンの……幸子って……」
「そんな、ばかな……!?」
 そのときナースのオネエサンが、足早にやってきた。
「篠崎さん、大丈夫、いま峠をこえましたよ!」

 二人は、危うく走りたいのをこらえて、病室へ向かった。

「……あんた、大丈夫?」
「おじさん」
 ゲンのおじさんがゆっくり顔を向けて、笑顔で言った。
「信一のヤローが、まだ来ちゃいけねえって……で、幸子が代わりによ……幸子、幸子……」
 おじさんが目で探ったそこには、神楽坂の制服が、こなごなになった何かのカケラにまみれて落ちていた。それが、マネキンの幸子であるということに気づくのに数秒かかった。
 幸子は、篠崎屋が開業以来使っている、神楽坂学院専用の制服マネキン。お下げに、はにかんだような笑顔が可愛く、子どもの頃に信一と遊びにいくと、いつもこのマネキンと目があった。
「この子なんて名前?」
「……幸子だ」
 とオヤジさんが答えたのを思い出した。最後の制服は神楽坂学院に記念に寄付し、幸子はジャージを着せていたとオバサンが教えてくれた。篠崎屋と神楽坂学院の歴史をみんな知っている。

 カケラの中に、夕べ、幸子にやったスキンクリームの小瓶が混じって、朝日に輝いていた……。


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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:20『ダイブの鍵』

2018-09-14 14:16:59 | 小説5

かの世界の片隅へ:20     

『ダイブの鍵』  

 

 

 ドッシーーーーーン!!

 

 いまどきアニメでも使わないような擬音が鳴り響いてぶつかった。

 アイターーー!!

 これまたガルパンの知波単学園の戦車隊長が吶喊直後に撃破された時のような悲鳴が上がった。

「ごめんなさい、急いでたもんだから」

 スカートを掃いながら立ち上がって絶句した。

「け、健人! なに女装してんのよ!?」

「イ、イテーなあ……くそ、食べかけのトーストがあああああ、邪魔すんなよテル!」

 砂まみれのトーストの半分を投げ捨て、ズレたボブのウィッグを直しながら健人は行ってしまった。

「なによ、意地も誇りもないってかあ!」

 ドラゴンボールの敵役みたく仁王立ちしたわたしは小早川照姫(こばやかわてるき)と名乗るようだ。

 前回は三十年前の世界にデフォルトの自分で飛び込んだんだけど、今回は寺井光子に上書きされた人格だ。

 砂ぼこりを掃って、健人の後を追うころには、テル、小早川照姫の人格に成りきっていた。

 視界の左上はインターフェイスのようで。レベル・3 経験値・5 HP・55 MP・55と表示されている。

 

 他にもいろいろ表示があるが、先を急がなきゃならない。

 

 健人はつまらない賭けをしやがった。

 マヤのグループとどっちが先にダイブするかで賭けたんだ。

 マヤのグループは揃って成績優秀の上、スポーツも、それぞれ運動部の部長が務まるくらいの奴ばっかり。

 タイマンならまだしも、一対七、あっさり負けを認めれば恥をかくだけで済んだのに、マヤの挑発に乗ってしまいやがった。

 

 これ着て八時までに登校したら一緒にダイブさせてやるわよ。

 

 そう言って投げ出された女子の制服。

 恥ずかしい真似はやらせない! たとえ遅れてダイブすることになっても見っともない真似はさせない!

――馬鹿な真似はしねーよ――

 メールの返事に安心はしたけど、馬鹿な真似の意味がわたしとは違うんじゃないか?

 予感がして寄ってみたら、このざまだ。

 

 馬鹿はよせ……

 

 祈りながらの学校へ。

 昇降口を二階へ上がってすぐの教室に入ると、誰も居ない教室の真ん中に健人は立ちつくしていた。

「なんちゅー格好なのよ」

「るっせー」

 汗みずくの崩れた女装が痛々しいを通り越して不潔で惨めったらしい。

「テルとぶつかってなきゃ……」

「人のせいにすんな」

「あいつらだけじゃ勝てっこないし、俺が一人ダイブしたってどれほどのこともできゃしねーよ」

「ただのゲームに、なんでそこまでムキになんのよ」

「テルには分かんねーよ」

 そう言うと、健人は背中を見せて後ろのドアから出て行こうとした。

 あーーーイライラする奴だ!

「どこにいくのよ」

「屋上からダイブする。地上スレスレで飛べば追いつくかもしれない」

「99パーセント死ぬよ」

「俺なら行ける」

「止してよ、創立記念日の学校で女装のまま墜落死するなんて!」

「…………!」

 

 キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン……キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン……

 

 健人が抗弁しようと息を吸ったところでチャイムが鳴った。

 健人の目からホロホロと涙の粒が落ちていく。

 どうやらチャイムがタイムリミットの合図であったようだ。

 

 分かった、わたしが付いて行ってやるから。

 

 無意識にポケットから出したのは……ダイブの鍵だった。

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

 

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト№120『使い残しの夏』

2018-09-14 07:20:19 | ライトノベルセレクト

ライトノベルセレクト№120
『使い残しの夏』
         


 十月というのに、使い残した夏がやってきたようだ。

 南から台風が二個も来て、一つは大陸の方にまっしぐらだったけど、遅れた奴が南下した偏西風に流され、日本海を北西に進んでいる。そのために太平洋の暖湿な空気を反時計回りに連れてきて、記録的な暑さだった。

 なんで、こんな時期に中間テストと恨んでみても始まらないんだけど、ひどく疎ましい。

 窓ぎわの席なので、外の湿気が、もろに伝わってくるようでイライラする。暗記物の日本史なので、半分の時間で出来上がってしまった。
 直前までノートと教科書を見て、なんとか際どい積み木を積むように、なんの意味もない言葉や年号をおぼろに覚えた。あとは、その積み木が崩れないように、片っ端に語群から、あるいは働きの鈍くなった頭を絞って答を解答用紙に埋めていくだけ。

 あたしは、他の女子以上に日本史なんかには興味がない。

 何百年も前の日本がドーダって関係ない。鎌倉幕府が1192だろうが1185だろうが、あたしの知ったこっちゃない。それよりも来年から上がるって言う消費税の方が心配だ。
 お父さんの会社は業績が良くない。首になることはないだろうけど、給料が上がるような気配は、まるでない。帰宅部のあたしが、ノラクラ帰るのと、お父さんが帰ってくるのとがほとんど同じという日もあった。駅で目が合うと知らん顔をする。お父さんだって気まずいだろうし、この歳になって、お父さんと女子高生が、仲良く家路につく状況なんて、マンガでもあり得ない。

 放課後ってのは、部活にいそしんで、ハラペコでカバンと部活用のサブバッグ担いで、商店街の揚げたてコロッケなんかの魅力に負けて、歩き食い。そこを憧れの先輩にみつけられドギマギの乙女心。去年の一学期までは、そんな夢見る女子高生で、テニス部に居た。
 でも、中学からテニスをやっている子には、はっきりかなわない。高校から始めた子でも、情熱の差なのか才能なのか、梅雨が明ける頃には力の差は歴然。
 揚げたてコロッケは試してみた。憧れている先輩にも夢のように見つけられた。
「あ……」
 そう言ったかと思うと、先輩もコロッケ買って食べ始めた。「アハハ」と笑っていっしょに歩くとかすれば、青春の彩りもちがうんだろうけど。コロッケ食ってる先輩がむしょうに情けなかった。だから、さっさと食べて、家に帰り、その期末にはクラブも辞めてしまった。

 で、中間テスト。

 二年の期末で、だいたいの成績が決まる。

 評定平均3・7は無いと希望の大学に指定校推薦で入れない。

 H大学。別にHな大学じゃない、頭文字がH。友だちの中でもなかなか志望校は言わない。指定校推薦の枠は決まっている。こんな二年の時期からガチンコしたくないから、志望校はイニシャルで言う。
 そのH大学にしたって、死ぬほど入りたいってわけじゃない。自分の力と、卒業後の進路決定の内容。そして、なにより学費の安さ、自宅通学可能の魅力で決めただけだ。うちの経済力も分かってるし、二年後には妹が控えている。

 ほんとのほんとは、学生専用のワンルームなんか借りて、優雅な女子大生やってみたい。まあ、現実と折り合いを付けると、H大あたりになるというだけ。

 おっと、引っかけ問題にまんまと引っかかっていることに気づく。「一所懸命」を「一生懸命」とやらかしている。慌てて消しゴムで消す。

 ビリ……小さな音だけど、テスト中の教室では、よく響く。顔は向けなくても、みんな気づいている。後ろのユッコが「プ」と吹き出しかける。ユッコはいいよな、お父さん銀行だもんね。で、適度に抜けてる天然。あたしみたいな平均的な女子高生の悩みはない。

 教卓の前から二番目の蟹江君が、名前のように蟹が這いつくばるようにして答案を書いている。シャ-ペンの動きから。最後の論述問題に精を出しているようだ。

――鎌倉時代から読み取れる、日本人の生き方について書け――

 あたしは、ハナから満点は諦めて『名こそ惜しけれ』で、四十字ほどでしまい。それを奴は……。

 蟹江君は、一年から同じクラス。

 名前と顔が一致したのは二学期に入ってから。二年になってからも、ああ、いっしょなんだ。その程度の感覚だった。

 二年になって、蟹江君は身長が伸びて大人びてきた。部活はやってないけど、学校の外でバンドを組んでいる。ギターとボーカル半々ぐらいらしい……でも、学校では、そんなことやってるっておくびにも出さない。

 休みの日、たまたま、駅のホームでいっしょになった。

「保奈美、学校には内緒にしといてくれないか」
 真顔で、そう言った。詳しい話はしなかったけど、指に出来たタコ、アイポッド聞きながらかすかにとっていたリズム感。そして、クラスメートという距離を超えて近寄ってきたときの迫力。負けたと思った。高校生としての有りようがまるで違う。その時のドギマギが、そういう気持ちなんだと気づくのが遅かった。先月、また駅で見かけた。蟹江君は気が付いていない。あたしはホームの端からチラ見してただけ。
 そこを階段を上がって、ギター背中に、瞬間で「負けた」と思えるようなポニーテールが、わたしの前を通って蟹江君の方に行った。
 そして、あの親しさは、バンド仲間以上のものだと、あたしに感じさせた。蟹江君の白い歯と、彼女の残り香が、あたしを締め付けた。

 あたしは、分相応のあたしでいいと思う。だから蟹江君のことは、遠くから見てるだけ。それでいい……。

 でも、さっき答案が破けたとき教室の空気が一瞬緩んだけど、蟹江君だけは、我関せずと答案に熱中していた。

「一所懸命」を直したあとは、蟹江君意識しながら、ポワポワと頭に浮かぶことをもてあそんで時間を潰した。
 突然殴りつけるような雨が窓ガラスを叩いた。

 あの時も、こんな風な雨風だった……高校最後の思い出にユッコたちと二泊三日で近場の湘南に行った。そこでゲリラ豪雨に遭って、半日泳げなかった。同宿の大学生のグループと一緒に、バカな話をして時間を潰した。常識人で枠からはみ出ない。わたしたちと一緒の時は自分たちもノンアルコールで、けしてあたしたちに無茶はさせなかった。リーダーのトメさんという人がしっかりしていて、メンバーをまとめていた。いつか雨も上がったので、足だけでも海につかろうって、海岸に行った。

 わたしは酔っていた。トメさんの面白い話しに、足だけでもという機転の利かせ方に……。

 気がついたら……うそ、流れは分かっていた。

「人を愛する前に、何がある?」
「え……出会いかな?」
「Hだよ。Iの前はHだ!」
「アハハ」

 そんな軽いノリが大人なんだと思って、気楽な……ふりしてホテルに行った。

 トメさんは、優しかった、けして無理は言わないし、裸にされたときも気の利いた冗談に笑っていた。
 あとで考えたら、トメさんという人は、そういうことに慣れていたんだ。さりげなく、あたしが六月生まれで十八歳になっていることも、トランプの星座占いで確かめていた。でもいい、トメさんはいい人だったから。

 そのわりには、その後二度ほどメールのやりとりがあっておしまい。わたしは三度目のメールには返事打たなかった。トメさんは、それっきり。深追いしない人なんだと思った。

 でも、それから、蟹江君をまともには見られなくなった。気後れ、それとも……。

 夏の使い残しのような、ムッとするような雨上がりの道を、バカだな……あたしったら、駅一つ向こうまで歩いてしまった。
「ヨッコイショ……」
 オバアチャンみたいな声あげて、あたしは無防備にシートに座った。

 そして、電車が動き出して気がついた。
「か、蟹江君……」
「氷室って、ほんと鎌倉的自由人だよな」
「か、鎌倉的?」
 あたしは、トメさんと行った、鎌倉近くのホテルを思い出し、心臓がドッキンした。
「あのころは、女の人も元気でね、氷室みたいな女の人いっぱいいたんだぜ」
 蟹江君は、北条政子とか、鎌倉時代の男女関係の自由さや、大らかさを語ってくれた。
「オレ、そういう氷室って好きだぜ」
「え……」
「氷室、誕生日いつ?」
「あ、えと、六月だから、もう終わっちゃった」
「なんだ、ユッコは氷室のこと蠍座とか言ってたから……」
「あ、ユッコ、そのへんいいかげん。星座って自分の生まれ月の蠍座しかしらないから」
「ああ、勘違いさせちゃったか」
 蟹江君は、カバンの中をゴソゴソし始めた。
「こんなもんで悪いけど、映画館の株主券。夏の使いのこしだけど。遅ればせのバースデイプレゼント」
「あ、ありがとう……」

 あたしは、自分をちょっとだけ見なおしてもいいかと思った……。

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・7』

2018-09-14 06:46:57 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・7


時   ある日ある時
所   あるところ
人物……女3  

    赤ずきん
    マッチ売りの少女
    かぐや姫

 

かぐや: 先生がまだほんのお子様のころ、お母さまが内職のミシンをふみながらよく歌ってらっしゃったんですって。お母さまが、この歌を口ずさまれるとそれだけでね、六畳一間のお部屋が月の砂漠になったんですって。ほほほ、おわかり?
赤ずきん: わかったような……
マッチ: わからないような……
かぐや: 先生はね、月の光に照らされた砂漠じゃなくて。そのまんま月の砂漠とお思いになったんだって。
赤ずきん: え?
マッチ: ん?
かぐや: で、どうして空気のない月の砂漠を王子さまとお姫さまが、ラクダに乗っていけたんだろうって…… 
二人: あははは……
かぐや: でも、すてきじゃございませんこと……お母さまのお歌一つで六畳のお部屋が月の砂漠になり、畳のへりを、小さな王子さまとお姫さまがラクダにのっていかれるなんて。
赤ずきん: でも、それがどうして鳥取砂丘?
かぐや: 学生のころに鳥取砂丘でラクダのりのアルバイトをなさってたの。それで、月の砂漠はここだってお思いになった。はじめて砂丘をごらんになったとき、ミシンをふむお母さまのお背中と、月の砂漠がパーっとスリーディーの映画のように、よみがえったとおっしゃってました。
マッチ: ふうん……いい話だよね。
赤ずきん: でも、この家は金八郎にがてなんだろ?
かぐや: せっかちのエンジン全開でいらっしゃいますから。
マッチ: だよね。
かぐや: 一時間……いいえ、正味四十八分で、問題を解決しなきゃいけませんでしょ。スポンサーやディレクターのご意見もございます。ムリもございませんわ。
赤ずきん: だろうね…… 
マッチ: 波の音がする……
赤ずきん: ほんとだ。
かぐや: そりゃ海岸ですもの……海と、月と、砂丘と……ぜいたくでしょ、ここ。
マッチ: あ、うさぎさんだ!
赤ずきん: え、どこ?
マッチ: ほら、あそこ。あの砂丘のかげ。
赤ずきん: ……ほんと!
マッチ: おっこっちゃったのかな?
赤ずきん: 月から?
かぐや: ほほほ、わたしもそう思って、思わず月を見上げましたわ(三人月を見上げる)ほら、ちゃんと月ではうさぎさんが、おもちをついていらっしゃるわ。
赤ずきん: ……ということは、ただのうさぎ?
かぐや: いいえ……あの方は由緒正しいうさぎさんなのです。
マッチ: ほんとだ、腰に手をあてて胸をはっている。
赤ずきん: セーラームーンか!?
マッチ: ちょっち古いよ。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・19『ニホンの桜』

2018-09-14 06:32:01 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・19
『ニホンの桜』
    


「すごい、テレビの取材まで来てる」

 連休前の大阪城公園の取材に来て、たまたま見つけたんだろう。「ナニワTV」の腕章を付けた取材チームが、熱心にカメラを向けている。
「AKRやってぇや!」
 オーディエンスから声がかかる。
「はい、リクエストありがとうございます。それではAKR47の小野寺潤で『ニホンの桜』」
 そう言って、イントロを弾き出すと、身のこなしや、表情までも、小野寺潤そっくりになっていった。

 《ニホンの桜》
 
 春色の空の下 ぼくたちが植えた桜 二本の桜
 ぼく達の卒業記念
 ぼく達は 涙こらえて植えたんだ その日が最後の日だったから 
 ぼく達の そして思い出が丘の学校の

  あれから 幾つの季節がめぐったことだろう
 
 どれだけ くじけそうになっただろう
 どれだけ 涙を流しただろう 
 
 ぼくがくじけそうになったとき キミが押してくれたぼくの背中
 キミが泣きだしそうになったとき ぎこちなく出したぼくの右手
 キミはつかんだ 遠慮がちに まるで寄り添う二本の桜

  それから何年たっただろう
 訪れた学校は 生徒のいない校舎は抜け殻のよう 校庭は一面の草原のよう 
 それはぼく達が積み重ねた年月のローテーション
 
 校庭の隅 二本の桜は寄り添い支え合い 友情の奇跡 愛の証(あかし)
 二本の桜は 互いにい抱き合い 一本の桜になっていた 咲いていた
 まるで ここにたどり着いたぼく達のよう 一本の桜になっていた

  空を見上げれば あの日と同じ 春色の空 ああ 春色の空 その下に精一杯広げた両手のように
 枝を広げた繋がり桜

  ああ ああ 二本の桜 二本の桜 二本の桜 春色の空の下


 引き込まれて聞いてしまった。

 気づくと、幸子の顔立ちは小野寺潤そっくりになっていた。
 そして、ナニワTVのスタッフ達が、すぐ側まできていた、
「あ、この人、あそこで唄てるサッチャンのお兄さんで佐伯太一君ですぅ!」
 優奈が、余計なことを言った。
「妹さんなんですか。すごいですね! 妹さんは、以前から、あんな歌真似やら、路上ライブをやってらっしゃったんですか?」
「え、あ、いや最近始めたんです。ボクがケイオンなもんで、門前の小僧というやつでしょう。ハハ、気まぐれなんで、飽きたら止めますよ。なんたって素人芸ですから、ギターだって……」
「いや、たいしたもんですよ。歌によって弾き方を変えてる。上手いもんですよ!」
「セリナさん、もうじき曲終わり、インタビューのチャンス!」
「ほんとだ、ちょっとすみませーん。ナニワテレビのものですが!」
 取材班はセリナという女子アナを先頭に、オーディエンスをかき分けて、幸子に寄っていった。

 俺は、こういうのは苦手なんで、そそくさと、その場を離れた。

「楽器でも見ていこうや」

 そういう口実で、無理矢理三人の仲間を京橋の楽器屋につれていった。

 優奈なんかは最初はプータレていたが、一応ケイオン。最新の楽器を見ると目が輝く。店員さんに「真田山のケイオンです」というと、付属のスタジオが空いていたので、三曲ほど演らせてもらった。加藤先輩たちがスニーカーエイジで準優勝したことが効いたようだ。四曲目を演ろうとしたら。
「すみません。予約の方がこられましたんで」
 と、追い出された。やっぱ、加藤先輩たちとはグレードが違いすぎる。

「ただいま~」
「おかえり~」

 ここまでは、いつもの通りだった。

 リビングを通って自分の部屋に行こうとすると、キッチンに人の気配がして、バニラのいい匂いがしてきた。で、お母さんは、テーブルでパソコンを打っている。

「台所……なにか作ってんの?」
「幸子が、ホットケーキ焼いてんの。幸子、お兄ちゃんの分も追加ね!」
「もう作ってる」

「幸子、ナニワテレビの取材はどうだった?」
 ホットケーキにメイプルシロップをかけながら、聞いた。
「え、なんのこと?」
「おまえ、大阪城公園で路上ライブやってただろ?」
「なに言ってんの、ずっと家にいたわよ。あ、佳子ちゃんと優ちゃんとで、公園の桜見にいったけどね。あの公園八重桜だったのね。今年はお花見できなかったから、得しちゃった」
「え……?」

 幸子の様子がおかしい……微妙に話が食い違う。

 まあ、ライブのことは親には内緒にしたかったのかもしれないが。それ以外の……とくに態度がおかしい。歪んだ笑顔や、無機質な表情をしない。「リモコン取って」とか「お兄ちゃん。短い足だけど邪魔!」など、ぞんざいではあるけれど、自然な愛嬌がある。ニュートラルじゃなくプログラムされた態度かとも思ったが、決定的と言っていい変化があった。
 風呂上がり、頭をタオルで巻いて、リビングに入ってきた幸子のパジャマの第二ボタンが外れて、形の良い胸が覗いていた。

「第二ボタン、外れてるぞ」
「ああ、見たなあ!」

 慌てて、胸を隠した幸子は、怒っていた……ごく自然な、女の子として。

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・30『三人はアキバを目指す!』

2018-09-14 06:22:38 | 小説3

オメガシグマ・30
『三人はアキバを目指す!』



 終業式、特に三学期の終業式は格別だ。

 学年の終わりで、二度とこの教室で授業を受けることもないし、クラスメートと顔を合わせることもない。
 なんといっても宿題が無いので、一学期の始業式まで完全無欠のVACATIONだ。

 一言で言えば、高校生にとって最大最高の開放の日と言っていい。

 解放されると餌場に向かうのは、俺もノリスケもサルと変わりがない。

「終業式って、学食は休みだったんだよな……」
「去年もやっちまったよな……」
 ノリスケと二人そろってバツが悪い。
 学食は、午前中の半日授業になった日から休みだ。
 昨日まではちゃんと覚えていて、家に帰ってから食べるか、帰り道のマックなどで済ましていた。
「おーし、アキバにでもくり出すか!」
「同感!……だけど、ちょっと懐が寂しい」
 ノリスケの眉がヘタレる。サラリーマンの息子には24日というのは厳しい日だ。
「まかしとけ! 今日は俺のおごりだ!」
 俺は祖父ちゃんから諭吉を一枚もらっていた。なんでかというと、アレだよあれ。
『君の名を』をやるので「小説執筆中入るべからず」って張り紙をドアに貼った。
 で、それを額面通りに受け取った祖父ちゃんが感動してくれたんだ。
「なあに、すぐに書けなくってもかまわないだ。遊びに使ったっていい、文学ってのは無駄の回り道から始まるんだからな」
 学生時代に太宰治とかの無頼派に憧れたとかいう祖父ちゃんは孫に対しても前のめりな期待感がある。
「ほんじゃ、いっちょうくり出すか!」
「おう!」

 意気軒昂に振り返ると、財布を握りながら肩で息をしているシグマが立っていた。

「休みなんですか……食堂」

 かくして、終業式の開放感と学食への思い入れを同じくする三人はアキバを目指した。

 詳細は明日に続く!

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