大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秋野七草 その六『ナナかナナセか!?』

2018-05-28 06:32:11 | ボクの妹

秋野草 その六
『ナナかナナセか!?』
        


 妹はテンポの違いとアルコールの具合によって、ナナとナナセを使い分けているようだ。

 もっともナナセという人格は、後輩の山路が家にやってくるまでは存在しなかった。山路が泊まった明くる朝、酔った勢いの口から出任せでナナセを演じざるを得なくなった。山路はナナセがお気に入りのようだ。
 そこで、そのあとは山路を帰すため、ちょっと誇張したナナを演じ、10メートルダッシュから木登りまで山路と競い、オテンバぶりを発揮した。これで山路はナナが嫌いになるだろうと。
 ところが、山男の山路は、そんなナナと気があってしまった。
 昨日再び山路を連れて家に帰ると、ほぼ同時にナナが帰ってきたが、山路はナナの指の傷を見て、ナナセと勘違い。仕方なく、ナナはナナセを演じた……。

「いやあ、夕べのナナセさんは凄かったなあ。仲間の技術屋と話しても、あそこまでは熱くなりませんよ」
 ナナセ(ナナ?)手作りの朝食を食べながら、山路は本気で妹を誉めた。
「お恥ずかしい、みんな父やお祖父ちゃんの受け売りです。女でなかったら、お兄ちゃんに負けないくらいのエンジニアになっていたかもしれませんけどね。なんせ家は女らしさにうるさい家ですから」
「でも、ナナちゃんみたいな妹さんもいるんですよね」
「だから、あの子は自衛隊に行ったんです。あそこなら男女の区別ないですから」
「じゃあ、なんで辞めたんですか? この浅漬け美味いですね」
「あ、それは母です」
「山路さん、ごゆっくり。あたしはちょいと……」
「あ、お母さん、どうもお世話になりました」
「いいんだよ、今日はご町内で、日帰り旅行」

 そう言いながら、オレは、ナナ・ナナセ問題の終息を、どう計ろうかと考えていた。

 結局は、面倒くさくなり、山路の帰りを妹に任せることにした。実際夕べは飲み過ぎて頭も痛く朝飯も抜いていた。妹はナナセだったので、一滴も飲んでいない。山路を送って帰ってきたら朝酒になりそうだ。

「ナナは、入ってみて分かったみたいです。自衛隊でも女ができないとかやっちゃいけないことが、けっこうあるみたいで……詳しくは言いませんけど」
「でしょうね、あの子は、面白いことには、なんでもチャレンジしてみたい子なんですよ、とことんね……でも、そこで女の壁にぶつかってしまうんでしょうね」
「もう子どもじゃないんだから、わきまえなくっちゃやっていけないって言うんですけどね。女でやれることで頑張ればいいって」
「でも、ナナセさんにも、そういうところあるんじゃないかなあ」
「え、わたしがですか?」
「うん、ただ射程距離が長いから、ナナちゃんと違って、時間を掛けて狙っているような気がする。今の勤めも腰掛けのつもりなんでしょ。ゆっくり力をつけて、経営のノウハウを身につけたら、独立するんじゃないかな」
「ナナは現場だけど、わたしは、信金でも総務ですから、そういうことは……」
「いや、総務ってのは会社全体を見てますからね。経営陣との距離も近い。ナナセさんも、かなりしたたか」
「そんな……」

 しおらしく俯いてはいるが、気持ちは言い当てられたような気がしていた。ただ、今の信金に勤めていては、ただの夢に終わってしまうだろうが。

 その時、幹線道路から、線路際の道にドリフトさせながら三台のスポーツカーが入ってきた。歩道の先には、近場の山に登に行く十人ばかりの子供たちが歩いていた。

 危ない!

 妹は、とっさに判断し、ジャンプし最後尾の子ども二人を抱えて脇に転がった。いままでその子どもが居た位置には先頭の車が、高架下のコンクリート壁に腹をこすりつけ停まっていた。どうやら、駆動系のダメージはなかったようで、ドライバーの若い男は。逃げようとシフトチェンジをしているところだった。
「山路、最後尾の車を確保!」
 そう言いながら、妹はコンクリートブロックを運転席の窓に投げつけて粉々にした。そして、中の二人の男がひるんだ隙に、エンジンキーを引き抜いた。
 山路は、ダッシュして三台目の車の後ろに回り。道路脇の店の看板を持ち上げ、ぶんまわしてリアのガラスを破壊。そのままリアウィンドウから飛び込み、ドライバーの男の頭をハンドルに思い切りぶつけ、これもエンジンキーを抜いた。

「なに、しやがるんだ!」

 子供たちが無事だったことに気をよくしたんだろう。二台目の車から男女がバールを持って降りてきた。それに勇気づけられたんだろう、他の二台からも、男三人と、女一人が降りてきた。
「山路、気を付けて、こいつら半グレだ!」
 半グレの六人は、言い訳の出来る道具袋を持っており。手に手に金槌などのエモノを持って立ちふさがった。
 山路は、そのエモノを避けつつ、一人を投げ飛ばし、後ろから振りかぶられた金槌をかわして腕をねじり上げた。ボキっと音がしたんで、男の腕が折れたようだ。
「山路、ネクタイでもなんでもいいから縛着!」
 そう言いながら、三人の男女を倒し、ズボンを足もとまで脱がせて足の自由を奪い、ベルトを引き抜き後ろ手に拘束した。四人目の男はその場にくずおれて失禁していた。妹は、そいつを俯せにして、馬乗りになり、こめかみに金槌をあてがい、スマホを構えた。
「こちら、通行人。状況報告、半グレと思われる車三台○○区A町、一丁目三の東城線東横で、子供たちを轢きかけ、一台中破、二台撃破、犯行の男女六人確保、至急現場に着到されたし、オクレ!」

 妹は、かつての職場の業界用語で七秒で警察に伝えた。

「キミは……ナナ?」
「あ………」

 妹と山路に、新しい転機が訪れようとしていた……。
 

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高校ライトノベル・『メタモルフォーゼ・15』

2018-05-28 06:22:32 | 小説3

 


『メタモルフォーゼ・15』

        


「そこを右に曲がって……」

 ビックリした。

 いつのまに後ろにいたんだろう、ミキが声を掛けてきた。
 放課後、大事な話があると言うわりには、ミキは普通だった。放課後になっても相談持ちかける気配さえなかった。
 こりゃもう解決したんだな。そう思って一人で学校を出た。すると今みたく、あたしの後ろに忍び寄って声をかけてきた。
 あたしたちは、少し距離を空けて角を曲がった。突き当たり近くにハイカラな一軒家があった。ミキは、あたしを抜いて、その家に入っていった。

「おじゃましまーす」
「カオルさん、奥の部屋借ります」
「はい、どーぞ」
 年齢不詳の女の人の返事が返ってきた。家は遠目にはハイカラに見えたけど、廊下の腰板や窓枠に塗り重ねられたペンキから相当な年代物であることが分かった。廊下を突き当たって奥の部屋に入ると驚いた。庭に面した所は三枚の大きなガラス張り。天井も三分の一が天窓になっていて、半分温室みたく、いろんな花が鉢植えになっていた。
「すごいお花ね!」
「うん、カオルさんの趣味。あたしはゼラニウムぐらいしか分からないけど」

 そこにカオルさんが、ロングスカートにカラフルなケープを肩に掛けて紅茶のセットを持って現れた。

 

「あなたが美優さんね。美紀が言ってたよりずっと華があるわ」
「ほんと、たくさん花がありますね」
「ミユ、あんたのことよ。華のある子だって」
「華だなんて、そんな……」
「美紀の相談相手には、確かだわ。しっかりお話するのよ。じゃ、わたしは向こうに居るから」

 カオルさんは、そう言うと、きれいなメゾソプラノで鼻歌唄いながら行ってしまった。

「あの人は?」
「カオルさん。お母さんのお母さん……」
「え、お祖母ちゃん!?」
「シ、その言い方は、ここでは禁句だから」
 まだ鼻歌は続いている。
「歌、お上手ね……」
「元タカラジェンヌ……はい、どうぞ」
 ミキがハーブティーを入れてくれた。
「で、なによ、相談って?」
 ミキが顔を寄せてきた。
「実はね……」
「え……!」

 部屋中の花もいっしょに驚いたような気がした……。

 というわけで、あたしは神楽坂46のオーディション会場に居る……ただの付き添いだけど。

 ミキは、アイドルの夢絶ちがたく、このオーディションを受ける。でも前の失敗があるので、受けることそのものにためらいがあった。
 お祖母ちゃん……カオルさんは、ミキが小さい頃から宝塚に入れたがっていた。で、ダンスや声楽なんか中学までやっていた。で、AKBぐらい軽いもんよ、と受けたら、見事に落ちてしまった。
 宝塚とAKBではコンセプトが違う。カオルさんは、それが分かって居なかった。オーディションの評は狙いすぎている。だった。
 カオルさんは、孫を宝塚に入れることは諦めたが(なんせ兵庫県。経済的な問題と、肝心のミキが宝塚にあまり関心を示さなくなったこと)今のアイドルぐらいなら十分なれると、再度のアタックになったわけである。
 だが、最初の失敗がトラウマになり、なかなか次のオーディションを受けられなかった。
――あたしが(あたしの孫が)アイドルのオーディションごときに落ちるわけがない!――
 で、相談を持ち込まれたわけである。
「ねえマユ、あたし、いけるかなあ!?」
「いけるよ、もちろん!」

 それ以外に、答えようある!?

 でも、現場まで付いていくとはね……。
「次ぎ、21番から25番の人……あれ、25番、25番は、渡辺美優さん!」
 係のオニイサンがどなっている。なんであたしが!?

 スタジオの入り口でミキが25番のプレートを持ってゴメンナサイをしていた……。

 つづく

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