ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

バッハ・コレギウム・ジャパン バッハ:「マタイ受難曲」(4/3) in 埼玉

2010-04-04 | コンサートの感想
先週から続いた私の大作鑑賞シリーズは、昨日のマタイが千秋楽。
スクロヴァチェフスキのブルックナー8番に始まり、トーキョーリングの「神々の黄昏」、インバルのマーラー3番ときて、最後がBCJの「マタイ」という豪華4本立てだった。
どれもこれも大変な名演で、いまだにそれぞれの舞台やコンサートの感動が体の中にはっきりと残っている。
印象が薄れないうちに「黄昏」とマーラー3番の感想を書かなくちゃと思いつつ、まずは昨日のマタイの感想を書かせていただこうと思う。
感動という点で、マタイのもつ力は、やはり桁違いだったので・・・。

<日時>2010年4月3日(土)16:00
<会場>彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
<曲目>
■バッハ:『マタイ受難曲』 BWV 244
■ヤコプス・ガルス:モテット『見よ、義しき人が死にゆく様を』
<演奏>
■レイチェル・ニコルズ/松井亜希 (ソプラノ)
■マリアンネ・ベアーテ・キーラント/青木洋也 (アルト)
■クリストフ・ゲンツ/水越 啓 (テノール)
■ドミニク・ヴェルナー/浦野 智行 (バス)
■鈴木雅明(指揮)
■バッハ・コレギウム・ジャパン(合唱・管弦楽)

まず冒頭の合唱。
何と慈愛に満ちた表情だろう。
しかも、驚くほどの透明感と自然な豊かさを併せ持っていた。
だからこそ、引きずるようなあの低音のリズムが、聴き手に一層深く迫ってくる。
この第1曲を聴いただけで、BCJのマタイがどれほどの高みに達したものなのか、容易に想像することができた。

とくに第2部に入ってからは、文字通り時間を忘れて、マタイ独特の圧倒的に深くて広い世界に浸らせてもらった。
群衆が「彼は死罪だ」と叫んだあとに登場する37番のコラールで、「あなたは、確かに罪人ではありません」という言葉を、マルカート気味に強く明瞭に歌わせた鈴木さんは、本当に素晴らしい。
バッハの全作品中屈指の名アリアである「主よ、憐れみ給え」ももちろん素晴らしかったが、そのあとのコラール「主の愛は、罪に優る」と完全に一体のものであること、そしてあの華麗なアリア「私のイエスを返せ」を経て、3回目の受難のコラールまで一気につながるものであることを、私は昨日初めて体で理解することができた。
オーボエ・ダ・カッチャが心臓の拍動のようなリズムを刻む中、フルートトラベルソとソプラノが奏でる「神の愛に出る魂の救い」は、もはやこの世のものとも思えない。
フォーレのレクイエムとも相通じるような、まさしく天上の音楽だった。
そして、4回目の受難のコラール「血と傷にまみれた御頭よ」が始まると、もう涙なしには聴けない。
心から感動した。

有名な「甘き十字架」は、昨年のコルボはリュートを使って独特の幽玄さを出していたが、BCJではヴィオラ・ダ・ガンバが使われていた。
付点音符で強拍にアクセントをつけながら、何度も何度も執拗に上昇を続けるガンバの音型を聴くにつけ、私は神の子イエスから人間一人一人にバトンが渡り、何度倒れても這い上がろうとする人間の宿命というか生きざまというものを実感せずにはいられなかった。
また、ゴルゴタへのレチタティーヴォで、鐘を模したチェロのピチカートがこの日ほど鮮烈に響いたことはない。
イエスの死が目前に迫っていることが、ひしひしと伝わってくる。
そして、イエスの最後の言葉「エリ、エリ、・・・」が終わり、イエスの死が語られると、最後の受難のコラールが最弱音で歌われる。
救いを求める心の祈りというものが音楽で表現できるとしたら、これ以上のものはないだろう。
そして、その後の「本当に、この人は神の子であった」と合唱が歌う場面からは、もはや私はステージを直視することはできなくなっていた。
こうべを垂れ、身を震わせながら、静かに眼を閉じて聴き入るしかなかった。

凄いマタイだった。
マタイという音楽も凄いけど、この日の鈴木さんとBCJの演奏もこれまた凄い。
何の気負いも持たず、ひたすらバッハに、そしてマタイという音楽に対して敬意をはらいつつ、奉仕する気持ちで音楽を奏でると、きっとこんな演奏になるのだろう。
聴きながら、自分の中の不純な部分がどんどん浄化されていくような不思議な気持ちになった。

また、この日は、マタイ受難曲に続いて、ヤコプス・ガルスのモテット『見よ、義しき人が死にゆく様を』がアカペラで歌われた。
これまた雰囲気もマタイにぴったりで、なかなか素敵な演出だ。
昨年、LFJでコルボたちのマタイの実演を聴いて、人生に何度もないような大きな感動を味わったばかりなのに、1年後にまたこんな素晴らしいマタイに出会えるなんて・・・。
生きてて本当に良かった。
感謝しています。
コメント (6)
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