ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

ケフェレック&スクロヴァチェフスキ モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番ほか

2009-03-11 | コンサートの感想
日曜日、ケフェレックのK.595を聴いてきました。
素敵だった。
本当に素敵なモーツァルトだった。
今も、その幸せな余韻がずっと残っています。

<日時>2009年3月 8日(日) 14:00開演
<会場>東京芸術劇場
<曲目>
■ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲
■モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番
■ブルックナー:交響曲第1番
(アンコール)
■スカルラッティ:ソナタ449番ロ短調
<演奏>
■ピアノ:アンヌ・ケフェレック
■指揮:スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
■読売日本交響楽団

ケフェレックといえば、3年前のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンで聴いたモーツァルトが忘れられません。
とくに、K.311の第2楽章。
ト長調の明るく愛らしい音楽なのに、なぜか涙が止まらなかった。
多彩なスタッカートを自在に操り、モーツァルトの泣き笑いの真髄を教えられた思いがしました。
翌年のラヴェルでは、彼女のパレットにある音色の数の多さと、これぞエスプリといいたくなる表現力に思わずため息が・・・
そして、今回のモーツァルト。
聴く前から、こんなにどきどきしながら心待ちにしたコンサートも珍しいです。

第1楽章冒頭、スクロヴァチェフスキは絶妙のテンポで始めます。
曖昧さのない、しっかりした表情が印象的。
そして、いよいよケフェレックが入ってきます。
何て、きれいな音色だろう。
明晰な音にもかかわらず、冷たさがまったくない。
凛とした佇まいの中に、晩年のモーツァルトが到達したピュアな世界が、ごく自然な形で見えてきます。
しかし、少し注意深く聴くと、ケフェレックがどれほど慎重にアーティキュレーションを選んでいるかを思い知らされます。
第2楽章では、それに即興的な雰囲気も加わりますます魅力的になります。
そしてフィナーレでは、弾力性をもったリズム感と透明な響きがまことに心地よい。
現在聴ける最高のモーツァルトでしょう。
聴けてよかった。心からそう思いました。
そして、鳴り止まない拍手に応えて、アンコールはスカルラッティのソナタを聴かせてくれました。
こちらは、音量を少し控え目にしてロマンティックな表現でしたが、このロ短調のソナタにはそんなアプローチが実によく似合います。
CD(ご本人のサインをもらった私の宝物!)よりも一層素晴らしかった。

なんだか、ケフェレック礼賛で終わりそうな書きぶりになってしまいましたが、この日のスクロヴァチェフスキと読響は好調でした。
まず、幕開けのハイドンバリエーション。
変奏を重ねるごとに充実した響きになっていきました。
第7変奏のグラツィオーソで夢見るような優雅な表情を見せた後、続く第8変奏は、通り過ぎる一陣の風のような表情ではなく、スクロヴァチェフスキはしっかり克明に描いていきます。
それが、終曲への布石でした。
突然眼前に巨大なパッサカリアを見せるのではなく、用意周到に、我々を雄大なクライマックスに導いてくれたのです。
普段、私は自宅でこの曲のCDを聴くときは、声部をしっかり聴きとろうといつも分析的に聴いてしまうのですが、この日はまったくその必要がありませんでした。
だって、自然にすべての音が聴こえてくるのですから。
それほど見事に構築された音楽だったのですね。

そして、この日のメインは、ブルックナーの1番。
ブルックナーの演奏は本当に難しいと思います。
ひたすら純朴路線で押し進めすぎると、響きそのものに魅力がなくなる。
そうかと言って、外見的な効果を狙うと、とたんに安っぽい音楽に成り下がる。
旋律の美しさに入れ込みすぎると、全体像が見えなくなる。
そう考えてくると、ブルックナーには「勘どころ」というのが最も重要な気がします。

響きに対する鋭敏な感覚と抜群の構成力を持ったスクロヴァチェフスキは、そんな「勘どころ」をもった数少ないマエストロでしょう。
この日の1番でも、その特徴がよく現れていました。
美しい旋律は慈しむように大切に表現する一方で、ブルックナー特有の「これでもか、これでもか」と随所に登場する繰り返しフレーズの効果をうまく利用して、巨大な世界を作り上げていました。
この迫力が、響きを濁らせずに又恣意性を感じさせずに表現できるかが大きなポイントだと思うのですが、スクロヴァチェフスキはさすがでした。
とくに第1楽章のコーダ直前で奏でられる独奏チェロの心に染みる美しさ、フィナーレの鳥肌がたつような迫力は印象に残りました。
そういえば、スクロバチェフスキはこの長いシンフォニーを暗譜で振っていましたが、「枯れた」なんて印象を露ほども感じさせないこの瑞々しさの秘密は、いったいどこにあるのでしょう。
いつまでもお元気でステージに上がってほしいですね。
コメント (6)
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