一昨日、バレンボイムのマーラー9番を聴きにいきました。
改装後のサントリーホールは、この日が初めてです。
雰囲気はほとんど変わっていないけど、やはり綺麗になった気がします。
この日の席は、2階RAの3列目。
私の大好きな席で、比較的廉価でステージがよく見えるし、自分もオケのメンバーになったような錯覚を覚えます。
<曲目>マーラー:交響曲第9番ニ長調
<日時>2007年10月12日(金)7:00開演
<会場>サントリーホール
<演奏>
■指 揮:ダニエル・バレンボイム
■管弦楽:ベルリン・シュターツカペレ
予想通り、オケは対抗配置。
金管の後ろのステージ最後列に、コントラバス8台が一列に並ぶスタイルは、本当に壮観です。
入場してきた楽員を見渡すと、フルートは全員女性で、ヴィオラの首席も女性。
このオケは全体的に女性が多いように感じます。
そして、中でもヴィオラの首席(ユリア・デイネカ)とフルートの首席(クラウディア・シュタイン?)は、飛びぬけて素晴らしい妙技を披露してくれました。
派手さは感じないけど、このオーケストラの奏者達のレベルは皆相当高いです。
そして、オーケストラとして響くときに、さらに独特の木の香りのするような響きになるのが素晴らしいです。
この日聴かせてくれたバレンボイムのマーラーは、まさに巨匠の音楽。
先日私のブログで採りあげたCDの印象と同様、彫りが深く、逞しく、そして濃厚でした。
バレンボイムというマエストロは、まず自らを極度の緊張状態の中に没入させそこからオケも聴衆も緊張の渦に引き込んでしまうような「自己陶酔型」の指揮者ではなく、ある部分で常に冷めた眼を持って音楽と対峙していくタイプの指揮者だと、私は考えています。
感情移入しすぎて自分を見失うなんてことは決してない。
それでいて、淡白で枯れた演奏とは対極の、極めて濃厚でドラマティックな表現力が最大の持ち味。
ここが彼がワーグナー等のオペラで成功している点だし、この日のマーラーもまったく同様でした。
第1楽章
冒頭の不気味なチェロとホルンのリズムが、非常に明確に響きます。
その後のハープの音型をやや強調するのは、バレンボイム流。
この楽章でも、細かい音型を常に大事にしているのがよくわかります。
驚いたのはオーケストラの音色です。ホールの関係かもしれませんが、CD以上に木の香りのする音でした。
意外だったのは、バレンボイムの「振り」が小さかったこと。
もっと大きな振りの指揮をするかと思っていたのですが、最初のうちはジェスチュアを最小限に抑えてポイントだけ指示するというイメージ。
だからこそ、全身でシグナルを送った第一回目のクライマックスfffが本当に強烈でした。
それから、ことのほか美しかったのがコーダ。
ハープのアルペッジョに導かれてホルン、フルート、ソロ・ヴァイオリンと旋律が移っていく箇所は、もう言葉を失うくらい美しかった。全体にモレンドと指示された中を、最後にチェロのフラジオレットとピッコロだけが残る効果もとても印象的。
この楽章は、下手をすると何を言いたいのか全く分からないような演奏になる可能性も孕んでいるのですが、バレンボイムの見通しの良い演奏のおかげで、私はマーラーの音楽の素晴らしさを堪能させてもらいました。
第2楽章
ファゴットとヴィオラという楽器で冒頭のフレーズが奏でられるのは、この楽章の雰囲気を暗示しているようです。
この楽章に含まれる3つの舞曲の性格が、丁寧に表現されていたと思います。
そして、最後にソロ・ヴィオラがおどけたように奏でる「キュイ・キュイ・キュイ・キュー・・・」の表現がまことに強烈。
この楽章が終わった後、バレンボイムとトップサイドのコンマスが、笑顔でソロ・ヴィオラの女性を誉めていたのが、とても微笑ましく感じました。
第3楽章
冒頭から、まさにやんちゃ坊主が走り回るような演奏。
マーラーが聴いたらきっと喜んだでしょう。第2楽章でソロ・ヴィオラがけれんみなく演じた例のフレーズの雰囲気が、この楽章に見事につながっています。
しかし、いつまでも楽しさを謳歌させてはくれません。
突然トランペットのターンが、目を覚ませとばかりに鳴り響きます。
このあたりの表現の妙は、誤解を怖れず言うなら、まさにオペラ的な感覚。
それから、天上界へ誘うハープのアルペッジョが響いたあと、響きとして残る弱音の弦がとびっきり美しかった。こんな経験は初めてです。
そして、まだこの世界で楽しみたいんだといわんばかりに、再び冒頭の雰囲気を取り戻した後は、フルパワーで最後まで走り抜けました。
いやはや、凄い迫力。
第4楽章
CDと最も違う印象を持ったのがこの終楽章。
この日の第3楽章までの演奏に相当手応えを感じていたのか、大変高いテンションで始まりました。
テンポも速めで、鳥肌がたつほどの熱い表現。
しかし、少々熱すぎたのか?
美しいフレーズでファゴットがほんの少し外すと、これまで完璧に演奏してきたホルンが挽回しようと力んだのでしょうか、やはり少し危なくなります。
全体に少し前へ前へ進みすぎのように感じました。
しかし、その後もバレンボイムは手を緩めることなく、相変わらず凄いテンションで音楽を進めます。
ただ、こういう状況になった時によく起こることですが、フレーズの終わりが少し詰まり気味になります。
「もう少しだけ、ゆっくり呼吸してくれー」
心の中で、私は祈りました。
祈りが通じたのか、緊張感と静謐さが、絶妙のバランスをみせるようになりました。素晴らしい・・・。
そして、弦だけで演奏する最後のアダージッシモ。
弱音がもの凄い存在感です。
ここでも緊張と弛緩が、見事な呼吸を伴って表現されていました。
そして、もう今にも消えていきそうな雰囲気の中、ヴィオラのアクセントを伴った3つの音がpppながら鮮烈に響き、静かに本当に静かに音楽は終わります。
全ての音が消えて、奏者の動きが止まり、やがてバレンボイムの指揮棒も止まりました。
それでも拍手は起きない。
そして何秒経ったでしょうか。拍手の音がひとつふたつと響き始め、やがて熱狂的な拍手にホールがつつまれます。
実に感動的なエンディングでした。
また、この日は、コーダの間中、咳払いの音一つしませんでした。
稀に見る見事な集中力で演奏を盛り上げた聴衆にも、大きなブラヴォーを贈りたい。
素晴らしいマーラーの第九だったと思います。
バレンボイム&ベルリン国立歌劇場の来日公演は、これで「ドンジョヴァンニ」「マーラーの9番」と聴いてきました。
あと、もう一演目、17日にトリスタンを聴く予定です。
私にとって10年ぶりになるバレンボイムのワーグナー。
今から期待でそわそわしています。
改装後のサントリーホールは、この日が初めてです。
雰囲気はほとんど変わっていないけど、やはり綺麗になった気がします。
この日の席は、2階RAの3列目。
私の大好きな席で、比較的廉価でステージがよく見えるし、自分もオケのメンバーになったような錯覚を覚えます。
<曲目>マーラー:交響曲第9番ニ長調
<日時>2007年10月12日(金)7:00開演
<会場>サントリーホール
<演奏>
■指 揮:ダニエル・バレンボイム
■管弦楽:ベルリン・シュターツカペレ
予想通り、オケは対抗配置。
金管の後ろのステージ最後列に、コントラバス8台が一列に並ぶスタイルは、本当に壮観です。
入場してきた楽員を見渡すと、フルートは全員女性で、ヴィオラの首席も女性。
このオケは全体的に女性が多いように感じます。
そして、中でもヴィオラの首席(ユリア・デイネカ)とフルートの首席(クラウディア・シュタイン?)は、飛びぬけて素晴らしい妙技を披露してくれました。
派手さは感じないけど、このオーケストラの奏者達のレベルは皆相当高いです。
そして、オーケストラとして響くときに、さらに独特の木の香りのするような響きになるのが素晴らしいです。
この日聴かせてくれたバレンボイムのマーラーは、まさに巨匠の音楽。
先日私のブログで採りあげたCDの印象と同様、彫りが深く、逞しく、そして濃厚でした。
バレンボイムというマエストロは、まず自らを極度の緊張状態の中に没入させそこからオケも聴衆も緊張の渦に引き込んでしまうような「自己陶酔型」の指揮者ではなく、ある部分で常に冷めた眼を持って音楽と対峙していくタイプの指揮者だと、私は考えています。
感情移入しすぎて自分を見失うなんてことは決してない。
それでいて、淡白で枯れた演奏とは対極の、極めて濃厚でドラマティックな表現力が最大の持ち味。
ここが彼がワーグナー等のオペラで成功している点だし、この日のマーラーもまったく同様でした。
第1楽章
冒頭の不気味なチェロとホルンのリズムが、非常に明確に響きます。
その後のハープの音型をやや強調するのは、バレンボイム流。
この楽章でも、細かい音型を常に大事にしているのがよくわかります。
驚いたのはオーケストラの音色です。ホールの関係かもしれませんが、CD以上に木の香りのする音でした。
意外だったのは、バレンボイムの「振り」が小さかったこと。
もっと大きな振りの指揮をするかと思っていたのですが、最初のうちはジェスチュアを最小限に抑えてポイントだけ指示するというイメージ。
だからこそ、全身でシグナルを送った第一回目のクライマックスfffが本当に強烈でした。
それから、ことのほか美しかったのがコーダ。
ハープのアルペッジョに導かれてホルン、フルート、ソロ・ヴァイオリンと旋律が移っていく箇所は、もう言葉を失うくらい美しかった。全体にモレンドと指示された中を、最後にチェロのフラジオレットとピッコロだけが残る効果もとても印象的。
この楽章は、下手をすると何を言いたいのか全く分からないような演奏になる可能性も孕んでいるのですが、バレンボイムの見通しの良い演奏のおかげで、私はマーラーの音楽の素晴らしさを堪能させてもらいました。
第2楽章
ファゴットとヴィオラという楽器で冒頭のフレーズが奏でられるのは、この楽章の雰囲気を暗示しているようです。
この楽章に含まれる3つの舞曲の性格が、丁寧に表現されていたと思います。
そして、最後にソロ・ヴィオラがおどけたように奏でる「キュイ・キュイ・キュイ・キュー・・・」の表現がまことに強烈。
この楽章が終わった後、バレンボイムとトップサイドのコンマスが、笑顔でソロ・ヴィオラの女性を誉めていたのが、とても微笑ましく感じました。
第3楽章
冒頭から、まさにやんちゃ坊主が走り回るような演奏。
マーラーが聴いたらきっと喜んだでしょう。第2楽章でソロ・ヴィオラがけれんみなく演じた例のフレーズの雰囲気が、この楽章に見事につながっています。
しかし、いつまでも楽しさを謳歌させてはくれません。
突然トランペットのターンが、目を覚ませとばかりに鳴り響きます。
このあたりの表現の妙は、誤解を怖れず言うなら、まさにオペラ的な感覚。
それから、天上界へ誘うハープのアルペッジョが響いたあと、響きとして残る弱音の弦がとびっきり美しかった。こんな経験は初めてです。
そして、まだこの世界で楽しみたいんだといわんばかりに、再び冒頭の雰囲気を取り戻した後は、フルパワーで最後まで走り抜けました。
いやはや、凄い迫力。
第4楽章
CDと最も違う印象を持ったのがこの終楽章。
この日の第3楽章までの演奏に相当手応えを感じていたのか、大変高いテンションで始まりました。
テンポも速めで、鳥肌がたつほどの熱い表現。
しかし、少々熱すぎたのか?
美しいフレーズでファゴットがほんの少し外すと、これまで完璧に演奏してきたホルンが挽回しようと力んだのでしょうか、やはり少し危なくなります。
全体に少し前へ前へ進みすぎのように感じました。
しかし、その後もバレンボイムは手を緩めることなく、相変わらず凄いテンションで音楽を進めます。
ただ、こういう状況になった時によく起こることですが、フレーズの終わりが少し詰まり気味になります。
「もう少しだけ、ゆっくり呼吸してくれー」
心の中で、私は祈りました。
祈りが通じたのか、緊張感と静謐さが、絶妙のバランスをみせるようになりました。素晴らしい・・・。
そして、弦だけで演奏する最後のアダージッシモ。
弱音がもの凄い存在感です。
ここでも緊張と弛緩が、見事な呼吸を伴って表現されていました。
そして、もう今にも消えていきそうな雰囲気の中、ヴィオラのアクセントを伴った3つの音がpppながら鮮烈に響き、静かに本当に静かに音楽は終わります。
全ての音が消えて、奏者の動きが止まり、やがてバレンボイムの指揮棒も止まりました。
それでも拍手は起きない。
そして何秒経ったでしょうか。拍手の音がひとつふたつと響き始め、やがて熱狂的な拍手にホールがつつまれます。
実に感動的なエンディングでした。
また、この日は、コーダの間中、咳払いの音一つしませんでした。
稀に見る見事な集中力で演奏を盛り上げた聴衆にも、大きなブラヴォーを贈りたい。
素晴らしいマーラーの第九だったと思います。
バレンボイム&ベルリン国立歌劇場の来日公演は、これで「ドンジョヴァンニ」「マーラーの9番」と聴いてきました。
あと、もう一演目、17日にトリスタンを聴く予定です。
私にとって10年ぶりになるバレンボイムのワーグナー。
今から期待でそわそわしています。