漁業経済学者のひとりごと in 小浜

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ズワイガニの漁業管理

2019年03月01日 18時13分50秒 | Weblog
色々とネット記事を読んでいて誤解も多々あるので
ちょっと長々,書かせて頂きます。

11月6日に解禁されたズワイガニの漁期は3月20日までです。
そろそろ終盤に向かっていますね。

今漁期は色々なことがありすぎて
私自身が時系列でまとめている所です。

さて,11月の漁期開始直後に日本海区水産研究所から
「3年後に漁獲対象資源が半減する」との予測が出たということが
大きなニュースにもなりました。

一方で,年末・年始には鳥取と兵庫で「穫れ過ぎ」であり,
漁獲枠を早々にオーバーするかもしれない
というニュースも流れました。

これを組み合わせて
A「資源が減少するというのに漁業者は何にも考えずに穫っている」
というニュアンスの情報が流れ,さらに
B「オリンピック方式(先取り競争)をしているから,こんなことになる」
C「やはり個別の漁船に割り当てるIQ方式が良い」
という感じのことが言われ,
D「今の日本の漁業管理では資源に悪影響を及ぼす」
A「なぜなら漁業者は何も考えないから,資源を減少させるのだ」
となっていく流れがあります。

実は,A→BC→D→A は,恣意的な流れなのです。

Aについては,漁業者は色々考えています。
自分の経営のことですから。
ただ,それが他の方々の利益と一致するかどうかは別問題。
この点に関しては,私自身がもっと色々研究したいし
現場の人の方がよく分かっているからコメントはしません。

ズワイガニの漁業が3年後に半減するのと
現在の漁獲対象がどうなのかは,少し切り離す必要があります。

もちろんズワイガニの寿命は長いので
今年穫らなかった分は一部3年後に残る可能性はあります。
一方で,今年穫って,3年後以降は穫る量を減らす
というのも利用する資源量の点からは「アリ」です。
あくまでも「海にどれだけズワイガニがいるか」と考えればです。

その点では,オリンピック方式だろうが個別割当だろうが
総漁獲可能量(TAC)の設定をどうするのかが問題となります。
今期は鳥取も兵庫もそれなりに対応をしてきているので
総漁獲可能量を超えることはない見込みです。
資源的には何の問題もありません。

総漁獲可能量が正しいかどうかは漁業者の責任ではありません。
設定する側の責任です。

では,なぜ今漁期は「穫れ過ぎ」だったのでしょうか?
大きな理由は「天気が良かったから」です。
天気が悪くなるといくら海の中にズワイガニがいても
穫ることが出来ません。
しかも,天気はいつ悪くなるか分かりません。
それならば「天気の良いうちに穫っておこう」となります。
ちなみに,この心理が働く限りは個別割当にしても同じです。

カナダ大西洋岸のズワイガニ漁業は個別割当ですが
漁期初めに漁獲が集中しています。

しかしながら,私は
やっぱり穫れるだけ穫るのはやめた方が良いと考えます。

また,今年度の漁獲枠がTAC史上初めて
5月末の当初枠から10月初旬の期中改定で削減されました。
これは次の点から妥当であると暫定的に結論づけます。

3年後に資源が半減するのは,ほぼほぼ間違いありません。
となれば,漁業者もそれに順応して行く必要があります。
ズワイガニは2020年に急減するとは一昨年から言われていました。
(「ズワイガニの2020年問題」)

それならば,いきなり3年後に漁獲量を半減させるよりも
徐々に減らして行く方が良いと11月には考えていました。

また,ズワイガニから利益を得ているのは漁業者だけではありません。
流通業者や観光業者,要するに地域全体に波及します。
そうした地域社会も順応する必要があります。
関係する人が多いほど順応に時間がかかるので
早めに準備をした方が良いと判断します。

以上は「経営的な視点」です。「資源の問題」ではありません。
これを意図的につなげることがしばしば行われています。

個別割当(IQ)は,資源の問題よりも経営的な意味の方が大きいのです。
それをすっ飛ばすからおかしいのです。
但し,IQを入れれば経営問題が解決するとは限りません。
解決するか,しないかは,個別の状況です。

結果的には枠の消化が進んでしまって
年明けにはズワイガニの流通量が減ってしまうことになってしまいました。

今年度の値動きの情報を仕入れていないので
一般論となりますが
本来ならば,漁獲量は一定の方が社会全体としては良いでしょう。

漁業者も流通業者も観光業者も消費者も
予測を立てて計画的に動けるからです。

儲ける時に儲けて,後は知りません。
というやり方は,現在の地域密着型のズワイガニ漁業・関連産業に
適した考え方とは言えないでしょう。

ここまで書いて
じゃあ,どうしたら良いのか,となると
私は研究者なので
じっくりと聞き取り調査をしてから論文にしようという結論ですね。

もう一言書こうと思ったのですが…
やはり,もう少し温存します。
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