ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

「宜候」な人たち

2012-09-29 | 海軍



元海幕長と途中で終わってしまった会話の続きをするべく、今一度個人的にお目にかかって
そのときには銀座の「宜候」にお連れする、という野望を語ってみたわけですが、
防大卒の経営者O氏との会合が決まり、もしかしたら海幕長がいらっしゃるかもしれない、
という流れになったとき、うちのTOがここを予約しました。

たびたびこのブログに行きがかり上登場しているこの、エリス中尉の連れ合いであるところの
戸籍上の夫という役割のTOですが、実は前にも言ったように、
ツマがこのような世界にのめり込んでいることは知っていても、その情報をこうやって、
ブログという形で世間様に垂れ流しているとは夢にも思っておりません。

読まれていると思えば書けることも書けなくなるので、このことは今後も言うつもりはありませんが、
もし知ったらどんな反応をするでしょうか。
とにかくそれにもかかわらずこうやってツマの喜びそうな情報をせっせと集めてきては、
実際にもそれを行動に移してくれるわけでございます。

それにしても、毎日山のような本やなんかを傍らにPCに黙々と向かっている連れ合いに、
そんなに一生懸命いったい何をしているのか一度も尋ねないというのは、
かれなりの遠慮か、無関心か、はたしてどちらなのでしょうか。

と、どうでもいい話から始まりましたが、今日はその「ヨーソロ」探検記と参ります。

知る人ぞ知るこの「ヨーソロ」、銀座の老朽化も限界と言ったビルヂングの地下、
くねくねと狭い階段をB2まで下りきったところにありました。

「今晩首都直下型地震が来ないことを祈るしかないね」

思わずそのような言葉が口をついて出ました。
冗談抜きで、もし地震が来たらまず間違いなく階段はふさがれ、
運良く生き残ったとしても、この狭い空間にいる人々は、
助けが来るまでおつまみの乾パンと水割りで生きていかなくてはならないでしょう。



店内は「フネの中」という設定のインテリア。
本当に狭く、そういう意味でも「艦隊の兄さん」気分を満喫できます。
至る所に貼られた写真は、よく見ると所属団体の名称入り。
製鉄関係の会社が多いのは「フネ」もつくっているからでしょうか。



割烹着がかわいらしいこの店のママさん、ではなく「艦長」さん。
「国防婦人会」のコスプレか、それとも元々こういうファッションの方でしょうか。
どういういきさつでこのようなマニアックなお店をやっておられるのかは知りませんが、
お店のHPには山口多聞司令のご子息、という方が推薦の辞を呈しているほどなので、
やはり本物の「海軍さん」の関係者ではないかと思われます。
店中に貼られた軍艦旗、ゼット旗。
館長さんは、二つに分かれている部分の真ん中にかかった「コスプレ用軍服」を片付けてくれています。



士官用の第一種第二種第三種はもちろんのこと、セーラー服や事業服、予科練の制服も。
取りあえずなりたい位の海軍軍人にいつでも変身可能。



こういうところですから、ちゃんと襟の階級章も各種揃っております。
壁を見る限り、写真を撮るときに上から下まで着替える人も多いようです。

大日本国防婦人会の札のある棚は、ボトルケース。
ここはもし「桜に錨」さんが観ておられたら解説を願いたいのですが、おそらくこれは個人の物入れ?
スピーカーと言い、天井に掛けてある軍刀と言い、全て本物っぽいです。



これ、コピーとかじゃないんですよ。
いいのか?こんなところ(失礼)にこんな貴重な写真が。
この歴史的な会合の写真を撮った日、どうやら雨が降った後らしく、地面が濡れていますね。
それにしても海軍がこの会議の後わざわざ記念写真を撮ったのは、やはりこの会議が
「歴史を変えるもの」であるという認識の元にだったのでしょうか。

これを見ていたら、同行のO氏が
「このときの電報の一次コピーお送りしましょうか」
「ぜひぜひ!」

興味の無い人間には何の価値のないこれらのモノや写真も、
エリス中尉にとってはまるで宝の山に入ったよう。

 あれ?善行章が下に向いている?
こんな下士官のマークあったっけ、とふと考えていると、O氏が
「これは自衛隊の制服ですよ」
そうでしたね。
自衛隊はgoodマークをイギリス風の下向きに変えたんでした。
これは海士長(leading seaman)の袖章。
試験を受けてこの上の三等海曹になれば、そこからはいわば「正社員」。
一本線の「三等海士」からこの海士長までがいわゆる「水兵さん」です。



これも、線が二本あるので、旧軍のものではありませんね。
ところで、自衛官は士官であれば礼装用にサーベルを持つのだとO氏に伺いました。
やっぱり要所要所では海軍そのままなんですねえ、海上自衛隊・・・。

 なぜか船窓には潜水艦の写真が。

 複製という意味でしょうか。
水兵帽の裏に貼られていたシール。

ところで、ここに元海幕長をお連れするというその真意が
「途中になってしまった話をするため」なのであれば、
まったくここはそういう用途に向いていない、ということが入店3分後にわかりました。

原因は、これ。

 そう、カラオケです。

我々のように数人で来ている客はなく、一人、あるいは二人で来て、
勝手知ったる様子でカラオケのメニューを入れ、軍歌を歌いまくる、
どうやらここの常連客の楽しみは、ここにあるようで・・・・
この破壊的な音量のせいで通常の会話は全く不可能。
ここに来たら、マイクを持ったもの勝ち、なのでした。

暖簾のように軍服の掛かったハンガーの向こうは、どんなお客がいるのか全く見えず。
聞こえてくるのは
「太平洋行進曲」「ラバウル航空隊の歌」「若鷲の歌」などの誰でも知っている軍歌。
ここではスタンダードですが、おそらく他のスナックやバーでは、こういうものを歌えない。
デモ歌いたい!
そういう方々が集まってくるのかと思われました。
その中にめったやたらに軍歌の上手い方がいました。
3~4人でマイクを回しているのか、何回にいっぺんかその人が歌うたびに

「この人上手いですね」
「なんか歌手みたいですね」
「歌手って言っても、昔のポリドール専属みたいな雰囲気ですね」

とひそひそ言い合うほど、その方の歌には「軍歌心」が溢れていました。

「こういう面白いところがあるのでネタとしてお連れする」
という態度でここに訪れた我々、30分も経った頃にTOが
「じゃ、そろそろ帰りましょうか」
と帰り支度を始めると、機関室のドアそのものを使ったトイレから出てきたO氏夫人に
「え~!もう帰るんですか~」
となつく酔っ払い。
ええい、この方を誰と心得る。下がりおれい無礼者。

そこでふと、「ここで一曲歌ってブログネタに」
と不埒な考えが頭をかすめたエリス中尉でございます。

「あの、一曲歌って帰っていいですか」
「え!何を歌います?」
「大東亜戦争海軍の歌」
「へっ?」
「♪きょーかーんさけーたーりしーずみーたーりー♪って歌です」
しばらく詳しいお客さん(士官帽着用)が探して下さったのですが、
「ありません・・・」
「・・・・じゃ、愛国行進曲でいいです」

イントロ開始。

このへんから、
「え、誰が歌うのこれ」
「女の子が歌うの?」
盛り上がる酔っ払いども。

エリス中尉、仮にも音楽関係者の末席を汚すからには、
カラオケというものをあまりたしなみません。
ですから、カラオケで、しかも軍歌を歌うのは生まれて初めての経験だったわけですが、

いや~。気持ちのいいものですなあ。

ここに来て知らないもの同士肩寄せ合って狭い穴蔵のような地下二階で、
ウィスキーと乾パンを前に何時間もいられるというのが、
この「軍歌を歌う楽しみ」のためであるというこの方々の気持ちが、
マイクを握ったとたん100パーセント理解できたですよ。

「江田島健児の歌」とか先ほどの「大東亜戦争海軍の歌」なんてのをカラオケに入れてくれていれば、
銀座に来るたびに通ってもいいなあ、とちらっと思いました。



ところで、このバー「ヨーソロ」ですが、狭い店内のいろんなところに、
わたしが部屋に貯め込んでいるような海軍関係の本がさりげなく積んであります。
その中に、
「日本海軍食生活史話」とか、「回天写真集」なんて超貴重な本があるのを、
スルドイエリス中尉の目は見逃しませんでした。

「あ、これほしいなあ・・・・食生活史話だって。
何回か通ったら一ヶ月くらい貸してくれないかなあ」
「貸してくれるんじゃない?」

しかし、欲しい!と思ったものを我慢することが基本的にできないエリス中尉、
取りあえず、奥付を写真に撮り、帰ってインターネット検索してみました。
古書店で2万円~5万円の範囲です。
モニターを見ながらため息をつきつつ
「一番安いのでにまんえんか・・・・・」
「また行って見せてもらえば?」(TO)
「・・・・・・そうだね」

口ではそう言いながら同時に「購入」のクリックをするエリス中尉。

ああっ、いけないことだとはわかっているのにカラダが勝手に・・・・・買っちゃった。
しかもTOに断りも無しに。

この冬、セーター一枚買うのをやめればいいのよね!

というわけで、「ヨーソロ」、
TOにとっては非常に危険な場所であることが判明したのでございました。

ツマのやっているブログと同じく、かれはそれを全く知りませんが。