駐車場に行くために、東急百貨店の北側出口、地下から路上へでる階段を上ろうとしていた。
そこを上りきったところにタクシー乗り場がある。
そのタクシー乗り場に向かっているのか、白髪の上品な老婦人が階段を上っていた。
大き目のバッグと、東急の紙袋を提げている。
母と同じくらいの年齢に見えるけれど、スリムで、母よりずっと元気だ。
母なら、一人でデパートなんて、絶対にない。
お洒落な人なのだろう、パンプスを履いている。
とはいえ、老婦人の紙袋はかなり重そうだ。
大丈夫かしら・・・
何となく見守るような気持ちで、その後をゆっくり上った。
老婦人は、慎重に一段上がるごとに息を整えている。
これなら大丈夫かなと、私の不安も消えかけた。
ところが、中ほどまで上がったところで、案の定というか、
体がバランスを崩して、後ろにぐらりと倒れかけた
手に提げた紙袋とバッグの重みが後ろに残って、体が引っ張られているのだ。
やっぱり
半ば予期していた私は、何とか彼女の背中を支えることができた。
「このくらい大丈夫と思ったんだけど・・・やっぱりエスカレーターに乗れば良かった。
ほんとうにすみません」
なんとか体勢を立て直そうとしながら、何度も頭を下げる。
ショックだったのだろう、声が震えているようだ。
「いいえ、何でもありませんよ」と、私。
彼女の荷物を引き受け、腕を支えて一緒に階段を上がる。
タクシーに乗せて、バッグと紙袋を渡すとほっとした。
あの老婦人は、二度とあの階段を上らないだろう。
もしかしたら、デパートにも来ないかも。
それが良いことなのかどうかわからない。
自分の母親だったら、
「だから一人でデパートなんか行くからでしょう、もうやめてよ!」
と、叱責することだろう。
でも、そうやって高齢者は行動範囲を狭めていくのだろうと思う。
そして、それは、結局老化を早めることになるのではないかしら。
危ないからと禁じるか、
何かあったら、それはそれで仕方がないと割り切るか
難しい
どちらにしても、後悔は付きまとうに違いない。
・・・・
とりあえず老後に備えて、私は足を鍛えるわ