日本には存在しない(または稀な)感染症で、海外旅行者が渡航先で感染し、自国に帰国するときに持ちこまれたものを「輸入感染症(imported infectious disease)」といいます。海外渡航先での食べ物や水、または蚊に刺されたことなどが原因で感染し、帰国後に発症します。国立感染症研究所感染症情報センターは、輸入感染症を旅行者感染症として、コレラ、細菌性赤痢、腸チフス・パラチフス、デング熱、マラリアなどを例示しています。
輸入感染症の1つにデング熱があります。2014年のデング熱輸入症例は第33週(8月15日現在)で98症例で、インドネシアからの輸入症例が多いといいます。日本国内でのデング熱とデング出血熱の発生は、2007年…89例、2008年…104例、2009年…92例、2010年…244例、2011年…113例、2012年…220例、2013年…249例あったのですが、今年2014年は8月15日までで98例になっているそうです。
統計上は、輸入感染症としてのデング熱の最近の年間発症例数は200例強ですが、デング熱に特有の症状はないために、ほかの感染症と考えられて、治療が行われている場合も可能性としてあります。国立感染症研究所のページには、「デング熱を疑う患者の診断指標」が掲載されています。
Aの2つの所見に加えて、Bの2つ以上の所見を認める場合にデング熱を疑う。
A)必須所見
1.突然の発熱(38℃以上) 2.急激な血小板減少(10万/μL以下)
B)随伴所見
1.発疹(発病数日後、解熱傾向とともに出現する場合が多い)
2.悪心・嘔吐
3.骨関節痛・筋肉痛
4.頭痛
5.白血球減少
6.点状出血(あるいはターニケットテスト陽性)
C)除外指標;CRPが10mg/dL以上の場合は、まず細菌感染その他の検索を優先してください!!
(注) ターニケットテスト(tourniquet test、止血帯試験)では、血圧を計る要領で、上腕部に止血帯を使って一定の圧力を加えておき、前腕に点状の出血班が見られるかどうかを判定する。毛細血管透過性亢進の有無(デング熱では毛細血管の透過性が増す)と血小板の機能低下の有無(デング熱では急激な血小板減少がみられる。血小板の基準値は、13万~35万/μLほどで、10万/μL以下で血小板減少症、40万/μL以上で血小板増多症とされる)をみる検査方法である。(注の終わり)
(注) CRP(C-reactive protein、C反応性蛋白)は、体内で炎症反応や組織の破壊が起きているときに血中に現れるタンパク質で、その産生量は炎症反応の強さに相関することから、血清中のCRPを定量して炎症反応の指標とすることができる。細菌感染では上昇しやすく、ウイルス感染では強い発熱を伴って発症するものでも上昇はわずかである(アデノウイルスなど一部のウイルス以外)。一般的な基準値は、~0.3mg/dLで、軽い炎症などが疑われる場合で、0.4~0.9mg/dLである。デング熱は強い発熱を伴うウイルス感染症であるが、CRPのそれほどの上昇はみられない。(注の終わり)
2014年9日1日配信のNHKニュースからです。
8月、国内でおよそ70年ぶりに感染が確認されたデング熱に、新たに東京などの19人が感染したことが国立感染症研究所の検査で確認されました。厚生労働省によりますと、全員が8月、東京の代々木公園付近を訪れていたということで、厚生労働省は発熱などの症状が出た場合は医療機関を受診するよう呼びかけています。
デング熱はアジアや中南米など熱帯や亜熱帯の地域で流行している蚊が媒介する感染症で、ヒトからヒトには感染しません。8月、東京の代々木公園を訪れていた東京や埼玉の男女合わせて3人が、およそ70年ぶりに国内でデング熱に感染したことが確認されています。その後も症状を訴える人が相次ぎ、国立感染症研究所が検査したところ、東京や神奈川など6つの都県の合わせて19人がデング熱に感染したことが確認されたということです。これで今回国内でデング熱への感染が確認されたのは、合わせて22人となりました。いずれも重症ではなく快方に向かっているということです。
厚生労働省によりますと、感染が確認された人は全員が8月、東京の代々木公園付近を訪れていて、最近1か月以内の海外への渡航歴はないということです。厚生労働省は「いずれも代々木公園付近で蚊に刺されたことが原因とみられる。蚊はあまり移動しないため、今のところ感染が大規模に広がることは考えられない」として、冷静な対応を求めるとともに、発熱などの症状が出た場合は医療機関を受診するよう呼びかけています。
厚生労働省によりますと、新たにデング熱への感染が確認された19人の内訳は、東京都が13人、神奈川県が2人、埼玉県と千葉県、茨城県と新潟県がそれぞれ1人ずつとなっています。これまでに東京都で1人、埼玉県で2人の合わせて3人の感染が明らかになっていて、感染が確認されたのは合わせて22人となりました。年齢は10歳未満の子どもから50代までの男女となっています。
国立感染症研究所の報告した「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ」(PDF)によると、デング熱の発症日で最も早いのが、8月16日の東京都の20代男性と埼玉県の10代男性の2人。ともに、8月9、10日に代々木公園を訪れています。潜伏期間は6日ないしは7日。最も遅いのが、8月27日の千葉県の50代男性で、代々木公園周辺に8月15~18、21、23~25日と8回訪れ、8月23日に蚊に刺されたと申告しています。潜伏期間は4日。
10歳未満の子供もデング熱の発症者の中にいます。東京都の男の子です。8月16日に代々木公園に行き、蚊に刺され、その5日後の8月21日に発症しています。子供がデング熱にかかった場合、その症状は一般的に大人の場合よりも軽く、快復も早いと言われていますが、生命を脅かすデング出血熱に発展する可能性が大人の場合よりも高いようです。
テレビのロケ中にデング熱に感染した女性タレントの2人は、厚生労働省が発表した22人には含まれていないようです。そうだとするならば、24人がすでにデングウイルスに感染したことになります。デングウイルスを持った蚊が1匹だけでは、これだけの感染者が出るというのは考えにくい。ヒトスジシマカは2~3日おきに吸血し、また、集団でヒトを襲います。海外で感染し日本に入国した人をかなりの数の蚊(数十匹?)が刺して(デングウイルスのキャリアとなったその人物は数回、代々木公園の数か所を訪れ、そのたびに蚊に刺されたのかも知れません)、その体内にウイルスを取り込み、その蚊の数匹ずつが日を分けて(例えば、少なくとも8月10日、11日、16日、17日、18日、20日、21日、23日。「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ」から推測した)、かなりの数のヒトを襲ったことで、感染がこれほどの広がりを見せていると考えるべきでしょう。
デング熱を起こすデングウイルスには、D1(DEN-1、DENV 1)からD4(DEN-4、DENV 4)まで4つの型がありますが、今回の国内感染の事例すべてがD1であったようです。8月に入って、デング熱を発症した輸入感染症の患者からは、D1(旅行先はそれぞれインドネシア・ギリ島、インドネシア・スンバ島)とD2(バングラディッシュ、インド)という2つのタイプが確認されています。
(追記‐2014年9月2日) 2014年9月2日配信の時事通信の記事からです。
厚生労働省などは9月2日、新たに大阪府や青森、愛媛両県などに住む14人のデング熱感染が確認されたと発表した。いずれも最近の海外渡航歴はなく、東京・代々木公園周辺を訪れていた。これまでに22人の感染が確認されており、感染者は10都府県の計36人になった。
厚生労働省などによると、14人は未就学児から50代までの男女で、東京7人、大阪3人、青森、新潟、山梨、愛媛各1人。訪問日が確定できない3人を除き、8月5日~26日に代々木公園周辺を訪れており、8月14日~9月1日に発症した。
発熱や頭痛などの症状があったが、重症化した人はおらず、容体は安定しているという。
国立感染症研究所の報告した「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月2日)」(PDF)(愛媛県と新潟県各1人のデータは未掲載)によると、2日の追加発表分で、デング熱の発症日で最も早いのが、8月14日の東京都の20代女性で、8月10日に代々木公園及びその周辺を訪れています。潜伏期間は4日。最も遅いのが、9月1日の大阪府の10代女性で、代々木公園に8月25、26日に訪れたが、蚊に刺されたかはわからないと答えています。潜伏期間は6日または7日。大阪府高槻市保健所によると、デング熱に感染していたのは、この女性を含めた大阪府高槻市の10代女性3人で(発症はそれぞれ8月30日、8月31日、9月1日)、現在、入院中だが、容体は安定しているといいます。この3人を含むグループ24人は8月25日から代々木公園北側の宿泊施設に滞在し、25日の夜と26日の朝、代々木公園近くで軽い運動をし、26日午前には代々木公園内を歩いたと申告しているようです。24人のうち半数以上が「蚊に刺されたと思う」と話していることから、発症していない人も経過観察しているということです。平均的な潜伏期間(4日から7日)から考えると、感染していたとしてもこのグループからの発症はこれ以上なさそうです(不顕性感染)。
厚生労働省などが9月2日に発表したところによると、新たに大阪府など6都府県の計14人について、デング熱の感染が確認され、その居住別の内訳は、東京都7人、大阪府3人、青森、山梨、愛媛、新潟県各1人。愛媛県の10代の少年は、高校の合宿で8月5~13日に代々木公園周辺に宿泊し、8月6日は代々木公園内をランニングしたといいます。愛媛県の少年と同じ合宿に参加した29人のうち、10代の少年1人にも発熱や発疹の症状があるため、国立感染症研究所でデング熱への感染の有無を検査するということです。
新潟市保健所によると、8月16日から18日にかけて、代々木公園周辺の宿泊施設に滞在しながら、100人以上が参加する説明会に参加していた新潟市の10代の女性は、8月24日に発熱の症状を訴えて新潟市内の医療機関に通院したが、熱が下がらなかったため、5日後に入院し、その後、発疹やむくみの症状が出たが、回復したため、9月1日に退院したそうです。新潟市の研究所が検査したところ、デングウイルスの遺伝子が検出され、感染が確認されたということです。新潟県では、8月20日に代々木公園周辺を通った新発田市の10代男性が、8月24日にデング熱を発症しています。
さらに、岡山県倉敷市保健所によると、8月中旬に代々木公園内を通ったと話している東京都内の大学に通う20代の男性が、帰省先の倉敷市で受けた血液の迅速検査でデング熱陽性と判明し、国立感染症研究所に確認検査を依頼しているそうです。
デング熱の代々木公園での感染は、まだまだ広がりそうです。しかし、医療水準が高く、衛生環境の良好な日本において、致死率の低いデング熱をそれほど恐れる必要はありません。問題は、蚊が媒介するウイルス感染症がデング熱だけではないということです。蚊媒介感染症(mosquito-borne infection)は、感染症法上、全数届出疾患のうち四類感染症の対象とされています。対象疾患は、ウエストナイル熱、チクングニア熱、デング熱、日本脳炎、マラリアの5疾患があります。日本には、日本脳炎ウイルスが常在しています。日本脳炎(Japanese encephalitis)は、感染しても発症するのは100~1,000人に1人程度で、大多数は感染しても発症しません(不顕性感染)。しかし、発症したときの致死率は20~40%といわれています。日本脳炎ウイルスに感染しているブタなどを吸血したコガタアカイエカがヒトを刺すことによって感染します。
(参考) 「感染患者報告数の少ない日本脳炎の予防接種は受けるべきではないか?」
ウエストナイル熱(West Nile fever)は、2014年8月26日現在、アメリカでは、カリフォルニア州(93人)、ルイジアナ州(43人)、テキサス州(30人)、サウスダコタ州(22人)など34の州と地域から12人の死亡を含む297人の患者(髄膜炎もしくは脳炎のような神経侵襲性疾患(neuroinvasive disease)を起こしたのは、そのうち53%ほど)がCDC(アメリカ疾病対策センター)に報告されているといいます。医療水準の高いアメリカで、このデータからはその致死率は4%ほど。25人に1人は死に至ることになります。日本では、2005年8月24日に出国し、8月28日から9月4日までロサンゼルスに滞在後、9月5日に帰国した30代男性が、ウエストナイル熱を発症しています。帰国時に発熱及び頭痛、その後発疹しました。9月7日に近くの医療機関を受診し、さらに9月10日、川崎市立川崎病院を受診することになります。ELISA試験で、ウエストナイルウイルスに対する特異的IgM抗体陽性となりました。中和試験でも、ウエストナイルウイルスに対する特異的中和抗体を認め、ペア血清で4倍以上の上昇があったようです。その後回復したそうです。ウエストナイル熱の潜伏期間は3〜15日で、感染しても発症しないことが多く、発症する人の割合は5人に1人ほど(約20%)です。
ウエストナイルウイルスはカラスやスズメなど鳥の体内で増殖し、その血液を吸った蚊に刺されることで、人に感染します。
デング熱の予後(病気が治った後の経過)は、比較的良好だといわれています。後遺症を伴うことは殆どないのです。それに対して、日本脳炎やウエストナイル脳炎などの脳炎を起こすウイルス感染症は非常に恐ろしい病気です。神経系を標的として感染し、その機能に障害を与えるので、後遺症を伴いやすく、後遺症が残った場合は深刻な状態になります(ウエストナイル熱の発症者の100人に3人ほどがウエストナイル脳炎を起こすと言われている。日本脳炎は発症者の5人に1人は亡くなり、5人に1人は後遺症が残り、完全に治癒するのは5人に3人ほどだという)。(追記の終わり)
(追記‐2014年9月3日) 厚生労働省などは9月3日、新たに北海道や千葉県など4都道県の計12人について、デング熱の感染が確認されたと発表しました。いずれも8月に代々木公園やその周辺を訪れていました。これで、国内の感染者は11都道府県の計48人になりました。
厚生労働省などによると、12人は10代から70代の男女で、居住別の内訳は東京都9人、北海道、千葉県、山梨県各1人。重症者はなく、入院中の患者を含めて全員快方に向かっているといいます。
北海道の患者は40代の女性で、8月22日に代々木公園の周辺で蚊に刺され(代々木公園に隣接する明治神宮で、蚊に刺されて感染したものとみられている)、8月29日に発熱や頭痛を発症したといいます。潜伏期間7日。千葉県の患者は70代の男性で、8月に数日間、代々木公園内で土木作業を行い、8月24日に発症したそうです(詳細は、「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月3日)」)(PDF)(9月2日の愛媛県と新潟県各1人のデータは掲載された。また、帰省先の岡山県倉敷市で8月24日に発症した20代の男子学生も感染が確認された。千葉県の人のデータは未掲載)。(追記の終わり)
(追記‐2014年9月4日) 2014年9月4日配信の時事通信の記事からです。
東京都は9月4日、代々木公園で採集した複数の蚊からデング熱のウイルスが検出されたため、同日午後2時から一部を除き同公園を閉鎖したと発表した。
東京都によると、立ち入りが禁止されたのは中央広場や噴水池のある公園北側の地区(約44万6000平方メートル)で、道路を挟んで南側の陸上競技場や野外ステージのある地区(約9万4000平方メートル)は含まれない。期間は当分の間で、再開時期は未定。
採集装置は園内10カ所に設置され、276匹のヒトスジシマカが採集された。このうち北側の地区4カ所(「日本航空発始之地記念碑」周辺、渋谷門の北の「桜の園」周辺、西門の北のサービスセンター周辺、サイクリングセンター周辺(その北に国立オリンピック記念青少年総合センターがある))で採集した蚊からウイルスを検出。広範囲に及んだため、北側の地区全体を閉鎖することとした。同公園には路上生活者が約30人いるが、希望者には福祉施設などを紹介する方針。
東京都は9月4日午後、国立感染症研究所の専門家とともに園内を視察。5日以降、生態系への影響を踏まえた上で蚊の駆除を行うほか、蚊の採集場所を20カ所に増やし、ウイルスの保有状況を追加調査する。
厚生労働省などは9月4日、新たに群馬県などの7人のデング熱感染が確認されたと発表しました。10代から70代の男女で、東京6人、群馬1人。いずれも代々木公園周辺で蚊に刺されたとみられるそうです。これで感染者は、北海道、青森、茨城、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、山梨、大阪、愛媛の12都道府県の計56人となりました(詳細は、「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月4日)」)(PDF)(9月3日の千葉県の人のデータは掲載された。群馬県の人のデータは未掲載)。
群馬県は9月4日、県内の10代の男性がデング熱に感染したと発表しました。男性は8月29日に発熱し、病院を受診しましたが、熱が引かないため、9月に入って入院したといいます。8月に代々木公園を訪れ、蚊に刺されたことがあったということから、9月4日に群馬県衛生環境研究所が検査を行い、デング熱と確定しました。
今までの発症者のデータで、一番早く発症したのは、東京都の20代の女性で、8月4日に代々木公園を訪れており、8月12日に発症しています。潜伏期間は8日(第52症例)。次は、8月14日の発症の東京都の20代女性で、8月10日に蚊に刺されています。潜伏期間は4日(第25症例)。同じく、8月14日の発症の東京都の20代女性で、8月9日に蚊に刺されています。潜伏期間は5日(第50症例)。第34症例の愛媛県の10代男性も8月14日に発症していますが、蚊に刺されたかは本人に記憶がなく、感染地を特定することは難しかったかも知れません。あくまでもしもの話しですが、デング熱の検査キットが普及していて、デング熱を疑う態勢ができていれば、この後、数日で集団発生事例として、感染地が特定され、蚊の駆除が始まっていたでしょう。そのときは、これだけの発症者が発生することは防げたかも知れません。
気になるのですが、代々木公園には路上生活者がいるということですから、その路上生活者の中にデング熱に感染したが発症しなかった人がいた(または発症したが病院には行けなかった)とすれば、蚊に刺され続けることで継続的にデングウイルスを蚊に供給していたということが考えられないのでしょうか。そのために、ウイルスを持った蚊が数十匹も存在することになったと、、、路上生活者に対する聞き取りはなされるのでしょうか。路上生活者のデングウイルスへの感染の有無の検査はなされるのでしょうか。路上生活者を代々木公園から外へ出すことでウイルスを拡散させてしまう可能性はないのでしょうか。(追記の終わり)
(追記-2014年9月5日) “The Wall Street Journal”の2014年9月4日の記事によると、マレーシアでデング熱患者の急激な増加(deadly outbreak of dengue)が起こっており、特に首都クアラルンプールを取り囲み、日系企業が数多く進出している、人口密度の高いセランゴール州で深刻だといいます。
今年は、8月30日までで、マレーシアでのデング熱による死者は131人(131 dengue-related deaths)。これは前年の同じ時期の38人のおよそ3.4倍になります。今年の感染者は6万8千人ほどで、このデータからは致死率はおよそ0.2%(感染者500人に1人が死亡する)。昨年(2013年)の感染者は1万9千人ほどで致死率は約0.2%。
デング熱感染者の急激な増加の原因を研究者は、DEN-2という伝染性の強いタイプ(more virulent strain of dengue)(デングウイルスにはDEN-1、DEN-2、DEN-3、DEN-4の4タイプがある)のデングウイルスの流行だと指摘しているようです。
デングウイルスのキャリアのヒトから吸血したメスのネッタイシマカの体内に移動したデングウイルスは、蚊の消化管から中腸(mid gut)(昆虫では胃にあたる)に移動し、その周辺で増殖(replication)を行います。およそ5日後、ウイルスは蚊の唾液腺(salivary glands)にも移動します。これで、ウイルスはヒトへの感染を準備したことになります。
蚊は、吸血するとき、吸血しやすいように、血が凝固することを防止するための物質(抗凝血作用物質)を含んだ唾液をヒトに注入するのですが、そのときにウイルスもヒトの血管内に移動することになります。すべての種類のウイルスが、蚊の「胃」で増殖できるわけではなく、蚊媒介感染症のウイルスだけがそれをできるから、蚊を媒介としてデングウイルスなどがヒトに感染するのです。(追記の終わり)
(追記‐2014年9月5日) 2014年9日5日配信の産経新聞の記事からです。
厚生労働省は9月5日、東京都新宿区の区立新宿中央公園で蚊に刺され、デング熱を発症したとみられる患者が確認されたと発表した。代々木公園周辺以外で感染者が確認されたのは初めて。新宿区は公園の蚊の駆除を始めた。
厚生労働省によると、患者は埼玉県の30代男性で8月中旬から下旬、5回にわたり新宿中央公園を訪れた。8月30日に発熱や頭痛などの症状を訴えたが、入院はせず、容体は安定している。男性から検出されたウイルスの遺伝子配列は代々木公園で感染した患者と一致しており、同じウイルスが新宿中央公園に広がったとみられる。
新宿中央公園は代々木公園の北約2kmで、行動範囲が100m以内とされる蚊が移動したとは考えにくいことから、厚労省は代々木公園周辺で蚊に刺された患者が、新宿中央公園周辺で別の蚊に刺されたことで感染が広がった可能性が高いとしている。
厚労省などによると、岩手県と山口県でも初めて国内感染の患者が確認され、9月5日までに感染が明らかになった患者は14都道府県で71人。いずれも最近の海外渡航歴はなく、新宿中央公園の例を除き、70人は東京の代々木公園周辺を訪れていた。重い症状の患者はいない。
岩手県は9月5日、県内に住む10代の女性がデング熱に感染したと発表しました。岩手県によると、デング熱への感染が確認された女性は、8月17日から18日の間に代々木公園の周辺で蚊に刺され、8月23日に発熱や頭痛、発疹などの症状が出て、岩手県で医療機関を受診したようです。潜伏期間は5日または6日。検査でデングウイルスが確認され、デング熱と確定したということです。
2014年9月5日配信の時事通信の記事からです。
神奈川県横浜市は9月5日、東京・代々木公園で蚊に刺されてデング熱に感染した横浜市南区の20代女性(「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月5日)」)(PDF)の第49症例)が、発症3日後に横浜市金沢区の「海の公園」で蚊に刺されていたと発表した。横浜市は同日、女性が蚊に刺された公園内の「犬の遊び場」2カ所を閉鎖。蚊を捕獲してウイルス検査を行う。
女性は8月17日と24日に代々木公園で蚊に刺され、8月28日に発熱などの症状が出た。8月31日午後3~4時ごろ、海の公園を訪れ、蚊に4カ所程度を刺された。9月3日になってデング熱と診断された。横浜市は今後、ウイルスを持つ蚊が確認されれば駆除を行う。(追記の終わり)
残念ながら、デングウイルスが拡散している可能性が出てきてしまいました。
(参考) 「デング熱のウイルスは、日本のヒトスジシマカに常在するようになってしまうのか。(1)」
(参考) 「デング熱のウイルスは、日本のヒトスジシマカに常在するようになってしまうのか。(3)」
(この項 健人のパパ)
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