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No1102『秒速5センチメートル』~手紙、電車、雪、初恋相手との再会…片恋の距離~

新海誠監督の『言の葉の庭』にぞっこんだったので、
塚口サンサン劇場で、監督の旧作のフィルム上映があると知り職場を鐘とともに飛び出した。
期待が大きすぎたか、
思ったほど感銘は受けなかったが、
最近自分の中でいろいろ考えていることとテーマが重なり合い、
感じるものは大きかった。

3話構成。冒頭の「桜花抄」が一番好きだ。
タイトルは、桜の花びらが秒速5センチメートルの速さで落ちるというところから。
桜が咲く頃一緒に見たいねという初恋相手への思いと重なり合う。
「どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか」というキャッチコピーどおり
テーマは、初恋、再会、片恋、人が人を想うこと…。

内向的で、図書館が好きで、転勤族で、互いにひかれあっていた
小6の貴樹(たかき)と明里(あかり)。
卒業後、明里は東京から栃木へ引越し、別れ別れになる。
中学に入り、明里から貴樹への手紙の朗読で、物語が進む。
先日観たばかりの映画『親密さ』を思い出して、じんわりした。

文通を始めて1年後、今度は貴樹が東京から鹿児島に引っ越すことになり、
3月のはじめ、貴樹は、学校が終わってから、
初めて電車を乗り継いで、栃木へと向かう。
折からの大雪で、電車は大幅に遅れる。
「時間が悪意をもって進んでいる」ようと、心細さを感じながら、
なかなか動かない電車の中で、
泣かないようにじっと耐える貴樹の姿が痛々しい。
7時に駅の待合室という約束が、駅に着いたときには
既に夜の11時をまわっていた…。

電車の窓枠、ドア、踏切、駅と、細部の景色を丁寧に描いていくのが見事で、
風景シーンも美しく、たまらない。
同じ路線の電車に乗ってみたくなるほど。新宿から小山そして岩船へ。

明里が帰っていますようにと願いながらも、駅に到着して、
居眠りしかかっている明里の姿をベンチに見つけ、
目をしばたたたかせ、喜びでいっぱいの貴樹。
貴樹の服をぎゅっと握り、涙する明里。
1年もの時間と、東京栃木の距離を超えて、2人は再会する。
少し胸が熱くなった。

第2話「コスモナウト」の舞台は、鹿児島。
高校生の貴樹に片想いしている花苗(かなえ)という少女が現れる。
中学の頃からずっと想い続けて、言いだせないまま、
今度こそ告白しようと決心したその日の帰り道、
通学用のバイクが壊れて、いっしょに歩いて帰ってもらう。
途中、宇宙探査機の打ち上げを目にして、
唐突に花苗は、貴樹が、まるで自分の方を向いていないこと、
その眼差しはずっと遠くを見つめており、
決して追いつくことはできないことに、はたと気付く。

結局告白できずに帰るが、
それでも貴樹を好きな気持ちに変わりはなく、
その気持ちを抱きしめて眠ろう、という感じで終わる。

思わず『親密さ』のゆきえちゃんを思い出した。
兄のルームメイトのしんちゃんが好きで、手紙を書いて、
親友の佳代ちゃんに電話できいてもらう、
けなげで、かわいらしい女の子。
彼女も、自分が、しんちゃんから想われていないことには気付いていた。
それでも、何かしら可能性を確かめたくて、
手紙を書いて、率直な気持ちを打ち明けずにはいられなかった。
結局、その手紙は読まれることなく終わったのだけれど。

花苗が、ずっと貴樹を想いつづける姿は、けなげで切ない。
でも、相手が自分にまったく気がない、と気付いた時の
彼女なりの、決心の仕方、受け入れ方は、すてきだった。

片恋の相手との距離は決して縮まることはないと知る現実。
その人を好きな自分に酔ってるだけでは、気付けない。

ずっと背中を追いかけて、見つめてきた光景。
いっしょに肩を並べて歩くことはできなくても、
同じ方向を向いていたい。
同じ世界を見つめていたい。
そういう自分なら、受け入れられる。そんな静かなる決意。
片恋を支えに飛ぼうとする彼女たちの一途な姿に、
いろいろ考えさせられた。

とはいえ、今回、ひっかかったのは、最後の方になると、
確かにきれいな光景、きれいな絵ではあるが、
あまりにきれいすぎて、凝りすぎに思えて、
少し食傷気味になり、画面から気持ちが引いてしまったこと。

貴樹も明里も花苗も、お目めぱっちりの美人と美男子で、
アニメならではの顔にあきてしまったのも正直なところ。
なんでも好きなふうに描けてしまうだけに、
どこまで描くかは、難しい。

第3話「秒速5センチメートル」に登場する、
3年間1000通ものメールをやりとりしたのに、心は1センチしか近づけなかったという
就職してからの恋人に、貴樹が言われる別れ文句は痛切だ。
結局、貴樹が想いつづけ、忘れられないのは、
明里ひとりだったという真実。

人間と人間の心を結ぶ絆ってなんだろう。

仕事に疲れ果て、日常の疲れが日々積もっていく貴樹のモノローグに
『親密さ』の「花火」という詩を思い出した。

言葉を見つけたい。言葉といい関係を築きたいと思う。

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