映画の本編が始まり、黒味にスタッフ名が紹介されていくと同時に
ガタンゴトンと、電車が走る音が聞こえてくる。
この電車の音のすごいこと。いきなり魂を奪われるほどに心をもっていかれた。
それまでの落ち込みも疲れも、一瞬とはいえ、一気にふっとんでしまい
何がどうすごいのか、うまく言葉で伝えられないが
まさに電車に乗って揺られている心地よさ、
このまま幽界に連れられていっても
こんな音に包まれてなら、いいかもしれない、と思いたくなるほどに
魅惑的なひとときだった。
電車の音を、こんなふうに全身で体験できたのも
まさに爆音上映ならでは。
ホウ・シャオシェン監督の映画において、
いかに音が重要な役割を果たしているかをあらためて実感。
タイトルロールの後、
車内が映し出され、若い男女がいる。揺れている車内。
トンネルに入ったり、
真っ暗な中、トンネルの向こうに光が見えたり…
映像と音がさらに重なり合い、世界が生まれる。
やっぱり映画ってすごいと胸が高鳴った。
男が2階か屋根の上かに座って何か食べていて、
カメラが右にパンすると
すぐ横に線路が通っていて、家々の間をすり抜けるようにして
電車がやってきて止まる。
おばちゃんが二人、ホームもないところで、
道から直接、よっこらしょと、互いに手を携えあって
列車にはいのぼる。
二人がやっと乗り終えると、やおら発車する電車。
青色の車体が2両連なった電車は、
扉がないのか開きっぱなしのまま、去っていく。
カメラはゆっくり左にパンして、男の姿に戻る。
こんななんでもない長回しのシーンも、
それまでの室内シーンで、電車の音がやたら大きく響いていたのが
こんなにすぐそばを電車が通っているからと納得させつつ、
とにかく、電車そのものが、
やや遠くから俯瞰で撮っている感じがすてきで、心に残った。
ひどい睡眠不足で疲労の極みの中、
爆音なのにところどころ爆睡してしまう不甲斐なさと自己嫌悪。
でも、冒頭の至福の体験は
以前観た爆音上映でのゴダールのどのショットよりも、
私には強烈な忘れ難い映画体験だった。
映画にとって、音って何だろう、
映画において、音にこそ思想があり、音に映画がある、とまでいわずとも
それに近い何かがある、と思った。
バイクや車や、乗り物の音が魅力的で、
(今回上映された『リミッツ・オブ・コントロール』のヘリコプターも)
ワイズマン監督じゃないが、
画面から何の音を残し、何の音を強調させているのか
そこに映画のつくり手の思いがあるはずで、
やはり、この爆音上映という試み、すごくおもしろいです。
爆音上映で観たい映画は山ほどあり、
最近観た中では、セミフ・カプランオール監督の『蜂蜜』の
フレームアウトで聞こえてくる雷雨の音とか
『卵』の雨の音とか、聞いてみたいなあと思う。
爆音上映とは