映画の感想をざっくばらんに、パラパラ読めるよう綴っています。最近は映画だけでなく音楽などなど、心に印象に残ったことも。
パラパラ映画手帖
No614『悪人』~悪に向き合う“生の力”~
2010-09-13 / 映画
深津絵里が女優賞を受賞し、話題を呼んだ本作。
『フラガール』の李相日監督作品だ。
悪人は誰かとか、
誰の心にもひそむ悪、といった宣伝も目にするが、
悪を前に、どう立ち向かうのか、
市井の人々のささやかな、でも、着実な生き様が伝わる
力強い人間ドラマだ。
妻夫木が演じるのは、
殺人という、どうしようもない過ちをしでかした
孤独で、まじめで、辛い過去を背負った土木作業員の青年。
いつもの爽やかなスマイルを封じ、思い悩む感じがよく出ていた。
殺しこそしないものの、
被害者の女性を、山中に置き去りにし、事件のきっかけをつくった
裕福な家庭のプレーボーイの大学生。
ここまで徹底的に非人間的な若者が、実際にいたら、
かなり嘆かわしい。
妻夫木と対照的に描かれることで、
妻夫木の悲しみ、弱さが際立つ。
深津はほとんどノーメークで、けなげで情の深い孤独な女を好演。
平凡な女がやっと見つけた愛を手放せなくなる。
妻夫木のいる灯台に、必死で走って戻ろうとするシーンが切ない。
いつか壊れるとわかっていても、
二人だけの愛を一途に守ろうとする思いが
言葉少なく、二人の表情から、こみあげるように伝わる。
主役二人の熱演はもちろんだが、
私にとって最も印象的だったのは、樹木希林と柄本明。
登場人物の中では、年齢を重ねた高齢者たち。
樹木希林は、親代わりに妻夫木を育てた祖母。
妻夫木が、殺人の容疑者と報道されてからは、
マスコミに悪者扱いされ、取材攻勢をあびる。
バスに乗ろうとしている樹木が、取材陣に囲まれ困っているのを
バスの運転手が、車内は取材厳禁だと制して守るシーンに
涙があふれた。
バスの運転手という、ただの普通のおっちゃんが、
マスコミにいじめられて、ひしゃげてしまいそうなばあちゃんに
ごく当たり前に、さりげなく励ましの声をかける。
こういうことができてこそ、
ちゃんと生きていくことなんだなと思えて、涙があふれた。
映画化に当たり、削除されかけたという
樹木が、悪徳業者に貯金を詐取されるエピソードもいい。
松尾スズキ演じる漢方薬業者が
樹木の、今まで苦労して貯めたなけなしの貯金を騙し取る。
市井の人のささやかな、でも苦労の積み重ねを踏みにじるような行為に
腹がたち、老婆のどうしようもない弱さと寂しさに涙が流れた。
一方、柄本明は被害者の娘の父親。
田舎で床屋をしながら、つつましく育ててきた一人娘を
いきなり奪われる。
復讐心に駆り立てられるが、彼には妻も家庭もあった…。
苦しみと絶望の中で、
この二人が、それでも、夜半、ちゃんとした足取りで家路に着く姿に、
何があっても、しっかと生きていかなければ、という監督の思いが
込められている気がした。
どんな悪を前にしても、
愛する妻、家族のことを考え、怒りをこらえ、
勇気をもって、人生に立ち向かっていかなければならない。
それは、妻夫木はもちろん、深津も樹木も、
罪、痛みという重みを背負った上で、どう生きるかという問いにつながり、
ラストシーンの事件現場のオレンジのスカーフに象徴される。
予告編にもある、柄本明のセリフ
「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎる」というセリフの重み。
きっと観終わった感想はさまざまに分かれる作品だと思うが、
私はすごく好きな作品。
『フラガール』の李相日監督作品だ。
悪人は誰かとか、
誰の心にもひそむ悪、といった宣伝も目にするが、
悪を前に、どう立ち向かうのか、
市井の人々のささやかな、でも、着実な生き様が伝わる
力強い人間ドラマだ。
妻夫木が演じるのは、
殺人という、どうしようもない過ちをしでかした
孤独で、まじめで、辛い過去を背負った土木作業員の青年。
いつもの爽やかなスマイルを封じ、思い悩む感じがよく出ていた。
殺しこそしないものの、
被害者の女性を、山中に置き去りにし、事件のきっかけをつくった
裕福な家庭のプレーボーイの大学生。
ここまで徹底的に非人間的な若者が、実際にいたら、
かなり嘆かわしい。
妻夫木と対照的に描かれることで、
妻夫木の悲しみ、弱さが際立つ。
深津はほとんどノーメークで、けなげで情の深い孤独な女を好演。
平凡な女がやっと見つけた愛を手放せなくなる。
妻夫木のいる灯台に、必死で走って戻ろうとするシーンが切ない。
いつか壊れるとわかっていても、
二人だけの愛を一途に守ろうとする思いが
言葉少なく、二人の表情から、こみあげるように伝わる。
主役二人の熱演はもちろんだが、
私にとって最も印象的だったのは、樹木希林と柄本明。
登場人物の中では、年齢を重ねた高齢者たち。
樹木希林は、親代わりに妻夫木を育てた祖母。
妻夫木が、殺人の容疑者と報道されてからは、
マスコミに悪者扱いされ、取材攻勢をあびる。
バスに乗ろうとしている樹木が、取材陣に囲まれ困っているのを
バスの運転手が、車内は取材厳禁だと制して守るシーンに
涙があふれた。
バスの運転手という、ただの普通のおっちゃんが、
マスコミにいじめられて、ひしゃげてしまいそうなばあちゃんに
ごく当たり前に、さりげなく励ましの声をかける。
こういうことができてこそ、
ちゃんと生きていくことなんだなと思えて、涙があふれた。
映画化に当たり、削除されかけたという
樹木が、悪徳業者に貯金を詐取されるエピソードもいい。
松尾スズキ演じる漢方薬業者が
樹木の、今まで苦労して貯めたなけなしの貯金を騙し取る。
市井の人のささやかな、でも苦労の積み重ねを踏みにじるような行為に
腹がたち、老婆のどうしようもない弱さと寂しさに涙が流れた。
一方、柄本明は被害者の娘の父親。
田舎で床屋をしながら、つつましく育ててきた一人娘を
いきなり奪われる。
復讐心に駆り立てられるが、彼には妻も家庭もあった…。
苦しみと絶望の中で、
この二人が、それでも、夜半、ちゃんとした足取りで家路に着く姿に、
何があっても、しっかと生きていかなければ、という監督の思いが
込められている気がした。
どんな悪を前にしても、
愛する妻、家族のことを考え、怒りをこらえ、
勇気をもって、人生に立ち向かっていかなければならない。
それは、妻夫木はもちろん、深津も樹木も、
罪、痛みという重みを背負った上で、どう生きるかという問いにつながり、
ラストシーンの事件現場のオレンジのスカーフに象徴される。
予告編にもある、柄本明のセリフ
「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎる」というセリフの重み。
きっと観終わった感想はさまざまに分かれる作品だと思うが、
私はすごく好きな作品。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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mixiでのコメントを受け、読ませて頂きました。
さすがです!簡潔にまとめられていて僕の言いたかった事がほぼすべて書かれていました。
特に、バスの運転手とおばあちゃんとのやりとり、同感です!あの件で印象に残ったのは、運転手がおばあちゃんの降り際に「がんばらなあかんで」って声を掛けたシーンです。そこからの病室→詐欺軍団事務所への流れが、秀逸でした!
主人公・祐一の運命の狂いが一つでも違う方向に行っていたらと思う、やるせなさ
深津絵里のやっと幸せになれると思ったのにっていう、せつなさ
柄本明が演じるお父さんの行き場の無い心情、
それらすべてが、映画の世界観とマッチしてましたね!
良い映画でした!!
地球の隅っこで、ひっそりやってるブログなのに、見つけて、同じ映画についての感想、読んでくださり、とてもうれしく、もったいないような言葉までいただき、本当にありがとうございます。
「運転手がおばあちゃんの降り際に」声をかけたの、言われてみて、なんとなく覚えてます。そのあとの流れに、心をつかまれたのも。
脚本、役者、演出がいいと、心の奥底までしみわたる、いい映画に出会えるんですねー。
「やるせなさ」…。本当にそのとおりだと思います。
一生懸命やってきたのに、、、
主人公が背負っているもの、この言葉に凝縮されてますね。
GPさんのおかげで、ぼちぼちですが、映画のことも、飾らず思ったままに、綴っていこうと思います!
ありがとうございます\(^o^)/