映画の感想をざっくばらんに、パラパラ読めるよう綴っています。最近は映画だけでなく音楽などなど、心に印象に残ったことも。
パラパラ映画手帖
No1140『セッションズ』~青年を受け止める女性たちの優しさ~
障害者の性をテーマに
さわやかで、ユーモアにあふれ、深い余韻が残る。
男性として、一つのことを達成しようとするマークの思いを
あたたかく受けとめ、手を差しのべ、導こうとする女性、
見守っている女性たちの
優しい笑顔、あたたかい心持ちが、すばらしく、
生きてるって、なんてすてきなことなんだろうと思えた。
幼い時にかかったポリオで、30年以上首から下が動かないマーク。
重度の呼吸障害も抱え、
首から下は、鉄の肺と呼ぶ巨大な呼吸器(箱)の中に入って、一日のほとんどを暮らす。
そんなつらい状況ながら、両親の深い愛の下、
口に棒を加えてパソコンを打つなどして勉学に励み、
大学を出て、ジャーナリストとして、自活している。
これは、マーク・オブライエンの実話を基にした物語。
とてつもなく苛酷な病におかされながらも、
明るく前向きに挑戦し、思ったままを語るマークの生き様がすがすがしく、
観客に、生きる意欲と勇気を運んでくれる。
マークは、38歳の時、美人ヘルパーのアマンダに恋をする。
障害者のセックスについての原稿依頼を受け、
セックスセラピストに相談し、
「セックス・サロゲート(代理人)」のセッションを受けることになる。
女性と深い関係を持てるよう
心身共に導いてくれる「セックス・サロゲート」という職業については
この映画で初めて知ったが、
このサロゲートのシェリルを演じたヘレン・ハントがすばらしい。
彼女自身50歳ということだが、
とてもきれいで、知的で、繊細。
心理学者で指導者でもあるというこの仕事を通じて、
セックスがいかに心と直接つながった、
不思議で大切な経験かということが、よく伝わった。
シェリルは、はじめ、個人的なことは一切語らないと言ったものの、
セッションを重ねるうち、(といっても、セッションは全部で計6回と上限あり)
マークといつしか心が触れ合うようになり、
手紙までもらうことになる。
シェリルには、夫も子どももいる。
そんなシェリルの心の動揺も丁寧に描いていて、
彼女のやさしさ、あたたかさ、大胆さ、賢さが、本当にすてきだ。
多分、この映画は、女性の方が好感度大だと思う。
シェリルはじめ、ヘルパーの中国人女性も、とてもいい感じで、
皆が、マークをあたたかく応援する気持ちが伝わる。
女性にとっては、男性の身体も性も未知の世界。
シェリルとのセッションは、
人間が何からエロスを感じるかという問いにもつながり、
センシティブでもあり、興味深かった。
この映画を観ていると、
童貞喪失を目指す試みが、全然いやらしくなく、
むしろ、セックスというのが、
生きていく中で、ひとつ階段を上がるくらいの、
誰もが体験する出来事という感じ。
セッションについても、どう描くか、難しいところ、
相手の気持ちを大切にくみ取るのは当然として、
ある意味、照れることなく、あっけらかんと描いている。
シェリルにしても、恥じることなく大胆に脱いでしまうところがいいし、
マークのコメントも、率直で、客観的に自分を見つめ、
ユーモアと知性にあふれている。
「愛し、愛されたから49年間、生きることができた」
という神父の言葉が心につきささる。
この神父さんもユニークで、
カトリックの教会だというのに、マークの性に関する率直な悩みを
教会の礼拝堂の場で聴き、果敢に挑めと、
神父として、というより、個人的に思ったままのアドバイスもする。
マークの報告を聞こうと、マークの自宅にビール瓶のケースを持って私服で現れるシーンの
楽しいこと。
病院で知り合った、ボランティアのスーザンとマークとのやりとりもいい。
性に関する自分の体験を、嬉しそうに語る彼に、
スーザンは、眉をひそめたりはしない。
にっこり笑って「あなたの大切な秘密を打ち明けてくれてありがとう」と言って、
手を振って別れる。
性を扱いながら、まったくいやらしくなく、
さっぱりと、あっけらかんとしていて、
それでいて、繊細でもある、本作を
日本だけが「R18+」(18歳未満の入場・鑑賞禁止)にして
まさに思春期にある若者たちから隠してしまうことの方が
よほどいやらしいのではないかと思った。
先週金曜のレイトで観る。
1週間限定上映で最終日のはずが、
観客の多さに上映延長が決まったそう。
マークの言葉、生き様が心に残る。
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