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No135「芝居道」成瀬巳喜男監督(1944年)(成瀬特集その4)

~芸道もので魅了する成瀬監督~

芝居の道、一筋に生きる大阪、道頓堀の興業師・大和屋栄吉を演じているのが、
エノケンと並ぶ喜劇役者、古川緑波(ろっぱ)さんとは・・。
41歳とは思えない、やさしいお顔に、落ち着いたたたずまい、恰幅のよい体格。
大阪弁の暖かい響きに、一目ぼれ。
(余談だが、心理学者の河合隼雄先生に、声の感じがとてもよく似ていた)

女義太夫・花龍を演じる山田五十鈴も負けず劣らず、すばらしい。
大和屋の秘蔵っ子の役者、新蔵(長谷川一夫)と恋仲なのに、
「あいつの芸を伸ばすために切れてくれろ」と大和屋に頼まれ、涙を飲んで、身を引く。義太夫まで辞めて、針仕事に精を出す毎日。
大和屋も娘のお絹(花井蘭子)も、花龍の心意気に打たれ、何かと世話をする。
東京に行ってしまった新蔵の話を、一度は聞くのを断ったものの、
お絹に「本当に聞きたくないの」と聞かれて、「いえ、そんな・・」と、はにかむ表情のなんといじらしいこと。

花龍が、東京から何年かぶりに戻った新蔵に再会するシーン。
「今観てくれた私の芝居について、なんでもいいから昔のように意見を聞かせておくれ」と新蔵に言われ
「ほんまに・・。わたしなんかの意見を聞いてくれるンですね」と涙をいっぱい貯める花龍の顔が行灯に照らされて、美しい。

芝居小屋の、大入りでざわざわした雰囲気、
閑古鳥が鳴く、寂しい不入りのときの空気、
どちらからも、時代の空気がよく伝わる。
戦時中というのに、みごとな映画美術。

大和屋の、どんな苦しい状況に追い込まれても、
時代に迎合することなく、真に必要な作品を探し出して上演しようとする、意気込みの凄さが心を打つ。
不入り続きで、大半の使用人に暇を出し、着物も質屋に出してしまい、
とうとう、次回上演の演目がわるいと、小屋主から興行を断られてしまう。
しょんぼりと小屋を出て、道頓堀であろう小さな川の欄干で
見下ろす姿の寂しいこと。

成瀬監督といえば、家庭物が知られているが、前回ご紹介した「歌行灯」と並んで
この「芝居道」も後世に残る名作といえよう。

満足度 ★★★★★★★★(星10個で満点)
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