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No1351『幕末残酷物語』『みな殺しの霊歌』~タイトルとは裏腹に、心に残るのは、美しい純愛~

加藤泰特集。
『みな殺しの霊歌』は、初めて観た時、
私は佐藤充が好きなので、期待して観たものの、
殺しのシーンが残忍でもり、
なんともいたたまれなかった。
と同時に、下町の食堂の
店主のじいさんと、ロック好きの息子の微笑ましいやりとりや、
店員として懸命に働く倍賞千恵子がすてきだった。

今回、久しぶりに観て、
倍賞千恵子のラストシーンがなんとも心に残った。
土砂降りの雨の中、水門の土手の道。
手前の、草花が一輪咲いているのに焦点が当たり、
しだいに、画面奥の方でしゃがみこんでいる倍賞に焦点が移動する。
どこかに貼ってあった指名手配のポスターから
倍賞が破り取った佐藤充の写真。
びりびりに破った紙片を、並べる倍賞の雨に濡れた細い指と、
雨に濡れた地面の上に並べられた写真。

佐藤の、
「せめて1週間、はるちゃん(倍賞)と早く出会えてたら‥
でも、やっぱりおんなじだったかな、、、」
というつぶやきがリフレインする。
哀しい運命が胸に迫り、
スキャットの音楽がとても効果的で、どしゃ降りの雨とともに忘れられない。

『幕末残酷物語』も、8年以上前に初めて観て、
タイトルどおり、斬り合って血だらけになるシーンが強烈で、
あまり再見したいとは思っていなかった。

でも、山根貞男さんが、
この映画に出てくる藤純子さんのことをほめていて、
今回の加藤泰特集で、
緋牡丹博徒シリーズの藤純子さんの口上のよさにべた惚れした私としては、
ぜひとも観ておきたく、
清水宏監督の短編が神戸映画資料館で上映されているのを
泣く泣く諦め、ヌーヴォにはせ参じた土曜日。

大川橋蔵演じる、新選組に入ったばかりの隊士江波に恋をする藤純子の愛らしいこと。
「江波さま」と慕って、声をかける声の響きの溌剌さ。
最後は、斬られて瀕死の姿に、泣きながらの「江波さま」になる。
どの声にも、想いがこもっていて、心に残る。

藤純子が、髪を洗っているところを
江波が見てしまい、
恥ずかしそうに、洗うのをやめて逃げていくところの、
なんていろっぽく、美しいことか。

新選組から抜け出そうとした者を惨殺したり、
残虐な殺しが、正当化され、何度も映し出され、
はじめは、おどおどしていた江波も、
同じように残酷な殺しをするようになっていく。

大川橋蔵も、そんなに好きな俳優ではなかったが、
この映画を観て、一転した。
ラストの、怒りが爆発する立ち回りに、惚れた。

特に、りん病かになった隊士が、病気になって、閉じ込められた小屋が突き当りにある、
建物と壁の間の細長い通路。

最初、入隊したばかりの江波が屋敷を案内された時、
隊士が「出してくれ~」とずっと叫んでいる。
その時から、不穏な空気がずっと漂っていて、
なんともその通路の奥行が、気になっていたけれど、
最後の最後に、その通路のところで、
クライマックスの斬り合いが展開。
忘れるにも忘れようがないシーンとなる。

手と手が触れ合おうとして、触れ合えない。
とびだす藤純子。
そっと血をぬぐって、わっと泣き出す。
哀しい悲しい結末は、
何事もなかったかのように、戦へと赴く新選組の隊士たちの姿で完となる。

新選組の男たちのやりとりもなんとも痛ましく、
実際に近いのではないかと、勝手に想像された。

山根貞男さんは、本作で、河原崎一郎が演じる沖田総司が、
何十本とある新選組の映画の中で、一番、本人らしく見えると言っておられた。 

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