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No637『信さん 炭坑町のセレナーデ』~平山秀幸監督トーク~

本作の舞台は、昭和30~40年代の九州の炭坑町。
当時の風景が残っている場所を求めて、
九州の田川、大牟田、博多、長崎など、
あちこちで撮影が行われました。

今年で60歳を迎えられる平山監督は
北九州市、
石炭を積み出す若松あたりのご出身。

今日、シネ・ヌーヴォで、特別先行上映会が開かれました。
以下、映画上映後の監督のトークの内容をご紹介します。

福岡県田川に
松原炭住(炭坑従業員のための長屋式の住宅)があり、
撮影当時には、まだ人が暮らしていて、生活の臭いが残っていた。
10月取り壊しの予定を延期してもらうところから
映画がスタート。

小雪さん演じる美智代は、洋品店を経営しており
いつも服装はおしゃれなわりに
足元は、いつも、手洗いで履くような下駄で
そういうところをもう少しみせればよかったかなと思っている。

監督自身、隣町に炭坑があり、炭坑で働く人たちの気質は、
子どもの頃からわかっているつもり。
小雪さんのような、きれいな人は、身近にはいなかった。
ただ、この映画は、(監督ご自身の思い出とかではなく)
辻内智貴さんの小説『信さん』と鄭義信さんの脚本に
もとづいた作品。

信さんの養母を演じたのが大竹しのぶさん。
大竹しのぶさんのデビューは
『青春の門』筑豊編(75年)の織江役で
本作の撮影で田川に来られた時、
「織江の35年後ね、私は」と言ってくれて
一発で役をつかんでくれ、さすがだった。

駄菓子屋のおばちゃんを演じた中尾ミエさんは
北九州の生まれで、
言葉も無理なく、すっと溶け込んでいる。

最近CG作品が多いが
汚れた格好をしてもらって、実際の場所に立ってもらうことで
俳優さんたちのモチベーションも変わってくると思う。

この映画の現場でのテーマは「いかに汚すか」。
スタッフは鋏とバリカンを持って、
現地のボランティア(エキストラ)の方々に
丸坊主かオカッパになってもらった。
ピアスの穴があったら、隠すメイクをしたり
ひとつひとつ、つくってもらった。
炭坑で働く人たちには、真っ黒けになってもらった。

映画で描かれた「あの時代」がよかったわけではない。
光石研が演じる、刺青を入れた暴力をふるう男がいたら、
嫌で仕方ないだろうし、
炭住生活は、長屋的で、プライバシーもない。

そういった良し悪しはさておき、
あの時代に一生懸命生きてきた奴らがいた、
ということを伝えたかった。

一番大変だったのは、個人的にいうと
男と女の描写で、信さんと美智代のこと。
信さんが告白できたのに比べ
主人公の守は、好きな女の子に告白できず、
一人もんもんとする。
自分は、どちらかというと、主人公の方だ。

台本では、冒頭が、故郷に帰ってくる、
ラストが、故郷から出て行くという形になっており、
電車という案もあったが、
船でみせるとわかりやすいと思った。
トロッコとかが残っているところを日本中、探したら、
北海道の釧路と長崎しかなく、
長崎市の池島がロケ地になった。

池島では、炭坑は既に閉山しているが、坑道やトロッコは残っており、
炭坑が稼動している様子をみせるために、池島の全景等でCGを使った。
ラストシーンの島の風景は現在のまま。

『太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男』(来年公開予定)を
今年撮ったばかり。
これまでフィルム主義で頑張ってきたが
今回、戦争を撮るため、初めてデジタル撮影をした。
CGを使うと、後でどうとでも修正がきくので、
その場限りの「現場力」がおろそかになるのではと思った。

本作は一昨年に撮影した作品で、
昨年撮ったのが『必死剣鳥刺し』(今年春公開)。

九州には、親や、口の悪い友達、先輩たちもいて、外野が多く
この春、福岡で先行上映したとき
皆にチケットをお願いしたものの、
どうしても用事があって戻れなかった。
近々、同窓会があり、
映画について、何を言われるのか、反応を聞くのがこわい。


監督のトークは以上です。

会場との質疑では、
年配の方が、
映画のロケ地ともなった
田川の隣の炭坑町・飯塚で育ち、
映画の中に、昔の自分の姿をみつけ、
友人を落盤事故で亡くしたことを思い出したり、
映画を観ている間中、昔がよみがえってきて、感激したという感想を披露。
監督も、
飯塚のご出身とうかがい、何を言われるのかどきどきしていたが、
ほっとしました、とコメント。

他にも、田川出身で炭坑の小説を書き
原作の『信さん』を読まれた女性が
最初のシーンから心をつかまれ、
朝鮮人差別や組合の問題と、
炭坑のことがちゃんと描かれていて感激した、
監督の作品は初めてだがファンになった、との感想を述べた。
監督は、「先生と呼ぶのはやめてくださいね、
ぼくはただの酒飲みの酔っ払いですから」
とコメント。
やはり、謙虚な方だなと思った。
ぜひ、すてきなひまわりを観に、27日から公開の
本作、観にいってみてください。
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