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音楽の散歩道75「名の知れぬランチコンサート」~音楽という名の旅~

音楽というのも、一曲が一つのドラマで、一つの旅みたいなものだと思った。

職場が入っているビルで、たまにランチコンサートと題して、
音楽大学を出たばかりの若手の演奏家の演奏会を開いてくれる。
ありがたいのは、無料だけでなく、途中からも入退場できること。
お客さんも平日の昼間とあって、中高年のおじさんやおばさんが大半。

昼休みが45分しかないから、急いで弁当をかきこんで、
ホールへと階段を駆け上がる。

1時間弱のコンサートで、短い曲を5,6曲やってくれるうち
いつも聴けるのは、せいぜい後半の2曲くらい。

先日、昼一番の会議もなかったので、
これ幸いと、急いで駆けつけると、ショパンのポロネーズに続いて、
最後の曲が
J.S.バッハ=ブゾーニ編曲の
シャコンヌ「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV.1004」
だった。

この曲はいわば神様に捧げる曲です、みたいなことを言われた後、
明朗快活な雰囲気の、若い男性ピアニストは、
ピアノの前に座り、
少し祈りをささげるかのような沈黙の後、
やおら弾き始めた。

うねるような音楽に驚いた。
バッハは好きだから、ヴァイオリンでは聴いたことがあるメロディだったが、
ピアノで聴くのは初めて。

豪快でかつ繊細で、心のひだにしみいるような哀しい旋律に、
胸がいっぱいになった。

ちょうど富士山から帰って間もない時期で、
富士山は、たまたま体力と時間と環境に恵まれて、
行くことができた旅ならば、
こうして、一つの音楽を聴くことで、
同じくらい深みのある旅を体感できるのじゃないかと思った。

次々と表情が変化し、
時に激しく、時に静謐でふくよかな音の旅に入り込み、
すっかりこころがいっぱいになった。

満たされた気持ちで、
いそいそと演奏会場を出て、職場に戻ると、
別世界から戻ったようで、なんだか新鮮な気がした。

Helene Grimaudさん演奏のシャコンヌ

 

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