噛みつき評論 ブログ版

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「事故米で被害が次々に判明」と朝日新聞・・・これ、本当ですか

2008-09-25 07:30:10 | Weblog
 9月24日付朝日新聞17面には衝撃のニュースが載っています。その冒頭部分を引用します。
『京都、兵庫、大阪、三重、富山・・・・・。学校給食に事故米を加工した赤飯や卵焼きが出されていた被害が次々に判明している』

 そして『アトピー性皮膚炎の増加など化学物質による影響は、すでに子どもたちに出ている』という40歳の母親の話を紹介しています。「次々と出ている被害」の紹介はこれひとつで、他は不明です。

 ある物質が病気の原因になっていることを確定するのには長い時間と手間のかかる調査研究が必要なことを、この記者とデスクは知らないのでしょうか。母親が「感じたこと」だけを根拠に「被害が次々に判明している」と、断定した報道ならば、恐ろしいことです。是非とも被害の明確な根拠をお示し願いたいと思います。

 次にメタミドホスの基準値0.01ppmについて、『ポジティブリスト制が導入される際、EUの基準値を参考に定めた』という記述がありますが、これも誤解を招きます。この表現では0.01ppmは毒性評価から決まったように理解できますが、ポジティブリストから外れたものはすべて一律に0.01ppmとされたわけで、トマトなどの基準値が2ppmとなるポジティブリスト制(参照)の仕組みを説明すべきです。また基準値の設定に際して参考にしたのは正確に言うと、Codex、米国、豪州、カナダ、EU、ニュージーランドなどであって、EUと勝手に変えるべきではありません。

 さらに、『内閣府の食品安全委員会が、ラットを対象にした実験で健康被害が出た量に100分の1を掛けて1日許容摂取量(ADI)を設定している』としていますが、これも誤りです。食品安全委員会の(食品健康影響調査の結果の通知)によれば、「1 年間慢性毒性試験で得られた0.06 mg/kg 体重/日が、イヌにおける無毒性量としてより適切であると判断され、この値を一日摂取許容量(ADI)の根拠とすることが妥当と考えられた」とされています。

 無毒性量とは毒性が認められなかった量であり、これを「健康被害が出た量」と勝手に改ざんする神経は理解できません。両者は断じてイコールではありません(前出の「食品健康影響調査の結果の通知」11-1を参照)。またイヌを省いた理由もわかりません。記事を正確に書くことは最も基本的なことで、勝手に変えることは許されません。この記事を鵜呑みにする人も多いはずで、職業人としての誠実さを強く疑います。

 記事という商品自体の品質に欠陥があるわけですから、産地偽装などよりよほど深刻です。産地偽装の食品を食べても実害はありませんが、間違った記事は読者の判断を狂わせます。有名な橋下大阪府知事にならって「クソ記事」と呼びたいところです。

 朝夕刊48ページのうち約半分が広告であり、残りの24ページの8割は発表もの(記者クラブの発表などを伝えるだけ)だと言われています。つまり調査報道・論説などは5ページにもなりません。それを数千人もの記者が作るのだと考えると、記事の「品質管理」能力はなんともお粗末な気がします。

 朝日新聞は読者信頼度が低下(参照)したとはいえ、800万部を発行する大新聞であり、良くも悪しくも影響は甚大です。ひとつの記事にこれだけの問題点を含んでいることは、記者やデスクはむろんですが、朝日新聞の編集能力に問題があることを示唆します。虚偽や歪曲が含まれた記事が広く報道されることは社会にとって深刻な問題です。